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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
49/202

49話 ナナから始まる女神信仰

 朝、俺は伸二が来るのを教室で待っていた。姿勢はもちろん正座だ。


 さて今回はどれだけ怒られるだろうか。すでに俺が昨日何をしたのかは知られていると考えた方が良いだろう。朝掲示板をちょっとだけ覗いたが、既にナマハゲ伝説でえらいことになってたからな。


 だが後悔はしていない。さあいつらには相応の報いを受けさせないと俺の気が晴れなかった。ただ俺は断罪者と言う訳ではないから、私怨で動いた俺も相応の報いを受けるのは仕方のないことだろう。ん、来たか。


「お、総おはよう。で、何やってんだ?」


 何って正座ですよ伸二さん。さぁ一思いにやってくれ、覚悟はできている。


「まぁその件は俺も知ってるし、翠も冬川から聞いてるから把握してるけどよ、一先ずそれは後にしようぜ。流石に朝の教室でこれは不味いって」


 そうか、翠さんも既に把握しているのか。ならここでというよりは場所と時間を改めた方が良さそうだな。了解だ伸二、俺は逃げも隠れもしない。正々堂々と裁きの剣を受けよう。




 で……


 結論から言うと、無罪放免だった。正直ホッとした。潔く覚悟を決めたつもりだったが、内心は伸二や翠さんに呆れられるんじゃないかとビクビクものだったからな。


 だが緊張して処分を待つ俺に伸二と翠さんがかけてくれたのは、よくやった、こっちも気が晴れた、との言葉だった。


 それに俺が連中に止めを刺さなかった点も評価された。ナガサキエリアには鬼系モンスターの出現が確認されているから、あれは今後もモンスターの仕業としてプレイヤーには誤認されるだろう、と。正直そこまでは全然計算していなかったが、思わぬ誤算に俺は内心ほっと一息ついた。これで三日連続正座で説教の事態は防げたな。


 さてじゃあそろそろ――何だ伸二、まだ何か? え、雪姫さんをニュルニュルで泣かせた件について? いや待てそれは俺に原因があるとは――え、何かな翠さん。え、黙れ? 姿勢は正座? そうですか、やっぱり今日もですか。


 あぁ、なんでこういう時に限って葵さんはこの場にいないんだ。


 俺はそれから葵さんが誤解を解きに駆けつけてくれるまでの間、伸二と翠さんにこってりと絞られた。





 ■ □ ■ □ ■





「じゃあ行きましょうソウ君、ルーちゃん、サセボ目指してレッツゴー」


 雪姫さんの元気の良い声が夜の平原フィールドに響く。


「やっぱりその喋り方の方が良いですよ、雪姫さん」


 昨日の一件以来、雪姫さんは撫でるような口調をしなくなった。本人にどういった心境の変化があったのかは分からないが、1枚壁が無くなったような気がして俺は少し、嬉しかった。


「えぇ~でもぉ~こっちの方がぁウケが良いんだけどなぁ」


 言っちゃったよこの人。


「少なくとも俺は普通に喋ってる方が好きですよ」


「え、そ、そう? まぁソウ君がこっちが良いって言うなら……ソウ君たちに対してはこっちでいこうかな」


 二重人格みたいだな。言ったら怒られるだろうが。


「じゃあ行きましょう」


 そうして俺たちはシマバラの町を北上し、次の町サセボを目指した。聞いた話ではサセボの町までは結構な距離があるらしく、今日のログイン時間で辿り着くのは難しそうだ。そのため今日目指すのはその途中にある休憩ポイント。そこまで行けば次回ログイン時に中継ポイントから出発できるから、計算上は明後日にはサセボの町に入れるはずだ。モンスターの襲撃で必要以上に足止めを食らわなければ、だが。


「早速お出ましか」


 現れたのは3体のモンスター。深い緑色の肌に裂けた目と口、小学生ぐらいの体格の二足歩行のモンスターと言えば殆どの人が想像できるだろう。


「ゴブリン……でいいんだよな?」


「はい、オキナワでは一部地域にしか分布していませんでしたが、ナガサキではどこにでも現れるモンスターみたいです」


「これは通常種ね。ゴブリンには色んな派生があるけど、通常種は棍棒しか装備してないから楽勝よ」


 油断大敵とは思うが、確かに装備を見る限りは貧弱なことこの上ない。運動能力も低いと聞くし、これは雪姫さんが楽勝と言いたくなるのもわかる気がする。


「それでも一応油断せずに行きましょう。どんなアクシデントがあるかわからないし」


「そうだね。じゃあ私が前衛でソウ君が援護射撃、ルーちゃんが後方支援でいいかな?」


「了解です」


「わかりました」


 その声を皮切りに俺たちはそれぞれ動き出す。そして真っ先にゴブリンたちのヘイトを引き付けたのは、剣を携えて接近する雪姫さん。ゴブリンたちは棍棒を振り上げ雪姫さんに群がる。


