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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
55/202

55話 ジュウサンでやっと終わったサセボパニック

 俺の周囲を取り囲むのは、ジェネラルゴブリンの側近であった精鋭約100体のゴブリンナイトと、数えるのも馬鹿らしくなる通常主と亜種の混成集団。


 濛々と立ち込める煙の中、俺はその集団の中で踊っていた。


 ジーザーの時ほどの脅威はないが、如何せん数が多い。特に俺を取り囲んでいるゴブリンナイトの武装は槍と鎧であるため、どちらかと言うと人間の動作に近いものがある。


「GYAGYAAAA!」


 八方から一斉に槍が俺の胴目掛け飛び込んでくるが、それを空中に跳躍し躱すと、そのまま回転しゴブリンの頭に弾丸を捻じ込む。


 だが悲鳴のような叫び声を上げるゴブリンの後ろには、次に俺を仕留めようという意思に満ち溢れた戦士が列を成して待機していた。


「そんなもの欲しそうな目で見るなよ、今行くからな!」


 ジーザーからのドロップアイテム疾風を起動し、空中で跳躍する。目指す先は勿論、俺に熱視線をぶつけてくれた戦士たちだ。


 すると俺の熱意が届いたのか、その戦士も剣を抜き俺を迎えうってくれた。俺が着地する瞬間を狙いそのゴブリンたちが押し寄せる。


 そして俺が着地した瞬間、ゴブリンたちの剣が俺の頭上に迫り――


「――来い、秋月!」


 その声とともに現れたのは、日本刀【秋月】。そこそこの値段のそこそこの刀。それを眼前のゴブリンの腕目掛け一閃する。


「GYA!?」


 肘から先を無くしたゴブリン数匹が短い声を上げる。本音を言えばもう少し踊っていたいが、何分早く仲間の後を追わないといけない身だ。時間はかけていられない。

 一閃を描いた刀を反射した様に戻し、まだ苦悶の表情を浮かべているゴブリンの首を刎ね飛ばす。


 さて次は――


「GYAGYAAAA!」


「おっと」


 槍を持ったゴブリンが数体突撃してくる。それを躱し様に剣閃を首筋と腋窩に描くと、突撃してきたゴブリンたちは全て俺の後ろで光となった。


「――ふっ!」


 休む間もなく、今度は迅雷を起動し前方で剣を構えていたゴブリンの集団の間を駆け抜ける。勿論すれ違い様に首筋には剣閃を描いて。


 しかしスピードが速すぎて1体に1回しか攻撃できなかった。一応全部首を狙ったからそれなりにダメージは入ってるだろうけど、これは追撃が必要かな。


 そう思い銃を手に取り振り返ると、俺の目に映ったのは刎ね飛ばされた首を空中に晒し、光へと変わろうとしているゴブリンの集団だった。


「迅雷の速度で斬ったからダメージが上乗せされたのか」


 しかし紙防御のゴブリンとは言えそれを一撃か。ジーザーを倒した報酬だけあって中々エグイな。


「GYAGYAAAA!」


「考え事する暇もないな。そう寂しがらずとも皆まとめて相手してやるよ」


 周りのゴブリンを軽く掃討できたことで空いたスペースを埋めるべく、次々とゴブリンの波が押し寄せる。だがその波は酷くバラバラで、最初に比べるとその連携は見る影もなかった。恐らく指揮官が逃走したことで指揮系統が一時的に麻痺したせいだろう。


「楽にはなったけど……ちょっと残念だな」


 これでは町のチンピラとあまり変わらない。まぁそれでも楽しくない訳ではないけど、これじゃあジーザーの時のような緊張感を味わうことは出来ないだろうなぁ。


 そんなことを考えつつ、俺は両人差し指に掛かる引き金を引き、光の粒子を量産していった。





 ■ □ ■ □ ■





「GYAGYAAAAA!?」


 もう幾つの光を生み出しただろうか。群がるゴブリンの首を刎ね、眉間を撃ち抜き、腕を斬り飛ばし。


 それでもゴブリンの目に恐怖の色は映らない。これがリアルならば兵が恐慌状態に陥ってもいいぐらいの数を葬っていると思うのだが、この世界のモンスターにはそれは通用しないらしい。


