34話 強化≒投資+デート
「そうか、わかった。私にできることは協力しよう」
新しい武器を求めるに至った大体の経緯を説明すると、半蔵さんは隆々な腕を組み俺の頼みを快諾してくれた。
「とりあえず店に入ってくれ。希望のものが見つかるといいんだが」
半蔵さんの誘導に従い店の中に入ると、棚だけでなく壁一面に長剣や短剣、ナイフや槍が飾られていた。所々に刃物以外の武器、ハンマーや盾などの装備品も並んでいる。中々壮観な光景だな。
「ゆっくり見ていってくれ。ソウ君にならサービスさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
とりあえずは代わりのナイフを探すとしよう。これまで得た素材を全部換金してそれなりに財布には余裕ができたけど、流石に一番高いのは……うん、無理だな。
一通りのナイフを手にすると、俺は最も手に馴染んだナイフを半蔵さんに渡す。
「半蔵さん、俺これが欲しいです」
渡したのは刃渡り36センチ、厚さ7ミリとかなり大きめのナイフ。以前持っていたナイフよりもかなり大きく癖が強くなった感じだが、感触や重さが現実で使っているものに近く、持った瞬間にピンときた。
「それはナイフとしてはかなり大型だから扱いは難しいけど、その分威力は高い癖の強いナイフだ。攻撃力も12。その価格帯のナイフでは一番の攻撃力を誇るよ」
攻撃力は前持ってたナイフの倍か。だからって与ダメージまで倍になるってわけじゃないだろうけど、戦力アップになるのは間違いなさそうだな。
俺は会計をしようと店のレジの前まで行こうとしたが、その行く手を半蔵さんの手に遮られる。
「これは私からソウ君にプレゼントしよう。昨日サクラに良くしてもらったお礼ということで」
「え、いやそれは流石に悪いですよ。俺はサクラさんからちゃんと代金も頂きましたし、何より良い体験もさせてもらったのは俺の方です。お礼っていうならむしろ俺の方が――」
そこまで言うと、半蔵さんは俺の胸に拳を置く。
「これは私にとって投資でもあるんだ。君がボスを倒してくれれば、私も次のステージで鍛冶のための色々な素材が手に入る。だからこれは自分の為でもあるんだ。受け取ってくれないかな」
いやそれでも流石にこれをタダはイカンだろ。しかしこれは半蔵さんの男気というやつでもあるのか? だとしたらここは受け取るのが礼儀か? う~ん……
俺は短い時間を懸命に迷い、答えを出す。
「その、ありがとうございます。このナイフ、大事にします」
この恩は必ず返そう。きっと、絶対。
「それは嬉しいね。職人にとって大事に使ってもらえるのは一番嬉しいことだよ」
そういう半蔵さんの顔は実に清々しく、ちょっとカッコよかった。
半蔵さんにたっぷりと感謝を伝えた俺は、次の装備更新のため射撃武器を専門に取り扱っている武具店を訪ねていた。探すのに一苦労するかと思っていたが、俺が次に銃を探していることを知った半蔵さんが、知り合いの店を紹介してくれたお陰でここまでスムーズに来れた。
本当に何から何まで世話になった。この恩は絶対に返さないといけない。ボスを倒しただけじゃ精々利子分だ。俺は半蔵さんへの恩返しの気持ちを心の深くに刻み、紹介された店の扉を開く。
そこはかなり大きく、大きなフロアの中に複数の店が入っている仕組みだった。よく見れば弓やボウガンを専門に置いている店や、銃、ライフルを専門に置いている店。中にはパチンコなどの変わり種を置いている店もある。
「これは中々壮観だな。どうする総、暫くここで集中するか?」
「そうだな。銃に関しては少し時間をかけたいからそうしたいな。いいか?」
「全然いいぜ。その間ハローワークに行っていくつかクエスト受注してくるわ」
え、ということはこっちは俺1人に女の子2人か? 何そのハーレム。最高かよ。
「あ、なら私も付き合うわよハイブ」
うん、知ってた。次は冬川さんもどこか行くんだろ? 俺知ってる。
「じゃあ2人で行くか。俺とリーフでクエスト取ってくるから、総はブルーのガードを頼んだ。ほっとくと迷子になるから気を付けてやってくれ」
「なりませんよ!」
「ははっ、じゃあそういうことで頼んだぜ」
そう言うと、伸二と若草さんは意味深な笑みを浮かべて店を後にした。
え、俺と冬川さんの2人っきり? これってもしかしてデートか? デートってやつじゃないか? 一定のコミュニケーション能力を身に付けた猛者にのみ許される、男と女の連続した時間と空間の共有である【デート】じゃないのか?
