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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第1章 オキナワ上陸編
20/202

20話 【雪解】俺氏、許される

 俺は今、冬川さんを追って人気のない駅舎の裏手に来ていた。そんな俺の視線の先では、未だ顔を真っ赤に染めた冬川さんが恥ずかしそうに俯いている。


 さて来たはいいがなんと声をかけたらいいものか。さっきは素晴らしいものをありがとう――最低だな。絶大な感謝の念はあるがそれは俺の心の中で留めておくべきことだ。口に出した瞬間、俺はただのセクハラ野郎に成り下がる。ならどうするか。


「ブルー、あのさ……」


 とりあえず口を開いたはいいが続きが出てこない……頭に浮かぶのはさっきの素晴らしい光景ばかりだ。ビバ、たわわ。


「何と言えばいいのか……」


 ゴメン限界です。これ以上気の利いた言葉が浮かびません。元々ボッチな俺にそんなコミュ力ありません。神様、異世界転生したらチート能力は望みません。でも変わりに無限のコミュ力を下さい。気兼ねなく友だちをバンバン増やせる、そんなコミュ力を私に授けてください。


【――力が、力が欲しいか】


 な、なんだこれは。この視界に直接浮かび上がってくる文字は。まさか……俺の願いが神に通じたのか!?


【欲するならば念じよ。我は心傷の女性に対する声かけの神――タカハ神なり】


 随分ピンポイントな神だな。でも信じるよ、タカハ神様。俺、どうすればいいんだ!?


【まずは大きく深呼吸せよ。両手を上にあげて、それから横に広げるのだ】


 分かった。こうか、これでいいんだなタカハ神様。


【いいぞ、次はその場でバク転だ。出来るだけ捻りも入れるのだ】


 バク転か、わかったよタカハ神様。うらぁ!


 俺は神の助言に従い後方宙返り二回半ひねりを決めた。


【フム、流石リアルチート。では次は彼女の耳元でこう囁け。「葵、好きだ」と】


 了解だ神様。冬川さんの耳元で囁けばいいんだな。よし――


 俺は慣れない手つきでチャットコマンドを開き、


【伸二、今謝ればまだ許してやるぞ】


【m(_ _)m】


 そのまま慣れない手つきでチャットコマンドをそっと閉じる。あの野郎……。


 俺がそんな実にくだらないやり取りを終わらせ冬川さんに視線を戻すと、彼女は不思議そうにこちらを見ていた。まぁ目の前でいきなり深呼吸したりバク転したりするやつを、まともな目では見れないよね。やっぱり伸二許さん。


「――ふふっ、ご、ごめんなさい。ソウ君がいきなりそんなことするから面白くって」


 これは笑ってくれているのかな? それとも(わら)っているのかな? 漢字1つの違いで俺の心は安らぎもするし砕けもするよ?


「さっきはごめんなさい。でももう落ち着きました。大丈夫です、ごめんなさい」


 そうか、俺は全然大丈夫じゃないんだけど、本人がこの話は終わりというのなら俺からこれ以上掘り返すことはするまい。何も自分から地雷を踏みに行くこともないからな。


 未だに顔真っ赤だけど……まぁ本人がそう言うのならそういうことにしよう。


「未だに顔真っ赤だけど……まぁ本人がそう言うのならそういうことにしよう」


「へぅ!?」


 イカン、考えてることそのまま喋ってしまった。


「もうソウ君! 思い出させないでください!」


「ゴメン、ゴメン。じゃあ皆のところに戻ろうか」


 これ以上話すとボロが出そうだと判断した俺は、早々に皆の下へ戻ろうと提案する――が、戻ろうとする俺の袖を引っ張る感触が引き留める。


「あの……少し、時間をくれませんか?」


 振り向けば冬川さんは神妙な顔で俺の目をじっと見つめていた。よくわからないけどこれはマジメな話っぽいな。


「いいよ。どうしたの?」


 俺のその問いに冬川さんの表情が徐々に重いものへと変わっていく。ん? なんだかこの雰囲気って……え?


「その……私――」


 え、待って。これってあれ? もしかしてあれ? イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤありえない。ありえないって。え、いやしかしだよ、カカシだよ、しかしだよ。もしかしてこれはやっぱり噂に聞くアレなんじゃなかろうか。世界樹の樹の下でやるアレのことではなかろうか!? 落ち着け俺、こういう時はもう一度タカハ神様に――


「わ、私!」


 は、はい!




「――私! ずっとソウ君に謝りたいって思ってたんです!」



 ……はい?



「俺に謝る? 俺が謝るじゃなくって?」


「ソウ君が謝ることなんて何1つないです!」


 本当に? さっき冬川さんの「たわわ」がたわわった時にガン見してたのも謝らなくていい? 変な期待に胸を爆発させまくってたのも謝らなくていい?


「私、中学校2年生の時にソウ君に助けてもらったことがあったんです。覚えてませんか?」


 冬川さんを……そんなことあったっけな。野郎に嫌々囲まれてた女の子はとりあえず助けてたからな。その中のどれかに冬川さんがいたのかな。


「……ゴメン、ハッキリとは思い出せない」


「いえ、いいんです。私、その頃と今じゃ全然見た目違いますから」


「え、そうなの?」


「はい。今は……現実では髪を黒く染めてますけど、私の本来の髪の色はこっちの――アッシュグレイが本当の色なんです」


 髪はてっきりゲームだから染めてると思ってたけど、こっちが地毛でリアルの方が黒く染めてるのか。じゃあ前髪で目を隠していたのは……。


「その青い目を見られないためにリアルではあんな髪型を?」


「はい……私、この見た目が原因で、小さい頃よくイジメられていたので」


 その気持ちは半分わかる。俺も小さい頃――と言うか今でも割と見た目のことで、あまり穏やかでない人たちに絡まれることがある。だが俺にはそれを退ける力があった。じゃあもしその力がなかったら。それはどれほど怖いことなのだろう。このか細くて可憐で優しい女の子は、きっと誰も傷付けずに来たのだろう。自分がどれだけ傷ついても。


