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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
179/202

179話 やはり俺たちの攻略は強行突破である。

 木造建築が中心に並ぶ城下町。


 家々の並びによって作られた通りは、車数台が楽に通れるほどに広く、また敵の待ち伏せや奇襲を受けやすい構造となっている。


 そんなダンジョンの入り口では、半壊した家屋や、クレーターのように抉れた地面が散見され、ここで起きたであろう戦闘の激しさを物語っていた。


「さて……まずどうすっかだが」


 パーティ唯一の盾職である伸二が、盾を構えたまま先頭に立ち、後ろを振り向く。


「道は3つだぜ。正面路地、右路地、左路地。どこもかしこも戦闘の跡があるし、音もあちこちで聞こえる。ハッキリ言って正解なんてないような気もするが、どうする?」


 騎士の視線を一身に受ける占星術師は、数拍の間、思考の海に沈み、そして浮上する。


「正面だと挟み撃ちが怖いから、右から行きましょう。それだけ遠回りになるけれども、この運営の性格を考えれば、ここは急がば回れよ。蒼破さんは、」


「俺も同じ意見だ。リーフとは気が合いそうだよ」


「そ、それはどうも……」


 一瞬だけ目が合うと、翠さんはそのまま顔を逸らして口ごもってしまった。


 急に視線が合って恥ずかしくなったのかな?


「おら! じゃあ、さっさと右に行くぞ!」


 どうした伸二。急に機嫌悪そうになったな。っておい。そんなに先行するなって。普段の慎重さが微塵もないぞ。


「おいハイブ。ちょっと待──」


 伸二の背後で揺らめくようにして浮かび上がる黒い影。ソレは明らかに、殺意を持ってそこに現れた。


 刹那。迅雷を起動した俺の体は、伸二の真横を一瞬で通過し、騎士の背後から忍び寄っていた黒い影を蹴り飛ばす。


「なっ!? 総!?」


「油断すんな、ハイブ。お前が冷静じゃないと、誰が俺の背中を守るんだよ」


 騎士の顔に真っ先に浮かんだのは、困惑。次に反省。次に──


「……悪い。もうヘマしねえ」


 そうそう。やっぱお前はそうやって前を向いてないとな。


「借りひとつな。それはそうと、こいつら、忍者か?」


 蹴とばされ後方に吹き飛んだ影が、ゆらゆらと揺らめきながら起き上がる。動き自体は人間のそれに酷似しているが、実体を持った影のように真っ黒で、背中には忍者刀が、手には鎖鎌のようなものが握られている。


「俺には、某探偵アニメに出て来る、全身黒タイツの犯人にも見えるぜ」


 なるほど。言われてみればそれもあるな。だとすれば、あの敵を倒すには時計型麻酔銃とキック力増強シューズが要る。シューズは迅雷で代用が利くとして、時計型麻酔銃は……あったな。スミスさんから、バッドステータス付与型の弾丸も仕入れてたな。なんだ、全然問題ないじゃないか。

 だとすれば、後は蝶ネクタイ型変声期と、麻酔針を首にいくら撃っても後遺症一つ残さない屈強なオジサンがいれば、事件は解決だ。


「ま、俺と総の頭じゃ、真犯人には辿り着けないか」


 本件は完全に迷宮入りした。これより、実力行使に移る。


 そう、そうだよ。なにも、事件が起こった後に推理する必要ないんだ。事件が起こる直前、もしくはその直後に、犯人を見つけてボコっちまえばいいんだ。これからは、推理力じゃなく戦闘力の時代だ。


