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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第2章 オキナワ攻略編
38/202

38話 (100-75)×2=熱猫+鬼

 ジーザーの爪撃を躱し、弾丸を撃ち込み、躱し、切り刻み、躱し、撃ち込む。前回と同じ作業を、前回を上回るスピードで黙々とこなしていく。途中奴の爪が何度か掠ってHPバーが半分ほどまでに減らされたが、それも葵さんの【癒しの奏】による回復で持ち直し、俺の攻撃の合間を見て放たれる翠さんの遠距離魔法によって奴のHPは確実に削られていった。


「やっと黄色ゲージに……ソウ君、あと半分よ! 頑張って!」


「おう!」


 この後も継続して確実に奴のHPを削るべく、銃を持つ手に力を込め奴の喉元に――なにっ!?


 接近を嫌ったのか、ジーザーは真上に大きく跳躍した。


「おいおい……前はそんなことしなかっただろうが」


 しかしこの距離はまずい、奴の得意なミドルレンジだ。奴の喉元に弾丸を入れるのはそう難しくないが、アレを躱しながらやるのは骨が折れそうだ。あの……尻尾による薙ぎ払いを。


「――くっ」


 体験したことのない角度から尻尾による薙ぎ払いが迫る。しかもまともに喰らえば、HPの半分は食われるであろう威力の。それでもあの体勢からでは連撃は難しいはず。あれさえ躱せばまた接近戦に持ち込めるはずだ。


 だがジーザーの動きは俺の予想を超えていた。初撃を回避した俺の目に飛び込んできたのは、空中を蹴りその巨体ごと真上から降りかかってくるジーザーの姿。


 ――空中を蹴るって……そんなのも出来るのか! ヤバい、躱しきれない。


「――風車(かざぐるま)!」


 眼前に鋭利な風の刃が現れると、高速でプロペラ回転を始め、ジーザーの突進を受け止める盾の役割を果たし、ジーザーの着地点を大きく逸らした。


「ソウ君、今のうちよ!」


「助かる!」


 翠さんの魔法のお陰で窮地を脱してすぐ、地響きを上げ着地したジーザーの懐に再び飛び込む。ここでモタモタしていては大技を使った翠さんにヘイトが移るかもしれない。攻撃の手を休めるな。


「――【極】発動!」


 着地した直後の硬直を逃す手はない。奴の顔面まで跳躍し、枝垂桜(ナイフ)を右目に抉り込む。


「GYAAOOO!?」


 前回同様、目を攻撃された奴は大顎を開き悲鳴を上げる。そこにお約束の弾丸の雨。奴のHPはようやく半分を下回り徐々に下降してきた。

 だがジーザーの隙もそこまで。左目にしっかりと俺を映し出し、左の前足が胴目がけ振り抜かれる。


「させないわよ――風弾(かざだま)!」


 3つの風の弾丸が、奴の左前足を僅かに弾き軌道を上に逸らす。そうして出来た低い通り道を駆け抜け、奴の喉元に潜り込み、腰の剣を抜く。伸二から拝借している予備の剣を。


「っらあ!」


 昔伸二の家で読ませてもらった剣術漫画の突き技を参考にした最強の突き。それを奴の喉元にぶちかます。雰囲気作りもかねて本当は刀でやりたいのだが、贅沢は言ってられない。それでもその威力はここに来る前にぶち抜いた壁で実証済みだ。そして期待通り、その剣はジーザーの喉元に深く突き刺さり赤いエフェクトを盛大に咲かす。


「GYOOOAAAAA!?」


 奴の筋肉が収縮する前に剣を抜き、一歩下がり奴の眼前に踊りでる。狙いはもちろん奴の咽頭。弾切れを気にせず撃てるだけの弾丸を放つ。全弾打ち切ったところで再び奴の爪撃が上から降ってくるが、それを躱しそのまま前足を足場に奴の背中に駆けあがる。

 背中からだとこっちも有効打は放てないが、ジーザーの攻撃も殆ど飛んでこない。振り落とされないようにロデオを楽しんで、リロードが終わったら再び奴と踊る。


 そうして奴と踊ること数分。俺はついにジーザーのHPの75%を削り切り、その色を赤へと変えた。


「さぁ、ここからが本番だ」





 ■ □ ■ □ ■





 ジーザーのHPゲージが赤に変わると、俺は真っ先に奴との距離をとった。奴からの追撃は来ず、前回同様にコタツで丸まる様な姿勢で全身の急所を覆っている。ここまでは予想通り。問題はこれからだ。


「総、来るぞ!」


「あぁ。皆、頼む!」


 俺の下がるタイミングに合わせ、全員が集合する。すると間もなく、奴の周囲に巨大な円柱状の柱が顕現し、さらにその上に巨大で平たい板のようなものが現れる。だが奴から距離をとった俺たちからはその全景がハッキリと見える。それは――


「本当にコタツね。言われた時はまさかと思ったけど、こうやって見ると確かにその表現でいい気がするわ」


 体高だけで3メートルはある巨大なジーザーの上に顕現したのは、奴よりもさらに巨大なコタツ。コタツ布団こそ見当たらないが、猫のようなポーズで机の下に潜り込まれれば思わずそれを連想してしまう。そして肝心のヒーターこそが問題だ。


