190話 バトルロイヤルに出会いを求めるのは間違っているだろうか
お久しぶりです!
お待たせしました!
新章開幕です!
テスト勉強。それは地獄への門。
テスト。それは地獄。
追試。それは地獄から這い上がるための、か細い蜘蛛の糸。
その蜘蛛の糸になんとか掴まり這い出ることのできた俺と伸二の2人は、校舎の屋上で、ゆっくりと漂う雲をぼんやりと眺めていた。
校庭を囲む針葉樹の葉は赤く色づき、雲の間から差す日差しが背中をほんのりと温める。
このまま眠ることができれば、どんなに気持ちいいだろうか……。
「いよいよ、明日だな」
いきなりな伸二の言葉に、なにが? とは問わない。故に、一言だけ返す。
「……だな」
その返事では不服だったのか、視線をこちらへと向けた伸二が、真面目な顔で口を開く。
「なぁ、総。本当に、これでよかったのか?」
「そんなのわかるわけないだろ。ただ……後悔はしてない」
その答えに、伸二は深いため息を零す。
「お前は……本当に言い出したら聞かない奴だな。冬川をあんなに怒らせて……このまま別れることになっても知らねーぞ」
後頭部をショットガンで撃ち抜かれたような感触に襲われる。すさまじいまでの威力だ。その言葉だけで、4回は死ねる。
だが、
「もう決めたことだし、今更変更もできない。俺は、加護持ちとしてお前らとは別行動をとる。必要なら──お前たちも倒す」
オオサカエリアのボスであるクズノハを倒し、俺たちCOLORSと風鈴崋山の8人は、晴れてオオサカ代表の座を手に入れた。
が、加護を持っていた俺はそのメンバーから自分の意思で外れ、200人以上いると言われる加護持ちのメンバーの1人として、バトルロイヤルへ参加することを決めた。
そのことを伝えた時の葵さんの顔は……今でも思い出すと、呼吸困難に陥りそうになる。
「あんな説明じゃ、冬川が怒るのも無理ねえって。ったく……どうしてお前ってやつは」
それは……。
開いては閉じてを何度か繰り返し、言いかけた言葉をそのまま飲み込む。
「まぁ、何の理由もないなんて思ってはねーけどよ。言えないのにも、なにか理由があるんだろ?」
呆れつつも、俺のことを信じてくれている。そんな想いの伝わる言葉に、少し救われる。
「冬川と翠のことは、しばらく俺に任せろ。お前の分まで、俺が護ってやるよ」
「……悪い」
こいつになら、任せられる。こいつにしか、任せられない。こいつには、感謝しかない。
「ついでに、傷心の冬川を慰めて、略奪愛ルートを行ってやるぜ」
こいつには、任せられない。こいつにだけは、任せちゃいけない。こいつには、殺意しかない。
「待て待てウソウソ! その懐の手を戻せ! マジでマジで!」
「冗談も選んで言えよ。寿命が縮まるだろ」
「俺のセリフだよ!」
額に浮ぶ大粒の冷や汗を拭い、一息吐いた伸二が、もう一度真剣な目を向けてくる。
「多分だが、冬川のためなんだろ? お前の今回の奇行は」
奇行言うな。
「だがあの言い方じゃ、それは伝わんねーよ。『俺は強い奴と闘いたい。それはこのチームも例外じゃない。だから別行動をとる』とかいきなり言われても、これまでずっと一緒だった冬川からしてみれば、いきなりすぎる。自分を守ってくれると思ってたナイトが、連続通り魔に変身したようなもんだ」
いや、その変身はちょっと飛躍してないか? シャ〇専用ザクがシ〇ア専用ズゴックになったぐらいの変化だと思ってたんだが。
「例えゲームであっても、お前と戦うってことは考えられなかったんだよ、冬川は。お前と一緒に戦って、お前を癒す以外のイメージがなかったから、世界が急に壊れた感じになったんだろ」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものだ」
昨日の敵は今日の友。その逆もまた然り。その考えを、葵さんに求めちゃ駄目ってことか。
いや、彼女なんだし、当たり前か。
「このイベントが終われば、今は話せないお前のわけってのも教えてくれるのか?」
「ああ。話すというか、行動を見ればわかるような感じにはなると思う」
「そっか」
それだけ言うと、伸二は大きく背伸びをして、肺の空気を一新する。
「ま、最後にはちゃんと丸く収まるようにしてくれよ? なるべくフォローはするからよ」
「ああ。頼りにしてるよ、相棒」
■ □ ■ □ ■
『さあ! いよいよ運命のバトルロイヤル開始まで、あと12時間となりました。今回の放送では、この戦いに参加する権利を得た最強のプレイヤーたちの紹介と、バトルロイヤルの仕様についてご説明したいと思います』
パソコン画面の向こうで、青い鎧を着込んだ男性がマイク片手に声を張り上げている。
彼の名前はジョージ菊川。この番組、IEO公式生放送の司会者であり、討論番組やバラエティなどのテレビでもよく見かける有名人だ。いわゆるマルチーズタレントというやつだな。
『司会はおなじみ、私ジョージ菊川が』
