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4話 俺の友達が最高な件について

 マイスイートエンジェル瑠璃(るり)を小学校に送り届けてから、ダッシュで高校へと向かう。


 瑠璃の学校が始まるよりも少し早くに送り届けているとはいえ、そこから自分の高校に遅刻せずに行くとなると流石に全力で駆けなければ間に合わない。家では親父と死闘を繰り広げたが、家の外に出れば基本は常識を持った一般人なのだ。遅刻なんてご法度だ。内申にも響くしな。


 そうして学校まで走っていると、その後ろから原付バイクのエンジン音と共に聞き慣れた声が入ってきた。


「おーい(そう)~。オハー」


「ん、おはよう伸二(しんじ)


 横へ視線を移せば、予想した通りの顔が視界に入る。世の一般的な高校生をこれでもかというほど見事に体現した体付きと、少し丸みのある顔が――本人曰く――チャームポイントの友人、高橋伸二だ。


「しっかし学校前のこの地獄坂を原付の俺と大して変わらないスピードで駆け上がるとか、お前ホントにリアルチートだな」


「そうか? お前でも鍛えれば出来るよ」


「出来るか!!」


 全力で否定された。何事も挑戦してみないと分からないもんだと思うけどな。親父もよく「出来ることと出来ないことは確かにある。だが大抵の人間は出来ないものと出来そうにないものを混在している。まずはやってみろ。たとえ出来なくとも、やった人間はやらない人間より確実に伸びる」と言ってたし。俺から見れば、伸二は凄く良い奴だが、少し諦めが早いのが欠点だな。


「お前の後ろを見てみろよ。お前と坂道ダッシュの勝負をしようと、同時に坂を上り始めた陸上部の奴らが軒並み道端で死んでるじゃねえか」


 後ろを振り返れば確かに道路で転がっている生徒が数人いる。


「本当だ。あんなところで寝てると通行人の邪魔だな」


「そこじゃねえよ!!」


 もし伸二に才能があるとすればツッコミだろうな。発言した直後の間、声量、顔の作り、角度、全てにおいて完璧だ。今日は進路調査があるからこいつの用紙を後で俺が書いたものとすり替えておこう。第一希望は勿論お笑い芸人だ。こいつなら天下を取れるかも知れん。


「そういえば昨日どうだった? 親父さんには言えたのか?」


 昨日の件とは、親父に誕生日プレゼント、ゲーム機をねだった件だ。伸二は俺の特殊な境遇を詳しく知る数少ない友人でもある。そんな伸二に「普通の高校生みたいにゲームしたい」と相談したところ「誕生日プレゼントにそれをねだってみたらどうだ」という妙案を授けてくれたのだ。

 こんな神算鬼謀の男が傍にいたのかと思うと、世界は広いのだと改めて感じる。やっぱりこいつの進路調査票にお笑い芸人と書いておくのはやめておこう。こいつの第一希望は軍師だ。日本には就職先が無いだろうから、そこは力を貸してやろう。確か親父の話でクーデターが起こるかもしれないという国があったはずだ。問題はどっちに紹介するかだが、まぁそこは伸二に任せよう。


「あぁ、俺と勝負して勝てたらって条件を出されたけどな」


「マジか!? お前の親父さんってある特殊部隊の隊長だったんだろ? じゃあもしかして……」


 伸二の顔に一瞬暗い影が差す。伸二には親父が如何に化け物なのかをたまに話していたから、親父に負けてゲームを買ってもらえなかったんじゃないかと察したのだろう。それで心配してあんな顔を……やっぱいい奴だな伸二。お前の就職先、絶対力になってやるからな。


「いや、何とか勝てたよ。どうも親父は本調子じゃなかったみたいでな。運も味方についてくれたよ」


「そうか、じゃあ!」


 伸二は表情をパッと明るく切り替える。全くこいつは最高の友人だぜ。絶対に就職させてやるからな。


「ああ、今日家に帰ったらVR機が届くことになってる」


「やったな! おめでとう。ようこそ普通の世界へ」


「ありがとう。これもお前のお陰だよ。お前は普通に関しては世界一だな」


「それ褒めてねえだろ!」


 そんなことはない。心から褒めているとも。俺の事情を知った奴は大概がそれ以降避けるが、こいつはその事情を知っても傍にいてくれる親友だ。俺にとってお前は、特別な普通の友達だよ。


「いや俺からすれば一番欲しいものだよ」


「そうか? じゃあお前の超可愛い妹ちゃんとなら交換しても――」


 ――よし、戦争だ。


「伸二。進路調査票に行き先は棺桶と書いておけ。心配するな、綺麗に送ってやる」


「ウソウソ冗談だって! 冗談、ゴメンって! マジでマジで!!」


 殺気を浴びる伸二の顔から、大量の汗が流れ出る。


 世の中には言っていいものと言ってはいけないものがある。その選択を間違えれば最悪訪れるのは死だ。発言には注意しろよ。こんなことで大切な友人を失いたくはないぞ。


「そうか、これでリーチだからな」


「……何のリーチなのか聞くのが怖いぜ」


 そんな馬鹿話をしていると校門が目前に見えてきた。今日は伸二と話しながらでペースがゆっくりだったが、それでも時間は何とかなったか。前より足が少し速くなったかな?


