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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第2章 オキナワ攻略編
37/202

37話 芸術+失敗=神

 俺たちをペーストしようと、黄金に輝く大玉が後ろから唸りを上げて迫ってくる。これで見るのは二度目だが、何度見ても最悪な光景だ。


 走るのが苦手な葵さんを肩に担ぎ、俺と伸二、翠さんは精一杯走る。だが伸二は置いとくとして、意外だったのは翠さんだ。男の伸二に負けないスピードで走っている。伸二が特別運動が得意という訳ではないが、それでも女性で負けてないというのは凄い。運動神経がいいとは聞いていたが、これは本当に良さそうだな。


「そ、総、どうする!?」


 どうするとはこの大玉をやり過ごすために二手に分かれるか、それとも前回行きついたあの行き止まりを目指すかということだろうか。

 二手に分かれれば、一方は助かりもう一方は煎餅になる。このまま皆で行き止まりを目指せば、皆で煎餅になるか皆で助かるかのどちらか。中々に厳しい選択だな、ふーむ。


「あの行き止りに行きつく可能性に賭けよう! 上手く言えないけど、前回のパターンにはめた方がいい気がする!」


「だな! 俺も同じこと考えてた」


 とは言ったものの、前回と同じあの行き止りにたどり着く保証はない。というか、その可能性の方がずっと低いだろう。だがそれでも、俺はこの選択の方がいいような気がするんだ。要は勘だ。根拠などない。


「何のことかよくわからないけど、私もそれで、いいわ!」


「わ、私も、です」


 2人が全てを理解した上での納得か疑問は残るが、それを話している余裕はない、か。


「わかった、とりあえずこのまま走り続けよう」


 後は行き止りに着いたときにどうなるか、だが……こればっかりはその時にならないとわからないな。皆で仲良く煎餅になったら後で謝ろう。


 そう決めて走る俺たちを、大玉は意思を持っているかのような動きでしっかり追尾してくる。するとやがて俺たちの目の前に、待望の壁が現れる。もしかしたら絶望の壁かも知れないが。


「総! 壁が」


「あぁ、だな」


 前回のパターンで行けばあの壁は突き抜けることができる構造になっているはずだ。俺はそう判断すると、葵さんを下し壁の一点に銃を全弾ぶっ放つ。


「――伸二、剣を!」


 弾丸で穿った一点の歪に向かい、剣による最大の一撃をブチかます。全身を捻りバネのように使った、最大の突きを。柄の最も下の部分を持ち押し込むようにして放った俺の突きは、弾丸によって亀裂の入った壁に深く突き刺さり、そして――


「抜けたあぁぁ!」


 薄い壁を破壊した勢いそのままに、俺は空中に投げ出される。あの時と同じ、地底湖の広がる巨大な空洞へ。


「皆飛び込めええ!」


「行くわよブルー」


「え?」


 あまりの高さに崩れた壁の前で尻込みしていた葵さんだが、俺の声に反応した翠さんに押される形で地底湖へ飛び込んだ。


「きゃああああああああああ」


 甲高い声が広大な空洞に響き渡る。これは多分葵さんの声だな。視線を移せば青い顔で絶叫している葵さんと、その葵さんに抱きつかれながら笑っている翠さんが見える。いいなぁそのポジション。次こういう機会があれば積極的に葵さんの隣に行こう。ん、待てよ、そう言えば伸二は……。


 そう思い伸二を探した俺だが、奴を見つけてそれをすぐに後悔した。あいつはあろうことか、再びM字開脚で地底湖へのダイブを決めていた。


 ――伝説の馬鹿だ。


 もうあいつが何を考えているのか本当にわからない。いや、何も考えていないが正解なのか? だが何も考えていなければあんな素っ頓狂な姿勢はとるまい。それともあれか、やつの深層心理にある理想のポーズがあれだとでもいうのか。数多のグラビア写真集に目を通し、悟りの境地に至った奴の終着点だとでもいうのか。だとしたらなんて悲しい終着点なんだ。


 俺の悲しい思考が整理されるのを待たず、伸二は見事尻からのダイブを決め、俺も10点満点の着水を果たした。


 その後俺は皆を岸に辿り着かせるべく、岸まで往復した。その際、真っ先に地底湖に沈んでいった伸二の回収が一番最後になってしまったが、それは仕方のないことと言えよう。





 ■ □ ■ □ ■





「また戻ってきたな」


 さっきの失態がまるで無かったかのような口調で伸二がしみじみといった雰囲気を醸し出し呟く。そんな真面目な顔で言っても駄目だぞ伸二。俺の中で、あの光景は当分消えない。


「すっごいおっきな扉ね。まさにボス部屋って感じ」


「うん……凄い迫力」


 うん、凄い迫力だ。2人とも衣服が濡れたせい、いやお陰で素晴らしい曲線美を披露している。どうにかしてバレない様にスクリーンショット撮れないものだろうか。いや、撮れなくとも何とかこの(まなこ)に焼き付けて――


 そう考えた瞬間、2人の服が水に落ちる前の状態へと一瞬で戻る。


 しまったぁあああああ! このゲームは衣服が濡れても、一定時間が経過すると乾く仕組みになっていたんだった。こんなことを失念していたなんて、俺は……俺は何て阿呆なんだ。


