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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
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67話 ニジュウサンで始まるネゴシエーター総

「こんばんは皆さん。私は蒼天のギルドマスター、大尉です」


 ドアノブを回し入ってきた人物は、開口一番そう口にした。


 整えられた髭と鋭い眼光、丁寧な口調ながらも重みのある声は、まさに歴戦の勇士を思わせる雰囲気を醸し出している。

 一言で言ってしまうと、ザ○とは違うのだよ、ザ○とは! な雰囲気だ。


「こんばんは。俺はソウです。今回は態々のご足労、本当にありがとうございます」


 俺の挨拶に、大尉さんは気にしないでくれと笑顔で掌をこちらに向けてくれる。


 いい人っぽいなぁこの人。というか、ここ最近で接してきた人の中で一番まともそうな感性というか常識を持ってそうな感じだな。何より素晴らしいのはその服装だよ。

 上から下まで迷彩服でバッチリと決めてくるなんて。やっぱ男ならスーツよりも迷彩服だよね。うん、この人、わかってるなぁ。


 その佇まいや格好に俺が見惚れていると、彼の後ろからもう1人、迷彩服の人物が姿を現した。


「あぁ紹介しましょう。彼は私のギルドのエース、軍曹です」


 軍曹? どっかで聞いた気が……あれか! 緊急クエストで2位の成績を収めた人か! 確か得点で雪姫さんよりも上の数字を叩き出した人だよな。

 それに最後のコメントでも人格者っぷりが溢れている感じだったし、これは実に楽しみな――


「軍曹だ」


 大尉さんの後ろから現れた迷彩服の男性は、そう一言だけ不機嫌そうに呟くと、俺たちに視線も送らずに欠伸(あくび)をしだした。


 ……え? あのコメントを出した人と同一人物……だよな。


「このっ、馬鹿たれがぁあ!」


「――うごっ!?」


 大尉のゲンコツが軍曹の頭頂部を直撃する。


 今首縮んだろ、絶対。


「貴様は挨拶もロクに出来んのか!」


「わ、わかりましたって。もう、そうカッカしてると血圧上がりますよ?」


「誰のせいだと思っとる!」


 ……前言撤回だ。大丈夫か、この人たち。


「あー悪かった。蒼天のギルドメンバー、軍曹だ」


 真っ黒な前髪をくしゃりとかきあげ、彼――軍曹は言葉だけはしっかりと正して俺たちへと向かい合った。


「申し訳ない、こいつは腕は確かなんだが見ての通り礼儀知らずでして。社会勉強の一環でこの場には同行させたんですが」


「は、はぁ」


「おっと、話が逸れましたな。それでそちらのお美しいお二方は」


「もぅお上手ぅ、大尉さん。私ぃ、雪姫って言います。蒼天の御二人にお会いできてぇ。とぉっても光栄です」


 出たな、妖怪猫かぶ――はぐっ!?


 2人から見えない絶妙な角度より、手刀が俺の脇腹を突く。流石雪姫さん、俺の思考など確認するまでもなく読んでいたか。


「あ、あの、ブルーと言います。きょ、今日は来ていただいて、ありがとうございます」


「何々、あなた方のような美人にお会いできるのであれば、このようなこと、苦労の内には入りませんよ」


 ん、何だろう。さっきまではナイスキャラと思ってたけど段々変な感情が渦巻いてきたぞ?


「僕はモップと言います。この美少女には鬼神の如きナイトがついていますから、口説くなら命を賭ける必要がありますよ」


 ナイスだモップさん。特に美少女と候補を1人に絞ったところが素晴らしい。美『少女』と言われれば候補はもう1人しか――ほぐぅ!?


