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リアルチートオンライン  作者: すてふ
8章 キンキ戦争編(後編)
200/202

192話 名前を適当に付けるのは間違っているだろうか

 試合開始の直前。謎のカウントダウンが始まり、強烈な浮遊感が全身を走り抜けると、殺風景な部屋の景色は広大な草原へと様変わりしていた。


 あのフワッとした感じ、いるのか……?


 現実ではなくゲームでの話だから、もっとシンプルなものを想像していたが……まぁそれはいい。それよりも、まずは現状の把握だ。


 見た感じでは、ここは草原。第一の島である自然豊かなフィールドに降り立ったということか。


 ボッチで遊園地なんかに放り出されたら、精神系ダメージのクリティカル判定が連発するから、助かったと思うべきか。


 っといかん。こんな見晴らしのいい場所でミーアキャットみたいに突っ立っている場合じゃない。俺はハンターだ。得物を求めて、彷徨い歩かなくては。


 とりあえず、深い茂みに身を潜めながら移動しよう。


 ……しかし……歩きにくいな、これ。




 そんな愚痴を吐きながら移動すること数分。鉄と鉄のぶつかる音が、鼓膜に微かに伝わる。


 こんな島に、鍛冶職人の工房があるはずはない。古い遺跡みたいなものはいくつかあったが、どれも自分から動くようなものには見えなかった。


 とすれば、この先にあるのは、おそらく……。


 アイテムボックスから、片手で持てる筒状の望遠鏡を取り出す。


 本来はダイヤル式で微調整できるんだが、これは……ええい、仕方ない。このまま使うか。


 調整の曖昧な望遠鏡を無理やり覗くと、そこには人の影が3つ、小刻みに移動しながら交差している姿があった。


 2対1、もしくは、三つ巴の戦闘が起きているようだ。誰かが倒されてポイントが少なくなる前に、さっさと辿り着くとしよう。


 派手な移動で隠密性は消えてしまうだろうが、いま重要なのは時間、いや速度だ。最悪、3対1の構図になったとしても、それはそれで全員を倒しやすくなる。もともとエリアボスを含めて全員を倒す予定なんだ。この程度の不利、乗り越えられなくてどうする。


「っ!」


 ちょうどよいところにあった岩を足場に、迅雷を起動する。


 その衝撃で岩盤に放射線状の亀裂が入り、体は弾丸となって草原を切り裂いた。


 迅雷のリキャスト時間は10秒。敵集団の間合いに入る直前に、もう一回は発動できる。このままのスピードを維持しつつ、緩急をつけて一気に屠る──つもりだった。


「な、なんだアレ!?」


 敵の索敵能力はこちらの予想を上回っていた。杖を二本装備したローブ姿の男が、上空に複数の火球を作り出しながら叫びをあげた。


 その声に、他の2人も反応する。


「モンスターか!? ちっ、嫌なタイミングで」


 金色の斧を持つ偉丈夫が、顔を歪ませて睨む。どう見ても戦士タイプだな。


「た、助かった。この隙に」


 片手剣と盾といった標準的な装備の男は、他の2人とは対照的に安堵の色を浮かべている。この男が最も危うい立場にいたようだな。俺の介入で、撤退できる可能性が出てきたとでも思っているのだろうか。だとしたら、それが間違っていることを教えてやる必要があるな。


 1人も逃がす気はない。狩り尽くしてやる。


 跳躍し、ククリ刀の形状をした武器《双刃ナータ》を両手に召喚。アドレナリンが放出され、意識が高揚する。


 祭りの時間が始まった。


 ただ1つ、不満があるとすれば──


「パムパムパムパム~!」


 このパンダ型スーツを装着していると、喋れなくなることだ。





 ■ □ ■ □ ■





「パム!」


 リキャスト時間から解放された直後の迅雷を再使用する。


 その速度に付いていけていない3人の──いや、あの二本杖のローブ男、見えてるな。凄い動体視力だ。魔法使いタイプだと思っていたが、接近戦が安全だという先入観は捨てよう。


 ただ、最初の狙いは──


「パムパム!(お前だ!)」


「へ──ぶっ!?」


 この場において最も戦意の低そうな、片手剣と盾を装備した男。その腹部に、丸い足形がバッコリと浮かぶ。


 目が見開かれ、短い苦悶の声と飛沫が混じり飛ぶ。


「ごっ!?」


 岩に打ちつけられた男の肺から、再び空気が強制排出される。


 この状況に置かれると、人間は失われた空気を取り戻すべく、大きく息を吸う。その辺は親父との修行で、痛いほど知っている。そしてまさしく、その一呼吸の間こそが、兵士にとっての命取りとなるのだ。


「パム!」


「──!?」


 四閃。戦士の首と両脇に、双刃の閃光が走る。しかしそれでは倒しきれない。自分の武器の攻撃力くらいは把握している。よっぽどHPの低いモンスターでもない限り、今の連撃では足りない。


 だからこそ、ここでもう一押し──いや、思ったより全然HPギリギリだな。これ、俺が来る前から結構削られてたっぽいな。


 よし、ならここで──


「この野郎が!」


 鋭い突きが、喉元へ吸い込まれる。苦し紛れの攻撃にしてはやけに精錬された動きだが、この辺はやっぱりゲームだな。だからこそ油断できないし、しない。


「パムム(残像だ)」


 赤い線の残っている首にナータの刃が再び食い込む。その右手に感じる感触でわかる。これをそのまま振り切ると、


「パム!」


 戦士の首が、宙を飛んだ。まずはひと──!?


