46話 ヨンから始まる新フレンド
今年最後の投稿になります。
やり過ぎた。反省している。だからそう睨まないでくれ伸二。だが考えても見てくれ、登山家に対して山に登るなとはそれすなわち死の宣告に等しいとは思わないか? 強い化け物との戦いも十分に楽しかったが、やっぱり強い人間とも俺は戦ってみたいんだよ。一回戦と決勝は実に楽しかった。充実した時間だった。それに浮かれて決勝では確かにやり過ぎたということは自覚している。
伸二から言われた通りボスからのドロップアイテム疾風迅雷は使わなかったし、赤鬼も見せていない。だから伸二の言うようにそこまで皆の記憶に残ったとは思っていなかったんだ。あれぐらいなら伸二から教わった『悪目立ちしないためにゲームを楽しむ10の方法』に接触しないと思ったんだ。
あ、そろそろ足が痺れてきたんですけどもう正座崩してもいいですか? 駄目ですか。そうですか。
昨日の一件は伸二に速攻でバレた。どうやら昨日俺が一回戦で戦った雪姫さんはブログをやっているらしく、こいつもそこに連日アクセスしているらしい。
その彼女が昨日ブログで綴った中身に『ナイフを使う変態ガンナー』と言うワードがあったらしく、それだけでその正体を俺だと見抜いたようだ。ついでにその中身で変態ガンナーさんが一体何をしたのかも事細かに記されており、俺は今こうして伸二の前で正座させられているという訳だ。
たったそれだけの手掛かりで俺に辿り着くとは、こいつは将来名探偵になるかもしれない。だから名探偵様、そろそろ正座を……駄目ですか。そうですか。
あ、翠さんおはようございます。え、名探偵ちょっと、翠さんにも話すの? あ、話しちゃうのね……。え、何ですか翠さん。もう少し正座続けてろ? そうですか。
あ、葵さんもおはよう。え、伸二、葵さんにも話すの? あ、話しちゃうのね……って伸二イカン! 雪姫さんとの絡みに脚色を添えて伝えちゃいかん! いや確かにあの御御足に見とれたのは事実だがそこまでのことはしていない。俺が拘束して極めたのは決勝戦の男であって雪姫さんではない。葵さん、伸二の話を真に受けちゃ――え、正座を崩すな? そうですか、あなたもですか。
■ □ ■ □ ■
「ブルーさん、あのお店オシャレな装飾品置いてますよ。見ていきませんか?」
「……大丈夫です」
……。
「ブルーさん、あそこのクレープ屋さん寄ってみません?」
「……大丈夫です」
……空気が冷たい。朝の一件以降、葵さんの態度がとてもつれない。それはこうしてIEOにインしても変わらなかった。
これあれだよな、怒ってらっしゃる……んだよな。俺が昨日自重せずに色々とヤンチャしたから。不味いなぁ……どうしたら許してくれるかな。
「ソウさん?」
「へ?」
可愛らしい声に導かれ俺の首がぐるりと回る。そこにいたのは、昨日俺と仲良く殺し合った――
「雪姫さん?」
「こんばんはぁソウさん。昨日はどぉもでしたぁ」
今日も変わらずクネクネして変わった喋り方をする人だな。そう言えば伸二はこの人のファンなんだよな。普通の男っていうのはこういう仕草に魅力を感じるものなのか? 確かに美人ではあると思うけど。
「こんばんは雪姫さん。あ、こっちはブルー。俺のフレンドです」
「……こんばんはぁ、雪姫ですぅ」
「あ、はい、ブルーです。あ、あの、昨日はソウ君がとってもイケないことをしたみたいで――」
待って葵さんそれ違う。それ伸二の悪ふざけ。俺が拘束キメてやらかしたのはこの人じゃないから。もしかしてさっきまで怒っていらっしゃったのってそれが原因だったりします!?
「大丈夫ですよぉ、昨日のアレは試合ですからぁ」
うん雪姫さんありがとう。でも出来ればもう少しだけ詳細な説明が欲しかった。仕方ない、この誤解は後で自力で解こう。
「それにしてもぉ、ソウさんも隅に置けないなぁ。こんなに可愛い彼女さんがいるなんてぇ」
小悪魔的な雰囲気で天使の言葉を口にする雪姫様。是非もっと言ってください。
「え、ちがっ、います! わ、私は」
エッチが居ます? 何故バレたんだ? もしかして何度か胸に視線を移したのバレてます?
「うふふ、可愛いぃ。あ、そうだソウさん。折角だしそこのカフェでお話しません? あ、デートの邪魔じゃなかったらですけどぉ」
デートの邪魔です。そう言えれば苦労はしない。もしそんなことを言えばもう葵さんが一緒にプレイしてくれなくなるかもしれない。前に葵さんには意中の王子様がいるって聞いたし、これ以上調子に乗っちゃ駄目だよな。
「俺はいいですよ、ブ」「やったぁ、ありがとう2人とも」
ブルーにも意見を聞こうとしたが、間髪入れない雪姫さんの言葉に完全に押し負けた。まぁどっちにしろこうなっただろうし、それでいいよね葵さん。ん、どうしてそんな目で俺を見つめるんだ? 俺何かまた間違えました? 正座した方がいいですか?
