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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
53/202

53話 ジュウイチから始まるサセボパニック

『システムメッセージ。これより緊急クエスト、ゴブリン軍討伐戦を開始します。なお本イベントは敵を倒すことで得られる討伐ポイントに応じて順位がつけられます。ランキング上位者には豪華報酬をご用意いたしておりますので、プレイヤーの皆様は奮ってご参加ください』


 視界に浮かぶシステムメッセージの下にはこのイベントに参加するか否かの選択肢が浮かんでいた。


 俺と雪姫さん、モップさんの3人は殆ど参加の意思を固めていたが、葵さんは状況に困惑しており未だその意思を決めかねている様子だ。

 彼女がこういうイベントに乗り気でないのは何となく察していたし、順位もパーティではなく個人単位であったため、無理に参加する必要はないだろう。俺はそう声をかけようとした。だが、


「総君、行きたいですか?」


「え? うん」


「私も……行きます。私たちは、パーティですから」


 まだその全容は見えないが、敵は大量のゴブリン。こんなか弱い少女が立ち向かうには強大すぎる敵だ。無理はしないほうがいいと声をかけるべきか一拍の間迷ったが、折角の葵さんの決意に水を差したくないという思いの方が僅かに勝った。


 怖いはずなのに、勇気をふり絞って俺たちに付いてきてくれるというのだ。

 なら俺も、それに応えよう。


「ありがとう。でもそんなに緊張しないで。ブルーは俺が、絶対守るから」


「総君……」



「もしも~し。そこのバカップルさぁん、戻っておいで~」


「か、かかかかぁ!?」


 先ほどまではほんのりピンク色に染まっていた顔が一瞬で真っ赤に上書きされる。ナニコレ超かわいい。


「ではソウ君、僕らは全員参加ということで」


「はい」


 俺たちは全員で参加の選択肢を選び、町へ押し寄せるゴブリンの大軍を迎え撃つべく門の外へと出た。





 ■ □ ■ □ ■





 サセボの町は東西南北にそれぞれ1つずつ門を構える巨大な都市だ。いや、こういうイベントが用意されていた以上、もうこれは城塞都市と言っても差し支えないだろう。家の屋根よりもはるかに高い城壁と固く閉じられた門、所々に立つ櫓を見れば誰もそれに疑問を持たない気がする。


「結構な数のプレイヤーがこの東門に来たわね」


「そうだね。でも一番多いのは北門らしいよ。偵察の報告では最初の激突は北門で起こるって言うから皆そっちに行っちゃったみたいだ。このゲームが始まってから初めての大規模なモンスター関係のイベントだし、皆早く戦いたくってウズウズしてるんだよ」


 実際周囲を見渡せば、モップさんの言葉通り皆興奮した面持ちで今か今かとゴブリンの大軍を待っている。


「こっちの東門だけで何人来てるんでしょう。凄い数ですけど……」


「ざっと見ると1000人ぐらいじゃないかな」


 この東門と同じぐらいの数が西門と南門にも集結し、北門はその倍近くいるという話だから大雑把に見ると5000人のプレイヤーがこのイベントに参加していることになる。


 このイベントに参加していないプレイヤーも町にはそれなりの数がいると思うが、それらのプレイヤーが途中で気が変わって参加したり、或いはこの騒ぎを聞きつけてここに駆け付けてくるプレイヤーやログインしようとするプレイヤーもいるかもしれない。というかほぼ間違いなくいるだろう。なら数はもっと増えるとみるべきか。


 おまけに、今この町にいるプレイヤーの殆どは最新エリアにいち早く足を踏み入れた血気盛んな猛者たちだ。ナガサキを選択したプレイヤーの中でも、特に腕利きが集まっていると考えていいだろう。


「そんなに沢山来ているんですね」


「まぁゲーマーはこの手のイベント大好きだからねぇ。ルーちゃんは賑やかなのは苦手?」


「その、あんまり得意じゃない……です。けど、逃げてばっかりも良くない、ですから」


「そっかぁ、偉いなぁルーちゃん。いい子いい子」


 先ほどまでとはまた違った表情で顔を赤く染める葵さんの頭に、雪姫さんの手が優しく乗せられる。

 あれが年上のお姉さんの余裕なのだろう。ぜひ俺もその技を会得したいものだ。一体どうすれば会得できるのだろうか。二重人格になるとか?


