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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
48/202

48話 ロクから始まるリアル鬼ごっこ

 雪姫さんからSOSと思われるチャットを受け取り、急ぎ彼女たちの下へ駆けつけた俺が目にしたもの。


 それは――悪夢だった。


「――え」


 そこにあったのは、浜辺でぐったりと倒れている2人の姿。雪姫さんはまだ辛うじて目を開けているが、葵さんはその背中から剣を生やしピクリとも動いていない。


「ブルー! 雪姫さん!」


 2人に駆け寄り慌てて声をかける。


「何が!? いやそれより治療」


 アイテムボックスから回復アイテムを取り出し、葵さんと雪姫さんに振りかける。幸いHPゲージはギリギリ残っており、回復は間に合った。

 だが俺の頭は未だ激しく混乱している。雪姫さんはゆっくりとだが体を起こし始めたが、葵さんの意識が戻らない。一体どうして!


「それだけじゃダメよ、状態異常回復薬も使わないと」


 よろよろとした動きで雪姫さんが俺に近づき、液体の入った瓶を手渡す。


「それを使って。今のルーちゃんは状態異常の昏睡に陥ってるから、それを使わないと中々動けないわ」


 瓶を受け取るや雪姫さんの説明もろくに聞かずに慌ててその液体を振りかける。すると、


「……総……君……ごめんな、さい」


「ブルー! 良かった……」



 それから2人が完全に回復して落ち着くまで待ち、俺はゆっくりと口を開く。


「雪姫さん、これは一体」


「うん……ソウ君が来る前に、ここでPKに遭ったの」


「PKに……」


 だがここで俺の頭に1つの疑問が浮かぶ。


「2人はPK設定を拒否にしてなかったの?」


 このゲームではPKを受けたくないプレイヤーは、自分からも仕掛けることが出来ない代わりにPKを全面的に拒否することが出来る。男性プレイヤーは殆どその設定を利用していないが、逆に女性プレイヤーはその設定を殆ど適用していると聞いている。


「前一緒に居たパーティが皆してなかったから、私も設定してなかったの」


「私も……ごめんなさい、その設定を弄るのを忘れてて」


 そうか。だが俺も知らないことだらけだ、葵さんを責めることはできない。むしろ良く今まで無事だったな。


「謝らなくていいよ。でも2人ともHPゲージなんで残ってたの?」


 その問いに雪姫さんの顔が徐々に紅潮していく。


「あいつら、私たちのアイテムが目当てで襲った訳じゃなくて、ただ遊んでるだけだった!」


 ……。


「私たちのHPが無くならない様に気を付けながら、最後は状態異常を付けて動けなくして……それが終わったら笑いながら去っていったわ」


 その瞳にうっすらと浮かんだのは、悔しさの塊だろう。


「私は麻痺を、ルーちゃんは昏睡の状態異常を付けられて動けなくなっていたところにソウ君が来てくれたの」


 麻痺は状態異常付与アイテムや魔法で付けることのできる状態異常で、受けると暫く動けなくなる。昏睡はHP残量が10%を切り、尚且つ何かしらの状態異常を付与されると低確率で上書きされる状態異常で、文字通り何も出来なくなる。


「そんな悪質な行為……運営に報告して」


「多分だけど駄目だと思う。PK自体は容認されてる行為だし、これがハラスメント行為に当たるかどうかは微妙、かな。これで衣服を脱がそうとしたりすればその場で垢停止は間違いないでしょうけど。それに状態異常は時間が経てば自然回復するから、やられた側も完全に詰むって訳じゃないからね」


「だけど……いや、そうなのか」


 俺の中にやりきれない感情が渦巻き粘りつく。




 ――よし。


「雪姫さん、そいつらはどっちに行きました?」


「え、あっちの森の方に」


「ふむ……俺、ちょっと散歩してきます」


 俺の下手な演技に雪姫さんはすぐさま反応する。


「駄目よ! 私たちを襲ってきたのは4人だったけど、それ以外にももう1パーティ一緒に居たわ。いくら君が強くても、8人を1人でなんて無謀よ!」


 雪姫さんの言葉で俺がこれから何をしようとしているか察した葵さんも雪姫さんに同調する。


「そ、そうです総君! わ、私のことならもう大丈夫です。気にしません。設定を弄っていなかった私が悪いんです。ですから」


 葵さんの紅潮した頬に、一筋の滴が伝う。その時俺の中で、何かがプツリと音をたてた。


「……すぐに戻る」


「あ、総君! 総君!」


 俺の名を呼ぶ葵さんの声が徐々に聞こえなくなってくる。


 わかっている。これは俺の完全な自己満足。彼女たちがそれを心から望んでいる訳ではないだろうし、ここで俺が行動してもメリットは殆どない。だがそれでも足を止めることはできない。


