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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第2章 オキナワ攻略編
33/202

33話 反省+反省=買い物

 初めてIEOで死んで、それからすぐに寝て。目が覚めた俺の耳に最初に届いたのは、天使の声だった。


「お兄ちゃん、おはよー」


「……おはよう、瑠璃(るり)


 今日も素晴らしい朝だ。しかし何故に俺が起きるまでそこで待っていたのかな? この天使は。


「珍しいな瑠璃、俺が起きるのを待つなんて。普段は俺の腹にジャンピングヘッドして起こしてくるのに」


「うん。今日はお兄ちゃんの寝顔が見たかったから」


 何なんだこの天使は。一体俺をどうしたいんだ。これ以上俺を骨抜きにしてどうするつもりなんだ。もう骨抜きのチキンを通り越してクラゲだよ俺は。


「そっか、しかし相変わらず瑠璃の隠形は見事だな。いくら寝ているとはいえ、俺に気付かれずにここへ侵入できるのは親父と瑠璃だけだよ」


 流石天使。まだ小学生だから護身術は最低限しか教えてないが、隠形においては俺を遥かに凌ぐ。下手したら親父より凄いかもしれん。これで武器の扱いを覚えたら俺より強くなるだろうな。


「えへへ、お兄ちゃんをビックリさせるのが面白くって、隠れるのは得意になっちゃった」


 そうか、原因は俺だったか。俺は天使のこれからの可能性に震えを感じつつ、マイスイートエンジェルリを伴って部屋を後にした。





 ■ □ ■ □ ■





 天使とのひと時をたっぷりと堪能した俺は、伸二たちと合流すべくIEOへとダイブした。


 ここは……ナゴの町か。そうか、ダンジョンで死んだから一番近いこの町に降りたのか。さて、他の皆はインしてるかな。


 フレンドリストを開いて確認しようと指を動かす。うん、皆インしてるな。


【お、来たか総。早速合流しようぜ】


 伸二か。相変わらず俺がインした瞬間にアクションを起こす奴だな。ログインコールってやつか。俺も設定しようかな、冬川さんと若草さんに。


【オッケー、どこに行けばいい?】


【地図を送るからその宿屋の204号室に来てくれ。そこで昨日のことと、これからのことを話そう】


【了解】


 さほど間を置かずに送られてきた地図に従い、俺は伸二の指定した宿へと向かった。


 部屋に入ると、丸い木製の机を伸二と若草さん、冬川さんの3人がすでに囲んでいる。


「よっ、総」


「こんにちは総君」


「こんにちは、です、総君」


 あぁ、美女2人のダブル挨拶はこんなにも破壊力を秘めていたのか。世界はこんなにも鮮やかな色で満ちていたのか。こんにちは世界。ようこそ俺。これで伸二が視界から外れていたらどんなに輝いていたことか。


「おはよう皆。伸二邪魔」


「酷くね!?」


 おっと、つい本音が。これは誤解を解いて……誤解じゃないからいいか。


「伸二、昨日のことどこまで話した?」


「スルーかよ!?」


 スルーだよ。


「まぁいい、まだ何にも言ってないぜ。さっき集まったばかりだしな」


「そっか」


 ならとりあえず昨夜のダンジョンでの一件を最初から話すか。


 それから俺と伸二で昨日のダンジョンのこと、そしてボスのことを話した。若草さんと冬川さんは最初は面白そうな顔で聞いていたが、途中からその目は徐々に変化を見せ、最後は点になっていた。面白い顔だねって言ったら殴られるだろうか。


「え~と……まず何から言おうかしら」


「翠、総は自分が何をしたのか自覚がないから教えてやってくれ」


 エライ言われようだな。まぁゲームに関する知識は俺が一番ないだろうから、その通りかもしれないが。


「俺に何の自覚が足りてないって?」


「えっとね総君、まずオキナワのボスは何人で挑むボスかわかる?」


「いや、全然」


 今更だが俺そんな基本的なことも知らなかったのか。ちょっと伸二に頼りすぎていたかもしれん。


「1パーティの最大人数は4人。これはこの前一緒に組んだ時に話したわね。で、オキナワのボスは2パーティまで同時に参加することができるの」


 ほほう、じゃああのボスは最大8人で挑むことができるのか。それなのに俺たちは2人で……アホだな。


「で、オキナワのボスは難易度が超高くて、情報サイトや掲示板なんかは鬼畜って言葉で埋め尽くされているわ」


 確かにあの最後の攻撃は酷かった。あれなら鬼畜と言われても仕方ないな。


「攻略組の中でトップレベルに位置するギルドでも、ボスのHPは最高で6、7割しか減らせなかったそうよ。勿論フルパーティでね」


 え? そうなの?


「でも伸二と総君は2人でボスのHPを8割は減らしたっていうじゃない。これは快挙、いえ暴挙? まぁそんな感じよ」


 そんな感じと言われましても……快挙と暴挙じゃ相当違う気がするが。


「情報を隠しているギルドも多いから絶対とは言えないけど、多分ボスのHPをレッドゲージにしたのは全プレイヤーの中でも伸二と総君が初めてだと思うわ」


 いやそんな訳ないだろ。これはゲームなんだし、俺より強い奴だってゴロゴロいるだろ。若草さんも伸二と一緒でチョイチョイ冗談を挟んでくるな。ユニークな人だ。


「でも負けたら一緒だよ。やっぱ勝たないとさ」


「それはそうだけど……うぅ、この凄さをどうやったら理解させられるかしら。なんだか負けた気分だわ」


 負けた気分って……そんなに冗談に乗せたかったのか?


