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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
186/202

186話 それでも、母と子が一緒にいるのは間違っていない。

「くっそ、ワイヤーガン!」


 爆炎に舞い吹き飛ぶ体。天井にめり込ませたアンカーが、それを強引に引き戻す。


「……滅茶苦茶するな、相変わらず」


 コウモリのように天井に立ちながら、思わず我らがリーダーに対して愚痴が零れる。


 あれぐらいのことでは俺は巻き込まれないという信頼からなる行為なのだろうが、かなりギリギリだったからね、アレ。


「しっかし、凄い威力だな。これ、室内で使っていい魔法じゃないだろ」


 ゲーム空間という特性上、なんとか足場こそ保てているが、畳は焼き焦げ、あちこちで炎と煙が上がっている。


 白狐は……まだ煙の中か。


「雷破くん!」


 翠さんの声に、雷破は杖を掲げて応える。


「スキル《出て来いヤァ》発動!」


 煙の中から、長髪の女性のシルエットが浮かび上がる。たしか、敵をマーキングすることのできるやつだったな。


 煙の中にいるってことは、向こうからこっちは見えないだろうが、こっちからは丸見え。このアドバンテージはデカい。


「よっしゃ! 行くぞ、お前ら!」


 炎破の激に、伸二、蒼破、峰破が応え、突撃を敢行する。超交ざりたい。しかし、翠さんから【お座り】のチャット文が届いた以上、ここは待つしかあるまい。俺はひたすら、天井にお座りするのだ。俺は忠犬ハチ公だ。


 にしても、こうして上からじっくり見てみると、このチームが如何に強いのかがよくわかる。


 翠さんからの指示こそ飛んでいるが、各々がそれぞれの役割を認識して動いている。自分の長所を生かすだけの動きではない。他者の短所を埋める動きだ。


 少し前に動画投稿サイトで見た、トップギルド蒼天のメンバーの動きにも負けていない気がする。


 ん、


【今は伸二がヘイトを受けてくれてる。合図を出すから、その時にスイッチして】


 翠さんからの個人チャットに、了解の二文字を返す。こっちを見てない白狐ならいつでも攻撃できるが、彼女のことだ。最高の場面を作ってくれるのだろう。


 それから約200秒。俺抜きのパーティで、伸二たちは白狐と互角の攻防を繰り広げる。


 白狐の攻撃は魔法を使ったものが殆どだったが、その多くが直線的な軌道。多くは伸二の盾に弾かれ、その際に生じた隙を炎破が上手くついている。


 そこからさらに、攻撃の波を途絶えさせないように蒼破と翠さんが遠距離から魔法と弓を叩き込む。


 消耗する前線組の回復は葵さんと峰破さん。後衛の火力アップと前衛の防御力アップは雷破が行い、ボス攻略のお手本のような連携が成されている。


 下手に介入すると、壊れてしまいそうな不安にさえ襲われる。


 モヒカン・ボンバーも、攻撃力は乏しいものの複数の式神を召喚し、白狐の攻撃を散らす役割を果たしている。


 白狐の体が傷つき、HPが減る度に、その顔には険しい皺が深く刻まれていくが……誰も、それをどうすることもできない。


 俺たちにできるのは、一刻も早く白狐を倒し、正気に戻すこと。それがわかっているからこそ、迷いながらも、武器を持つ手になおも力を込めることができる。しなければならない。


