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2話 俺の息子が最高な件について

親父視点です。

 俺が息子を一人前の男に鍛え上げると決めてからもう随分と経つ。一時はA国の特殊部隊隊長として戦場を駆けずり回っていたが、今は妻と子を持つどこにでもいるしがないサラリーマンだ。まったく、これだから人生というものは面白い。そんな俺の今一番の楽しみは、何と言っても息子だ。


 最愛の息子――総一郎が6歳の誕生日を迎えた時、俺はベンチメイド141SBKニムラバスというサバイバルナイフをプレゼントした。その時の総一郎の嬉しそうな顔を見て、やはりこいつも俺の息子なんだなとつい嬉しくなったのを覚えている。


 総一郎が7歳の誕生日を迎えた時、俺はS&W M686という回転式拳銃、所謂リボルバーをプレゼントした。俺の見立てでは、総一郎には天賦の才がある。きっとこいつを使いこなせる男になるだろう。日本でコイツを手に入れるのにはそれなりに苦労したが、我が子のあんな幸せそうに惚けた顔を見られたのだから安いものだ。


 総一郎が8歳の誕生日を迎えた時、俺は特殊部隊仕込みの格闘術をプレゼントした。正確にはこの日以降からし始めた、だが細かいことは気にしない。あらゆる技術を超吸収スポンジの如く吸い込んでいく息子に、俺は持てる技術の全てを叩き込むことを誓った。


 総一郎が9歳の誕生日を迎えた時、俺はベレッタM92という自動拳銃をプレゼントした。以前与えたリボルバーをマスターレベルで使いこなす姿を見ての判断だ。正直もっと早くに与えても全然よかったのだが、やっぱりインパクトは大事だからな。誕生日というタイミングを首を長くして待っていたんだ。だがその甲斐はあった。あんなに何かを確信したかのような強い瞳を見ることができたんだからな。


 総一郎が10歳の誕生日を迎えた時、俺はテントをプレゼントした。そろそろ野営の技術を身につけさせたいと思っていたので、このプレゼントはまさに完璧と言えた。これを渡した時に、総一郎が拳を固めてやる気を見せていたのを見て年甲斐もなく涙腺が緩んでしまった。


 総一郎が11歳の誕生日を迎えた時、俺は密林のジャングルでのサバイバルをプレゼントした。あいつの対人スキルはすでに俺の昔いた特殊部隊の平均レベルに達しているが、サバイバル技術はまだまだだ。それはあいつもよくわかっているのだろう。別れ際に向けてきた視線はこれまでに感じたことがないほど熱いものが込められていた。


 総一郎が12歳の誕生日を迎えた時、俺はM4A1カービンという自動小銃、所謂アサルトライフルをプレゼントした。これまでのリアクションとは違いあまり大きな反応はなかったが、それを静かに受け取る様子はまさに戦場を駆け抜ける一流のソルジャーを彷彿とさせた。流石は俺の息子だ。


 総一郎が13歳の誕生日を迎えた時、俺はデザートイーグルという自動拳銃をプレゼントしたが、あの時の衝撃は今でも覚えている。あの怪物銃を受け取ってなお、総一郎は対戦車ライフルやロケットランチャーを所望したのだ。我が息子ながら震えが来るほどの才能だ。あいつの腕ならそれらも問題なく使いこなすだろう。

 だが流石にそこまで来ると最早俺程度では総一郎の相手は厳しい。そういった物はもっと立派な教官かあるいは部隊を相手に訓練を積まないとな。総一郎に「そんな物騒な物を息子に渡すわけがないだろう……父さんじゃ力不足だしな」と言ったが、その時の総一郎の意外そうな顔は今でもハッキリと思い出せる。最後の方のセリフは恥ずかしさもあって小声になってしまったが、総一郎は優しい子だ。気遣ってそこには触れないでいてくれたのだろう。


 総一郎が14歳の誕生日を迎えた時、俺は本格的な模擬戦をプレゼントすることを心に決めた。これまで踏ん切りがつかなかったのは、これを始めてしまえばあの子は2~3年で俺を追い抜いていてしまうだろうという確信があったからだ。息子に負けるかもしれないということに多少プライドは堪えるものがあるが、それでも自分の全てを総一郎に叩き込む決意を固めた。男の子はいつか父親を踏み越えていくものだ。あの子はそれが他の子よりも少し、早いだけ。それだけなんだ。


 総一郎が15歳の誕生日を迎えた時、俺はそろそろ自分だけでは総一郎の相手が厳しくなっていることに気づいた。散々悩んだ結果、総一郎に新しいパートナーを迎えてみないかと提案した。総一郎はそれにすぐさま応じた。流石は俺の息子だ。

 だがその後の総一郎には度肝を抜かれた。日本にいる人間ではまるで相手にならないだろうと考えて態々山奥のヒグマを探したが、まさかヒグマですら総一郎の相手にはならなかったとは。打ち倒したヒグマを引きずってきて「色々試したけど懐かなかった。鍋にしよう」と言ったあの時の顔は最高にクールだった。


 総一郎が16歳の誕生日を迎えた時、俺は覚悟を決めて昔の仲間に声をかけた。すでに総一郎との模擬戦で全力を尽くしている。それでやっとこさ互角と言ったところだ。来年には確実に抜かれるだろう。そこで俺は、総一郎に数の力というものを教えることにしたのだ。強い奴は必ず数で攻められる。それは宿命だ。ならば父は、鬼になろう。

