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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第2章 オキナワ攻略編
29/202

29話 (俺+伸二)×ダンジョン=蟹

 俺と伸二は夜のフィールドをひたすら駆け抜けていた。途中モンスターの襲撃は何度もあったが、出てきたのは連携せずとも対処できるこれまで見た雑魚モンスターばかり。

 俺の双銃は対集団に向いているし、伸二だって多少囲まれても俺が援護に行くまでの間耐え抜く防御能力は持っている。走っては戦い素材を拾い、走っては戦い素材を拾い。そんな作業を2時間も繰り返した頃にはかなり大量の素材がアイテムボックスに収められ、そして目の前には琉球王国を思わせるような城が建っていた。


「これがダンジョンか? ダンジョンって言うか観光地って感じがするな」


 広大な城壁の中では石畳が規則正しく並び、その先には鮮やかな色の塗装がなされた木製の建造物が際立った存在感を放っている。


「表面上はそう見えるだろうな。だが問題はこの下だ。あの城の中に地下へと繋がる入り口があって、そこから先は完全に地下ダンジョンって感じだぜ」


「なるほど、地上の建物とかはもう調べられてるのか?」


「ああ。ダンジョンを攻略するためには周囲の建造物を徹底的に調べるのはお約束だからな。色々と調べられて、もう目ぼしいお宝は取り尽くされたって聞くぜ」


 未発見の遺跡を踏破するようなことは流石にリアルでもしなかったからな。ここは伸二の言うことに従って動いた方が良さそうだな。


「わかった。俺はダンジョンについては何も知らないから頼りにさせてもらうぜ」


「おう! 任された」


 気合を入れて進む伸二の後につき、俺はいよいよ初めてのダンジョンへと挑戦した。



 建物の中に入り地下へと続く階段を降りると、すぐに洞窟のような区画へと着いた。壁には松明が灯されており、日中とさほど変わらない視界が確保できる。


「城の下にこんな洞窟が……」


 現実の世界を模したファンタジー世界って言ってたけど、ダンジョンとかは流石に現実を模してはいないんだな。実際の沖縄の城の地下にこんな洞窟があったらビックリだしな……ないよな?


「このダンジョンにはコウモリ系や蛇系、ネズミ系のモンスターの他にオオヤシガニとかの厄介なモンスターがいるから注意な。特にオオヤシガニ。あれはかなり硬いから、総の武器とはあまり相性が良くない。もし一遍に出てきたら、ちっこくてすばしっこいのは総が、鈍くて硬いのは俺が担当する感じで行こう」


 ヤシガニもいるのかこの洞窟。しかもわざわざ名前にオオって付くぐらいだからデカいよな。ちょっと見るのが怖いんだが。


「了解だ。折角だし【極】のスキルも使って――」


 そこまで言って俺は意識を前方へと切り替え口を(つぐ)む。


 視界の先に捉えたのは、洞窟の天井にぶら下がっている黒い物体。形からしておそらくコウモリで間違いないだろう。しかしデカい。50センチ以上はあるな。

 距離は50メートルぐらい……か。銃で当てるのは問題ないが、ヘッドショットを狙えるかどうかはこの銃の性能次第だな。これまでの感じだとギリギリいけるとは思うが。


 コウモリの聴覚は人間と比較にならないほど良いって聞くけど、この距離で俺たちの話し声や足音に反応しなかったってことはそこまで良くないのか? それとも一定距離に入らないと襲ってこないとかの設定なのか? まぁいい、動かないならこっちから先に手を出すだけだ。


 俺は進もうとする伸二を手で制し、ハンドサインで前方に敵がいることを知らせる。


【ホントにいたし……よく気付いたな総。完全に索敵範囲の外だぞ】


【まぁな。それより、動かれる前にここから狙い打とうかと思うけど、どう思う?】


【ここから!? 当てられるのか?】


【多分。ただ、持ってるのがライフルだったら絶対できたと思うけど、この銃だとヘッドショット出来るかどうかはやってみないとわからない。それでも撃っていいか?】


【ああ、頼む。敵が向かってきたら迎え撃つから、総はそのまま射撃に集中してくれ】


【了解】


 俺はチャットを閉じると半身を後ろにずらしハンドガンでの狙撃体勢に入る。


【何だかそうやってお前が普通に銃を構えてるのを見ると、違和感尋常じゃねえな】


 そういえばこっちに来てからは両撃ちでずっとやってたからな。この姿は新鮮なのか。だが流石に狙撃を2挺では無理だろ。出来るわけが……いや、試したことなかったな。もしかしたら出来るのかも。いつか試してみるか。さて、