「どした総、そんな絶望に落とされたような顔をして」


 絶望に落とされたんだよ。男なら察してくれ。


「これからボス戦だぜ? 頼むぞエース」


 そう言葉をはきつつ、伸二が俺の肩に手を回して小声で囁いてくる。


「2人の水着写真を後で送ってやるから、今はそれで我慢しろって」


 な、なんだお前、神か。やはりお前はタカハ神だったのか。


「そんな顔すんなよ、俺たち仲間だろ」


 タカハ神様……。


「何男2人で話し込んでるのよ、さぁ、行きましょう」


「そうだな、行くぜ総」


「おう!」


 無限の感謝を伸二に送り、俺たちは再びあの巨大な扉の先へと足を踏み入れた。





 ■ □ ■ □ ■





 扉を開けると、そこはボス部屋でした。もう何度目かな、このくだりは。


 燃え盛るように逆立ったたてがみ。隆々として引き締まった体躯と、それをがっしりと支える四肢。全ての獣の頂点に立つ風格そのままに、奴は再び俺の眼前に立ちはだかった。


「これが……ジーザー」


「お、大きい……」


「2人とも、必要以上に前に出るなよ? あくまでも総の援護を優先だ。俺たちが出過ぎるとかえって総の邪魔になるからな」


 何もそこまで言わなくともと思ったが、どうやらジーザーはそれを言う暇を与える気はなかったようだ。


「GAAOOOOOO!」


 大気を震わす轟音が響く。俺たちを、倒そうという意思に満ち満ちた音だ。


「会いたかったぜ……ジーザー」


 女の子に言いたいセリフ第7位のこれをまさか獣に吐くことになるとは思わなかった。だがこれが俺の嘘偽りない本音だ。今日こそあの時の借りを返す。


 かねてからの作戦通り、俺と伸二の2人でジーザーに突貫する。奴の攻撃パターンは大体掴めている。中距離だと尻尾と前足の薙ぎ払いで応じ、より接近すると牙と前足の攻撃パターンへと変化する。その一撃は重いなんてものじゃなく、当たり所が悪ければ最悪一撃何てことすらあり得るレベルだ。一撃もまともに貰うことは許されない。なんとも……燃える展開だ。


 俺たちの突進に合わせ、ジーザーの尻尾が横から迫ってくる。だが俺はそれには目も向けずに構わず突っ込む。俺には、頼れる相棒がいるのだから。


「――【ディフェンスシールド】!」


 車でも衝突したかのような衝撃音を轟かせつつも、伸二は奴の尻尾による薙ぎをその盾で真っ向から受け止める。


「ぐうぅぅ、重……」


 だがその一撃は伸二のHPを確実に削っている。そのままではそう何度も受け止めることはできないだろう。そのままなら、な。


「――癒しの奏!」


 子守歌のような優しさを感じさせる笛の音が洞窟内に鳴り響く。すると先ほど削られた伸二のHPが徐々に回復していく。


「助かったぜブルー」


 葵さんの回復系の歌は対象のHPを30%回復させることができるが、リキャスト時間が90秒もあるため連発は出来ない。レベルが上がっていけばリキャスト時間が減ったり回復量が増えたりするそうだが、今の時点ではこれが精一杯らしい。


 俺は伸二に合わせていたスピードから一気にトップスピードへと加速し、ジーザーの懐へと飛び込む。ジーザーはやはりと言うべきか、その巨大な前足を振り上げ巨木をへし折りそうな一撃を俺に叩き込んでくるが、もうそのパターンは何度も見た。前足と牙だけの攻撃パターンなら何とかなる。あくまでも何とかギリギリ、といったところだが。


「――っ」


 前足の一撃を躱しても、体を弾きそうな風が吹き荒れる。だがこれに足を止めれば次の一撃にもっていかれる。吹き荒れる風に逆らわずに、縦にも横にも体を回転させながら奴との距離を縮め、


「やっと懐に入ったぞ」


 半蔵さんから譲り受けたナイフ、枝垂桜(しだれざくら)を奴の脇腹に突き刺し、切り開く。その一撃は前のナイフよりも確実に威力を上げているはずだが、それでもHPゲージは殆ど動いていない。


 流石に硬いな。だがそれぐらいはこっちも想定済みなんだよ。


「GAAAAA!」


 それを待ってた。大口を開ける学習能力皆無の獣の口目がけ、新しい相棒、シルバーホークを連射する。


「GYAOOOO!」


 なんだ御代わりか。再度奴の咽頭目がけ弾丸を入れ込む。さらにもう一度口を開けてくれないかと期待したが、返ってきたのは奴の巨大な肉球だった。いやそれいらん。


 躱し様に奴の鼻先に弾丸をぶち込んでみたが、やはり口の中ほどのダメージはない。が、それでも装備を更新したおかげで前回よりは大分HPの削り幅がいい。これならいけそうだ。


「さぁ、このまま行こうか、ジーザー」


 迫りくる嵐の中、俺は再び奴と踊った。

次話の更新は月曜日です。


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