「雪姫さんだったら援護無しでも圧倒できるだろうけど……」


 女性が戦ってるのを見ているだけの男と言うのはちょっと情けなさ過ぎて耐えられないな。


 俺は普段通りにトリガーに指をかけ、棍棒を力強く握る緑色の指を――吹き飛ばす。


「GYAGYAAA!?」


「ナイスアシスト、ソウ君」


 そう言うと雪姫さんは素早く低い身のこなしであっという間にゴブリンを圏内に捉える。


「ブレードアタック!」


 三本の閃光が先頭に立つゴブリンを早々に光へと変える。が、技の出し終わりを狙うようなタイミングで残りのゴブリンが雪姫さんに襲い掛かる。

 が、雪姫さんは動じずに半身をずらし蹴りの姿勢に入る。俺との試合で見せた見事な足技があれば、倒せなくともあしらうぐらいは余裕でやってのけるだろう。それに、今の俺たちには勝利の歌を奏でる女神がついてる。慌てる要素はどこにもない。


「――幻惑の奏!」


 葵さんの笛の音がゴブリンたちの手を止める。それどころか頭を抱えて悶え苦しんでさえいる。心なしか前見た時よりも威力が上がっている気がするな。


「ありがと、ルーちゃんんっ!」


 雪姫さんの回し蹴りがゴブリンの頭へとクリーンヒットする。ふむ、やっぱり格闘戦の方が自然な動きだな。見事な動きでゴブリンを蹴り飛ばし切り刻む動きに思わず見惚れてしまう。決して足に見惚れた訳ではない、見惚れていた訳ではないが、素晴らしい脚線美、いや違う動きを目で追っているうちに戦闘は終わってしまった。


「楽しかったぁ~。ソウ君援護ありがとね。お陰でとっても楽に()れたわ」


 気のせいだろうか。少しSっ気を感じたぞ。


「いえいえ、雪姫さんこそ流石です」


 気のせいということにして会話を続ける。すると後ろからトテトテと可愛らしい効果音のしそうな走り方で葵さんが近づいてきた。


「お疲れ様です。総君、雪姫さん」


「ルーちゃんもお疲れさま。援護ありがと」


 しかし盾職がいなくても俺と雪姫さんが前衛だとこの3人でも十分に安定するな。ボスでも出てこない限り、苦戦するイメージが浮かんでこない。

 でもパーティ上はあと1枠残ってるんだよな。もし入るとしたら今の構成上どんな職が好ましいんだろう。やっぱり遠距離から攻撃や支援の出来る美人魔法使いかな。それとも一緒に前衛が出来る美人戦士かな。


 そんな素晴らしい構想を巡らせていた俺だが、強引に割り込んできた奇声が急遽俺を現実に引き戻す。


「あああああああああああああああああああ」


 あまりテンションの上がらない、野郎のものと思われる叫び声だ。素晴らしい構想を遮断してくれやがったその声に俺は銃を、雪姫さんは剣を握り、葵さんはオロオロしている。かわいい。


 トラブルに巻き込まれたくないし、この場を離れるのも手だとは思うが……タイミング的に間に合わないか。


「雪姫さん、ブルーを頼む」


「え!? う、うん」


 俺は2人の前に出ると、両手に銃を握りしめ奇声の聞こえてきた方向を睨む。そんな俺の視界に入ってきたのは――


「豚、いや猪か? デカいな、俺の身長と同じぐらい体高あるぞ。で、声の主はその背に掴みかかってる男か」


 どうしよう、あれモンスターと人間だよな。別にロデオを楽しんでるとかじゃないよな。


「あああああああああああああああああああ」


 うるさい……もうこれは間違えて男も撃ってしまっても仕方がないシチュエーションだよな。


「ああああああ、そこの君、あぶなあああい」


 いや、危ないのはあなたの方です。俺に間違えて眉間を撃ち抜かれようとしていますよ?


 だが俺が――どこにとは言えないが――照準を当てる仕草をとると、彼から思わぬ言葉が飛び込んできた。


「待って撃たないでえええ、これ僕の使役モンスタぁあああ」


 何、使役モンスター? と言うことは彼は魔物使いか? なんだその職業。ファンタジーっぽくて超羨ましい。やっぱり撃つか。


 だがトリガーに指をかけ銃の一部と化したはずの俺の精神は、女神の声によって人の心を取り戻す。


「そ、総君! 猪さんを撃っちゃダメです!」


 わかったよ女神様。ゴメンナサイ、俺、今妬みで人を、いえモンスターを撃とうとしてました。でもそんなの駄目だよな。人だけじゃなく、例えモンスターと言えど撃っちゃ駄目だよな。

 モンスターだって一生懸命に生きてるんだ。そんな命を、俺がどうこうできる権利なんてないよな。あのモンスターだって、俺が銃を向けたから突っ込んできてるのかもしれない。ならば俺は銃を下げよう。そして風の谷の巫女の如く、奴の怒りを鎮めて見せよう。きっと女神様もそれをお望みのはずだ。そうでしょう、女神様。もう女神様に言われたら俺は何でもでき――


「ぶるぅああああああ!」


 俺は轢かれた。

次話の更新は月曜日の予定です。

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