 直上から迫る金色の斧。着ぐるみの毛先を掠めたその刃は、足元の硬い岩盤に深く食い込んだ。


「マジか、完全に死角だったぞ」


 驚きの声を口にしながらも、次の手を取るべく腰に差した剣へと手を伸ばす、ちゃっかり系戦士。


 だがその腰の剣が俺の脇腹を貫くよりも、俺の後ろ回し蹴りの方が早──


「《ツインエレメント》!」


 ここで仕掛けてきたか!


 二本杖のローブ男から、炎の玉と水の玉が螺旋を描きながら迫ってくる。タイミング的に、攻撃後のわずかな硬直を狙ってのものだろう。


 ──これは、回避に専念しないとやられる。


「パム」


「うおおおお!?」


 後ろへ跳び退いた直後、ムキムキのちゃっかり系戦士へ二色の魔法弾が着弾。爆散する。


「くそっ、本命は避けたか。なら──《アイス・ハンマー》!」


 一瞬で影ができる。これは見なくてもわかる。魔術師だったころの翠さんが同じ呪文をよく使っていたからな。


 だからこそ、この呪文の対処法も知っている。これは対人戦においては頭上という死角から攻撃してくるえげつない魔法だが、その軌道は上から下への一直線。落下スピードも、物理法則に従った一般的なもの。


 余裕で避けられ──


「《アース・バインド》!」


 盛り上がった土が、右足を飲み込むように封じる。


 ……あ~。


「……パム(やっちまったな)」





 ■ □ ■ □ ■





『アサド選手の《ツインエレメント》がムニス選手に炸裂! なんとか回避した謎のパンダでしたが、アサド選手の流れるような魔法の連撃に捕まってしまいました!』


『《アイス・ハンマー》からの《アース・バインド》は、非常に有効なコンボマヨ。普通はリキャスト時間があるからあんなに連発できないマヨが、アサド選手はいくつかのスキルを習得して、その制約から解放されているマヨ』


『なるほど、今日初めて、解説席に明太マヨさんをお呼びしてよかったと思いました』


『酷いマヨ!?』


『しかしこの角度だと、爆炎で状況が見えません。明太マヨさん、その間に、アサド選手とムニス選手の職構成を教えていただけますか?』


『いいマヨ。金の斧を持ったマッチョマンのムニス選手の職業は、木こりマヨ』


『え……それって戦闘職ですか?』


『生産職マヨ。でも、大木を切り倒すアーツは人の胴も同じように斬ることができるから、ぶっちゃけ並みの戦士系職業よりも強いマヨ』


『それはまた……なんというか……実にユニークな職業ですね』


『ありがとうマヨ。もう1人のアサド選手は、皆もよく知ってる魔術師マヨ。ただ他の魔術師と違って、二つの魔法を同時に使うことのできる高位スキル《二刀流・杖》を習得した魔術師マヨ』


『二刀流ですか。しかし、剣や他の武器でも二刀流をするだけならできそうなものですが』


『やるだけならできるマヨ。でも、アーツに適応されるのは利き手に持っている武器だけマヨ。魔法の場合も、ああいったスキルなしには同時発射ができないから恩恵が薄いマヨ』


『なるほど、つまり、アサド選手は非常に強力な魔術師ということですね。闘う生産職のムニス選手と、謎のパンダはやや不利といったところでしょうか』


『四つ巴、いや三つ巴の構成になると、頭一つ抜けた存在は逆に駆られやすくなることもあるマヨ。ムニス選手と謎のパンダが連携する可能性もあるマヨ』


『なるほど……っと、ここで謎のパンダの情報が届きました。あのパンダは、モンスターではなく出場選手だそうです。職業はガンナー。二丁拳銃を扱う射撃しょ──あれ、でもさっきククリ刀を使ってたような。それも二刀流で……っとと、解説を続けます。えー、あのパンダの格好ですが、あれは今回のイベント用に用意された衣装ではなく、パンダ選手の個人的な所有物ということだそうです』


『思い出したマヨ! あれ、チュウゴク地方の隠しボスを倒した時の報酬アイテムだマヨ!』


『確かチュウゴク地方の隠しボスといえば、レイド戦では味方でもあったスサノオでしたね。地方をクリア後、挑めるようになった超高難易度コンテンツのひとつだったと記憶してますが』


『そうマヨ。開発室の連中の、いつもの悪ふざけマヨ。高難易度過ぎて、クリアしたのがたったの2パーティしか存在しなかったマヨ。死にコンテンツマヨ。社長からも怒られたマヨ』


『それは最終的に許可を出した明太マヨさんに問題が……って、待ってください。ということは、あの謎のパンダは、その頭のおかしい人たちの作った頭のおかしい難易度の敵を倒した頭のおかしいプレイヤーということじゃないですか!?』


『そうマヨ。どうせクリアできる人がいないだろうと高をくくって、適当な報酬にしてたから今まで思い出せなかったマヨ』


『ということは、あの着ぐるみはそのコンテンツのクリア報酬ということですね。それでは、さぞやとんでもない機能が』


『ただの着ぐるみマヨ』


『アンタら色々おかしすぎるぞ!?』


『まあまあ、落ち着くマヨ。ほらほら、新しい情報が来たマヨよ?』


『くっ……なぜこっちが宥められる立場に……っと失礼しました。バカの相手をして心を乱してしまいました』『酷いマ』『えー、新情報です。謎のパンダですが、登録名が判明しました。謎のパンダ選手の登録名は……え』


『何マヨ、パン田って』

次話は来週の月曜日の12時に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] このマヨ腐ってやがる。
[気になる点] 鳴き声はパムなんですね。 パンもしくはパンダじゃなく。
[気になる点] 2パーティーはどこだ!? [一言] パン田・・・ なんでやねん
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