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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
184/202

184話 やはりこのシナリオはまちがっている。

 青天の辟易、と言う言葉がある。


 青い空の下で、とことん心が疲弊した時に使う言葉だ。


 今、俺の心ではその言葉が元気な声を出して行進している。


 辟易! 辟易! 辟易!




「やっぱり思った通り。この50%オフってシール、効果絶大ね!」


「だな、リーフ。しっかし、それでもこいつら結構強えぞ。あの馬鹿、よくこんな奴ら相手に単独で無双してやがったな」


「だがそれでも、結構強いという程度だ。1人欠けて4人になったゴレンジャーなんて、風鈴崋山の敵じゃない! そうだよな、風の字」


「いや炎破、1人減っても普通に強いよこいつら。ソウもいないんだし、油断せずに皆で連携して行こう」


「っかー。この優等生が。だがそういうとこがお前の良い──っておわ!?」


「炎破、よそ見しない! 次は助けてあげないからね!」


「そんなことを言いつつ、峰破は僕らがピンチの時には助けてくれる。守らなきゃね、炎破」


「まぁな。だがどうせなら腐ってない女の子、そうだな、ブルーちゃんみたいな超絶プリティを──ほべらぁあ!?」


「ああ、炎破がやられた! 峰破に向かっていた攻撃のとばっちりを受けて、炎破がやられた! 炎破が!」


「ちょっと雷破、そんなに強調しなくてもいいじゃない」


「み、皆さん! あんまり油断してると危ないですよ」


「大丈夫じゃない、ブルー? あの人たち、多分ああやって軽口を叩きながら戦うのが本来のスタイルみたいだし」


「すげえスタイルだな、それ。じゃあ、俺も総と漫才しながら戦ってみるか」


「大丈夫よハイブ。あんたと総君は、大体いつもそんな感じだから」


 辟易! 辟易! 辟易!




 心をすり減らしながら、そんなやり取りを眺めること数分。体育座りで待機している俺の隣で、モヒカン・ボンバーが両手を前にかざして叫ぶ。


「待っててね、ソウ兄ちゃん! もう少し、もう少しで解除できるから……」


 8枚の護符を宙に浮かべ、藤色の光に包まれるモヒカンボンバーの額から、いくつもの汗が流れ落ちる。


「ごめん、僕……お母さんが気になって。見てることしか、できなくて……もっと、ソウ兄ちゃんを援護できてたら、こんなことには……」


 唇を噛むモヒカン・ボンバーの表情は、クシャクシャに歪みつつも、目には強い光が宿っている。


 俺の連れがあんなんばかりで申し訳なくなるくらい温度差が酷いな。


「まぁ、あれは気にすんなよ。俺も予測できなかった。まさか、あのキャベツを持った黄色い奴が、自分の命を投げ出してまで俺を封印してくるとは」


 翠さんが持ち出してきた50%オフシール。蒼破の弓術スキルにより、それらを瞬く間に張り付けられたゴレンジャーは、あっという間に弱体化した。


 それにより戦況は一変。結構強かったゴレンジャーは、ただのカラフルな鎧を着た落ち武者と化し、瞬く間にそのHPを減らしていった。こちらの雰囲気も、一気に押せ押せムードへ突入。いっそのこと俺だけ離脱して繭をぶち壊してやろうか、とも考えた。


 そんな時だ。あのクソキャベツが黒い光を発し、突如として俺を飲み込んだのは。


 おかげで今、黒い鎖で雁字搦(がんじがら)めにされ、なぜか体育座りの姿勢で拘束されている。とりあえず、運営死ね。


「この封印術。術者の命と引き換えに発動するだけあって、解除にもの凄い力が必要なんだ。でも、もう少し、もう少しで……」


 なんだろうな、これは。モヒカン・ボンバーはものすごく真剣だし、それに力になってやりたい気持ちもあるんだが、どうしてもこいつの名前と運営の悪ふざけが、俺をシリアスの沼から巨大クレーンで引っ張り上げにかかってくる。ちくしょう、負けるか。


「モヒ。見てる感じ、ゴレンジャーは今のメンバーだけでも何とかなりそうだし、そこまで自分を削らなくてもいいんじゃないのか? この力、多分だけど、お前の時間(・・)を使ってるだろ」