「中学生の時……やっぱりこの見た目が原因で暴走族の人たちに囲まれたことがあったんです」


 ……ん? アッシュグレイの髪の女の子……暴走族……あれか! 3年ぐらい前にあった。


「もうだめかと思ったときに、ソウ君が私を助けてくれたんです。それなのに私……」


 あれは確か瑠璃(るり)の安眠を妨害したバイク集団がいたからお話しに行った件だ。確かにあの時囲まれていた女の子を助けた。そしておもいっきし怯えさせて泣かせた記憶があるな。え、じゃあ、あの時の女の子が冬川さんってことか?


「私、助けてくれたソウ君にお礼もせず……それどころかあんな酷いことを」


 酷いって言ってもあれはただ怯えて泣いてただけだろ。そこまで気にするようなことかな。それを言うならどっちかと言うと怖がらせた俺の方が悪い気が。


「酷いことはされなかった気がするけどな。むしろ怖いものを見せて、俺の方が悪いなと思ってたんだよ」


「そ、そんなことないです! ソウ君は助けてくれただけなのに! それなのに私……ソウ君は何も悪くないです。悪いのは私です!」


 冬川さんの瞳から一筋の滴が零れ落ちる。


「……俺は気にしてないよ?」


 堪えていたものがあふれ出すように、冬川さんの瞳から次々と涙が零れ落ちていく。それでも彼女は、そのふやけた視界でしっかり俺を見つめる。


「それでも……言わせてください。あの時、酷い態度をとってごめんなさい。それと……助けてくれてありがとうございます」


 その時、何となく分かった。俺があの時冬川さんから逃げるように立ち去った原因が。


 ――怖がっていたのは、誰よりも俺自身かもしれないな。


「俺こそ……いや、そうか、うん。どういたしまして」





 ■ □ ■ □ ■





 その後少しして落ち着いた冬川さんと一緒に、俺は伸二と若草さんのもとへと戻った。2人は既に受付を済ませて後は出発するだけの状態で待ってくれており、俺たちが返ってくるとニヤニヤした顔でこっちを見てくる。


「……なんだよ2人ともその顔」


「「べーつーにー?」」


 なんかいいように動かされた気がするな。だが笑っている冬川さんの顔を見ると、もうそんなことはどうでもよくなった。とりあえずみんなが笑ってるなら、もうそれでいい。




「さあ、いよいよクエストに挑戦よ」


 意気揚々と声を上げる若草さんに、俺は今更ながら質問する。


「行き詰ってるクエストがあるって話だったと思うんだけど、それってどんなクエストなんだ?」


「あれ、ハイブ言ってなかったの?」


「そういえば言ってなかったな」


 まぁ色々とゴタゴタしてたからな。俺も今まで忘れてたし。


「で、どこに行ってどんな内容のクエストをするんだ?」


 俺の再度の問いに、若草さんはエヘンと改まり人差し指を立て説明をする。


「これから向かうのはパイナップル園よ。そしてやることは、パイナップル狩りよ」


 ……なるほど。


 は?


「リーフ、それってどういう――」


「ブモオオオオオオオオオ!!」


 それのどこがクエストなのかと問いただそうとした俺の声は、突如轟いた鳴き声にかき消された。反射的に声の方向へ視線を移すと、そこにはテレビで見たことのある、ある生き物がいた。


「――水牛、か?」


「そうよ。ここからはあの水牛の引く所謂牛車ってのに乗るの」


 確かに沖縄では主に離島とかでそういう観光があるって聞いたことはあるけど。でもこれは流石に――


「デカくないか?」


 そう、デカい。リアルの水牛も相当な大きさだが、この水牛? はどうみても10tトラックぐらいの大きさはある。動物と言うよりは恐竜と言った方が近いようにも思えるほどだ。トリケラトプスの親戚といわれた方がしっくり来るな。


「まぁモンスターだしね。でもこの駅舎のモンスターは大人しくてとても従順だから、変なことしない限りは危険はないわよ」


「その言い分だと何かしたら危ないってことだよな?」


「そうね、聞いた話だと腕試ししようとしたあるパーティがトラウマレベルの惨劇を見せられたってことはあったみたいよ」


 なるほど、つまり手出し厳禁と言う訳か。まぁこんなサイズのモンスターが襲ってきたらどうしようもないよな。


「でも、普段は人懐っこくてとってもかわいいモンスターさんなんですよ」


 そう言い冬川さんは水牛の顔を撫でる。撫でられている水牛も気持ちよさそうにしており、サイズを気にしなければ確かに微笑ましい絵にも見える。このモンスターには笑顔で触れて、チンピラ3人は怖いのか……不思議ちゃんだな。


「じゃあ目的地までは牛車で行くわけだ。でも牛車ってリアルだと徒歩とあまり変わらないかむしろ遅いぐらいって聞いたけど」


「おいおい総、これはゲームだぜ? そらもうビュンビュンよ」


「……そうか」


 この巨体でビュンビュン引っ張られたらこの車大破するんじゃなかろうか。


「ま、不安に思うのもわかるがそろそろ乗り込もうぜ。思ってるより乗り心地はいいから心配すんなよ」


「……あぁ」


 俺は不安に感じつつも、巨大な水牛の引く車に乗り込んだ。

次話は総一郎と葵のストーリー(葵視点の回想編)になります。

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