「もう……じゃあソウ君、行きましょうか」
「あ、あぁ。行こうか」
冬川さん冷静だな。俺はこんなにドキドキしてるのに……ん?
「ブルー、そっちは出口だぞ」
「はぅあ!?」
まさか一歩目から迷子になりかけるとは。伸二の言う通り本当に迷子になりやすいようだな。これは気を付けないと。
「じゃ、じゃじゃじゃあソウ君! い、いき、いき、行きましょう!」
そんなに硬くならなくても……迷子になりかけたのがそんなに恥ずかしいのか。いや、これは触れずにいた方が良さそうだな。ここは俺がさり気なくリードするべきだ。さり気なく。
「さ、さささ、さぁ行くぞ!」
チクショー。
俺たちは揃って顔を赤く染め、目的の店に入った。
「うわ~……ピストルが沢山。ソウ君はどれを探してるんですか?」
「今使ってるハンドガンを更新しようと思ってる。一番サイズの小さい銃だな」
冬川さんは俺の説明を聞くと、自動拳銃が陳列してある棚へと移動しそのうちの1つを手に取る。
「わぁ……結構重いんですね」
「まぁエアガンとは違うからね。撃った後の衝撃も強いし、本当にリアルに作り込まれてるよ」
ここはプレイヤーの経営する店だから並んでる商品も全部プレイヤーが作ったんだよな。銃ってどうやって作るんだろ。もしかして火薬とかも扱ってたりするのかな? 手榴弾レベルでもあれば戦略の幅が大分広がるんだけど。
「ソウ君、この綺麗な銃は何って言うんですか?」
その手に持たれていたのは、シルバーを基調としていながらもデザインそのものはシンプルに作られた自動拳銃。
「これは……微妙に違う箇所があるけど……いやまさか……デザートイーグル?」
似ている。13歳の誕生日にもらったデザートイーグルに。細部に微妙な違いはあるが、現実で一番近い銃を挙げろと言われれば、それはデザートイ―グルだ。自動拳銃の中で最高峰の破壊力を持つと言われる、あのデザートイーグル。いやだが似ているだけで威力まで一緒とは限らない。大体マグナム弾が撃てるのか……いや、そもそもマグナム弾っていう概念がこの世界にあるのか。撃ってみるしかないか。
「凄い銃なんですか?」
「現実と同じか、それ以上の性能だとしたらもの凄い銃だと思う。試し打ちが出来るみたいだし、ちょっと撃ってくるよ」
俺はそれ以外の銃もいくつか見繕い、店の横にある試射場で試し打ちを行った。その中で最も俺の心を掴んだのは、冬川さんが手に取ったあの銃。正式名称をシルバーホーク。弾数は15、攻撃力も8あり、今使っているハンドガンよりすべての数字が高い。実際のデザートイーグルに比べれば撃った際の衝撃がやや軽く威力も見劣りしているが、それでも中々の性能と言えるだろう。それより問題は……
「う~ん……ギリギリ足りん」
性能が良い分それなりの値段をしている。今使っているハンドガンを売ればギリギリ二挺買うことができるラインだが、瞬間文無しにもなる。もうちょっと財布に余裕が出来てからにするべきか……うん、そうだな。これまで苦楽を共にしてきた武器を易々と手放したりしたら駄目だよな。ごめんよハンドガン。俺はお前と一蓮托生だぜ。
「かっこいいピストルですよね。私もそれ好きです」
今までありがとうハンドガン。お前のことは忘れないよ。懐は寂しくなるが背に腹は代えられない。悲しきかな男の強がりよ。
俺は全財産の殆どを使い果たし、無事(?)装備を一新した。やっぱり装備の更新というのは興奮する。具体的に何がと言われれば答えられないが、とにかく気分が高揚する。俺は自然と上がってくる口角を冬川さんに見られないように手で隠し、一新した装備のステータスを確認する。
【武器一覧】
・シルバーホーク
攻撃力:8
弾速、貫通力を意識して製作された銃。その分重量が増しており、片手での扱いには熟練した技量と鍛えられた体を要する。弾数は15。
・シルバーホーク
攻撃力:8
弾速、貫通力を意識して製作された銃。その分重量が増しており、片手での扱いには熟練した技量と鍛えられた体を要する。弾数は15。
・枝垂桜
攻撃力12
鍛冶師半蔵の作りし一品。ナイフとしては大型であり、高い威力を誇る分扱いが難しい。