『アシスタントも毎回おなじみ、皆の心の天使、ゆりあがお送りします』
ジョージ氏の横から、ひょこっと顔を出す女性にカメラが寄る。
ニュースキャスターのような雰囲気のある、着物姿の女性。年齢は20代中頃だろうか。
自分から皆の心の天使と言ってはいるが、その顔は赤く、頬にも余計なこわばりがあることから、おそらくは台本に書かれてあることを無理やり読んだのだろう。
仕事って大変だな、といった感想を高校生に抱かせるぐらいには苦労をしていそうな表情をしている。
『それでは最初は、各エリア代表者の情報からいきたいと思います』
司会者の後ろから、大きなパネルが現れる。
『まずはオオサカ代表のチーム《お前そっちに行くのかよ!?》の紹介です。このチームは全代表の中で、二番目に人数の少ない7人編成。前衛、中衛、後衛のバランスの取れたチームですが、やはりその人数の少なさは大きなハンデになると思われます。残念ながら、今回の大会はかなり難しい立場に立たされるのではないかと言われています』
ジョージ菊川氏。このゲームをやりこんでいるとの噂だったが、この程度の認識か。オオサカ代表を雑魚認識とは、程度が知れるというものだ。
『しかしジョージさん。オオサカ代表は8人でエリアを制した精鋭とも言われています。1人諸事情で抜けて7人となっているため、最大の戦力ではありませんが、個の力は他チームよりも上ではないのですか?』
お、いいところに気付くな、アシスタントのお姉さん。いいぞ、もっと言ってやれ。
『そうかもしれませんが、対人戦では人数と言うのは非常に重要です。他のエリア代表チームより人数が少ないということは、取れる手段も少ないということです。これでは他のチームや加護持ちのプレイヤーから、標的とされる可能性が高いでしょう』
『うーむ、確かにそうですね』
納得しないでくれ! それでもオオサカ代表は負けませんと言ってくれ! 私のことは嫌いになっても、オオサカ代表のことは嫌いにならないでくださいと言ってくれ!
『それでは次は──』
残念ながらオオサカ代表についての紹介はあっという間に終わってしまったが、見方を変えれば情報を秘匿できたとも見れる。結果オーライとしよう。
続けて紹介される各エリア代表の情報を、しわの少ない脳みそになんとか詰め込む……つもりだったが、突如として謎の睡魔に襲われてしまい、結果よくわからないうちに、各代表の紹介は終わってしまった。
『次は大会の主なルールについての確認です。今回のバトルロイヤルは、エリア代表と加護持ちプレイヤーとで最終目的が異なります。エリア代表プレイヤーは、全エリア代表チームの中で最後まで生き残ったチームが勝利となります。つまり、戦って生き残るもよし、隠れて生き延びるもよし。とにかく最後まで残ればなんでもOKです』
『ジョージさん。それではエリア代表は、加護持ちプレイヤーから狩られる立場にある、ということですか?』
『まあ、ありていに言えばそうですね。ですが、エリア代表にはエリアボスも付いていますから、策もなしに突っ込むだけでは返り討ちでしょうね。まあ、加護持ちのプレイヤーであればその程度のことはとっくに把握しているでしょうが』
……モチロン。
『対して加護持ちプレイヤーは、生き残るだけでは大してうま味がありません。今回の大会では、加護持ちプレイヤーは倒した敵に応じてポイントを獲得することができます。その内訳は、同じ加護持ちプレイヤーで3点。エリア代表プレイヤーで10点。エリアボスで60点となっています。また、フィールドにはモンスターも存在し、低確率ですが1点を得ることもできます』
『なるほど……あれ、ということは、加護持ちプレイヤーも同じく狩られる存在ということですね』
『そうです。加護持ちプレイヤーは自分以外のすべてが敵です。隠れていてもポイントは増えませんので、戦う以外の選択肢はありません。重要なのは、タイミングと相手選びですね』
タイミングと相手選び。確かに重要だな。いかに早く敵と相対し、いかに多くの敵を屠ることができるか。逆に言えば、問題はそこだけだな。
『本大会で取得したポイントは、大会終了後に様々な特典と交換することができます。レアな装備品だけでなく、様々なバリエーションに富んだものを用意してあると伺っていますので、加護持ちのプレイヤーさんたちはぜひ頑張ってほしいところです』
頑張るさ。このために、葵さんから怒られるという地獄を味わってるんだからな。
『大会は2日間に渡って行われます。ログイン時間は、朝の 9時から12時。昼の14時から17時。夜の20時から23時の9時間。2日間で合わせると18時間となります』
『え、ジョージさん。では、タイムアップ時にエリア代表が2つ以上残っていた場合はどうなるのですか?』
『それは私も運営サイドに質問したのですが、そうならないようになっています、とだけ言われてお終いでした』
『それなら安心ですね』
……不安しかない。