「――ソウ君?」


「ゴメンナサイ」


 直視することが出来ない深い闇を抱えたような雪姫さんの笑みに、条件反射で謝ってしまった。怖い、完全に心を読まれている。しかしなぜバレたんだ。表情か? 表情に出ていたのか?


「表情よ」


 そうですか。しかし俺の心と会話するの勘弁してくれませんか? 心臓に悪いことこの上ないです。


「流石だよ、ソウ君」


 黙れ変態。そんな尊敬の眼差しを俺に向けるんじゃない。



 そんなやり取りをしていること十数分。東門の前に集結している俺たちを含める約1000人のプレイヤーの前に、フィールドを深い緑色に染め上げる大軍が現れた。


「来た……けど」


「凄い数」


「こっちの何倍いるんだよ」


「俺やっぱやめようかな」


「私も……」


「いいねぇいいねぇ、これぞ戦争って感じだ」


「MMOはやっぱこうじゃなきゃな」


 敵の大軍を視界に捉えたプレイヤーたちの口から様々な言葉が聞こえてくる。怖気づく者、勇む者、表情を崩さぬ者と様々だ。

 しかし俺はある懸念からパーティメンバーに向かって1つの提案を投げかけた。


「提案なんだけど、誰か1人城壁の上から指示を出す役を置きませんか?」


「どういうこと?」


 俺の提案に雪姫さんが説明を求め、モップさんがなるほどといった顔でこちらを見つめる。


「敵は大軍だけど、個体自体は脆弱なゴブリン。たぶんそれがどこかで皆の油断を生んでると思うんです」


 実際俺もあの軍勢を見るまでは少し舐めていた。だがあの軍勢を見てから気が変わった。あの――統率された進軍を見てから。


「でもあの軍勢はどう見ても指揮官により統率されている軍隊です。対してこっちはただ門の前で適当に散らばってる烏合の衆。連携も何もありません」


「……確かにそうね」


「こっちが勝るのは個人の戦闘能力。向こうが勝るのは数と指揮系統。これだとどっちが勝つのか全然読めない。でもハッキリしているのは、このまま衝突すれば俺たちは間違いなく混乱に陥るということです」


 いくらゲームとは言ってもこれだけリアルな戦場で、しかも千単位の人間を指揮するなど普通の人間にはまず不可能だ。俺も無理。そして俺が最も危惧しているのは、皆で幼稚なサッカーをしてしまうこと。


 フィールドに転がるボールを自軍の配置も考慮せずに皆がそれぞれ勝手に追いかけてしまえば、俺たちは必ずその隙を突かれるだろう。だがここにいる全員にそれを説く時間も能力も俺にはない。


 ならばせめて自分たちのパーティだけでも全体を見通して動けるようにしなくては。もしかしたら俺たちと同じ考えで動いてくれるパーティがいるかもしれないが、その時はラッキーぐらいに考えておこう。


「問題は誰がそれをするかなんだけど――」


「あの……その役、私がやります」


 そう声を上げたのは、少し前に決意の声を上げた少女。


「え、でも」


「乱戦になると私が一番やられやすいですし……それに、少しでも皆さんのお役に立てるなら」


「ルーちゃん……」


「ブルーさん……」


「ブルー……ありがとう」


 良い雰囲気を残し、葵さんは城壁の上へと駆け足で向かった。これで何かあればパーティチャットですぐに葵さんが情報を教えてくれる。一先ずの手は打てたと言っていいだろう。だが何か引っかかる……何かが。




 ……。




 あっれぇええええ!? 葵さんは俺が護るはずじゃなかったっけ!? なに自分から彼女を遠ざけるようなことをしてるんだ!? これ、もしかしてもしかしなくとも俺やらかした?


 振り返れば、ドSとドMが揃って俺に微妙な微笑みを向けている。それは先ほどの俺の考えを無言で肯定しているかのようで、


「ソウ君、君って人は……」


「馬鹿ね」


 肯定した。





 ■ □ ■ □ ■





 葵さんが去ってから間もなく、俺たちはゴブリンの大軍と激突した。押し寄せる大軍に対してプレイヤーは遠距離からの魔法や射撃で応戦したが、殆ど足を止めることは出来ずすぐさま混戦模様を呈した。