 ぐっ……またしても絶妙な角度だ。しかもモップさんには見える角度で行ったことにより、彼にとってのご褒美を眼前で見せつけるという形で仕返しもしている。この人、マジで侮れない。


「それは怖い。どこにいるのかな、その鬼神の如きナイトとは」


 目の前で急性ツッコミ性腹痛を訴えている少年です。


「ま、まぁそれは兎も角、立ち話もなんです。お茶をご用意しますので、こちらのテーブルにどうぞ」


 そう言って俺は彼らをテーブルの対面側に誘導する。


 さて、勝負はこれからだ。





 ■ □ ■ □ ■





「さてではここに我々が来た件ですが、まず最初に確認したい。あなた方は我々の持っているあるアイテムを所望している。それで間違いありませんか?」


 テーブルに腰かけた大尉さん――言いにくいな、大尉が、両肘をテーブルにつき、手を口元に当てながら鋭い視線を向けてくる。その様は大尉というよりかはどこかの特務機関の指令のようでもある。


「はい、間違いありません」


 中々の迫力の大尉に、俺も負けじと視線を返し答える。


 俺たちが彼らに持ち掛けたのは、あるアイテムの取引。伸二と翠さんの協力により、俺たちはそのアイテムが彼らの手に渡ったという情報まで辿り着き、今こうして交渉のテーブルにつくことにまで成功している。


「ご存知かもしれませんが、我々はこのアイテムを手に入れるのに多大なる犠牲を払いました。具体的に言うと、19人分の(デスペナ)です。あなた方には、その対価としてこの犠牲に見合うだけの何かが提示できますか?」


 そのアイテムの価値だけではなく、それを手に入れるまでに要した労力も対価として要求したいというわけか。


 こちらが欲しいものを明確に示している以上、やっぱり最初からそれなりに強気で吹っかけてくるな。


 なら、こちらも持てる手札で応戦しよう。


「俺たちから出せるものは、ナガサキエリアボスの攻略です」


「……ほぅ」


 大尉と軍曹の目つきが一層鋭くなる。流石トップギルドの代表格だけあって、その言葉は聞き流すことはできないか。


 話を続けるように視線で促してくる大尉に、俺は言葉を続ける。


「俺たちはあるクエストでそれを手に入れました。それがこの、制御チップです」


 俺はそれをテーブルの上に置き、2人の前に差し出す。


「大尉……これ」


「あぁ、つい先日発見されたばかりのエリアボス【軍艦刀(ぐんかんとう)】の弱体化用特殊アイテムだ」


「ご明察」


 俺は人差し指を立てて2人に笑みを向ける。


「これをどこで」


「ある特殊クエストの報酬、とだけ言っておきます。もし交換に応じていただける場合は、入手に至った経緯も詳しくお話いたします」


 俺の言葉に2人は真剣な顔で悩み始める。


 まぁそれも無理もない話だ。ナガサキのエリアボス【軍艦刀】は、その名の通り軍艦だ。ただし、大きさは普通のクルーザーサイズで、船体の各所に巨大な剣が生えていて、地面の上を少し浮いて進むというちょっとばかし変わった船だが。


 俺がそれを知っているのは、あるギルドがダンジョンアタックの末このボスと遭遇し、戦闘を行った動画を見たからだ。しかしその戦闘は悲惨そのもの。陸を滑るクルーザーサイズの戦艦からは砲弾が降り注ぎ、近づいても剣で一突きにされる。8人のパーティは瞬く間に壊滅した。


 あの動画を見たものであれば、あのボスの攻略難易度の高さがわかるはずだ。特に、攻略組の中でも先頭に立つ彼らが、それを見逃すはずがない。


「如何ですか?」


 俺の予想ではこれで飛びついてくるはずだが、相手は俺よりも遥かに人生経験の豊かそうな1人と、ちょっと変わっている人が1人。予想の斜め上を行かれることも覚悟しておこう。


「気に食わねえな」


 はい予想の斜め上きたよ。


「お前らが手にしているアイテムを使えば、瞬く間にボス攻略の最有力候補に上れる。そのアイテムを手に入れるのだって、生半可な道のりじゃなかったはずだ。オキナワで同じようなアイテムを手に入れてジーザーに挑んだ俺たちにはわかる」


 あぁ、生半可な道のりじゃなかったさ。本当に。


 ボス弱体化用のアイテムは、別れ際にカノンがくれたものだ。おそらく、イベントのクリア報酬ということなのだろう。だが、俺たちにとってあのイベントはまだ終わっていない。俺たちにそのアイテムを使う資格は――ない。


「それなのに何故俺たちの持つ訳のわからないアイテムなんかとそれを秤にかける。このアイテムにはそんなに価値があるのか?」


 そう言うと彼は懐から1つのアイテムを取り出しテーブルに置いた。


「このアイテムの名は【天使の涙】。まどろっこしい説明文が付いてはいるが、要はNPC専用の蘇生アイテムだ。確かにNPCにも効果のある蘇生薬は貴重だ。現在出回っている情報だと確認されたのは俺たちの持つ1つだけらしいからな。

