63話 ジュウキュウから始まる地獄の試練
島へと上陸した俺たちを迎えたのは、巨大な岩山とその正面にぽっかりと空いた巨大な洞窟だった。
「ボーっとしてる場合じゃないわよソウ君。本番はこれからなんだから」
雪姫さんの言葉は、目の前に高くそびえる岩山を呆然と眺めていた俺の心を再び戦場へと戻してくれた。
「ここに……お姉ちゃんが」
震える瞳の先に尖った岩山を映しつつ、カノンが消えいく様な声で呟く。そこにあるのは不安か期待か、それとも願いか。
本当は海賊たちと一緒に船に残っていてほしかったが、カノンは俺たちのどんな言葉に対しても己の意思を変えることはなかった。ならば、俺にできることはカノンを護り、そしてリリスを助け出すことだけだ。
「心配するなカノン。俺が必ず、お姉ちゃんを助け出すから」
「……ぅん」
そして俺たちは、巨大な洞窟の中へと入っていった。
■ □ ■ □ ■
「……何も襲ってこないね」
「……ですね」
鬼の手厳しい出迎えを予想していたが、敵の気配が一向にない。今回は戦いを楽しむことよりも優先すべきことがあるため、安全に進めるのならそれは良いことなのだが、こうもあっさりだとかえって不気味さすら感じる。
「で、でも安全に進めるなら良いことですよね」
俺と同じ不安を感じているのか、葵さんも言葉ではそう言いつつも顔には不安の文字が浮かんで見える。
「ま、そうね。これでリリスが早く見つかれば言うこと無しなんだけど」
「今トっ君に先行偵察してもらっているけど、まだ何か見つけた様子はないね。もう少しこのまま進んでみよう」
トっ君とはモップさんのパートナーの1体で、鳥型のモンスターだ。大きさと見た目は殆ど鷲だが、その翼は羽ではなく炎となっているカッコいいモンスターだ。超羨ましい。
その後も特に発見らしい発見もなく、未開の島の内部をマッピングしながら進む。途中でカノンの為に小休憩を取ったりしている間も敵襲どころか他の生物の気配すら感じることなく、ただ時間の経過する感覚だけがより強く感じられた。
そんな時。
「ん、トっ君がこの先で何か見つけたみたいだ」
モップさんの声で俺たちの間に緊張が走る。
「あ、でも戦闘に入ったわけではないようだから、そこまで構えなくても大丈夫だと思うよ?」
ん? それは俺に言ってるのかな? 俺がカノンの前に立って両手に銃を、口にナイフを加えて姿勢を低くしているから言われたのかな?
「でも、だとしたら何を見つけたんですか?」
「トっ君から伝わるイメージでは何か大きなものらしいけど、それ以上はわからないな。まぁ行ってみようよ」
念のため罠などにも注意を巡らしつつトっ君のいる場所まで進んでいく。するとやがて、巨大な扉が俺たちの視界に映し出された。
「これは……ただの扉か?」
「あ、総君。上に何か書いてあります」
葵さんが細くて白い指を扉の上に指す。そこに書かれてあったのは、
【問1:次の漢字の読みを答えよ。A.埃及 B.膃肭臍 C.信天翁】
……え、ナニコレ。クイズ? え?
「これって……クイズよね。解けば先に進めると思えばいいのかなぁ」
「おそらく……でも申し訳ない。僕には1つも答えがわからないや。ソウ君、君は」
「ゴメンナサイ!」
「うん、早い。流石の早撃ちだねソウ君。でも大丈夫だよ、僕もわからないから」
「私も……漢字はチョット」
俺とモップさんと雪姫さんの顔に緊張と困惑が張り付く。ここは予想以上の高難易度ダンジョンのようだ。少なくともオキナワエリアボスジーザーの攻略よりはよっぽど。
『不遜なる侵入者よ、直ちに引き返せ』
「な、なにこの声」
「ど、どこから」
『我はこの島の番人。どうしてもここを通りたければ我の試練を乗り越えてゆくがよい。この問題を解けばここを通してやろう』
畜生、まさかここに来てこんな障害が現れるなんて。間違いなく、俺がゲームを始めてから最強の敵だ。ヤバい、これはヤバいぞ。くそっ、こんなところで――
「エジプト、オットセイ、アホウドリですね」
「「「え」」」
『……え』
「あ、あれ、違いましたか?」
『い、いや、その、正解だ』
あ、葵さん。あれ全部わかるのか。才女だ、才女がおられたぞ。
『ぐっ、通るが良い、侵入者共よ』
おいさっきの余裕はどこに行った番人。
「あ、扉が開いた。ルーちゃん凄い! 偉い!」
「ブルーさんは頭が良いんだねぇ」
そう言えば葵さんと翠さんは俺や伸二と違ってかなり成績が良いって聞いてたな。
「お役に立てて良かったです」
葵さん、よっぽど嬉しかったんだな。あんな顔してるの、久しぶりに見た気がする。
「この扉には問1って書かれてあったからまだ問題が続く可能性があるね」
「確かにそうですね。ブルー、頼りにしてるよ」
「は、はい。任せてください」
そして俺たちは扉の奥へと歩を進める。その後もやはり敵と相対することはなく、数分ほど歩いた先で再び巨大な扉へと辿り着くと、またあの声がどこからか聞こえてきた。
『侵入者共よ、ここを通りたければ我の出す問いに答えよ』
今度こそ、今度こそ答えてやる。瞳に宿る炎の熱をエネルギーに変換し、俺は扉に浮かび上がってきた文字に目を向けた。
【問2:戦国大名織田信長の家臣で、織田四天王と呼ばれた四人の家臣を答えよ】
わかんねーよ畜生! なんだこのマニアックな問題は!
「柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益、明智光秀です」
『……通るが良い』
……葵さん、歴史もいけるのか。
俺とモップさんと雪姫さんの3人は葵さんを尊敬のまなざしで見つめつつ、扉の奥へと進んでいく。
そしてやはり、
『侵入者よ、今度こそ、今度こそここで引き返させてやるぞお』
なんか段々テンションおかしくなってきてるな。天の声。
【問3:次の英単語を日本語で答えよ。A.obduracy B.apostates C.profligacy】
だからわかんねーよ! これはあれか、ゲームだけじゃなくて勉強もちゃんとしろよっていう運営からのメッセージか。正論過ぎて反論できねえよ。
「頑固、背信者、浪費です」
『……通れ』
あーこれも即答なんだ。俺なんかには葵さんの方がよっぽどチートに見えますよ。
よし、次だ次。
『ええい、ここが主らの墓場じゃあ!』
キャラぶれっぶれだなおい。
【問4:5+5+5+5=555 この式に線を一本付け足して正しい数式を完成させよ】
葵さん対策で方向性変えてきやがったなこの野郎! なんだこの問題は。因みに俺はさっぱりわからんぞ。葵さんもあの顔だと俺と同じ感じか。くそっ、思っていた以上に卑屈だぞ、この番人。
「一番左の『+』に線を一本足して『4』にする、でしょ?」
『……うん』
雪姫さん即答!? どうやったらあの問題が一瞬で分かるんだ。俺なんか思考が完全にフリーズしてたってのに。てか番人完全に元気なくなったなおい。
「雪姫さん凄いですね」
「ふふっ、私こういう問題って得意なのよねぇ」
その後も俺たちは、というか殆ど葵さんが、そして偶に雪姫さんが問題を答えていき、次々とテンションを変化させ挑んでくる番人の意気をことごとく消沈させて最後の扉へと辿り着いた。
『ぐぅ、ぐぅぅ……ここが最後の扉だ。汝らの求めるものは、この奥にある。だが、そう易々とは通さんぞ。今度こそ、今度こそその顔を困惑に歪めてくれるわぁあ』
これで天の声も聞き納めか。全然思うところはないけど、一応覚えておこう。
【問10:タイの首都バンコクの正式名称を答えよ】
……あれ正式名称じゃなかったのか。モップさんは知ってたのかな? いや、あの顔、どうやら俺の仲間だな。雪姫さんは――昔聞いたことはあるけど忘れたって顔だな。
こうなったら葵さんが頼みの綱だ。頼りっぱなしで申し訳ないことこの上ないけど。
だが彼女の口から出た言葉は、俺の想像の斜め上だった。
「クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット……です」
なげえよ! これ絶対正解させる気なかっただろ。てか葵さん何でこんなの覚えてられるんだ。
『せ、正解だ』
力なく答える天の声の言葉に、俺たちは歓喜の声を上げる。
「やったぁルーちゃん、凄い凄~い」
「凄いねブルーさん、本当に」
「ブルーお姉ちゃん……カッコいい」
「あ、ありがとう」
3人からの賛辞にブルーは照れ笑いで答える。そして最後に俺と目が合い、
「ありがとうブルー、ブルーのお陰だよ」
「へぅ!? いえ、その、お役に立てて、嬉しい、です。でも、これからですよ」
「そうだね、ここからが正念場だ」
恥ずかしそうにそう言う彼女と皆で喜びを分かち合うと、俺たちは再び真剣な眼差しで扉の方へと目をやった。
『……まさか我の試練をこうも易々と。通るが良い、愚者共よ。だが汝らは後悔するだろう。我の試練を潜り抜け、この先へ進んでしまったことを』
どういう意図で言ったのかは分からない。だがここで引き返すという選択肢は元より無い。やるだけやって、そしてカノンの笑顔を取り戻す。
俺たちはそれぞれに決意の炎を滾らせ、最後の扉を開いた。
(´・ω・`)みんなは何問解けたかな?
(´・ω・`)私? ゼロですが何か?
次話の更新は木曜日の予定です。