 そんなことを考えていると、


「──《飛燕》!」


 蒼破の弓から生じたソレは、一羽の燕となって、伸二の股の間を飛翔。名前もわからぬ真犯人の頭部に直撃し、やつを再び後方に吹き飛ばした。


 そこに、


「《コ・メテオーラ》!」


 翠さんの声が響いた2秒後。花火の上がるような音が徐々に大きく聞こえ出し、6秒後、ソレは某真犯人さんの真上に降り注いだ。


「どわぁあああ!?」


 隕石。


 そうとしか形容しようのないソレが降り注いだそこに、暴風が吹き荒れ、最も近くにいた伸二の体は地上から少しの間旅立つ。


 真犯人は……逮捕される前に刑が執行されてしまったか。南無……っと、煙の中から出てきたか、相棒。


「あぶねえじゃねえか、リーフ! 殺す気か!?」


 鎧のあちこちに土を付けたまま立ち上がる伸二に、翠さんはペロッと舌を出す。


「なにがテヘペロだ!」


 いつになく興奮しているな。普段はもっと冗談っぽく言っている気がするが、伸二にはその余裕がないように感じる。


「まぁまぁ、ハイブ。みんな無事だったことだし、ここは冷静に」


「お前には関け──いや、悪い、蒼破。だな。無事だし、ここでモタモタしてるとまた敵が来るか」


 宥めようとした蒼破にすら食って掛かりそうな勢いの伸二だったが、ここにきてようやく普段の落ち着きを取り戻す。


 それを確認すると、蒼破は全員が見える位置に出る。


「よし。ここは対応力の高いソウと炎破を先頭に突っ込もう。俺とリーフさんは、それぞれに弓と魔法で中衛から攻撃支援。雷破と峰破とブルーさんは後方で回復支援。ハイブは最後方で、背後からの攻撃に備えつつ、支援組とモヒカンくんの守護を。こんな感じでどうかな、リーフさん」


 回避能力の高い俺と炎破で敵の初撃を引き出し、中衛組でのカウンターパンチを狙いか。伸二を前線に置かないのは、さっきみたいな不意打ちから後衛組とモヒカン・ボンバーを守るためってところだろうな。なかなか隙の無い編成を考える。


「良いと思います」


 短い返事だが、そこに不満の色は欠片もない。蒼破みたいなリーダータイプはこれまでいなかったから、翠さんも負担が減って嬉しいのかもしれない。


「しゃあっ! 前線は俺とソウに任せな。お前らの出番がねえくらい活躍してやっぜ!」


 頬に炎の字を刻む男は、その名の如く気合を全身から滾らせる。


 よし、これは俺も負けていられ──


「炎破さんはそれぐらいの気合でお願いします。総くん、程々って言葉を頭に置いて戦ってね」


 ライトグリーンのマントを羽織る占星術師から、やや冷えた視線が半開きの眼から照射される。


 よせ。その視線は、俺に効く。


「よーし、それじゃ、行きましょうか。モヒくんのお母さんを救うために!」





 ■ □ ■ □ ■





 オオサカパンサー。アフロの髪型をした豹の獣人であるこのモンスターには、髪色の違いによる様々なバリエーションが存在する。


 剣を持ち、接近戦に優れた《レッド・パンサー》。


 ボウガンを持ち、中距離戦に優れた《ブルー・パンサー》。


 魔法の杖を持ち、遠距離戦に優れた《ブラック・パンサー》。


 中央にデカい棘の付いた盾を両手に持ち、攻防一体の攻めを得意とする《グリーン・パンサー》。


 巧妙な話術を持ち、心理戦に優れた《ピンク・パンサー》。


 性質の違いはあっても、そのいずれもが人間の身体能力を凌駕しており、同数で攻められたならば苦戦は避けられない──と言われている──強敵。


 城を目指して走る俺たちの足は、この敵の包囲によって止められ、本日何度目かわからぬ、民家を背にした背水の陣での攻防を強いられていた。


 後衛組を中心に据えた三角形の布陣で、上空から見た場合、頂点を俺、左を炎破、右を伸二で支えている。


「ブルー、炎破さんに回復支援! 雷破さん、ハイブの防御力上昇効果がそろそろ切れます、かけ直しと、終わったらそのまま敵の束縛を! 峰破、回復支援から前線にスイッチ。ハイブの方に! 蒼破さん、総くんの方は基本無視で大丈夫です。炎破さんの方を援護してください!」