 右手に刀、左手に銃、そして口にはナイフを咥え、戦場に光の華を咲かせながら俺はそんなことを考えていた。


「リロード【信号弾PT-02】」


 スミスさんから頂戴した煙幕を噴出す信号弾を再び地面に向けて撃つ。それにより戦場は再び最悪の視界となるが、周囲の全てが敵である俺にとっては実に都合の良い環境だ。何より、俺の姿が他のプレイヤーから見られないことが良い。


 伸二と翠さんから、他のプレイヤーの前ではあまり全力を出すなと再三に渡って釘を刺されている。だがこれならば俺がここで何をしているのかは発見されにくいだろう。それに他のプレイヤーも眼前の敵の対応でそれどころではないはずだ。


 だから今この瞬間は、俺は自由に戦える。


「――【極】発動!」


 さらに。


「リロード【炸裂弾PT-02】」


 装甲の薄い相手に対しては抜群の威力を誇る弾丸へと変更し、ゴブリンの頭部を狙い打つ。


 直撃したゴブリンの頭部が破裂したトマトのような惨状を作り出す。ハッキリ言ってグロい。ここに葵さんを連れてこなくて本当に良かった。


「まだまだ行くぞぉおお! かかって来いやゴブリン共ぉおおお!」


「GYAGYAAAA!」


 銃声混じりの俺の咆哮に、ゴブリンも応えてくれる。欲を言えばもっと組織的な集団と戦いたかったが、そうなっていたら今頃町はゴブリンで埋め尽くされていただろう。ならばこれ以上は贅沢というものだ。だから、せめて、今をたっぷりと味わおう。心行くまで。


 だがそんな俺の願いは、予期せぬ形で破られることとなる。


『緊急連絡! 只今南門の最終防衛ラインが突破されました。南門に展開していたプレイヤーの皆様は現時点を持ちまして作戦終了となります』


 マジか! てことは町にゴブリンの集団が雪崩れ込んで大変なことに――


『なお南門に押し寄せているゴブリンの軍勢は、門を突破した時点で自動的に消失致します。そのため今回は町の被害は発生致しませんので、ご安心ください』


 そうか、良かった。今回はというワードが凄く気になるが、一先ず良かった。


 しかし心の中でホッと一息ついたのも束の間、立て続けに凶報が轟く。


『緊急連絡! 只今北門の最終防衛ラインが突破されました。北門に展開していたプレイヤーの皆様は現時点を持ちまして作戦終了となります』


 マジか、じゃあもう残ってるのは東と西だけか。これは早く雪姫さんたちの援護に向かわないと。いくら東のゴブリン軍が指揮系統が乱れたと言ってもこのままだと限界が――


『緊急連絡! 只今東門――』



 終わった――。




『――を襲撃していた軍の指揮官、ジェネラルゴブリンが討伐されました』


 なにぃい!? 雪姫さんとモップさん、やったのか!


『指揮官を失い混乱に陥った軍はやがて逃走を開始します。それまでの間なんとしても東門を死守してください』


 町から轟く大音量のアナウンスに、プレイヤーが歓喜の声を各所で上げる。この時、東門に展開していたプレイヤーの興奮は最高潮に達していると言えるだろう。


 敵ゴブリン軍は既に何割かは敗走状態にあり、その混乱は極致にあった。逃げ惑うゴブリン、まだ立ち向かおうとするゴブリン。それらが入り混じった戦場を、プレイヤーと言うバーサーカーが駆け抜ける。既に勝利を確信したプレイヤーが、最後の攻勢、いやポイント稼ぎに出たのだ。