「ははっ、わかったよ」


「……絶対わかってない」


 そんなことはない。これでも伸二の相方だぜ? ジョークへの理解はそれなりさ。


「翠、これ以上は無駄そうだ、諦めよう。それよりもボス攻略についての話をしようぜ? 俺の見立てだと、総の装備を整えて、翠と冬川が加勢してくれたらイケると思うんだが」


 俺の装備……そうだよな。ボス戦に初期装備はないよな。


「え、総君あの装備のままボスに挑んだんですか!?」


「ここまでだったなんて……」


 おっと、冬川さんにも呆れられてしまったかな。いや、俺もまさかボス戦することになるとは思ってなかったというか。若草さん、そんな目で俺を見ないでくれ。反省する、反省するから。


「翠、冬川、どうだ? 一緒に行かないか?」


 伸二からの問いに、2人は殆ど間を置かずに笑顔で答える。


「勿論よ」


「わ、私こそお願いします。一緒に行きたいです」


 2人とも勇気あるなぁ、即答かよ。あのボス、女の子が立ち向かうには結構怖いと思うんだけど。


「じゃあまずは総の装備を整えるか。総、装備品は何かロストしたか?」


「あぁ、親切なチンピラから頂戴したナイフがない。多分デスペナで落としたな」


 あのナイフは結構気に入ってたんだけどな。


「じゃあとりあえず装備をそろえようぜ。これまでにゲットした素材を売ればそこそこの資金にはなるだろ」


 たしかに俺のアイテムボックスにはこれまでに倒したモンスターの素材が山盛りに入っている。問題は換金率だが、そこは運を天に任せるしかないか。


「で、装備を整えたら作戦会議だ。ボス攻略自体は明日学校が終わってからにしたいんだが、それでも良いか?」


「俺はいいけど、今日行かないのか? 今日は結構時間あるぞ?」


「折角ボスを攻略するんだったら、デスペナで成長率が落ちてる時じゃなくて、しっかりと恩恵を受けれる条件で行きたい。2人はそれでも良いか?」


「全然オッケーよ」


「私もそれでいいです」


「じゃ決まりだな」


 おいおい、ボスを攻略する前提かよ。確かにHP上は後もうちょっとだったけど、最後のあれは正直別格だったぞ。いや、こういう前向きさが伸二の良い所か。さすが伸二と言うべきか。俺も見習おう。


「へっへっへ、もし次のステージを開放したら英雄だぜ。どんだけモテるかな」


 流石だ伸二。そこを口に出すところがたまらないぜ。見ろよ冬川さんと若草さんのあの目。お前馬鹿だな。流石俺の反面教師。


「あ、行きたい武器屋は決まってるんだ。少し距離はあるけど良いかな?」


「いいけど、どこに行くんだ?」


「ちょっとウルマまでな」





 ■ □ ■ □ ■





「確かここら辺って言ってたけど……」


 俺たちは今、ナゴの町付近の駅舎を使ってウルマの町まで来ている。ウルマの町は、総合運動場という超巨大テーマパークばりの施設が売りの人気の町だ。様々なスポーツが行え、毎週何かの大きなイベントがある。


 日曜日の今日は、サッカースタジアムでスキルやアーツの使用が許可された試合が行われているらしい。スキルにより強化された体や、アーツによるプロを超えた美技が披露されることから、その人気はスポーツ関連のイベントの中でも屈指のものを誇るとか。しかしサッカーに使えるアーツって何だろうな。蹴り技とかかな。


 時折地響きを感じるほどの怒号がスタジアムから漏れる中、俺たちはそこを素通りし商店街通りまで来ていた。


「なぁ総、店の名前は何っていうんだ?」


「金物屋HANZOって言うらしいぞ」


 それが少し前に俺がある人からチャットで聞き出した店の名前。昨日、自分の店を訪ねてほしいと俺に言ってくれた人の名でもある。


「今店の前で立って待ってくれてるらしいから、こうして道を歩いていたらわかると思うんだけど……おっ」


 言い終わると、ちょうど目的の店の前で立つ主人の姿が俺の視界に入る。俺は手を振り少しばかり声を張り上げる。


「半蔵さ~ん!」


「おお、来たかソウ君」


 そこには昨日会ったときと変わらぬ姿の、顎髭でマッチョな主人がいた。半蔵さんは俺たちに気づくと、彫りの深い顔にニンマリと笑みを浮かべ、近づいた俺にゴツくてマメだらけの手を差し出してくれた。


「ようこそ私の店へ。来てくれて嬉しいよ」


 差し出された手を力強く握り、俺も答える。


「俺も来れて嬉しいです」


 無くなったナイフの代わりと言わず、あれを超える一品を得るために、俺は仮想世界での最初のフレンド、鍛冶師の半蔵さんを頼った。

次話の更新は金曜日です。

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