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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
58/202

58話 ジュウヨンから始まる何かのイベント、だよねコレ?

ちょっとナガサキに長居しすぎた(;゜Д゜)

ストーリー進めます、テンポ上げます(汗

 ゴブリン軍襲撃の翌日。この日も昨日同様に皆揃って学校や仕事が休みだったため、俺たちはそれぞれの用事を済ませ昼過ぎにサセボの町外れの一角に集合した。


 しかしなぜ町外れなのか。それは主に昨日の騒動が原因だ。ゴブリン軍撃退に伴い俺と雪姫さんは揃って上位ポイント獲得者として大衆の関心を引いてしまった。

 まぁ雪姫さんだけなら大事にならなかったかもしれないが、俺のは正直やりすぎた。昨日から情報サイトの話題はあのこと一色となっているらしい。伸二と翠さんにあれだけ気を付けろと言われていたというのに……。


 幸い名前を非公開にすることが出来たため俺と雪姫さんに接触してくる人は今のところはいないが、これ以上この町に留まるのは危険だという判断から俺たちはこの町を後にしようとしていた。


 それに俺はただでさえ昨日ハローワークで騒ぎを起こしたばかりだ。ほとぼりが冷めるまで目立つ行動は控えるべきだろう。


「皆、ごめん。俺のせいでこそこそするようなマネをさせて」


「気にしないで下さい総君。わ、私こういうスリルのある冒険大好きですから」


 葵さんは両手を固めて微笑みを向けてくれるが、その笑顔もまた握られた手同様に硬くなっていた。この笑顔を作ってしまった原因が誰にあるのかを考えると、俺は自分を殴りたくてしょうがなくなる。


「僕も全然気にしないよ。僕は今こうしてパーティを組めてること自体が幸せだからね」


 モップさんは大人の余裕を感じさせる様な落ち着きを見せてくれると、俺の垂れ下がった肩にポンポンと手を乗せてくれた。


 やめてくれ、そんなに優しくされると泣きたくなってくる。


「私はソウ君と一緒にはっちゃけちゃった側だからゴメンの側だね。ルーちゃん、モップさん、ゴメンナサイ」


 そう言い雪姫さんは俺の横に並んで一緒に頭を下げてくれたが、俺は知っている。雪姫さんは元々目立つことが嫌いではなく、本当は名前を公表したかったであろうことを。

 だが彼女は名前を非公開にした。これは自惚れかも知れないが、それは俺のためにしてくれたのではないかと思っている。


 彼女のスタイルからしたら、俺たちと一緒に面白おかしく行動をしていることや、昨日のイベントで上位を取れたことはブログに載せて然るべきなのだろう。

 だが悪目立ちしたくない俺の思いを汲んでくれてか、俺たちに関するものはブログには一切書かれていない。


 本来なら彼女が俺と一緒に謝る筋合いは全くない。ないはずなのに、こうして俺の側に敢えて立ってくれている。


「雪姫さん……ありがとう、ございます」


 俺の言葉を彼女がどういう風に捉えたのかは分からない。だが、頭を上げた俺の目に映った雪姫さんの優しい笑顔を見ると、何もかも見透かされた上で笑いかけてくれたような気がした。




「さて、それじゃあ町を出ようか。このまま北上するといくつかダンジョンがあるらしいから、とりあえずそこに言ってみるのはどうだい?」


 湿気を吹き飛ばすような陽気さでモップさんが口を開く。


 特に誰からも異論は無かったので、俺たちはそのまま人気のない町の一角の間を通り抜け門へと歩いていった。


 その道中、


「あ、あの!」


 まだ10かそこらの年にしか見えない、かわいらしい女の子が緊張した面持ちで俺たちに声をかけてきた。


「どうしたの、お嬢ちゃん」


 雪姫さんがしゃがみ込み、普段他人に使う口調とは違う母性に溢れた慈しみさえ感じさせるようなトーンで話しかける。だがそれに俺はどこも違和感を感じなかった。


 女の子の服装は所謂ボロ布をくるんだような見た目であり、体中埃と泥だらけ。髪もボサボサで汚れを纏っており、とても女の子がまともな暮らしをしているようには見えなかったのだ。


 これを同情や偏見に満ちた目で見るなと言う人もいるかもしれないが、少なくとも俺にはこの子を突き放すような言動は取れない。


「あの……えっと……」


 言いにくいことなのだろうか。それともただ緊張しているだけなのだろうか。何と言うか、葵さんが小さくなったような子だな。非常にかわいい。


 そう思っていると、しゃがみ込む雪姫さんの隣に葵さんも並び、目線を並べて優しく微笑みかけた。


「私、ブルーです。あなたは?」


 その問いかけに女の子はゆっくりと口を開く。


「……カノン、です」


「そう、カノンちゃんって言うのね。私たちに何か聞きたいことがあったの?」


「う……うん……」


 女の子の口が動くにつれ、聞こえてくる声がふやけてくる。その瞳にはもう限界まで溜まった涙が落ちるかどうかの瀬戸際で戦っていた。


「カノンちゃん、お姉ちゃんたちあそこのお宿で少しお食事を取ろうと思うの。良かったら一緒に来てくれない?」


 葵さんは後ろにある宿屋を指差し女の子に再び微笑みかける。


「……ぅん」


 女の子の頬を一筋の涙が伝う。それをハンカチで優しく拭う葵さんの姿に、俺は何故か視線を釘付けにされていた。





 ■ □ ■ □ ■





 この世界における宿屋とは、ただのレンタル空間という意味合いが大きい。仮想世界で眠ることにさほど意味はないし、態々ゲームの中で時間を無駄にするという選択を取るプレイヤーは少ない。そのため、各町にある宿屋はちょっとした集合場所や作戦会議の場に使われることが殆どだ。


