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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
64/202

64話 ニジュウで始まる悪鬼の誘い

 扉を開けると、そこには巨大な空洞が広がっていた。ここが岩山の中であることを忘れてしまいそうになるほどに、巨大な。


 しかしそれだけ。それだけなのだ。目に映るのはただの岩のみ。リリスの体を乗っ取っているであろう鬼の姿どころか、生き物の姿すら何も見えない。


「モップさん、ブルー、カノンの傍に」


 この中で最も戦闘能力に乏しいカノンと、攻撃と防御両方に向かない葵さんを下がらせるために声をかける。モップさんなら喜んで彼女たちの盾になってくれるだろうし、彼のつれている鳥型モンスターも素早く反応してくれるだろう。


「ソウ君、居るの?」


 雪姫さんが緊張した面持ちで俺に声をかけてくるが、俺はそれに頷くのみで視線は絶えず敵の奇襲を警戒し動いていた。敵の姿は見えないが、俺の勘がハッキリと告げているのだ。ここに敵が居るということを。


 ここに来るまではシリアスとは縁遠い雰囲気が漂っていたが、ここに入った瞬間、丸裸で虎の居る檻にぶち込まれたかのような雰囲気を感じたのだ。


 そう、これは狩人の気配だ。俺たちを殺すという意思に満ち溢れt――


「上だ!」


 俺の声に、前に出ていた雪姫さんが勢いよく横へ飛ぶ。


 直後、さっきまで彼女のいた場所に直径2メートルはあろうかという炎塊が降り、爆炎を上げる。


 それは肌を焦げ付かせるような突風を吹き荒び、雪姫さんを吹き飛ばす。


「くっ、雪――」


 姫さんの安否を気遣う余裕は俺から失われた。頭上から迫る巨大な顔をした鬼と、眼前に迫る巨大な金棒によって。


「っつあ」


 勢いよく振り下ろされた金棒が髪先を掠めると、直後に地面が爆ぜ俺は空中に投げ出された。


「総君!」


 大丈夫だよ。そう答えてあげたいところだが、これはちょっと不味い。空中では敵のいい的だ。案の定、敵は金棒を俺の脳天目がけて振りぬいてきた。


「――っ!」


 直撃すればセンタースクリーン直撃のホームランを打ち出そうかと言うスイング。だがそれを、空中を蹴り後方へ下がることで回避に成功する。


「あぶねぇ、疾風が無かったらヤバかった」


 しかし俺の顔には助かったという安心感は毛ほども浮かばない。疾風や迅雷を、攻撃の回避に使ってしまう。これは非常に不味い事態だ。


 オキナワエリアのボスジーザーからドロップしたこの2つのアイテムは、非常に強力だがその反面、連続使用が出来ないという弱点がある。そのためコレを使うとすれば、俺の任意のタイミングでいける攻撃面が望ましい。


 超速移動と空中跳躍を回避に使ってしまうと、敵の攻撃次第ではいつか捌ききれない時が来てしまうかもしれない。だからこそ、敵の攻撃は俺の純粋な身体能力のみで回避したかった。


 だがたった今、それが出来ない状況へと陥って――いや追い込まれてしまった。


 過去にもこういった状況はあった。あの獣王、ジーザーとの戦いの時だ。だがあの時の俺には伸二がいた。アイツが俺を護ってくれた。アイツが――


「……参ったな」


 前髪をくしゃりとかき上げ、苦い笑いが零れる。


 どうやら俺は、自分でも思っていた以上に伸二のことを頼りにしていたらしい。


 だが今ここにアイツはいない。アイツはカゴシマで頑張っているはずだ。俺に追い付くと言って。


 なら……なら、俺がここで止まる訳には、


「いかねぇんだよ!」


 双銃を奴の巨大な顔に目がけ、ぶちかます。


『グォオ!? グ、コノ!』


 喋った!? 前倒しかけた奴はそんなことなかったが……あれかな、恥ずかしがり屋さんだったのかな。


『――火鋏(ヒバサミ)!』


 アホなことを考えてた俺の足下から炎の双刃が伸び、俺の身体を両断する軌跡で迫る。


「のわっ!?」


 後方にステップを踏むことで事なきを得たが、今のはちょっと冷や汗ものだった。あれ多分魔法だよな。本当に魔法ってのは心臓に悪いものばかりだ。


「近距離で金棒、中遠距離で魔法……厄介だな」


 かなり隙のない、理想的なスタイルだ。だがそれでも、俺がやることは変わらない。あの顔面を倒して、操られている人を助け出す。願わくばそれが、カノンの姉リリスであらんことを。


 俺は再び銃を持つ手に力を入れ、眼前の鬼に向かって――


『待テ!』


「――っなん、だ!?」


 俺の前進に待ったをかけるように、鬼は手を前にかざし一時場を制した。さっきは気付かなかったが、若い女性の声と渋い男の声を機械的に掛け合わせたような声だ。


『貴様タチハ何ヲ目的ニココヘ来タ?』


 いきなり先制攻撃を仕掛けておいて今更何を話すことがあるのか。これにカノンの件が絡んでなければ間違いなくそう反論しただろう。だが、今はリリスに関する情報であれば何でも欲しい。この鬼が乗っ取っている体がリリスであるという確証が持てない今は特に。


「……リリスという名の冒険者を探しに来た」


『知ラン名ダナ』


 まぁ鬼からしたらそうだろう。乗っ取られた人間が名乗りでもしない限り名前なんてわかる訳がない。さて次は何を話せば――


「……お姉、ちゃん?」


 俺の背中に届いたのは、消えゆく様な少女の声。


「カノン?」


「あの服……お姉ちゃんの、服です」


「――っ」


 顔は巨大な鬼だが、体は普通の人間と同じサイズ。そのアンバランスな理由は、顔だけで浮遊する鬼――鬼凧(おんだこ)が、人間の顔に張り付きその体を乗っ取ってしまうから。つまりその鬼が着用している服は、体を乗っ取られた冒険者が直前まで身に着けていたものである可能性が極めて高い。