 至る所からゴブリンとプレイヤーの怒号が飛び交うが、それでも光の粒子となるのは殆どがゴブリンだ。流石は最前線にいるプレイヤーと言ったところだろうか。


 俺と雪姫さんは敵に突っ込むことをせずに、先頭にいるプレイヤーの間を抜けてきたゴブリンたちを確実に消しにかかる。


 それでも10や20ではきかない数のゴブリンが一気に抜けてくるためすぐに弾切れになってしまうが、ナイフで首筋を断ち頭を蹴り飛ばせばそれなりのダメージを与えることが出来た。ゴブリンの防御能力は人間よりも低く設定されているようであり、俺の身体能力でも結構なダメージを与えられるようだ。


 因みにモップさんは少し後ろで待機してもらっている。俺たちが抜かれた時の保険だ。


「ソウ君、今のところはまだ混乱している感じはしないわね。どうする?」


「ここからでは全体を把握できないので何とも言えませんが、たぶんこの状態は長くは続きません。どこからか綻びが出て、そこから一気に崩れると思います」


 今現在の東門前の状態は、ゴブリンの大軍――数不明――と、プレイヤー約1000人がそれぞれ塊となって激突した形だ。正確にはゴブリン軍は三角形を模したような魚鱗の陣、プレイヤーは陣形のじの字もないただの集合、団子だ。もし敵がプレイヤーと同等の力を持つモンスターだったならば俺たちは確実に最初の激突で全滅しただろう。


 だがそうなっていないのは、ゴブリンとプレイヤーの間に確かな個体レベルでの戦力差があるからだ。しかし、それもいつまでもつか怪しい。


 魚鱗の陣の良いところは先頭の兵がやられても後ろの兵がすぐに代わり戦闘を継続しやすいところにある。つまり、正面の敵に対して消耗戦に強い。

 対してこちらはただ何となく正面から敵とぶつかっただけのド素人の集団だ。これではいずれ敵に突破を許してしまう恐れがある。まぁこの状態にすぐに適応できる人間がそこら中にゴロゴロいたらそれはそれで怖いが。


「敵は消耗戦を仕掛けてきてます。それに俺たちが耐えらればいいんですけど、これはちょっと難しい気がします。本当は別動隊を奇襲として使いたいところなんですけど」


 魚鱗の陣の弱点は横や後ろからの攻撃に脆いところだ。こちらは数で劣る代わりに個の力では勝っている。100単位の別動隊が組織出来るだけで戦局はだいぶこちらに有利に進めることが出来ると思うのだが。


「それを組織出来る人間がいません。勿論俺も無理です。なので、現状はブルーからの情報が頼りです」


 ブルーにはあることを頼んで敵陣の方をじっと見つめてもらっている。その報告が来るまでは下手に動けない。


「仕方がない、か。でもこれだけプレイヤーがいて誰もそれに気付けないなんて」


「いえ、気付いてるプレイヤーはいると思いますよ。ただ頭で理解するのと実際に行動に移すのとでは違うということだと思います」


 こんな単純な戦術、ゲーマーなら既に何人も気づいているだろう。多分俺たち同様に混戦地帯から一歩引いた場所で敵を処理しているプレイヤーの中にも同じことを考えている人はいるはずだ。だがそれでも今はこの場所を離れるのは危険だ。


 ゴブリンが俺たちを抜けば間違いなく門を破壊し、町へと侵入するだろう。そうなれば混戦地帯で戦っているプレイヤーはそれを阻止しようと動き出す筈だ。目の前の敵に背を向けてでも。

 そうなったらもう駄目だ。一度幼稚なサッカーを始めてしまった集団に、機能的な働きは期待できない。次々と移り変わる戦場についていけず、町はゴブリン軍にのみ込まれるだろう。


 それでも俺はまだ諦めている訳ではない。群がるゴブリンを次々と光に変えつつ、俺はその時を待った。



 そして――



【いましたソウ君。陣形の左側。そこから伝令のゴブリンさんが散っていってます】


 来たか。


【ありがとうブルー】


 敵は軍。それも組織的な陣形まで組むレベルで統率された。ならば必ずいるはずだ。その軍の頭脳となり、各部隊に命令を出す存在が。

 部隊レベルでの奇襲が叶わない以上、この戦局を打破する最も有効的な手段は敵指揮官の排除。これしかない。


 俺はブルーにお礼のチャットを飛ばすと、雪姫さんと共にモップさんの呼び出したオオイノシシの背に乗り敵陣の左側を目指した。

次話の更新は水曜日の予定です。

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