 俺はトリガーに指をかけ、そして――


 ――パンッと乾いた音が洞窟内に響き、わずかに遅れてドサリと落下音が聞こえた。


「やったか!?」


「いや、頭には当たってるけど威力が低い。リアルよりかも距離での威力減衰がシビアだ」


 その俺の言葉を証明するかのように、地面に落下した巨大なコウモリは俺たちめがけ飛び掛かってきた。


「来たか、任せろ!」


 コウモリの飛来に合わせて伸二も敵へと突っ込んでいく。俺は伸二が完全にコウモリと対峙するまでに、もう2発腹へとぶち込みHPを削る。


「いくぜ、【ブレイドアタック】!」


 剣術家のような見事な剣閃が2本、コウモリの羽に描かれる。完全に動きを封じられたコウモリは、甲高い音を鳴らしながら牙で伸二に噛み付こうとするが、伸二はそれを盾の攻撃アーツ【アタックシールド】で敵の攻撃ごと跳ね返し、完全にHPを削り切る。


「ふぅ、やっぱ射撃職の援護があると全然違うな。総と来てよかったぜ」


「俺も伸二がいるから大分気が楽だよ」


 しかし伸二のアーツの切り替えはスムーズだな。俺がアタフタしながらやってたのとは大違いだ。そう言えば伸二はリアルでも何かと器用なところがあったな。


「よし、じゃあこの調子でガンガン行こうぜ」


 気合も十分だな。この気合を勉強に向けたらこいつも成績上位陣に食い込めるんだろうが……いや、成績優秀な伸二ってなんだか気持ち悪いな。やっぱやめよう、お前は今のままでいてくれ。俺と一緒に境界線上(あかてん)のギリギリ上を漂うスリルを味わおうじゃないか。



 その後も俺たちは洞窟内を進んでいき、コウモリや蛇系のモンスターを相手にしていった。伸二の言う通り、このダンジョンのモンスターは地上のものよりも手強く、盾役の伸二のHPゲージは敵の攻撃で結構な減り方を見せていた。だがそれでも伸二の防御が抜かれるよりは俺が銃で削り切る方が早く、さほど大きな危機を迎えることなく俺たちはダンジョンを進んでいった。


 そしてさらに洞窟内を進むこと1時間。これまでとは明らかに違うモンスターが俺たちを出迎えた。


「お、ついに出たぞ総」


 丸太でも両断しそうなハサミと、硬い甲殻に覆われたボディ。これが伸二の言っていたオオヤシガニか。しっかし……


「デカいな……沖縄のヤシガニは凄くデカいとは聞いてたけど、流石にこれは非常識だな」


 俺が以前テレビで見たヤシガニの全長は大きくても50センチほどだったと思うが、目の前にいるのは明らかに全長が3メートル、体高も1メートルをゆうに超えている。もうちょっとしたホラーだな。


「あれは基本単体でしか襲撃してこないモンスターだ。他のモンスターは近くにいないと思うぜ」


 確かに周囲にはあれ以外の気配を感じない。だがあの分厚そうな甲殻だと伸二の言うように俺の銃では有効打にはならなさそうだな。となると、やっぱ狙いは目か。


「伸二、俺が視界を奪う」


「オッケー、じゃあ俺は脚だ」


 俺たちは互いの役割を確認し合うと、それぞれに動き出す。


「目ってあれだよな……甲殻類の目とか初めて狙うな」


 呟き終わるのと同時に、洞窟内に乾いた銃声を響かせる。


 俺が放った弾丸は、寸分の狂いも無くオオヤシガニの両目にヒットしたが、その後の光景は俺の予想とは違っていた。銃弾は、底の厚い鍋に当てたかのような硬質な音をたて、オオヤシガニの目に弾かれた。