 基本無視で大丈夫な総くん()の蹴りで倒れたレッド・パンサーの頭に、炸裂弾がメリ込まれ、グチャグチャのトマトを作る。


「基本無視って……いや、いいんだけど……」


 わかってはいるが、言葉にされると寂しい。ボッチ歴の長かった過去を抉られるようで、気持ちが落ち着かない。


 そんな考えに囚われつつも、右の指はトリガーを引き続け、左の手は刀で豹の四肢を斬り飛ばし、右足は空を駆ける。


 残り、9アフロ。




 その少し左寄りの後方では、2体のレッド・パンサーと1体のグリーン・パンサーに囲まれた炎破が、HPの半分を削られながらも奮戦する。


「こいつらっ、いい加減に──《剣舞・気高き竜よ》!」


 二振りの刀は不規則な閃を何重にも描き、僅かに遅れて赤いエフェクトが周囲に舞い散る。


 《蒼天》のエース、軍曹ほどではないが、あの双剣は脅威だな。躱すのは大変そう──ん、あれは、


「《シルバー・レイン》!」


 蒼破の弓から上空に放たれた矢が、銀の閃光を描き、炎破に蹴散らされたモンスターに降り注ぐ。


 それは確実に、モンスターの足を止め、HPを削る。


「サンキュー、風の字! 《三段光》!」


 稲妻のような太刀筋が、3体のモンスターの喉元を走り抜ける。


 直後、最大の急所である喉をかき切られたモンスターは、光へ変わった。


「っぷう……今のは焦った。あ、ブルーちゃん、回復サンキュな!」


 ちゃん付け……だと? 俺ですらまだ至っていない領域に、どうしてまだ知り合って間もない炎破が到達できるんだ。葵さんも、特に恥ずかしがってる様子はない。


 これが……コミュ力の差だとでもいうのか……!?


「「《ブレードアタック》!」」


 彷徨いかけていた思考が、伸二と峰破さんの重なった声で引き戻される。


 見てみれば、あっちも炎破サイドと同じく、迫ってきた敵を殆ど滅し終えている。十数秒で、殲滅は完了するだろう。


「となると、残りはこっち側の6アフロか」


 ()が3、(ボウガン)が2、(魔法)が1。


 それらを滅するための行動パターンを十数通り頭に置き、どれを選ぼうか舌なめずりをしていると、


「《アース・バインド》」


「《ラ・メテオーラ》!」


 アフロ共の足が、くるぶしほどまで地面に埋まり、次いでこぶし大の光が十数個、やつらの頭上へ降り注ぐ。


 束縛系の魔法は雷破が。光の魔法は翠さんが撃ったものか。


 ガンナー()が殺る方が消耗も少なくすんで長期戦には有利だと思うが、ここは彼らの見せ場だ。邪魔するのはよくないな。


 小規模な流星群が降り注いだことで、大通りに噴煙が上がる。


 その煙の中で、HPバーを赤く灯す影に、


「《一点突破》!」


 黄色い閃光が走る。


 放たれる矢が魔法属性へと変換される特殊な弓から引かれたその一撃は、土煙の中で揺らめく影の上部にドカッと音を立て命中し、影を消す。


 加えて、


「《天地刃殺・破邪の法》!」


 小さな掌から放たれた一枚の護符。紙とは思えぬ速度で敵に飛来するソレは、アフロの形をした影にピタリと貼り付くと、その真下から、


『フギャァアアアアアア!?』


 竹槍のような鋭利なナニカが5本。アフロの五体を貫き引き裂く。


 あれはエグイ。


「……やるな」


 葵さんの弓もさることながら、モヒカン・ボンバーの繰り出したあの攻撃は見事だ。


 聞けば、陰陽師の職業に就いていると言うが……なるほど。陰陽師だと、あんな闘いができるのか。


 その後も次々と放たれる遠距離攻撃を眺めること十数秒。周囲の敵影は、すべて消え去った。

次回『やはりダンジョンの最奥はボス部屋である。』

更新は月曜日の予定です。

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