 その言葉に、モヒカン・ボンバーの瞳が大きく開かれる。


「……知って、たの?」


「まぁな」


 開かれた瞳が、大きく揺れる。それでも、感じられる力の波動は少しも弱まらない。


「これは……僕が、そうしないといけない。そう、思ったから」


「……そうか」


 この子は、強い。


 誰よりも幼いこいつが、誰よりも強固な決意でこの戦いに臨んでいる。


「モヒ。このままいけば、多分あと2分程度でゴレンジャーは全滅する。問題はお前の母親が参戦してくるタイミングだが、わかるか?」


「……なにかが小さくなって、なにかが大きくなってきてる。多分、殆ど同じタイミングで、ソレが来ると思う」


 ソレ……光の繭に包まれた母親が出て来るまで、あと2分前後ということか。


「それまでに、この封印術は必ず解く! だから、ソウ兄ちゃん……母さんを……」


 断固たる覚悟を宿した瞳。その上にいくら涙が滲もうとも、炎は消えることを知らない。当然だ。その決意の上に浮かぶ涙ってのは、水じゃなくてガソリンなんだから。


「任せろ。これでも、リベンジに失敗したことはないんだ」


 モヒカン・ボンバーの気持ちに、真っ向から応える。男ってのは、斯くありたいものだ。




 ……出来れば、体育座り以外の姿勢で言いたかったが。





 ■ □ ■ □ ■





「──ふぅ、終わった」


 十数秒前に特大の隕石を降らせた占星術師から、安堵の息が零れる。


「締め直せよ、リーフ。むしろ、こっからが本番なんだからな」


 それを見る騎士は、所々凹んだ盾と先の曲がった槍をアイテムボックスにしまい、新しい盾と剣を召喚する。


「皆さん、お疲れ様です。今回復しますから──《救世陣》!」


 至る所が破れ、切り裂かれ、焦げ、抉れた畳の上に、青白い魔法陣が浮ぶ。すると、巫女の祝福を授かる7人のHPは徐々に回復していく。


「あの繭。さっきまでは光ってただけだけど、今は脈打つように動いている。再誕の時は近いようだね」


 矢じりから羽まで黒で塗り潰された矢をつがえる弓術氏が、鋭い視線で繭を睨む。その目には、一欠けらの油断も見えない。


「いいな、再誕の時ってフレーズ。今度俺も使おっと」


 双剣を携えるソードダンサーは、そう軽口を叩きながらも、重心を前に置き、いつでも突撃できる態勢を整え始める。


「喋ってないで手を動かしなさいって。モヒくんが心配そうな目で見てるじゃない」


 パンと手を叩き、小さなモヒカンボンバーを見つめる衛生兵。その目には、紛れもなく癒す者のそれが込められている。


「大丈夫。さっきのはラスボス戦前とかでよくある前哨戦のような感じなんだろうけど、順調に進んでるんだから。僕らは、僕ららしく行こうよ。とりあえず、脱いでもいいかな」


 ピリッとした空気に、淀んだ風が混ざり込む。悟ったような喋り方で常に落ち着いているこの付与術師のその本質は、紛れもなくただのド変態。殴ろう。


「なんて顔で見てんだよ、総。心配しなくても、お前の体育座りはスクショ(写真)でバッチリ撮ったから安心しろって」


 殴ろう。


「ちょっと、ハイブ」


 お、翠さん。この馬鹿にガツンと言ってやってくれ。


「その写真、あとで私にも頂戴」


 だよねー、知ってた。


「そんなことはどうでもいい。それより、今はあの繭だろ」


 こういう時は、興味のない素振りを見せて話を変えるのが吉。これまでの経験から、皺の少ない俺の脳ミソはそう判断を下した。


「ソウの言う通り、今の最優先事項はあの──動くぞ!?」


 作戦成功。それと同時に、事態が動く。


 光の繭が、内側からの圧力に耐えかねた様に破れていく。


 その時だった。


「う、腕!?」


 人間と思われる細腕が、繭の内側から突き出される。雪のように白く、絹のように滑らかな肌とはこういうことを言うのだろうと思わされる。


『やれやれ……この姿まで見せることになろうとは、の』


 聞こえたのは、妙齢の女性の声。その口ぶりから、それがあの白狐だということがわかる。


『できれることなら、この姿を見せずに終わりたかった……が、それは言っても詮無きこと』


 光の繭の内側から、糸を引き剥がす様にして、ソレは出てきた。


 クリーム色に近い白で統一された着物が、這い出ながらにして優雅に出て来る。


 腕に遅れて現れたのは、光を反射しそうなほどに綺麗な、銀の髪。白い着物に絡んだそれは、ひざ元まで模様のように伸びる。


『ふむ、8……いや9人か』


 紫色の唇が開くと、その上にあるふたつの真っ赤な瞳が、ゆっくりとこちらへ向けられる。


『なんとも……坊や。まだ諦めていないのか』


 繭から完全に出てきた白狐──もとい、白女が、大きなため息を漏らす。その瞳には、怒りとも哀しみともとれるものが浮んでいる気がする。


「ママ……ぼく、僕──!」


 喉元の奥から濁流となって出てきそうな感情。それは、真っ白で細い腕が前に突き出されることで止まる。


『もはや、問答は無用。こうなっては、力に身を任せるほかなし』


「マ、マ……」


 つぶらで小さな目から、大粒の涙が落ちる。とめどなく、次々と落ちるソレを、白女は表情一つ崩さずに見つめる。


 それに我慢がならなかったのは、この中で最もモヒカン・ボンバーのことを気にかけていた人だった。


「そんな……そんな言い方ってないですよ!」


 これまで一度も聞いたことのないような声が、室内に響く。


「モヒくんは、あなたに会いたくてここまで来たんです! あなたを救おうとしてここに来たんです! どうして……そんな悲しいことを言うんですか!」


 これまで、葵さんの悲しい声を聴いたことはあった。喜んだ声を聴くこともあった。だが、かつてここまで怒りをあらわにした声は、聴いたことがない。


 しかし、それでも、


『問答は無用と言ったはず。わらわにできるのは、ここへ来たものを排除することのみ。それが、坊やと言えども』


 明確な敵意が、殺意が、白女から溢れ出る。


 言動から、今の白女があの時岩山で追い詰めた時と同じ状態にあるのは理解できる。姿こそ違えど、喋り方や雰囲気が、あの時と同じく、ある程度の自我を取り戻しているのだろう。


 ──同じだからこそ、理解できてしまう。


 葵さんの怒りも、モヒカン・ボンバーの願いも、白女の本心も。


 なら、俺の為すべきことは──


「そ、総くん?」


 葵さんの前に出て、両手に銃をとる。


「何を言われようが、やることは変わらない。俺は、お前を倒す」


 その先にあるものが、たとえ……。

次回『やはり俺の仲間はぶっ飛んでいる。』

投稿は明日の12時を予定しています。

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