 だから、本来あるべき宿屋の形として今ここを使っている俺たちは、少し変わったプレイヤーか、あるいは変わった事情に首を突っ込んだプレイヤーと言えるのだろう。


 あの可愛らしい少女は今雪姫さんと葵さんの3人でシャワーを浴びている。何か訳ありな様子はヒシヒシと感じていたが、まずは彼女を安心させることが優先だとの女性陣の判断から、今の状況に至っている。


「モップさん、部屋で聞くシャワーの音って……いいですよね」


「うん。でも僕は鞭打つ音の方が好みかなぁ。あ、蝋燭(ろうそく)垂らしてくれない?」


 話振る相手間違えた。俺、渾身のミス。てか後半全然関係ないこと喋ってるよね。


 ――よし、無かったことにしよう。


「モップさん。あの子、NPCですよね?」


「う、うん! 間違いないと思うよ」


 俺の180度の方向転換にモップさんは少しだけ頬を赤らめて答える。どうやら無視もご褒美らしい。この人最強すぎる。


 っといかん。今はそんな事よりあの子のことだ。


 あの年頃の少女が1人でこの世界を歩き回ることはまずない。このゲームは色んな意味でリアルすぎるため、12歳以下の利用については保護者同伴などの厳しい制限が設けられている。

 それに、あの姿で切羽詰まった様子をリアルの女の子が行うのは無理があるだろう。もしあの子がプレイヤーだったら、今すぐにでも主演女優賞が狙える逸材だと思う。


「何かのイベント、と見るべきですか?」


 このゲームには特殊なイベントやクエストというものがあるらしい。それらの発生条件はまだほとんど明らかになっていないが、これまでの自分の行動を振り返ると、正直何が起きてもおかしくないとは思っている。


 俺たちは昨日の緊急クエストで優秀な成績を残している。そのプレイヤーに対して何らかのイベントが用意されている可能性は捨てきれないだろう。

 それにモップさんと雪姫さんは知らないが、俺と葵さんはオキナワエリアボスの最初の撃破者でもある。むしろ何らかの特殊イベントが発生する心当たりは色々とありすぎるくらいだ。


「じゃないかなぁ。まぁこの世界のNPCは凄く良く作りこまれているからもしかしたら運営が管理しきれていないNPCが暴走したとかもあるかも知れないけど」


 そんなことあり得るのか? だがこの世界のNPCはそれぞれに独立した思考、人工知能が備え付けられていると言われている。これまでNPCとは店頭とかでちょっとしたやり取り程度でしか絡んだことがなかったからそこまで意識していなかったが、もしかしたらそう言うこともあるのかもしれない。しかしそれでは――


 俺がそんな思考の渦に囚われていると、隣から色っぽい声が聞こえてきた。俺の思考? そんなものは中断だ。それ以外に何があろうと言うのか。


「綺麗になったわね~カノンちゃん」


「あ、りがとう。雪お姉ちゃん」


「っん~もうカノンちゃん可愛すぎぃいい」


「わ、雪姫さん、そんなに強く抱いちゃダメですよ」


 扉一枚挟んだ先で何が行われているのか。俺は聴覚を極限まで研ぎ澄ませ脳内で桃源郷を再生する。恰好? そんなの決まっている。全r――


「あ、まだ髪()いてる途中なんだから動かないでぇ」


 可愛らしい洋服に身を包んだ女の子がドアを開けて入ってきた。そのすぐ後ろでは少女の髪を()かしながら、雪姫さんが顔をふやかしている。実に幸せそうだ。そのすぐ後ろからは、


「お待たせしました、総君」


 普段の淡い水色の和服ではなく、白のブラウスとライトブルーのスカートを着用した葵さんが奥から現れる。その体からは、ほんのりと湯気も立ち込めている。


 はい撃たれたー。心臓撃ち抜かれたよ俺ー。


 ナニコレ超かわいいんですけど。修学旅行初日の夜、好きな女の子の濡れた髪と私服姿のセットに心を奪われる少年の気持ちが今なら凄く良く理解できる。これは反則だわ。


「い、いや、その、俺も今来たとこです!」


「は、はぁ……?」


 緊張のあまり一度は口にしたいセリフ第八位を全力で言ってしまった。案の定葵さんはポカンとしているが、雪姫さんは何かを察したらしくこっちを意味深な笑みで見つめている。


「皆揃ったね。じゃあまずはソファーに腰掛けて喉を潤そう。お話はそれからでどうだい?」


 これが大人の余裕というものなのだろうか。モップさんが表情一つ変えずに話を本題へと持っていく。


 雪姫さんと葵さんに促された女の子は、まだ少し顔に緊張を張り付けつつもソファーへと腰を下ろし、テーブルに置いてあるミルクティーへと手を伸ばした。


「……おいしい」


 顔に張り付いていたこわばりが緩やかに解けていく。すると女の子は、まん丸とした目を俺たちの方へ向け、ゆっくりと口を開く。


「わたしの……お姉ちゃんを助けてください」

次話の更新は月曜日の予定です。

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