「じゃ、俺は駐輪所にバイク止めてくるからまた後でな」


「おう」


 伸二と別れ、そのまま真っ直ぐに教室へと向かった。


 途中陸上部顧問の先生が熱心に入部を勧めてきたが、それをいつものように躱して教室へと向かう。

 ゴメンよ先生。先生の諦めない姿勢は好きだけどこれまでは親父の地獄のメニューが、そして今日からは念願のゲームが俺を待っているから部活はできないんだ。坂道で転がっている生徒たちと頑張ってくれ。





 ■ □ ■ □ ■





 昼休みになると、いつも通り伸二が弁当片手に俺の席へとやってきた。


「よ、(そう)。お前授業中、上の空だったけど今日作るキャラの名前何にしようかとか考えてただろ」


 何故バレたし。こいつエスパーだったのか。やめろよ折角の普通設定が崩れるだろ。お前だけは普通でいてほしいんだよ。お前が最後の砦なんだよ。


「ナゼソレヲ……」


「いや、お前のこれまでを考えれば普通わかるよ」


 そ、そうか普通わかるのか。ならプロの普通のコイツがわかっても当然か。それなら納得だ。むしろ必然だ。


「流石だな伸二」


「そうか? まぁいいや。で、名前は何に決めたんだ?」


「色々考えたんだけど、【ソウ】って名前で行こうと思う。これ以外の名前で呼ばれても反応できる自信がない」


 これにはかなり悩んだが、名前を決めた理由にはもう一つある。一つは伸二に言った通り自分の名前以外に素早く反応できる自信がなかったことだが、もう1つはありのままの自分でやってみたかったからだ。

 別に自分の名前をつけていないとありのままじゃないとか偉そうな講釈を垂れるつもりは全くないが、そうすることで自分を偽らずにゲームの世界を楽しむことができると思ったんだ。まぁ要は気分の問題だ。俺がそう感じているから、それでいいんだ。


「いいんじゃねえか? 俺はそういうシンプルなの好きだぜ」


「サンキュ。でもそれ以外はまだ殆ど決めてないんだ。先月サービスが開始されたVRMMORPG【イノセント・アース・オンライン】をやるってこと以外はな」


「そうか。じゃあ目標にする職構成やスキル構成なんかもまだ考えてないんだな」


「ああ。そこら辺はやりながら考えようかなと思ってな」


 そもそも俺には経験という点が絶対的に不足している。今の時点で考えようにも、そもそもがわからん。それに親父が言うには、俺は頭脳派というよりは感覚派らしい。直感に頼って進めていくのも悪くないだろう。


「じゃあ今日インする前に連絡くれよ。そこで色々最初に知ってた方がいいことだけ教えてやるから」


「サンキュ。助かるよ」


 持つべきものは友達だ。こいつにはそう思わされることが本当に多い。実にいいやつだ。


 その後は授業内容の大半が左耳から入りあまり濾過されずに右耳から抜け出ていたが、今日は俺がある意味生まれ変わる日でもあるのだ。どうか大目に見てほしい。



 学校が終わり、逸る気持ちを抑えきれず急いで家に帰りつくと、玄関に大きな段ボール箱が置いてあった。その上には1つの手紙も置かれており、それを開くと


『総一郎へ。これをお前が見ている時、父さんは日本に居ないだろう』


 いや師匠的な人が死ぬ前に弟子へ残した手紙みたいな感じになってるけど、アンタ普通に出張に出ただけだろ。


『お前がゲームに(うつつ)を抜かして家族を放り投げるような人間でないことは俺が一番よく知っている。だが、あまり母さんや瑠璃を寂しがらせないでやってくれ。特に母さんな。出張から帰ってきた時の反動が少し怖い。くれぐれも頼むぞ。マジで頼む』


 親父、ゴメンそれ無理だわ。俺が構おうが構うまいがアンタに反動が行くのは避けられないよ。成仏してくれ。仏前に供えるのは饅頭でいいか。


『VR機にはすでに昨日言っていたゲームをインストールしてもらっている。電源を入れればすぐにでも始められるそうだ。では最後になるが、母さんと瑠璃を頼むぞ。じゃあ行ってくる』


 親父の好きな酒も供えてやろう。

次でようやくVRMMOの話が進み出します。

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