■ □ ■ □ ■
それから俺と葵さんと雪姫さんは、不思議な空気の漂うお茶会を楽しんだ。
その中で新しくわかったのは、雪姫さんが俺たちより少し年上だということと、一緒に楽しく冒険できるパーティを探しているということ。
雪姫さんほど人気のあるプレイヤーなら引く手数多だと思ったのだが、俺の問いに、雪姫さんは妖艶とも言える笑みを浮かべるだけでそれ以上は答えてはくれなかった。
「じゃあ2人はぁ、仲の良いお友達と敢えて分かれてこっちに来たんだねぇ」
「はい。今頃はカゴシマエリアを冒険してるはずですよ」
ジーザーを倒した翌日、俺たちは学校で今後のことについて話し合い、その中で伸二と翠さんから別行動をとってみようという提案があった。
俺と葵さんは2人に嫌われたのかとか、いつの間にそんな仲にとか色々なことを口走ったが、2人がそれを提案した理由は俺たちの想像した答えの外にあった。
伸二曰く、ジーザーとの戦闘で俺に頼り過ぎたことを反省しての考えらしい。俺はそんなこと気にしないと言ったが、伸二の決意は固かった。次のエリアで再会する時までに、俺に相応しい相棒になると言って別の道を選んで行った。
ゲームだしもうちょっと肩の力を抜いて行こうぜとは言えなかった。決意の炎を瞳に宿した男に、そんな言葉をかける舌を俺は持たない。
翠さんが語った内容は一言で表すと『かわいい子には旅をさせろ』だった。引っ込み思案な葵さんが少しでも行動力を身に付けられるように、ここは敢えて別行動をとるのだとか。他にも色々あったようだが、それを聞くとこれ以上は女同士の秘密と言われ二の句を告げられなかった。
少し寂しくはあったが、毎日学校で会う訳だし、お互いにどんなことがあったかは報告し合っているから今のところはまだ問題は起こっていない……いや昨日早速やらかしたか。
「私のフレンドも皆そっちに行っちゃってぇ、こっちで1人寂しかったのぉ」
え、でもファンの人とか沢山いますよね? 昨日のイベントでも参加者や観客に結構な数がいた気が。
「だからぁ、ソウ君とブルーちゃんと一緒に居たいなぁ……なんて言ったら、迷惑かなぁ」
おぉ、これが涙目と上目遣いのコンボと言うやつか。わかっていても中々の破壊力だな。これが伸二だったら容赦なく顔面蹴飛ばせるんだけどな。
「えっと……」
ブルーはどう思うって聞くべきか。だがこんなこと振られても葵さんも困るよな。ならここは俺がガツンと言うべき? 何て言うんだ? 俺とブルーの時間を邪魔するな? 俺は何様だよ。俺たちとは合わなさそうなので御免なさい? いやそんな決めつけもどうかと思うな。そもそも葵さんがどう考えているのかを知らないと言いにくい。ここはちょっと返事を引き延ばすか。
「ここは少し――」「私は全然いいですよ。ソウ君はどうですか?」「喜んで」
葵さんの意外な言葉に思わず反射的に答えてしまった……葵さん?
「ホントぉ? 迷惑じゃなぁい?」
「そんなことありません。ですよね、ソウ君」
「はい、全くそんなことないです」
「やったぁ、ありがとう2人とも」
一体どうしたんだ葵さん。まるで翠さんのような決断力じゃないか。いや葵さんがいいなら俺も異論はないけれども……。
こうして俺たちはナガサキに上陸してから二日後。新しいパーティメンバーを得た。
■ □ ■ □ ■
「……もしもし? どうしたの葵こんな時間に」
「ゴメンね翠。でも私ちゃんと出来たから報告したくて」
「出来たって何が?」
「うん。今日ね、総君と一緒に街を歩いてたら――」
「……なるほど、それでその女性とパーティを組むことになったと」
「うん。翠に言われた通り、人との接触を怖がらずに一生懸命お話してみたよ。最初はちょっと怖くて迷ってたんだけどね。少し不思議な人だったけど、翠ならこう言うかなってイメージして言ってみた」
「葵……アンタ……」
「?」
「そんな変な女をパーティに入れるなんて何考えてるのよ! その女絶対に総君を狙ってきてるじゃない。自分からライバル迎え入れて何してんのよ!」
「え、ええ? えええ!?」
「総君も総君よ、どうせ鼻の下デレデレ伸ばして二つ返事でOKしちゃったんでしょ!」
「え、いや総君はそこまで――」
「と、に、か、く、明日学校で反省会よ! 良いわね!」
「は、はい!」
「じゃあまた明日ね。アンタの電話のお陰ですっかり目が冴えちゃったけど、何とかして寝るわ」
「う、うん……ゴメンね翠」
「……怒ってないわよ。心配はしてるけどね。じゃあね、オヤスミ」
「うん……ありがとう。オヤスミ」
「はぅぁぁ……また、やっちゃった……」
次話の更新は1月2日(月曜日)の予定です。
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来年もドンドン書いていきますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。