「なっ!?」


 硬いとは思っていたが、まさか目すらその範疇だって言うのか。いや、何かコーティングされてる? なら、


「――【極】発動!」


 弱点部位への与ダメージの上昇するスキルを発動。今度は1発ずつとは言わず、硬い防御を貫くために連射する。だがそれでも、結果はさっきとまるで変わらなかった。


「硬い」


 もしかして目は弱点じゃないのか? それとも射撃耐性でもある? 確かめるか。


 俺がそう結論付けた時、伸二はオオヤシガニの側面へと周っていた。


「――【ブレードアタック】!」


 鋭い剣閃が2本、オオヤシガニの脚へと描かれ、


 ――ギィイイイイン


 剣が悲鳴を上げる。脚もあんなに硬いのか。まぁ鍋のときに食う蟹みたいな脚してるからな。そりゃ硬いよな。だがお陰でヤシガニの注意が伸二に向かった。今なら容易に懐に飛び込める。


「伸二、そのまま引き付けてくれ!」


「お、おう! 任せ――うおぉ!?」


 急がないといくら護りの得意な伸二でも危ないな。俺は銃の代わりにナイフを手に取ると、ヤシガニ目掛けて真っ直ぐ突っ込む。狙いは変わらず目。今度はナイフでぶった斬ってやる。


 だが目にナイフが届くまであと数歩というとこに来て、ヤシガニの動きは再び俺の予想から外れる。


「!? 総っ! 危な――」


 俺がそれを視界に捉えたのは伸二の声が聞こえてきたのとほぼ同じタイミング。真横を向いていたヤシガニは、その巨大なハサミを俺目掛けてフルスイングしてきた。


 ――ハサミなら大人しく挟むだけしてろよ!


 全力で地面を蹴っていた俺は、完全に巨大なハンマーと化したハサミの射程圏にいた。これはステップでは回避できない。避けるとしたら上か下。だがもし追撃が来たら上は詰む。なら――


 俺は地面スレスレを滑走するように身を低くし唸りを上げて迫るハサミをかわすと、そのままの勢いを保持し突っ込んでいった。

 もう勢いは止められないし、このままヘッドスライディングしてヤシガニの脚の間をすり抜けるしかない。ちょっと間抜けな姿だが、背に腹は代えられん。


 だがヤシガニの下をすり抜けていく中で、俺はあることに気付く。


 上に見えるのってヤシガニの腹か……これっていけるんじゃね?


 ヤシガニの真下を潜り抜けようとしている中で俺の目に飛び込んできたのは、外の甲殻よりも明らかに軟らかそうな腹部。これはと思い体を捻り、ほぼ反射的にナイフを突きつける。全力で。


「GYUUUIIIIIIIII!?」


 弱点ここかよ!


 俺はナイフを突き刺したことで勢いが完全に止まり、まだやつの下に潜り込んだままだ。もうこれは畳み掛けるしかない。そう結論付けたのとほぼ同じタイミングで、刺さったナイフを思いっきり横に引き、腹を掻っ捌く。


 真下にいる俺に赤いエフェクトが降りかかるが、そんなことは一切気にせず、今度は開いた傷に銃弾をありったけ浴びせる。


「GYOOOOOOO!」


 ギュイとかギョオとか変な叫び声だな。しかし、ここまで考えたところで弾が尽きる。このままだと押しつぶされかねないしここが限界か。そう考えヤシガニの下から出ようとした瞬間、ヤシガニは急に糸が切れたように全身の力が抜け、その巨体を俺目がけて落下させてくる。


「げえっ!?」


 こんな間抜けな声を出したのは親父との模擬戦で完全に奇襲を喰らったとき以来だと思う。そして俺がこんな声を出す時は、決まってもう避けようのない時だ。


 終わった。そう思った。


 しかし、せめて急所だけは護ろうと身を固めていた俺の視界に飛び込んだのは、光となって消えていくオオヤシガニの姿だった。


 ……削り切れてたのか。


「セーフ……」


 今度から重量のある敵の下に潜り込もうとするのはやめよう。

次話更新は水曜日です。

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