 だが知っての通り、NPCを蘇生させることのメリットなんて殆ど無い。まずパーティメンバーに加えたいほど強いわけでもないし、死んだとしても俺たちにさほど影響が出るわけでもない。ゲーム内のデータが1つ消えるだけだ」


 そう、彼の言うことは正しい。あれをそのままにしたとしても、俺たちはゲーム内からデータを1つ失うだけ。だが、そんなことはもう問題じゃないんだ。


「ある少女との約束を守るため、どうしてもそのアイテムが必要なんです」


 偽らざる本心にして、最大の心残り。それが叶うならば、ボス攻略なんて捨てても構わない。それが俺たちの共通の意見だ。


「ハッ、なんだそりゃ。そんな意味のわからな――ドゴス!?」


 本日2発目のゲンコツが軍曹の頭上に降り注ぐ。あれは痛そうだ。


「その目。どうやらかなりの訳アリと見た。確かにそのアイテムとなら、我々がこれを得るまでに重ねた苦労と釣り合って余りあるでしょう」


「……では?」


 大尉がゆっくりと頷く。


「こちらにとってメリットの大きい取引です。この取引、喜んでお受けしましょう」


「あ、ありがとうございます」


 これで……これでもう一度あのクエストに挑むことが出来る。


「お礼を言うのはこちらの方ですとも」


 そう言って俺たちは固い握手を交した。


「ではこの話は終わりということで。ところでソウさん、私は個人的に貴方にお話しがあるんです」


「え、俺個人に、ですか?」


 何だろう、もしやこの前の緊急クエストの件とかじゃないだろうな。


「はい。先日、私のギルドメンバーがソウさんに失礼な勧誘を行ったという話を耳にしまして」


 あぁ、ハローワークでの一件のことか。


「その節は誠に、申し訳ありませんでした!」


 そう言うと大尉は勢いよく腰を直角に折り顔を床に向けた。


「さらに、本来は真っ先に謝罪を行わなければならないところを、交渉事があるためにその話をこのタイミングまでずらしたことを重ねてお詫び申し上げます」


 今度はその場に土下座をしそうな勢いだったので、流石にそれは止める。


「い、いえ、あれはもう気にしてませんから」


「しかしそれでは私の気が済みません。先ほどの話はギルド全体としての話でしたが、これはギルドマスターとしての話。私は責任を取る立場にあります」


「いえ本当に大丈夫です。別に何か実害を受けた訳でもありませんし、その言葉だけで十分です」


 まぁ本音はこれ以上関わって緊急クエストの件やらリアル鬼ごっこの件やらが露見したくないって思いもあるけど。


「そうですか……ありがとうございます。あ、では我々とフレンド登録してもらえませんか? 出来ればこれからも積極的な情報交換をしたいのですが」


 おっとそう来たか。普段であれば喜んでと二つ返事で応えただろうが、相手が有名人となると話が変わるな。う~む、なんと答えるべきか……。


「いや大尉、俺は別に――ギアッ!?」


 本日3発目のゲンコツが以下略。この人、最初に見た時よりも確実に少しずつ縮んでるよな。


「全くお前は……そんなんだから部隊にも馴染めないんだ」


 舞台? 劇団員さんなのかな?


「ちょ、隊長、今それは関係ないでしょ」


 隊長? 役に入り切っているのかな?


「隊長ではない大尉だ馬鹿者! 緊急クエスト時のコメントもそうだ。面倒だからと他のメンバーに書かせおってからに」


 あれ代筆かよ! しかも完全にゴーストコメンターじゃねぇか!


 っとこのままだと話が進まないな。雪姫さんからも早く進めろオーラが出てるし、ここはとりあえず受けておくか。


「まぁまぁ大尉さん、俺たちは気にしませんので。それでフレンド登録の件ですが、是非宜しくお願いします」


 こうして俺たちは、なんやかんやありリアルでは劇団の仕事をしていそうな2人のユニークなフレンドと、カノンとの約束を守るための片道切符を手に入れた。

次話の更新は木曜日の予定です。

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