おぉ、何だか強そうだ。いや実際攻撃力はほぼ倍になってるし強いだろう。本当は防具も揃えたかったのだが……今の俺の財布の戦闘力はたったの5だ。ゴミ――ではないが無茶はできない。ここはコツコツと地力を上げていき、いずれ訪れるスーパーヤサイ人へのレベルアップに備えるべきだろう。オラ、ワクワクしてきたぞ。
「どうしますソウ君。装備は決まったみたいですけどもうちょっと見ていきますか?」
いかん。つい自分の世界に浸ってしまった。
「そうだな。本音を言えば他の銃、特にライフルとかは見てみたい。でも冬川さん退屈じゃない?」
女の子が銃を見て目を輝かせる光景は……ちょっと想像できないな。
「そんなことないです。ソウ君と一緒に見て回るの楽しいですよ。でもあまり詳しくないので、良かったら私にもその、教えてもらえると嬉しい、です」
くぁぁ……何なんだこの生き物は。俺を悶え死にさせるつもりか。もしこれが俺を倒すための策略なのだとしたら効果は抜群だ。この上なく効いているぞ。
「じゃああっちの店を見に行こうか」
それから俺と冬川さんは暫く店の中で色々な銃を手に取り、会話に華を咲かせていった。
何だこの幸せな時間は。
■ □ ■ □ ■
ハローワークでボス攻略に関するクエストを受注してきた伸二たちと合流すると、俺たちは次にPvPの出来る施設へと向かった。だが目的はPvPではなく、それぞれの出来ることを把握し、連携を取りやすくするための確認だ。
あのボスに対してバラバラに挑んでも勝ち目は薄いことは昨日十分理解した。武器も更新したから前回よりもいい線は行けると思うが、それでも同じ轍を踏まないための対策は出来るだけ講じて然るべきだろう。
そしてPvP施設で色々なスキルやアーツ、魔法や歌を試すこと数時間。俺たちは全員の能力を概ね把握し、取る戦術も大体決めた。
「基本は俺がいざという時の壁役で、総が攻撃役って感じだな」
伸二の魅力はやはりその防御能力だ。ボスの攻撃を正面から受け止めても一撃では沈まない体力もある。壁役として伸二以上の適任はいない。
「で、総がピンチの時にリーフの魔法で援護。ヘイトが移っちまったら俺がガードと」
若草さんは火力重視の魔術師と言うだけあっで、瞬間的な火力は俺たちの中でもトップだ。だがその発動には隙も大きく、伸二と常に連携していないとキツイと言う結論に至った。もっとも、若草さんにヘイトがいかないぐらい俺がボスを釘付けにすればいいだけの話だが。
「そんでブルーが歌で援護と。発動のタイミングは総にしっかりとヘイトが移ってからな」
「はい」
冬川さんの状態異常系の歌がボスに効くかは試してみないとわからない。効く見込みは薄いだろうが、もし効果があればそれを使わない手はない。一先ず試してみて、駄目だったら回復系の歌で俺と伸二の補助をしてもらうことで概ね意見は一致した。
「まぁ要約すると、総が1人でボスのHPを削りまくって、俺たちは総がピンチの時に駆け付ける感じだな。正直頼りっぱなしですまないと思うが、あれと正面からまともにやり合えるのは総だけなんだ。情けないけど――」
頭を下げようとする伸二の肩に手をやり、動きと言葉を止める。
「俺たちはチームだろ? それに一番成功率の高い戦術に文句はない。俺はお前の考えた戦術を信じるよ」
「そうか……サンキュな」
「気にするなよ」
あんな面白いポジションを人に譲るなんてもったいないことできるかよ。あいつは――俺の獲物だ。
その後も色々と準備を整えてから、俺たち4人は昨日入ったダンジョンに向かった。回復アイテムの消費を抑えるために、道中モンスターに遭遇しなくなる特殊なアイテムを使ったことで、俺たち一行はモンスターと一戦も交えずにダンジョンまで辿り着いた。
元々は趣味や生産を優先したいプレイヤーのために用意されたアイテムだが、ダンジョンの攻略時にも有用なアイテムであることから、今では多くのプレイヤーに幅広く愛用されている。
時刻はすでに夕方に差し掛かっている。ボス攻略は明日の予定だが、伸二たちは一旦夕食のためにログアウトした後にまた戻ってきて少しダンジョンに潜るらしい。
俺はどうしようか迷ったが、最近瑠璃と母さんをほったらかしにしていたので今日はここで完全に落ちることにした。
明日ログインした時にすぐにダンジョンアタックできるよう、ダンジョン前にある休憩所で登録を行ってから、俺たちは現実へ帰還した。
次話の更新は月曜日です。