 男が戦う理由なんて、女の涙があれば十分だ。





 ■ □ ■ □ ■





 このゲームではプレイヤーとNPCを判別する方法が大きく分けて2つある。1つは相手のステータス画面を見ること。自分のステータス設定を公開にしているプレイヤーのステータスはどのプレイヤーでも見ることが出来る。と言ってもそこから見れるのはプレイヤーの名前や性別、後は自己PRぐらいだが、それを見ることが出来るということ自体がその人がプレイヤーであることを表している。


 ではステータス設定を非公開にしているプレイヤーはどうやって判別すればいいのか。それが2つ目の、直接相手に聞くしかない、だ。NPCは自分がプレイヤーであると嘘をつくことはない。つまりプレイヤーですと言えば、それは間違いなくプレイヤーだ。では設定を非公開にして尚且つ自分はNPCですと言うプレイヤーがいたら……それはもう本人と、運営にしかわからない。




「はっはっは、あいつらの最後の顔傑作だったな」


「あぁ、だが茶髪ツインテの子、超強かったな。殆ど4対1だったのに結構危ないとこもあったぜ?」


「あれは結構ヤバかったな。こっちの構成次第では返り討ちだったぞ」


「でも2人とも可愛かったよなぁ、折角ならお近づきになりたかったぜ」


「止せ止せ、下手なことしたらセクハラでBANだぞ」


「そうそう、俺たちは健全なPKプレイヤーだからな。しかも殺さずに情けをかけてやるとか優しすぎだろ」


「良く言うぜ、昏睡が付いた珍しいとか言って喜んでたくせに」


「あっはっは、これで相手に昏睡を付けた回数は俺がトップになったな。後1回で賭けは俺の勝ちだからな、忘れんなよ」


「だがアレは正解だろ。もうキルペナルティがヤバい。これ以上すると施設利用規制どころか町の通行もヤバくなってくるぞ」


「げ、もうそんなに溜まってきたのか。またキルペナの綺麗な新人を勧誘する必要があるかな」



「ん、この反応……なんだ?」


「誰か居るな。これは……プレイヤーか? それともモンスター?」


「プレイヤーじゃねえか? モンスターの気配じゃない気がする」


「ま、どっちでもいいさ。モンスターだったら狩る」


「プレイヤーだったら?」


「狩る!」


「だよねー、あっはっはっは」


「ん? 待て!」


「な、何だアイツ……」


 俺は木陰から8人の前にゆっくりと姿を現す。


「な……何だあれ」


「……侍? いや鬼?」


 彼らの前に姿を現したのは、額から黒く剃り上がる2本の角を生やし、陽炎のようにゆらりと揺れる真紅のオーラを全身から発する1匹の鬼。


 その姿は普段の服装ではなく、親友からなりきりセットとして貰った赤い甲冑を装着している。角が邪魔で兜は着けていないが、真黒な頬当てを口元に装着した様はどこからどう見ても――


「鬼……武者……」


 全員が口元を黒いマスクで隠しているが、眉間に寄った皺と歪んだ目が連中の抱いている感情を教えてくれる。


「な、何だコイツは!? こんなモンスター居たのか!?」


「知るかあ! それよりどうする!? やるのか!?」


 オイオイ、ここまで来て逃げるとかそれはないだろ? そう思い一歩を踏み出そうとしたが、次の瞬間それも必要なくなった。


「ん? 待てこいつ、HPゲージ赤だぞ!」


「え、あ、本当だ。何だよコイツ、どこかのパーティが仕留めそこなったモンスターかよ」


 正体が判明しなければいいやぐらいにしか最初は考えていなかったが、モンスターだと認識してくれるとは思わなかったな。確かに一部のモンスターはステータスを見ることが出来ないからその視点も理解できなくはないが。

 まぁモンスターにやられた時のデスペナとプレイヤーにやられた時のデスペナは違うし、やられたときに受け取る運営からのシステムメッセージでどっちにしろ最後は俺がプレイヤーだって気付くだろうが……。


 それでもこれだけ尖った特徴を印象付けておけば、町で俺を見ても気づくことは早々ないだろう。髪の色は……あとで考えるか。


「はっ、ビビらせやがって。行け、タコ殴りだ!」


 リーダー格の男の声に応じて、前衛職と思われる4人が俺に向かってきた。全員が口元を黒いマスクで隠しているから誰が誰なのか判別しにくいが、あのゲスな声だけは忘れない。


