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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
176/202

176話 やはり俺の死亡フラグはまちがっていない。

 巨大な白狐は、4つの足を真っ直ぐ地面に付け、虫けらを見下す様に見つめている。


 しかし、全身から滲み出る気配が訴えている。


 逃がす気はない。背を向けた瞬間、その五体を引き裂いてくれる、と。


「なぁ総。こいつ、どうして仕掛けてこないんだ?」


「多分、俺が攻撃するか、逃げるか、どっちかの反応を待ってるんだろ。何となくだが、そんな気配を感じる」


 このゲームのAIが殺気なんてものを感じられるかどうかはともかく、モヒカン・ボンバーを助けた直後から、こいつに対して殺気を常に向けているんだ。それぐらいの反応はしてくれてもいいだろう。


「ならどうする? 俺が攻撃しても、カウンターでぶっ飛ばされるのがオチだろうから、お前に任せようと思うが」


「お前がぶっ飛ばされてるうちに、俺があいつの急所を貫くって手もあるぞ」


「テメェ……」


 冗談だよ。軽く笑って、それから動く。


「まずは撃ってみて、反応を見る──リロード《氷花・炸裂弾》!」


 着弾後に相手の体内で氷の花を咲かせて肉を抉る弾丸を、胴の柔らかい部分へ撃ち込む。


 白狐はそれを避ける様子も防ぐ様子も見せず、ただその身で受け、赤いエフェクトを派手に飛散させる。


『コォオオオオオオオオ!』


 なんだ、馬鹿正直に受けてくれるとは思わなかったな。しかし、結構なとっておきの弾丸を、威力重視のリボルバー《シナギ》で撃ってあの程度のダメージしかないのか。軽くショックだぞ。


 戦闘開始とともに、やつの長大なHPバーが三列、視界に浮かび上がる。銃撃によりミリ以下の減少を示したHPバーが、俺たちの希望をえげつなく(むし)り取る。


「総、来るぞ!」


 ググっと後ろに体を逸らした白狐が、全身のバネを万遍なく使い、ロケット発射装置から撃ち出されたかのような跳躍を見せる。後方の伸二からは、おそらく白い閃光が走ったようにしか見えていないだろう。


 これは、人間の速度で躱せるスピードじゃないな。


「迅雷!」


 同じく人間の限界を無視したスピードで、やつの突進を躱す。


 しかしこの手の巨躯な敵の厄介な点は、突進攻撃の後、躱したとしても着地地点が爆散し、せっかく攻撃後に生じた隙を突きにくいところだ。


 ジーザーや鬼凧、神・アネもそうだったが、とにかく体がデカいってのは、それだけで凄いアドバンテージになる。


 出来れば銃よりも威力の高い近接武器で一気にHPを削りたいが、これじゃあ取り付くどころか近付くことすら難しいな。


 シナギ(リボルバー)に残っている特殊弾丸《氷花・炸裂弾》を、土煙の中に身を潜ませる狐に全て撃ち込む。


 さすがにアレだけデカいと、姿が見えなくてもほぼ当たるな。急所が狙えないのが残念だが。


 全弾撃ち切ったところで、次の弾丸をリロード(装填)する。


「リロード《雷装徹甲弾》!」


 通常、空になった弾丸の補充には10秒のリキャスト時間が存在する。しかし、このリボルバーは装填数6という弱点を、威力上昇とリキャスト時間の短縮という二点で補っている。


 特殊弾丸を好んで使う俺のスタイルとは、かなり相性が良いと言える。


 まぁ、そのお陰で懐がすっかり軽くもなってしまったのだが。


「総!」


 メガ粒子砲でも射出されたかのように、土煙が巨大な質量の出現により押しのけられると、巨大な白狐の爪が眼前まで迫ってきていた。


「丁度いい」


 地に伏しギリギリで躱し、背後へと消え入りそうな白狐の後ろから雷の弾丸を見舞う。


 去り際にギャウッという声が聞こえたから、たぶんいいところに当たっただろう。


 腕の力だけで、その場から飛び起きる。


「突進しかしてこないなら、このまま倒せそうだな」


 足場は悪いが、疾風と迅雷、それにワイヤーガンがあれば問題ない。こっちの攻撃はあまり効いていないみたいだが、ダメージがゼロでない限りはいずれ倒せる。


「いや、アメリカの時のあいつみたいに、HPの自動回復があったらヤバいか」


 人の数倍はあろうかという巨大なワシのボス。あれはスピード型で、防御も他のボスより柔かったから鬼神を使ってギリギリ何とかなったが、こいつはあの時のボスよりも堅そうだな……。


(らち)が明かないし、ここは近接武器を試すか」


 射撃を始めとした遠距離攻撃に耐性を持っているモンスターは、殊の外多い。中には完全耐性なんて反則スキル持ちもいるらしいが、逆に近接武器に耐性を持っているモンスターというのはほとんど存在しない。精々が、スライムなんかの殴打、斬撃、射撃耐性ぐらいだ。