 俺もポイントを稼ぐべきだろうかと一瞬迷ったが、今回のイベントの功労者を(ねぎら)う方が優先だと思い直し、雪姫さんとモップさんの居る場所まで走って向かった。


 すると、


「ソウく~ん、こっちこっちぃ~」


 走り出してすぐ、雪姫さんの声が聞こえた。声のする方向に顔を向けてみれば、イっ君の背に乗った雪姫さんとモップさんがこっちに手を振りながら向かってきていた。


「雪姫さん、モップさん、やったんですね!」


 俺の言葉に2人とも恥ずかしそうに笑う。


「うん、私頑張ったよ。褒めてぇ」


「僕も頑張ったよ、蔑んで!」


「雪姫さん、やりましたね。おめでとうございます。モップさん、死ね」


「ふふっ、ありがと」


「ありがとうございます!」


 普段なら疲れ果ててログアウトしている心理状態だろうが、目標を達成できた今の俺には妖怪猫かぶりとド変態の2人を受け入れるだけの余裕が生まれていた。


「早くルーちゃんとも合流しましょう。このことを教えてあげないと」


「そうですね」


「了解だよ」


 パーティチャットで教えればいいとも思うが、何となく、本当に何となくだが直接葵さんに告げたかったのだ。なぜそう思うのかまでは分からないが、とにかくそうした方がいい気がしたんだ。


 イっ君の背中に乗り、城壁の上で待ってるであろう葵さんの姿を想像しながら、俺はそんなことを考えていた。



 そして葵さんのいる東門までもうすぐという時に、町から再びアナウンスが流れる。


『只今東門に展開していた全てのゴブリンが撤退しました。東門の防衛成功です。おめでとうございます』


 どうやらこっちは上手くいった様だ。残るは西門だけだが、上手くいって欲しいものだ。そんなことを雪姫さんと話していると、やがて西門からも防衛成功のアナウンスが鳴り響いた。

 これで緊急クエストの全てが終了したことになる。色々とあったが、成功して本当に良かった。



「ん? なに、これ」


 突如雪姫さんの目の前にメッセージボードが浮かぶ。一体どうしたのか確認しようとしたが、それは俺の目の前にも浮かんできた。


「え、俺にも? 一体なんだって……は?」


 そこに書かれてあった文字に、雪姫さんは少し嬉しそうに悩み、俺はその場で崩れ落ちた。


「ど、どうしたんだい2人とも」


 それぞれに違う反応を見せる俺たちにモップさんが心配そうに声をかけるが、今の俺にはそんな余裕は全くない。少し前の俺と雲泥の差だ。


「べっつにぃ~。ふふっ、どうしよっかなぁ~名前は伏せるべきかなぁ~なんて書こうかなぁ、うふふ」


「やっちまった……」


 その後合流した葵さんの目に映ったのは、困惑するドMとクネクネしたドS、そして愕然としている俺の姿だった。





 ■ □ ■ □ ■





『システムメッセージ。このメッセージは緊急クエストに参加されたプレイヤーの皆様にお送りしております。これより、緊急クエストの討伐ポイント上位者の発表を行います。報酬はハローワーク窓口にてお受け取りください。

 また上位入賞を逃した参加者の皆様におかれましても、その討伐ポイントに応じて報酬がございますので、最寄のハローワークまでお越しください』


【討伐上位者発表】


※討伐ポイント

通常種:3ポイント

亜種:5ポイント

精鋭:10ポイント

指揮官:100ポイント



【第5位】

マッスルボンバー


【討伐ポイント】

320ポイント


【討伐数】

93体(通常種80、亜種10、精鋭3、指揮官0)


【本人コメント】

頑張りました。もう感無量です。報酬楽しみだー。


 ◆◇◆


【第4位】

ジャア・明日(あす)殴る


【討伐ポイント】

326ポイント


【討伐数】

85体(通常種62、亜種18、精鋭5、指揮官0)


【本人コメント】

坊やだからさ


 ◆◇◆


【第3位】

非公開


【討伐ポイント】

331ポイント


【討伐数】

62体(通常種47、亜種10、精鋭4、指揮官1)


【本人コメント】

うっそぉ、ホントにぃ? やったぁ!


 ◆◇◆


【第2位】

軍曹


【討伐ポイント】

506ポイント


【討伐数】

95体(通常種42、亜種38、精鋭14、指揮官1)


【本人コメント】

一緒に討伐に参加してくれた仲間、協力してくれたプレイヤー、皆のお陰で掴むことのできた勝利です。ありがとう。ありがとう。


 ◆◇◆














【第1位】

非公開


【討伐ポイント】

2191ポイント


【討伐数】

445体(通常種252、亜種99、精鋭94、指揮官0)


【本人コメント】

やっちまった……

(´・ω・`)やらかしやがりました

次話の更新は月曜日の予定です。

※次回は掲示板回となります。

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