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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
174/202

174話 やはりこのダンジョンはぶっ飛んでいる。

 あれから数日後の土曜日。


 COLORSと風鈴崋山の合同チームに、モヒカン・ボンバーを加えた9人からなる我らが一行は、岩肌の突き出す大岩山の麓に来ていた。


 乾いた風が砂塵を巻き上げ、小さな飛礫が肌に突き当たる。


「わっぺ!? くそっ、鬱陶しい」


 兜の隙間から侵入した砂に四苦八苦の騎士。


 だから言ったのに。


「見栄なんか張らず、素直に受け取ればいいものを」


「う、うるせぇ! 兜は騎士の誇りだ。そんなスカーフとゴーグルなんて付けれるか」


 ここに来る前日。砂塵が飛び交う土地と聞いた俺は、人数分のスカーフとゴーグルを店から仕入れていた。伸二以外の面々はそれを素直に受け取ったが、騎士の誇りがどうとかいう奴は御覧の有様。


 良かったな伸二。兜にホコリ、付きまくってるぜ。


「でも凄い風だね。これがなかったら大変だったよ。ありがと、総くん」


 この装備、唯一の欠点は、この天使の笑顔が隠れてしまうことぐらいか。


「どういたしまして。ブルーも、そのスカーフ似合ってるよ」


 目元を覆うゴーグルはひとまず置いておくとして、口元を隠すスカーフと言うのはなんというか、こう……ちょっと神秘的と言うか、背徳的な感じがする。


「俺と同じ青色なんて……もしかして、ソウって俺とブルーさんをくっつけようとしてる?」


 葵さんと同じ青色のスカーフを付けて妄言を口にするのは、風鈴崋山のリーダー、蒼破さん。


「ちょっと待ってろ、蒼破。そのスカーフ、今すぐ真っ赤に染めて炎破とペアにしてやる」


「お、ちょ、まっ、冗談、じょうだ──あ、あぁああああああああああ」


 よし、清浄完了。


 銃とナイフを仕舞うと、苦笑を浮かべた炎破が隣へやってくる。


「あー、悪いなソウ。うちのリーダー、その辺の空気読むの下手なんだ。本気で悪気はないと思うから、ここは許してやってくれ」


「わかってるよ。だから半殺しで済ませたろ?」


 冗談でなければ残りの半分も頂いた。暗にそう言っているのだが、そこは本当のことなので仕方ない。


 蒼破は犠牲になったのだ。青き清浄なる世界のために。


「しかし、スカーフを俺たちのイメージカラーでチョイスしてくるなんて、ソウも気が利くじゃねえか」


 地面に伏している馬鹿はたった今スカーフが赤く染まってしまったが、それ以外のメンバーには基本、それぞれの色を当てがっている。葵さんは青。翠さんと峰破さんは緑。炎破は赤。雷破は黄色。という風に。