「総、斬り込む気か?」


 日本刀《夏風》を右手に召喚した俺の姿を見て、伸二が駆け寄ってくる。


「あぁ。できれば、あいつの反撃を止めてくれると助かる」


 一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェイ)はローリスクでいい戦術ではあるが、あそこまで硬いともう少し足を止めて一撃を入れたい。


 そのためには、この最硬の騎士の力が必要だ。


「任せろ! ヘイトは?」


「俺が持つ」


 その答えですべてを察した伸二は、全力でその場から駆ける俺の背を見送る。


 岩場の間を縫う様にして接近する俺に、体勢を整え直した白狐は、グルと唸りを上げて軽く牙を見せる。その奥に、青白い炎を覗かせて。


「総、ブレス来るぞ!」


 わかってるよ、相棒!


 だが、これはまだイケる!


 刹那、視界を埋め尽くす青の世界が広がる。肉を、骨を、すべてを消し炭へと変える灼熱の世界が。


「迅雷!」


 上空に跳躍しソレを躱す。


 しかし、白狐の視界から完全には離れ切らず、すぐに再びやつの射程に納まってしまう。


「総、まだ来る!」


 再び獰猛な牙の奥から放たれる炎が迫る。


 が、これもまだイケる!


「疾風!」


 空中に足場を作り、真下に飛ぶ。


 勢い余って着地の際にダメージを受けてしまったが、まだ許容範囲だ。


 それに、レンジ内に入れた。


「まずは一発!」


 白い毛の少なくなっている柔らかな喉元に、刀の尖端を突き入れ、横へ薙ぐ。


『コォオオオオオオオ!?』


 よし効いた。やっぱり、この手の敵は刀で喉を切り裂くに限る。


「おおおおお!」


 一撃離脱なんてもったいないことはしない。


 敵が叫びを上げるなら、それはチャンスだ。


 何度でも、入れられる限りの斬撃を叩き込む。


『グルァアアアアアア!』


 よし、これは調子に乗っちまった。完全に怒ってるな。しかも、これまでとは違うデカいやつを出してくる気だ。そんな雰囲気を感じる。


 振り上げられた前脚に、光が宿る。明らかに、ヤバいやつだ。


 喰らえば死ぬ。


「──伸二!」


「雷門!」


 光の肉球──少しだけ喰らってみたい気もする──が降りる軌道に、雷を帯びた門、いや扉のような壁が割り込む。


 その2つが衝突すると、狐はキャンというちょっと可愛らしい声を出して後方に仰け反った。


 見れば、跳ね返された右前脚には、電気のようなものが帯電している。


「ナイスフォロー、伸二!」


 再び生じた大きな隙。親友の作ってくれた好機を、無駄にはしない!


「どらぁああ!」


 右の前脚が浮いているということは、左の前足は支持に使っていて碌に動かせないということ。


 一閃、二閃、三閃。Z状に斬った左前脚から、赤いエフェクトが飛び散る。だが、これじゃダメだ。次に繋げるには、


「──っふ!」


 全身を捩じり、柄を押し出す手に全ての力を収束する。そこから解き放たれた刃は、そのまま狐の脚を貫通し、地面へと突き刺さる。


『フォォオオオオ!?』


 よし、これで僅かでも動きが鈍るはず。次は背中に登って、ナイフで滅多刺しにしてやる!


「げっ!? 総、ヤベえ!」


 伸二が上を指さして叫ぶ。一体なにがヤベえって……!?


「ヤベぇ」


 尻尾が空へと真っ直ぐ伸び、その先に巨大な光球が発生している。


 あれがここに降りたら、間違いなく伸二の言うヤベぇことになるだろう。


 だが、そんなことをすればあいつも攻撃に巻き込まれ──!?


 光を一層増した光球から、レーザーのようなものが曲線を描いで舞い降りる。


「マジか」


 3つや4つならどうにかする自信はあったが、パッと見ただけで30を軽く超えるレーザー光線が同じタイミングで降ってきている。


 これは参った。


 ということで、伸二。なんとかしてくれ。


「うぉおおお──《虎牢関》!」


 上空からの光線を覆い隠す様に、虎の紋様が描かれた巨大な壁が斜めに反り立つ。


 1つ、2つ。光線は虎牢関に衝突し、派手な爆発を生じて消えていく。


 しかし、それが10、20と続くにつれ、虎牢関の随所に亀裂が生じ始め、遂には虎牢関は粉々に崩落する。


『フォオオオオン』


 勝利の雄叫びのつもりか。だが、それはちょっと早いぞ。


 虎牢関のお陰で直撃を避け、爆炎の中に紛れた位置から、両の瞳に最凶の弾丸を撃ち込む。


「リロード《回天炸裂弾》!」


 まだだ、まだ遊ぼうぜ、化け物!





 それから20分後。


 俺と伸二は、この世界から消えた。

次回『やはりこのエリアの攻略はまちがっている。』

更新は木曜日の予定です。

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