「来るぞ!」


 ジーザーの体が光り輝き、そして熱を帯びてくる。そう、奴こそがヒーターなのだ。やがてジーザーの全身から放射状の熱波が放たれる。コタツのような生易しい温度ではなく、身を焦がし燃やし尽くす熱波が。前回はこの全方位攻撃の前になす(すべ)なく倒れたが、今回はそうはいかない。


「任せて――風車(かざぐるま)!」


 翠さんの使える魔法の中で最大の威力を誇る風車。それをジーザーではなく、俺たちの目の前に顕現させ防御壁の役割を担わせる。だがそれで終わりではない。俺たちはこの時のために、丸一日準備に費やしたんだ。


「俺もとっておきでいくぞ――ディフェンスシールド!」


 伸二はアイテムボックスから人の背丈ほどもある巨大な鋼鉄の盾を取り出し防御用アーツを使用する。騎士職のみが装備することの出来る盾、大盾で。

 そのあまりの重量から、今の伸二の筋力では片手で扱うことができず、完全に防御専用時にしか使えない代物だが、事ここに至ってはその防御こそが重要だ。その盾の陰に俺たちは身を潜める。


「私も……えいっ!」


 葵さんが瓶に入っていた水を自分たちにふりかける。水の名前は【耐火の聖水】。文字通り、炎・熱属性攻撃のダメージを軽減するアイテムだ。これで出来うる対策は一通り済んだ。後は敵の攻撃がこれで凌げるように祈るだけだ。


「うっ……ぐっ……おおおおおお!」


 凄まじい衝撃と共に襲い来る熱波に、伸二が大盾ごと吹き飛ばされそうになるが、これを4人がかりで何とか抑える。直接の照射及び衝撃波はこれで防げているが、問題はこの熱量だ。これがリアルだったら間違いなく皮膚がただれ肺が焼かれていただろう。


 だが葵さんのかけてくれた聖水のお陰か、その熱波が過ぎ去るまで全員何とか耐えきることに成功する。


「よし、後は任せろ!」


「待ってくださいソウ君、今回復を」


「いや、それは伸二に頼む。俺は大丈夫だ」


 全員が満身創痍な中、真っ先に俺を回復してくれようとした葵さんを制し、伸二の回復を依頼する。


 俺の体力は残り2割ほどしかなく、既にレッドゲージに入っている。例えそれが5割に回復したところで、奴の攻撃をまともに貰えば一撃で沈む恐れが強い。対して伸二の体力は4割はあり、葵さんの【癒しの奏】を受ければ7割に回復できる。そうなれば奴の攻撃を少なくとも1回、上手くいけば2回は受け止められるはずだ。


 それに体力をこのままにしておきたいのには、もう1つ理由がある。


「ちょ、総君何それ!?」


 その異変に真っ先に声を上げたのは翠さん。次いで葵さんも変化に気付き、顔に驚愕の表情を浮かべる。これこそが俺の切り札。その名も、


「――【赤鬼】。俺のパッシブスキルだよ」


 体力が25%以下、すなわちレッドゲージへと移行すると自動発動するスキル【赤鬼】。その効果は与ダメージの1割上昇と移動速度の上昇。


「なるほど、それで見た目が変わったのね。主に角とか」


 翠さんが納得したような感心したような声色で告げる。赤鬼の発動した俺は、額から2本の剃り上がる黒い角を生やし、その目を紅く燃え上がらせ、全身からも紅いオーラを発している。体格自体に変化こそないが、その見た目はなるほど赤鬼と呼ぶにふさわしいものだと我ながら思う。


「ま、話は後でね」


 そう言い残し、ジーザーの懐目がけ全力で駆け抜ける。そのスピードは明らかに以前の自分を――と言うか、人間を超越しており、スキルの効果を実感させる。


 瞬く間に懐に潜り込み、ジーザーの顎を蹴り上げる。


「なああああっ!?」


 声を聴くだけで伸二の眼球が飛び出ているのが想像できる。いきなりジーザーの顎を蹴り上げたのだ。それも仕方がないだろう。だがこの劇的なパワーアップは、ある程度予想していた。


 前日。PvPの施設でスキル【赤鬼】の能力とその効果についていろいろと検証を行っていた時、ある1つの事実に行きついた。それは、赤鬼のスキル説明が明確には間違いであるということ。


 赤鬼の効果は与ダメージの1割上昇と移動速度の上昇。それ自体は間違いない。だが、正確にはこの説明文は少し言葉が足りていない。確かに移動速度はこれにより上昇している。が、これは単純にスピードが上がったという訳ではない。


 移動速度、もといスピードとは何で形成されるものか。それは理想的な姿勢、及びボディバランス、イメージ、他にも色々あるかも知れないが、何より絶対的な筋肉が必要だ。筋肉の働きこそが速度の形成に不可欠な物であり、そしてこのスキルの根幹を支えているものだった。


 つまりスキル【赤鬼】とは、アバターの筋力の底上げを行い、且つその上で与ダメージを1.1倍するもの。底上げされた能力から放たれる攻撃は、以前の比ではない。何だこの鬼スキルはとも思ったが、名前は【赤鬼】。元から鬼スキルだった。


「うおらぁああ!」


 顎を上げたジーザーの右の頬に今度は渾身のストレートを叩き込む。流石にそれでジーザーを体ごとぶっ飛ばすほどのパワーアップはしていないが、それでも奴の顔を振り回すぐらいの威力は内在していた。


「覚悟しろよジーザー。俺のリベンジはしつこいぞ」


 文字通り鬼の形相で、ジーザーを睨みつける。

次話の更新は水曜日です。

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