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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第1章 オキナワ上陸編
22/202

22話 【贖罪】私の英雄

 高橋君と翠との作戦会議の翌日、私たちは計画していた通りに動き出しました。


 ……何だか少し悪いことをしているみたいで肩身が狭いです。


「あ、伸二から連絡来たわ。葵、行くわよ!」


「あ、待ってよ翠」


 翠は高橋君からきたスマホでの合図を確認すると、一目散に駆けていきました。……は、速い。



 完全に翠に置いて行かれた私が高橋君と藤堂君のいる教室に着くと、私を呼ぶ声が聞こえてきました。


 そこには、私を置いて先に駆けていった翠と、椅子に座ってお昼ご飯をとっていた高橋君と――藤堂君がいました。


 あぁ、藤堂君だ……あの時私を助けてくれた金髪の男の子。やっぱりあの時の面影が凄くある。それもそうだよね、3年前だもん。

 うぅ、でもこうしてちゃんと見つめるのは入学式の時以来かも。藤堂君って人の視線に異常なほど鋭いから、遠くからでもまともに見ることあまり出来なかったもんなぁ。


 すっごく緊張するよ……どうしよう、ちゃんと話しかけられるかな。


 私の緊張を察してくれたのか、高橋君と翠が声をかけてくれます。背がちっちゃいとか胸が大きいとかあんまり嬉しい話じゃないですけど……。でも、ありが――


「よろしく冬川さん。俺は藤堂総一郎、伸二の友人です」


 ――!?


 ど、どうしよう! 話しかけてもらっちゃった! しかもよく考えたら私藤堂君と話すの、これが初めてだ……き、緊張してきたよぉ。でも――頑張るぞ。


 それから私は凄く緊張しながらもなんとか藤堂君とお話しすることができました。でもその後、話の途中で藤堂君はふと椅子から立ち上がり、その場を後にしようとします。


 も、もしかして何か不快に感じることをしちゃったかな。ど、どうしよう。それとも本当は私のこと覚えていて、顔も見たくないんじゃ……。


 でもそれは私の勘違いだとすぐに気づきました。高橋君が言うには、藤堂君は自分がいることで私たちに迷惑がかかるからという理由で立ち去ろうとしていたそうです。


 そんなこと、これっぽっちも感じてないです。でも……そう考えさせちゃったのは、昔私がしたことが関係しているのかもしれません。私があんな酷いことをしたから。


 すると高橋君が、さっきよりも少し真面目な顔で藤堂君に言います。


「お前の状況も知った上で敢えて言うけど、こいつらは人を噂や家庭環境だけで判断するような人間じゃないぞ」


 その言葉は、私の胸にチクリとした感触を残します。藤堂君が私を助けてくれた時、私は彼のことをよく知りもせずにあんな酷い態度をとりました。私は高橋君が言うような人間じゃない。そんな綺麗な人間じゃ……。

 だから、藤堂君には必ずそのことを謝ろう。そのためにも、まずはここでちゃんと言わなきゃ。


 翠が私に強い視線を向けてくる。その瞳からは「逃げるな」という力のこもったメッセージが伝わってきて……


 私はしっかりと意思を固めると、グッとお腹に力を込め伝えました。


 友達になってください、と。





 ■ □ ■ □ ■





 藤堂君とお友達になった素晴らしい記念日の翌日。私は(みどり)と一緒にIEOの世界にいました。


「さ、伸二が藤堂君を誘ってる間に私たちはクエストの準備をしましょう」


「うん、そうだね」


 高橋君は藤堂君がインするのをずっとゲート付近で待ってくれています。高橋君が言うには藤堂君はお昼頃にインしてくるだろうとのことなので、その通りにいけばそろそろだと思うんだけど……凄いな高橋君、藤堂君のこと何でもわかってて。


「じゃあ私はHP系の回復薬を買い揃えてくるわ。葵は状態異常回復系の回復薬をお願い」


「うん」


 高橋君からの連絡を待つ間、私と翠はそれぞれ狩りに必要なアイテムの補充に向かいました。私はいつもクエストで翠や高橋君の足を引っ張ってばかりだから、せめてこういうところで役に立たないと。

 そう言えば私たちのギルドって戦闘職ばっかりで生産職はいないなぁ。一応料理と裁縫なら出来るから今度みんなに相談してみようかな。そ、そしたら藤堂君も……食べてくれるかな……。



 そうして私が町の南の通りを歩いていると、ふと耳にある言葉が入ってきました。


「お譲ちゃん可愛いね。俺たちと一緒に遊ばない?」


 それは私に2年前の出来事を鮮明に思い出させる、圧倒的な恐怖でした。


 恐怖で体が強張り上手く動かせない中、何とか後ろを振り向くとそこには――


「おいおいマジかよ」


「超可愛いじゃん」


「だろ? 俺らツイてるぜ!」


 それぞれに私への思いを口にする3人のプレイヤーの姿がありました。そしてその目は、あの日私を見つていた男の人たちと同じ、面白い玩具を見つけたような、そんな目でした。


「そんな顔しないでよ、俺ら怪しいもんじゃないから」


「そそ。困った人を見捨てておけない性分なだけだから」


 私困ってなかったです……いえ今は確かに困ってますけど……うぅ。


 怖い……けど言わなくちゃ。行きませんって。


「さ、行こうぜ!」


 言うんだ!