 ちなみに俺は黒、伸二は白、モヒカン・ボンバーは灰色だが、この辺は適当。他の色と被らないのを選んだだけだ。


「ホント、ありがとね、ソウくん。お礼に、今度ハイブ君とのカップリングの同人誌を読ませてあげる」


 すぐに寄こせ。焼却する。


 そんな殺気立った感情が沸き起こった直後、それを飛散させるようにある人物が地面から立ち上がる。


「ひ、酷い目にあった……次から、ブルー関係でソウを揶揄(からか)うのは絶対に止めよう……」


「そうしなさい。ていうか、どう見ても2人はまだまだ新鮮で清らかな仲なんだから、変な横ヤリ入れないの」


「蒼破。僕が回復するからこっちに来て。さすがにこれはブルーさんには治療させられないよ」


「……だな」


 不幸なアクシデントにより負傷した蒼破の治療を簡単に済ませつつ、俺たち一行は天高くそびえる岩山を登る。


 登山道のような新設設計は当然の如くされておらず、眼前にあるのは大小様々な岩と石と土の斜面。


 もしモンスターに襲われでもして転がりでもすれば、一気に下へと落ち、大岩に体を打ち付けられるだろう。


 見上げればその最悪の未来が容易に予想できる、できてしまう大岩山を、ほとんどのメンバーが緊張の眼差しで見つめている。


 しかし、そんな中であって1人だけ、特別な想いを乗せた瞳を向ける者がいた。


「ここに、ママが……」


 普段の背伸びした口調を忘れるほど、今の彼の頭は1つのことで一杯なのだろう。その震える心に、大火をくべるように。


「心配すんな。必ず封印は解除する」


 光の差した顔を向けてくるモヒ。しかし、封印を解除した後も、俺たちが──俺が味方でいられるかはわからない。


 そう、場合によっては──


「総くん。なんだか難しい顔してない? まだ怒ってる?」


 口元に手を当て、上目遣いで天使が見つめてくる。


 その光景に心臓をノックアウトされつつ、表に出てきてはいけない顔にマスクを被せる。


「うん……実は、次の中間テスト、マジでヤバいなって思ってて」


「今ここで考えること!?」


 今ここで、というよりは、最近は常に考えているが、これ以上は俺の評価が下がるだけだからやめておこう。


「それより、ここの山頂に封印石があるってのはどこ情報なんだ?」


 隣にいる炎破に視線を飛ばせば、自分よりも適役がいると言わんばかりに、横にいた雷破の肩を掴んで引き寄せる。


「わっと、炎破は強引だな。えっとね、これは僕らがずっと関わってきたNPCのお婆さんの、孫の親友の母親の妹の彼氏からの情報なんだけど」


 最初のお婆さん、ほとんど原形ないな。


「なんでもこの地には、古くから龍脈と呼ばれる地が5つあったみたいで」


 龍脈……パワースポットみたいなものかな。


「神隠しの森、オオサカ城、ツーテン閣、USJ、そしてこの大岩山。これらが龍脈があると言われている場所なんだけど、そこに封印石が置かれてあるというのはほぼ間違いないみたいなんだ」


 この大岩山以外ではすでに封印石が見つかってるから、自然とそうなるか。


「これまで繋がりのあった依頼を受けてたんだけど、この最後の1つの場所に辿り着いた途端にそれも終わったから、ここに封印石があるとみて間違いないと思うよ」


 なるほど、雷破の説明に聞き入っていると、腐ったオーラを纏う麗人がひょいっと顔を出す。


「補足しておくと、この情報に行きついているチームがチラホラあるみたいよ。多分ここに来るまでにすれ違ったパーティは、全部封印石狙いでしょうね」


 指の数じゃすまない程度はパーティとすれ違った気がするな。そうなると、これ以上時間をかけるのは、モヒカン・ボンバーにとっていいことにはならないな。


「情報サイトでも、封印石のことはかなり話題になってるからね。峰破の言う通り、独自のルートでこの情報に行きついて、ここまで来たんでしょうね。モヒくんと知り合わずにどこまで情報を持ってるのかは気になるけど、多分ボスに行きつく手段は複数あるってことなんでしょうね」


 翠さんの言葉通り、ボスに行きつくための手段は最初から複数あったとみて間違いないだろう。そうでないと、モヒカン・ボンバーと会っていないプレイヤーはどうしようもなくなるからな。


「おい、口だけじゃなくて足も動かせよ? モヒが先に行っちまいそうだ」


 見れば、逸った気持ちのままに足を動かすもモヒカン・ボンバーと、それを追いかける伸二の姿がある。


 お尻から出る尻尾はピンと張っており、その心を如実に表している。


「総くん、早く行こう。モヒ君がケガしちゃう」


 あの年であの身のこなし。俺の予想が正しければ、雑魚モンスター程度じゃそうはならないと思うけど……それを確かめるのは今である必要はないか。


 モヒカン・ボンバーに急かされるように、俺たちは一心に山を登り続ける。


 道中、葵さんの危惧した通りにモンスターの襲撃を受けるが、このパーティに隙などない。


 俺と蒼破が射撃職としてモンスターに先制攻撃を仕掛け、翠さんが魔法でダメ押し。単体で現れるモンスターは大抵このパターンで封殺でき、数が多い場合でも、伸二、炎破、峰破さんが前衛を守り、雷破と葵さんがそれを強化、回復する。