『この……うぐっ!』


 炎破の剣が何重にも及ぶ光の閃光が描くと、空気が破裂したかのような衝撃が白狐を襲う。


「……っ」


 それを見つめるモヒカン・ボンバーの唇から、血が滴る。


 母親の体が震える度に、奥歯を噛みしめていたのだろう。近くにいれば、硬くなった頬の奥から、ギチィという音が聞こえたに違いない。


「早く、倒れてくれ──《螺旋剛弓》!」


 蒼破の悲痛な声の乗せられた弓が、白狐の胸に突き刺さる。


『あぐっ!』


 そこが、ターニングポイントだった。白狐の顎が上を向き、鮮血交じりの吐息が零れる。HPバーの色は、25%以下を示す、赤へと変化している。真っ白な顔が、苦痛に歪む。


 ──それに、堪えられなかった。


「ま、ママぁあああああああああああああああ」


 モヒカン・ボンバーが、走り出す。


 周囲の光景がすべて消え、母親しか見えていないのだろう。足がもつれかかっても、その目は正面へと縫い付けられている。


「も、モヒくん!」


「ダメ!」


 峰破さんと葵さんの制止の声は、もうモヒカン・ボンバーの耳には入らなかった。その足を止めることはできなかった。


 ならばと、伸二と炎破がモヒカン・ボンバーの前に立ちふさがる。


 だが──


「ママぁあああああああああああああ」


 その声に、叫びに、皆の手が、足が止まる。


 行かせるわけにはいかない。行かせてあげたい。相反する2つの感情は、互いにせめぎ合い、結果としてモヒカン・ボンバーに味方する。


「ママぁあ!」


 苦しむ白狐の前に、それ以上の悲痛な顔をした子供が立つ。


「ママ、ぼく……ぼくが……」


 戦場の空気が変わった。


『坊、や……?』


 その空気は、それまで僅かだが残っていた迷いを吹き消すかのように──











『──死にたいのか』


 残酷なまでに、姿を現した。


「ま、ま……?」


 揺れる瞳に、母親の振り上げた右手が映る。天を仰ぐ掌からは、蒼白の炎が灯されている。


『後ろでコソコソと隠れておればよいものを……消えよ』


「!?」


 振り下ろされる手。直後、蒼白の炎がモヒカン・ボンバーを──


「モヒくん、いやぁああああああ!」


 辺り一帯を飲み込む爆炎の中、葵さんの叫びが一陣の風のように突き抜ける。


 大丈夫だよ、葵さん。


『貴様……』


 着物のあちこちが焼け焦げている白狐が、鋭い視線を飛ばしてくる。


 その白い手は畳に深くめり込み、肘の上を靴で踏み抜かれている。


「おいおい、お母さん。虐待で児童相談所に通報すっぞ」


「総くん!」


「総くんナイス!」


 畳に向けての火炎放射となったおかげで、俺と白狐は殆ど自爆に近い形で攻撃を受けてしまった。が、モヒカン・ボンバーの無事──でもないな、焦げてるな、まぁ生きてるからいいか──がわかったところで、葵さんと翠さんの明るい声が響く。


 その声が聞けただけで、生きていてよかったと思えてくる。


「総! テメエなんてイケメンなタイミングで」


 すまし顔で冷や汗をかきつつ、伸二の声をスルーする。


 間に合ってよかった。翠さんからの【お手】という合図と、もう待てないという俺の判断が完璧に重なった結果だが、とにかくよかった。実際心臓はバクバクだったからな。


 それに、いい感じのダメージも負えた。


 あとは──


『ええい、いつまで腕に乗っておるか!』


 降り上げられる腕から降り、バックステップの合間に立ち尽くしているモヒカン・ボンバーを拾う。


「目標までは……20メートル。ちょっと離れすぎたかな」


 この辺でいいだろう。


 脇に抱えたモヒカン・ボンバーを下ろす。


「そ、ソウ兄ぃ……」


 細く、そして揺れる瞳に、紅い鬼が映る。


「モヒ、迷うなとは言わない。だが、俺はやるぞ」


 いくら決意を固めようが、固めたつもりだろうが……できるわけがない。母親が殴られている姿を、黙って見ていられるはずが。


 どれだけ泣いてもいい。どれだけ叫んでも。


 足りないピースは、俺が埋めてやる。


 それが、お前の覚悟に対する俺の返事だ。


「さて……こっからが本番だ。こっちもジョーカーを切らせてもらうぞ」


 白狐のHPは残り25%。鬼神でゴリ押しするには、まだ残量が多い。それに、回復手段を残している可能性を考慮すれば、ここで切るカードは、


「──リロード【回天炸裂弾】」


 威力重視のリボルバーに、最強の威力を誇る弾丸を込める。スミスさんから貰った分がそろそろ空になりそうだが、出し惜しみは無しだ。


「行くぞ、ハイブ!」


 赤鬼の脚力で、ボロボロになった畳をさらにボロクズへと変える。


 それに一瞬の遅れもなく反応した騎士は、俺とは反対方向へと走り、白狐を挟むように配置に付く。


 この以心伝心の動きが、白狐の反応を一歩遅らせる。


『ぬっ、どっちを……いや、厄介なのは決まっておる』


 その一歩が、お前の敗因になる。


「──《ハイ注目》!」


『っ!?』


 俺の方へと狙いを定めようとしていた白狐の顔に、険しいノイズが走る。あれは、俺が鬱陶しいものに邪魔されたときにする顔だ。


 さて、これでヘイトは、


『ええい、こんなことで!』


 まだこっちに向いてましたか。そうですか、そんなに俺が憎いですか。


 まぁいい。伸二のアレは、別にヘイトを移すのが主目的じゃない。こいつの反応が一瞬でも遅れれば、それで十分。


『消えよ《白雷》!』


 向けられた人差し指から、一筋の雷が走る。不規則な屈曲線を描き迫るソレを、回避──しない。


「《師子王の籠手》発動!」


 反対に位置する伸二の腕が、眩く輝く。


 刹那、飛来していた雷は、師子王の籠手を発動した伸二へと──その間に立つ、白狐へと帰っていく。


『馬鹿な!?』


 師子王の籠手の能力は、敵の攻撃を発動者の任意の相手──と言っても仲間限定だが──に強引に変更するもの。今回伸二はそれを自分に設定したようだが、間にある障害物を避けてまで自分のところに誘い出すようなものではない。


 間に入るモノがいるのなら、それはそのモノに責任もって処理してもらうことになる。


 たとえ、術者本人だろうが。


『ちぃっ!』


 所々に焦げの目立つ右手を前に出し、強引に雷を止める。しかし、その右手は衝撃で弾かれ、完全に焼け焦げている。現実であれば、二度と動かないと思えるほどのダメージだ。


 しかし、ここは仮想世界。雷を止めた右手は、真っ黒に焼け焦げながらも、脳からの電気信号を受けて筋肉を動かしていく。


 もうあと2秒あれば、完全に迎撃態勢を整えられただろう。


 あればな。


『貴さっ、離れ──!?』


 鬼の脚力で接近し、鬼の腕力で白狐の顎を掌底で突き上げる。


『かっ……』


 開いた口が、天を仰ぐ。


 そして天から、銃が降る。


『おぐっ!?』


 リボルバー《シナギ》の銃口が、白狐の喉奥へと突き刺さる。


「ここがお前らボスの最大の弱点だってことは、オキナワで経験済みだ」


『!?』


 引き金に触れる人差し指が動く分だけ、白狐の体が、ビクンと跳ねる。


 HPを、大きく減らしながら。

次回『やはり俺の相棒はまちがっている。』

投稿は明日の12時を予定しています。

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