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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
188/202

188話 やはり俺の感動親子ストーリーはまちがっている。

 目の前で伸二が消えるのを見るのは、これで何度目だろう。


 何度見ても、これは慣れない。


 相変わらず、最悪の気分だ。


 まったく……なにが後は頼んだ、だ。阿保が。


 厄介なこと、全部押し付けやがって……。




 次は……死んでも死ぬんじゃねえぞ。


「《鬼神》発動!」


 奥の手を切る。


 自身のHPが25%以下になったときに自動で発動される《赤鬼》を、さらに強化することのできる超鬼スキル。


 1秒ごとに最大HPの1%が消費され、発動中は一切の回復を受け付けない代わりに、赤鬼以上のパワーを得られ、体の各所が武器と化すこの状態なら、


「うおらぁあ」


『!?』


 この虎の手を押し返すこともできる。


『こ、この』


 許された時間は、23秒。


 どっちのHPが先に尽きるか──


「勝負だ!」


 両手に双刃ナータを携えたまま、白狐目掛け駆ける。


『寄るな!』


 横一線に、白い手が払われる。


 が、その程度。あの不可視の攻撃が来ない以上、もう怖くはない。


 畳すれすれを滑空するように走る。赤鬼になった際に生えた角が、虎の手に掠る。


『寄るなと言うのだ!』


 肩が抜けないか心配になるほどの勢いで、真上から手を振り下ろす。それにより、再び巨大な虎の手が頭上で影を作ることになるが、もうその手は──


「食うか」


 残像が見えるんじゃないかと思うほどの横への高速移動で躱す。鬼神の状態ならば、速度は常に迅雷を発動しているに等しい。その分、えげつない反応速度も求められるが、その辺はもう慣れた。


「ふっ!」


 白狐まで3メートルと迫ったところで、双刃ナータを投擲。超高速で回転しつつ、それは白狐の両肩を抉り裂いた。


『ぐ!?』


 苦悶の表情から音が漏れる間に、鬼の手が柔らかい腹部へとめり込む。


 まだだぞ!


「炎刃カカク!」


 鬼神の能力の1つである全身武器化により、左右の前腕、その小指側から赤い刃が顕現し、エックス状に切り裂く。


 さらに、


「炎刃ココウ!」


 両足の脛骨に該当する部分――膝から足首にかけて――から炎が燃え上がり、畳を燃やしながら奴の足を払う。


 仕上げが、


「──鉄甲武具《破壊王子》!」


 両の拳をすっぽりと、ミスリル製の鉄甲が覆う。


 それが大砲となって、空を回る奴の体の芯を打ち抜く。


『ごぉお!?』


 白い軌跡を描き、後ろへ吹き飛ぶ。


 残り時間も少ない。待っている余裕はない。


 ──ここで決める!


 赤い軌跡が、白を追うように走る。ここで──


【3秒待って!】


 翠さんからのパーティチャットが視界に入り、畳に鬼の足をめり込ませる。


 このタイミングは……援護射撃か。


「《矢嵐》!」


 百に届こうかという光の矢が、弧を描きながら一斉に放たれる。その光景、まさに戦場。


「《ジ・メテオール》!」


 これまで見た中で最大──車並みの大きさだろうか──の隕石が、頭上から現れる。


 嵐の如く降り注ぐ矢の後に、この大質量の追い打ち。これは、


「凄いな」


 爆炎と轟音をまき散らす戦場で、思わず零れる感想。そしてそれを締めくくったのは、誰よりも悲しみを抱いてこの戦いに臨んだ、少年だった。


「ママ、ごめん……《天地吸引》!」


 爆炎が、白狐に吸い込まれるように渦を描きながら収束していく。モヒカン・ボンバーが唱えた術だということを考えれば、あれは白狐が消しているのではなく、モヒカン・ボンバーが発動している攻撃なのだろう。