 俺と峰破さんは状況に応じては戦闘スタイルを柔軟に変化させることも可能だから、ボスクラスのモンスターが出てこない限りは、問題ないと断言できる。


 しかし……。


「結構登ったけど、まだ頂上は見えないか……」


 すでに一時間はこうしているが、砂埃が酷くて視界が悪い。頂上どころか、下の方まで碌に見えない。おまけに道中には巨大な岩壁が立ちはだかることもあり、銃で無理やりに凸凹を作って登ることにもなった。


 まぁ……そのおかげで葵さんを背中に担いでロッククライミングすることができたわけだが。


 あの背中の感触は……素晴らしかった。


 だが当然ながら、皆が皆、同じ考えというわけでもなく、


「まさかこの世界で、ロッククライミングさせられることになるとは思わなかったぜ」


「そうボヤかないの、ハイブ。鎧の重さはそんなに感じないんでしょ?」


 騎士が取得するスキルにより、伸二は鎧の重さをかなりの範囲で軽減している。そうでもないと、現代のもやしっ子が鋼の鎧、それもフルプレートなんかを着こなせるわけもないが、それでも質量自体は同じだから、邪魔なことには変わりないだろう。


「鎧は可動域がちょっとな……ん、あれって」


 肩の辺りに手をやりボヤいていた騎士が、ふと前方へと視線を飛ばす。その先では、土煙が不自然に舞い上がって──いや、これはヤバい。


「リーフ、ハイブ以外を下がらせろ。俺も前に出る」


 トーンを変える俺の声に、翠さんはすぐさま真剣な表情を作る。


「それほど?」


 説明してる暇もない。ああとだけ答え、両手にオートマチックのイナギを召喚して前に出る。


「総、なにが来るんだ!?」


 追従する騎士の顔に、ピリついた緊張感が貼り付く。


「わからん!」


「は?」


「わからんが、なにかが追われてる」


 答えた直後、4人の冒険者パーティがこっちに全力疾走してくる姿が見える。その形相は険しい皺を随所に刻んでおり、死に物狂いという言葉が脳裏に真っ先に思い浮かぶ。


「どうする、総!? 逃げるか!? 応戦するか!?」


 まだ姿は見えないが、あの冒険者パーティの後ろになんかヤバいやつがいる。それはわかる。


「全員で無事に切り抜けられる自信がない。応戦しよう」


 俺たちが応戦することで、逃げてる冒険者パーティも対応を変えるかもしれない。


「了解だ。なら、あいつらにも協力してもらおう。おーい、お前ら、俺たちと一緒に──」


『コォオオオオオオオオオ!』


 それは土煙を一瞬で吹き飛ばし、現れた。


 眩い光沢を放つ白い毛に覆われた、巨大な体躯。


 赤い瞳には見る者の心を凍らせる殺意が滾り、この世の全てを破壊しようとする憎しみすら感じさせる。


 その前足から覗く3つの爪は、巨大な斧と見紛うほどに鋭利で、一薙ぎで冒険者の2人を真っ二つにした。


「な、なんじゃありゃあああああ!?」


 悲鳴にも似た騎士の叫びが殺戮場に響くも、その声を聴く前に、冒険者の1人は巨大なソレの顎にその世界を奪われた。


「そ、総、アレ!」


「あぁ、狐だな」


 超が付くほど巨大な、狐だな。もしくは、狐の前に「化け」を付けた方が適切かもしれない。


「お前はあれ見てどうしてそんなに落ち着いてられるんだ!?」


 お前こそ、あれを見てどうしてそんなに取り乱すことができるんだ。あんなに強そうな敵が現れたんだぞ。そんなに取り乱していては、力を発揮することもできず、楽しく戦うことなんて不可能だ。


「それよりハイブ、次に隙ができる。俺は突っ込むから、後は頼む」


「はっ!? お前、なに──」


 伸二の言葉を聞き終える前に、迅雷を起動する。


 その名の如く、雷なって駆ける俺の視線の先では、最後まで残っていた冒険者の1人が、狐の口から吐き出された青い炎でその身を火だるまにされていた。


「助けられなくて悪かった。が、仇はとってやるぞ」


『!?』


 直後、狐の横顔に跳び蹴りを見舞うことで、この名もなき戦いは始まった。

次回『やはりこの攻略はぶっ飛んでいる。』

更新は木曜日の予定です。

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