「い、いえあの私――」


「あん? 来るよな?」


「ひぅ!?」


 や、やっぱり怖い……どうして……どうして私はこんなに――弱いんだろう。


「な、俺たちが色々教えてやっからよ」


「効率のいい狩場に連れて行ってあげるよ。心配しなくても俺たちが君を守ってあげるからさ」


「じゃあ行こうか。ほらっ!」


 最後に言葉を発した男の人が、私の手を力強く握り引っぱり出そうとしてきました。その圧倒的な恐怖、そして何もできない自分への嫌悪、それらがごちゃ混ぜになった底の無い沼に、私はどんどん沈んでいきました。


 そんな時――


「お兄さん方、彼女嫌そうだよ? 離してやったら?」


 いつか、どこかで聞いたことのある様な声が聞こえてきました。その声に導かれるように顔を上げると、そこにあったのは――あの日の男の子(ヒーロー)の姿でした。


 それでもなお罵声を上げる男の人たちに、私は再び殻に閉じこもり、ただそこで震えて見ていることしかできませんでした。そんなことしか……できませんでした。


 でも、その男の子は……藤堂君はそんな私に優しく――あの時と同じように話しかけてくれた。


 それが嬉しくもあり、また情けなくもあり……でもそんな中でも今の状況はやっぱり怖くて……私は喉が潰れたかのような感覚の中、ただ彼の問いに首を振りました。


「助けがいりますか?」


 ――その言葉は、必死に瞼を閉じて涙をせき止めていた私の心を、優しく開いてくれた。


 そして私がコクリ――と小さく頷くとほぼ時を同じくして、男の人が声を張り上げました。


「やっちまえ!」


 そこから先は圧巻の一言でした。私が溢れる涙を拭い、藤堂君の姿を今度こそ目を背けずにいようと見つめる中、彼は瞬く間に3人の男の人をやっつけてしまいました。その姿はあの日の夜と何も変わらない、眩い輝きに満ちていました。


 私は今度こそという思いを胸に、藤堂君に向き合おうと顔を上げました。


 でも、藤堂君は早々にその場を立ち去ろうとしていました。まるで、私から逃げるように。


 このままだとあの時と一緒だ。私は今度こそという思いに駆られ、彼の手を必死に掴みました。


 行かないで! そう何度も言おうとしました。でも、奥底から湧き上がってくる感情がどうしてもそれを上手く伝えさせてくれません。


 結局私は大事なことを伝えられないまま、藤堂君を散々困らせて、最後は翠に助けてもらいました。





 ■ □ ■ □ ■





 それから私たちは近くの宿屋さんの一室でお互いの事情を話し合いました。その中で私は、藤堂君のことを怖がったわけではないことを何度も何度も話しました。

 それを藤堂君は優しくずっと聞いてくれたけど……どこか作られたような笑顔に、私の心は最後まで落ち着きませんでした。



 話を終えた私たちは、駅舎へと向かいました。途中モンスターの群れとも遭遇しましたが、藤堂く――いえ、総君、高橋君、翠の活躍のお陰で、無事に駅舎まで着くことも出来ました。


 でもその道中。高橋君が総君をギルドに誘ってくれた時、総君はどこか気まずそうな顔でその話を早々に終わらせてしまいました。私はまた自分が何かしたんじゃと不安で仕方無くなり……でもいくら考えても原因がわからなくて。


 ずっとそれを考えながら歩いていると、翠が私に元気を出す様に声をかけてくれました。私はそれに自分でも不思議なぐらい、胸が躍る感触に包まれ――え?


「い、いやあああああ!」


「ヘブシッ!?」


 なななななな、なにをするの!? むむむ、胸をが、ガシッて……。


 頭の中が自分でもびっくりするぐらいにごちゃごちゃになって……つい、その場から逃げ出してしまいました。でも、(はた)いちゃったのはいけなかったな。ちゃんと謝らないと……もう少し落ち着いたら。


 いつの間にか私は駅舎の裏まで来ていました。でも人のいないここなら少しは心を落ち着けられるかも。ちゃんと落ち着けて、それからちゃんとみんなのところに――


「ブルー、あのさ……」


 そ、総君!? どうしてここに!? 追ってきて……くれたの? ど、どうしよう。でも折角来てくれたのに下を向いたままじゃあんまりにも失礼だし……でもさっきのようなことがあった後じゃまともに顔なんて見れないよぉ。


 私がうじうじと悩んでいると、いつの間にか総君の声が聞こえなくなりました。もしかして行っちゃったのかという不安に突き動かされ急いで顔を上げると、そこには何故か深呼吸をする総君の姿がありました。


 ……え? 深呼吸?


 事態が呑み込めずに唖然としていると、次は急にその場で体操選手のように大きく飛び上がり綺麗な技を披露してくれました。


 凄い。でもどうして? もしかして……私を慰めてくれてる、の? こんな私を? もう……かなわないなぁ。


 それから私は総君と少しだけお話をしました。


 私の――罪の話を。


 最初はピンと来てなかったようですが、私が当時の状況を説明していくと総君も次第に思い出せたようで、私は今度こそと強い意志を込めて総君に謝りたかったことを伝えました。


 でも、それでも、総君は気にしてないと言ってくれます。


 どうしてこの人は私を責めないの? 許してくれるの? どうして……そんなに優しくしてくれるの? 私は……私は総君にあんな酷いことを……。


 その時、いつか高橋君が私に一生懸命話してくれた言葉が頭を過りました。


 『総って怖く見えるかもだけど、ホントはすっげぇ優しいんだよ。ホントなんだ』


 ……本当に……これは反則だよ。


 総君と話している途中なのに、溢れる涙で前が良く見えません。でも今度は、今度こそは、しっかりと目を見て言わなきゃ。


「それでも……言わせてください。あの時、酷い態度をとってごめんなさい。それと……助けてくれてありがとうございます」


 これを言うのは私の自己満足。それがわかってて今更言うのは、卑怯だと思う。でも……どうしても言いたかった……言いたかったの……やっと言えたよぉ。




 これが、私の罪の話。

回想編はこれで終了です。

シリアス展開続きでしたが、次回よりいつもの調子に戻ります。

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