 だが鬼にも少しの戸惑いがあった。それは昔の仲間が今の俺を見て何を思うだろうということだ。血生臭い戦場から足を洗い、妻の国である日本に腰を落ち着けている今の生活を見れば、昔の仲間は笑うだろうか。いや、馬鹿なことを考えた。彼らは最高の仲間であり最高の男たちだ。俺の幸せをきっと喜んでくれるに違いない。そう意を決して連絡すると、仲間たちは諸手を挙げて協力してくれた。やはり、俺の戦友は最高だ。そしてその戦友を瞬く間に蹴散らしていく俺の息子も最高だ。もう俺では届かない高みにコイツはいる。後半はこっそり総一郎の癖を洩らしたから苦戦していたが、それでも勝つとは本当に頭が下がる。




 そして総一郎が17歳を迎える今日。俺はついに最後の誕生日プレゼントを贈ることを心に決めた。それは自由。最早俺に教えられることは何もない。これ以上はこの子の才能を邪魔してしまう。ならば、父はお前が世界で自由に飛べる羽を贈ろう。世界のどこに行って何をしようがお前の自由だ。できれば犯罪には手を染めてほしくはないが――そんな綺麗事が言えるような口を、俺はしていなかったな。


 総一郎を人気のない外に呼び出し、それを告げようとした。だがそれよりもわずかに早く、総一郎が動く。


「親父……誕生日プレゼントのことなんだけどさ」


「あぁ、今年もとびっきりの物を考えているぞ。渡した後のお前の驚く顔が目に浮かぶようだよ」


 お前が出て行った後、俺は滝のような涙を流すだろうがな。


 しかし今日はやけに気合の入った眼をしているな。もしかして、何を言われるのか薄々感付いているのか?


「今年のプレゼントは俺に選ばせてくれないかな」


 まさか……本当に察していたのか!? だがそれならどうして自分から言おうとするんだ。駄目だ、混乱してまともに考えがつかん。


「俺……普通の17歳として暮らしてみたいんだ。伸二の家でさ、ゲーム機ってのに触れた時こう……よくわからないけど何かが弾けたような衝撃が来たんだよ」


 ゲーム機? 弾けた? 何のことを言っているんだこの子は。ま、まさか……そういうことか、そういうことなのか息子よ。ならば……ならば父は――


「俺――ゲーム機が欲しいんだっふぁぼおおおおお」


 それ以上の言葉は不要、と息子に愛の鉄拳を振るう。


 きっと総一郎はこう言いたいのだ。俺はまだここにいたい。もっと父と母と一緒に暮らしたい、と。だからそんな子供が言うようなことを言っているに違いない。対して欲しくもないだろうゲーム機に夢中になってるフリをしてまでここにいたいなんて……なんて健気な子なんだ。なんて愛らしいことをするんだ。そんなことを言われたら、こっちが息子離れできんじゃないか。


「総一郎……」


 その言葉にまるで怯むことなく、総一郎はじっとこちらの目を見てくる。ならば父も応えよう。その心意気に。


「ゲーム機、買ってやってもいいぞ」


 その言葉に総一郎は中々反応しようとしない。やはり大して欲しくはないが、ここにいてもっと一緒に暮らしたいということなのか。父にはお前の心が手に取るように読めるぞ。


「どうした、いらんのか?」


「い、いる! いるよ!」


 そんなに慌てて反応しても父にはバレバレだぞ息子よ。だがそれをこの場で言うのは野暮というものか。


 しかし、息子の言うことをただ受け入れるだけでは父のメンツも立たぬ。それにこの子も、こう言われるのを待っているだろう。父として、息子の期待には応えんとな。


「そう逸るな。だが勿論無条件で、とはいかんぞ? 俺の出す試練をお前が越えることができたら、という条件付きだ」


 ふむ、強く、そして優しい瞳だ。確固たる意志が感じられる。


「ふむ、覚悟はいいようだな。よろしい、ならば試練を言い渡そう。その内容は……俺と本気の勝負をして見事勝利を手にすることだ!」


 気のせいか? 総一郎の覇気が急に萎んだような気がしたが。いや、気のせいではないか。この子はわかっているのだな。最早俺では総一郎に敵わないということに。そして父が敗れたことにショックを受けるのではと気に病んでいるのだな。なんて優しい子なんだ。本当に涙が出る思いだ。だが、このままでは始まらんな。一応始めやすいように言葉だけでもかけておくか。


「もし俺に勝てたら先月発売されたばかりのVRMMOのゲームを買ってやろう。勝てたらな」


 む、良い顔になったな。大して欲しくもないだろうに無理をしおって。本当にかわいい――いかんな、集中せねば。相手は1人で世界最強クラスの特殊部隊と同等の戦闘力を有する化け物だ。気合を入れねば、俺でも一瞬だ。


 よし、落ち着いてきたぞ。では始めようか、親子のじゃれあいを!

父も父なら子も子という話でした。

VRMMOを題材にしているのですが、ゲームを本格的にやりだすのはもう少しだけ先です。

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[一言] なんだろう、親父さん息子お想いなんだろうけど何か違う
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