 よくわからないが、なんだか凄いことはわかった。それに、邪魔だった炎を消して、ついでに白狐の場所も見えるようにしてくれている。


 いい援護だ。


『くっ、これは坊やの』


 白狐のHPが減っていく。だが俺のHPも減っていく。


 おまけに、白狐のHPは何もしなくてもそのままだが、俺のHPは何もしなくても自動的に減っていく。


 選択肢は1つだ。


「迅雷!」


 赤鬼の脚力、鬼神のブースト、そこに迅雷の上乗せで、俺の速度は生物の限界を超えた。


 その限界を超えた速度で撃ち出される肘鉄ちは、白狐の体をくの字に折り、食いしばった歯の隙間から鮮血を吹き散らす。


『~~~~っ!』


 その目は、しっかりと鬼を捉えていた。あまりの衝撃で真上に吹き飛びつつも、なお。


「ソウ、任せろ、本当の奥義を見せてやる!」


 双剣を携えた赤い閃光が、上空を舞う白狐に突貫する。 


「《諸刃の舞》!」


 それは、芸術だった。


 不覚にも、一瞬すら気を抜くことのできない戦場において、見惚れてしまった。


 ゆっくりと流水のように流れる体。反して、高速の刃は白狐の体を何重にも引き裂く。流れている時間に錯覚を覚えるほどのソレは、舞の極致を見た感覚に襲われる。


 が、あと一歩、及ばなかった。


「がぁああ!?」


 攻撃を続けていた炎破の体から、鮮血が吹き荒れる。


 《諸刃の舞》は、炎破のアーツの中でもの攻撃力を誇るが、与えたダメージの何割かが反動として自身に返ってくる技だと聞いた。


 白狐のHPを削りきる前に、限界が来てしまったか。


『こんな、ところで……』


 それはボスとしての執念か。それとも母の意地か。まだ消えぬ炎が、そこにあった。


『死んで、たまるか──《滅死咆哮(めっしほうこう)》!』


 未だ宙を舞う白狐が炎破の方へ顔を向く。開けられた口の奥から、赤い光が生まれる。


 刹那、腕ほどの太さのレーザー光線が、


「──ちっ」


 炎破の頭を、消し飛ばす。


「炎──っ!?」


 消えゆく戦士の名を言いきる前に、薙ぎ払われたレーザー光線が迫る。


 しかし、それは失策だ。


「ふっ」


 赤い光線が頬を掠めると同時に、ジュっと焦げる音が耳を付く──が、そこまで。


 正面からの照射ならともかく、こんな軌道丸見えの薙ぎ払いを喰らってやるほど、どんくさくはない。やるならば、最初の攻撃は炎破ではなく俺にするべきだった。そのミスの対価は、デカいぞ。


『おぐっ!?』


 ミスリル製の鉄甲が、着地した瞬間の白狐の右脇腹(リバー)へ入る。


 顔の筋肉が強張り、開いた口からは苦悶が零れる。赤く小さくなったHPバーが、さらに縮む。


 ──ここだ。


 二枚目の切り札を、ここで切る。


 鬼神を発動している状態でのみ使うことのできる大技。自身の最大HPの5%を消費することで放つことのできる短期決戦用戦術兵器。その名は、


「──《鬼気発勁》」


 白狐の額にポンの添えられた右手。そこに不可視の波動が生まれると、白狐の体は、その場にドサリと崩れ落ちた。






「っ……《解除》」


 全身の骨が軋む。筋繊維が引き千切れる。


 そんな感覚に襲われながら、畳の上で寝ている白狐の横で、膝を付く。


 炎破や翠さんたちの援護がなかったら、間違いなく時間切れで一緒に死んでたな。


『……ほんに……勝ちよった』


 その言葉に、もう覇気はなかった。


『ほんに……』


 そこにはもう、エリアボスはいなかった。


『坊や……』


 そこには、瞳から溢れんばかりの涙を流す、母親しかいなかった。


「そ、総くん」


 少し離れたところから、葵さんの声がする。


 しかし、聞こえてくる声は、勝利を喜ぶ勝利者のものではなかった。


「も、モヒくんが!」


 体を穏やかな光で包みながら、モヒカン・ボンバーがゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「総くん、これってなに!?」


 決死の作戦行動中でも乱れなかった翠さんが、明らかに動揺する。


「ごめん、実は……」


 真実を、明かす時が来た。


 重く、厚い扉を、赤く染まった手でこじ開ける時が。


「ソウ兄ちゃん、僕が言うよ」


 蛍火のような光を体から発しながら歩くモヒカン・ボンバーが、口を開く。


「ごめんなさい。僕……もう死んでる」


「……え」


 理解を拒絶する言葉が、開いた唇の隙間から落ちる。


「僕……最初から、死んでたの。みんなに会う、前から」


「どういう……」


 重くなった口から、絞り出されるようにして翠さんの声が出る。それに答えたのは、


『その子は、ずっと前に死んだ我が子の魂。死してなお、そこにあろうとした、私の……子供よ』


 岩山で最初に白狐と対峙した時。正気を取り戻した白狐から聞き出したこの事実を、俺と伸二は隠し続けていた。


 白狐を倒せば、モヒカン・ボンバーも同時にこの世界から消失するという、もうひとつの事実とともに。


『私のことなど、放っておいて、ほしかった』


 それは、母親としての本心だったかもしれない。


『私のことなど放って、幽霊でもいいから……楽しく……』


 突き放そうとする母の声は、震えているようであった。


 そしてもうひとつ、震える声がある。


「モヒ、くん……」


「ありがとう。ブルーお姉ちゃん。それと、みんなも……ありがとう。お母さんと、僕を救ってくれて」


「そん、な……わ、たし……」


 泣き崩れそうになる葵さんに、モヒカン・ボンバーは首を横に振る。


「僕、救われたよ。いま、こんなに嬉しいもん」


 その顔には、一点の曇りもなかった。


「お母さんを……助けたかった。助けてくれた。それに、ここに来るまで……少しの間だったけど、楽しかった。だから……ありがとう」


 その言葉に、彼女はもう抗えなかった。溢れる涙を、両手で必死に抑えることしか、できなかった。


「ソウ兄ちゃん、ありがとね。黙っててくれて」


 奥歯を噛みしめてその光景を眺めるしかない俺に、モヒカン・ボンバーは笑みを向ける。


「……俺はいい。それより、母さんが待ってるぞ」


 隣まで来たモヒカンボンバーの手を引き、横たわる白狐の前まで引っ張る。


「……お母さん。助けたかった」


『私は……助けてほしくなかったよ』


「お母さんに、会いたかった」


『私は……会いたくなかったよ』


 モヒカン・ボンバーの頬に、細く真っ白な手が、優しく添えられる。


『坊や……』


「お、かあ、ざん……」


 その手は、モヒカン・ボンバーが光となって消えるまでの間、ずっと、最愛の我が子を抱きしめていた。

これにてオオサカエリアでのお話はお終いです。いかがだったでしょうか。

いつもと違ってなんだかスッキリしない終わり方でしたが、そこは前編という辺りから察していただけると幸いです。

次回は掲示板回。その次からは『8章 キンキ戦争編(後編)』をお送りします。

掲示板回の投稿は明日の12時を予定しています。

8章の投稿は……今年中にできたらいいなぁ(遠い目)

進捗状況は活動報告で報告します。

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