 ――あいつが葵さんをやった奴か。


 ソレを認識すると俺はジーザーからのドロップアイテム迅雷を起動し、一瞬で奴の元まで駆け抜け、


「へ?」


 その勢いのまま奴の顔を掴み、後方の木へと叩きつける。


「はぶっ!?」


 【赤鬼】で強化された筋力に加え、疾風による超加速の勢いを利用した攻撃は奴を葬るには十分な威力を有しており、ぐちゃりと潰れた感触を俺の手に残し、折れた木と共にそいつを転がした。


「ひ、ひぃぃぃ」


 あれ、まだ死んでなかった。ゴキブリ並みにしぶといな。


「な、何して、てる! ま、まほ、魔法、撃ちぇ、撃ちぇええ!」


 口元が潰れて上手く発音できない男の声に、唖然としていた連中が一斉に動き出す。


「焔弾!」


「アクア・スライサー!」


「風弾!」


 火の弾、水の刃、風の弾。どれも俺目がけて放たれた魔法だが、今の俺にはそのどれも脅威足り得ない。当たれば一発で俺は死ぬだろうが、赤鬼になった俺の運動能力はもう化け物と言っても言い訳できない域にある。当たらなければどうと言うことはない。赤だけに。


「くっ当たらな――ひぎゃっ!?」


 迅雷は一度(ひとたび)使うと10秒のリキャスト時間があるが、それを使わなくとも赤鬼のスピードは尋常ではない。動揺して手を緩めた馬鹿から順番にぶっ飛ばしていく。


「くしょうっ、相手は素手ら! 囲め!」


 囲ませないように動いているんだが、コイツはそんなこともわからないのかな。それに俺は鬼だけど武士だぞ? どうして丸腰だと思う。


 俺はアイテムボックスから1本の刀を取り出す。一昨日の大会の優勝資金で買ったそこそこの刀だ。


「な、何だ今の! 召喚か!?」


 あ、そう捉えるのか。まぁそれならそれでいいか。


「く、来るにゃ……来るにゃぁあああ!」


 リーダー格の男は恥も外聞もないかのような態度で後ずさると、それと入れ替わるように剣や槍を持った近接職が俺へと刃を突き立てる。


 だがその攻撃のどれも然したる脅威は感じない。1つ1つのアーツは確かに洗練された動きではあるが、その前のモーションや発動後の動きは実に隙だらけだ。モンスターには効果があるかも知れないが、俺からすればものによってはただのテレフォンパンチだ。しかも打った後は急に隙だらけになる。もうどうにでもできる。

 それらの攻撃を躱し、防ぎ、そして斬る。たまに殴る。時折蹴る。何となく投げる。そうして俺は8人の野郎どもと森の中で踊った。




 連中と踊って1分ほど経過したくらいだろうか。俺は途中で、連中に対してのやり口を変更することを思いつく。


 これは偶々だが、まだ敵側の誰も死んでいない。ならもういっそのこと、誰も殺さずに俺のことを完全にモンスターだと認識してもらおう、と。しかし、このままただ帰すのも味気ない。連中には今日の一件をたっぷり後悔してもらわなければ。


 そう決めるや、俺は連中のHPをギリギリ残る程度にまで満遍なく減らし、回復された奴のHPもすぐにレッドゲージへと戻して回った。


「な、何だコイツ……これじゃ……(なぶ)り殺しじゃねえか!」


 連中の1人が俺の意図に気付き、徐々に後ずさりを始める。


「じょ、冗談じゃねえ、もうやってられるか」


「こんな化け物と付き合ってられるかあ」


「あ、おい待ちぇ、テメェら! ……くしょっ」


 1人、また1人とその場から立ち去っていき、やがて最後の1人もいなくなってから俺はようやく口を開く。


「さて……狩りの始まりだ」






「はぁ、はぁ、はぁ……くそ、他の連中とは逸れちまったか……だがここまで来れば、もう大丈夫か?」


 人はそれを死亡フラグと言う。俺は建築されたフラグに濁声で応える。


「――(わり)()はいねぇがぁぁ」


「あああああああああ」


 俺は連中がバラけて逃げるようにわざと追い立て、暗い森の中1人走る男を伝説の鬼のセリフで心身ともに――主に心を――追い詰める。


 さて、コイツはもういいだろう。次はあっちに逃げた奴を追い詰めるか。




「――(わり)()はいねぇがぁぁ」


「いぎゃぁあああああ」


 次。




「――(わり)()はいねぇがぁぁ」


「おぎゃぁあああああ」


 赤ん坊か。まぁいい、この森は深いからそう簡単には俺の追跡からは逃げられないはずだ。ドンドン行こう。




 この日俺が起こした一件はこの後情報サイトなどで大騒ぎとなり、以降ナガサキの森では場違いなナマハゲ伝説が暫くの間囁かれることになったのだが……ま、いっか。

色んな意味でリアル鬼ごっこの回でした。

次話の更新は金曜日の予定です。

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