 そこから導き出される答えは、1つしかなかった。


「お姉ちゃん! わたしだよ、カノンだよ! ねぇ答えてよ、お姉ちゃん!」


 少女の悲痛な叫び声が洞窟内に響き渡る。


 ――頼む、カノンの声に応えてくれ。俺は、俺たちは心の底からそう願った。


 だが、


『何ダ貴様ハ、耳障リダ』


「ぉ、ねぇ……ちゃん……」


 震える声で、少女はなおも願う。それが、どんなに遠いと頭ではわかっていても。


「わたしのこと……わからない、の?」


『貴様ト話スコトナド、何モナイ』


 虫を見るような目でカノンを見つめていた鬼は、ついにそれすらも見るに値しないと言わんばかりに、興味を失ったように視線を外した。


『サテ邪魔ガ入ッタガ、話ノ続キダ。貴様』


 そう言うと鬼は俺の方へ金棒を向ける。


『貴様ガ欲シノハ、コノ(からだ)カ?』


「……そうだ」


 状況によっては相当に際どい会話だが、今の俺にそれを躊躇(ためら)っている余裕はない。


『返シテヤランコトモ無イゾ』


 俺の眉間に、皺が重なる。


「……条件は?」


『フッ、分カッテイルジャナイカ。我ガ求メルノハ、精気。ソレモ貴様ラノヨウナ無限ニ増殖、再生スル化物デハナク、限リアル命ノダ』


 無限に増殖、再生とはおそらくプレイヤーのことを指しているのだろう。確かにこの世界のモンスターからすれば、俺たちはゾンビアタックを敢行できる化け物。奴の言う事は敵側からすればもっともな見方だ。

 と言うことは、奴の言う限りある命とはおそらくNPCのことだろう。つまり、リリスを助けてやる代わりに別の生贄を寄越せと言ってきているのだ。


「どうして俺たちがそんなことをしないといけない。顔が本体で、顔のHPを削ればリリスが解放されることは分かっている。その提案はこっちにとってメリットがない」


 これは半分本音で、半分ハッタリ。前回戦った奴がそうだっただけで、この鬼もそうであるという保証はどこにもない。それに体を乗っ取るのにも段階というものがあるのかもしれない。現状、情報は不足していると言わざるを得ない。

 だからこそここは、奴が何を求めているのかをハッキリと把握し、かつ主導権を握っておきたい――のだが、


『ソレハドウカナ』


「なに?」


『我トコノ身体ハ深く繋ガッテイル。我ガ死ネバ、体モ死ヌ』


 覚悟はしていたが、やはりその可能性を口にしたか。出来ればここでボロを出してほしかったが、そう上手くはいかないようだ。


 だがそれでも、ここで主導権を握られるのはあまりうまくない。


「その確証がこっちには得られない。お前がそう口にしているだけだ」


『ナラバヤッテミルガイイ。必ズ後悔スルゾ?』


 ……これ以上は厳しいか。


「何故他の体を求める。強い肉体の持ち主を望んでのことか?」


『イヤ、我ニトッテハ精気トハタダノ餌。コノ身体カラ取レル精気ハモウ残リ僅カ。故ニ、他ノ肉体ヲ求メルニ過ギン』


「……精気を吸い尽くされた体はどうなる」


『従順ナル我ガ下僕トナリ、永遠ノ時ヲ彷徨(サマヨ)ウ亡者トナル』


 その言葉を聞いて、カノンの表情が凍りつく。だがそれとは逆に俺の何かは、徐々に熱を帯び、そのはけ口を求めだしてきていた。


『コノママ戦ウトイウノナラ、我ハコノ身体ノ精気ヲ吸イ尽クス。我ガ本気デヤレバコノ体ハ数分モ持ツマイ。ダガ、新タナ(ニエ)ヲ10人用意スルナラバ、コノ身体ダケハ返シテヤロウ』


 俺の脳裏に、船に置いてきた野郎共の顔が10個ほど浮かぶ。だがそれはリリスを安全に取り戻す代わりに、何の罪もある海賊たちを生贄に差し出すということだ。


 ……あれ、いい気がしてきたな。


『サア、ドウスル?』


 いや、やっぱり駄目だ。いくら外道とはいえ、その命を俺が選ぶ権利はない。これがプレイヤーを差し出せと言われればもう少し考えてもいい気がするが、NPCとなると話しは別だ。

 彼らはこの仮想世界の中の住人。死ねばもう二度と甦らない。彼ら一人一人に魂が宿り人権が存在する、とまで言うつもりはないが、少なくとも俺には彼らをただのデータと割り切ることは出来ない。


 だが、ならばどうする。


『アァ言イ忘レタ。ソコノチビモ10ノ数ニ入ッテイルカラナ』


 怪しく光る眼光はカノンへ真っ直ぐに向けられる。


 その瞬間――


『……貴様、何ノツモリダ』


 俺は銃弾を奴の眉間に撃ち込んだ。


「交渉決裂だ。お前は必ずその体から引き剥がす。そして、リリスも無事に救い出す」


 さっきアイツが口にした言葉が真実だとすれば、リリスの体から精気が吸い尽くされるまでに数分は猶予がある。問題はそれが1分なのか10分なのかだが。それによってリリスの救出率は大きく変化するだろう。



 いや、違うか――


「覚悟しろよクソ野郎。お前は40秒でぶっ飛ばす」


 1分もかけなければいいのか。

次話の更新は月曜日の予定です。

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