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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
171/202

171話 やはり運営のセンスはまちがっている。

 神隠しの森の奥。そこで見つけたのは、二階建ての家に相当する大きさの水晶と、お尻からモフモフの尻尾を生やす少年だった。


「ぼく──お、オレ、ここにママ、母さんを、さがしにきたんだ」


 まだ緊張が抜けていないのか、ズボンのお尻から出ている尻尾は真っ直ぐ上にピンと張り、毛は逆立っている。


「そっかー。お母さんをねー。じゃあ、私たちに、探すのを手伝わせてよ。ね、ブルー」


「うん。私たち、君の力になりたいな」


「あ、私も私もー」


 迷子、それも小さな男の子の相手とあって、翠さん、葵さん、峰破さんの3人が積極的に前に出てコミュニケーションをとる。


 その効果もあってか、少年の表情は徐々に柔くなり、尻尾の毛並みも元の状態へと戻っていく。


「おい、総」


 声を小さくした伸二が、難しい顔をして話しかけてくる。


「これ、レアイベントだよな。それに、あの尻尾……獣人か、それとも変化か」


「変化じゃねえか? 頭から耳が出てないし」


 チュウゴク地方のある町にいるという獣人のNPCは、その多くが獣の特徴を尻尾と耳で現していたらしい。だが、少年の頭には小麦色に輝くサラサラの髪しかなく、人型の耳も普通に付いている。それに、


「あの尻尾、たぶん狐だろ。狐と言えば、変化じゃねえか?」


「お前もそう思うか。なら、有名どころだと九尾の狐とかそんな感じか……あれ、でも大阪に狐にまつわる何かってあったか?」


「さてな」


 その辺はログアウトしてから調べればわかるだろう。今はそれよりも、あの子供をどうするかを決めないとな。


 母親を探しているって言っていたが、こんな樹海の奥まで子供1人でいる理由も気になる。元からこの周辺に住んでいるのか、それとも別の場所からここまで来たのか。


 それに、時間も時間だ。そろそろ夕方になる。この子供を町の安全な宿屋まで連れて行くなら、そろそろ帰らないと夜になる。


 子供の素性がわからない以上は迂闊な行動は命取りになるだろうが、それでもあの見た目は……森に置いて行くのは気が引けるなぁ。


「あの子をどうするか、だが、総はどう考える? もし今後も一緒に行動するなら、あの子には俺たちと一緒に町に戻ってもらう必要があるぜ」


 フィールドやダンジョンでログアウトすれば、セーブポイントにアクセスするか、特別な道具をしようするかをしない限り、プレイヤーは強制的に町まで戻される。


 しかし、それはNPCには適用されない。彼と明日以降も行動を共にするためには、俺たちが再びここまでくるか、彼に町に来てもらうかをしなくてはならない。


「あの子供次第だろうな。だが、向こうがこっちに協力を求めてくれるなら、こっちからもその話を切り出しやすいな。モンスターに追われていたあの状況を考えれば、それも無理じゃない気はするが」


 どう転ぶかは、話してみないことには何とも言えないな。


「もしあの子が俺たちと行動を共にしてくれるって言ったら、どうする? 皆で一斉に町に戻るか?」


「それでもいいが、結構遅くなるぞ。時間のことを考えるなら、皆はログアウトして、俺が1人であの子をリュックか何かで担いで帰った方が早い」


「となると集合場所は町の宿屋か。風鈴崋山の人たちはどう考えてるかな」


 伸二の呟きに、聞き耳を立てていた蒼破さんが間を置かずに答える。


「こっちもそれでいいですよ。ただ、我々はもう少しこの森を探索したいので、宿屋での集合時間を明日にしてもらえるとありがたいです」


「そういえば、薬草を探しに来てたんでしたね」


「えぇ。なので、あの子を町に連れて帰る場合は、明日、我々もご一緒させてもらえませんか?」


「勿論ですよ。これは、COLORSと風鈴崋山の合同クエストですからね」


「合同クエストか……いいですね、それ」


 蒼破さんが照れくさそうにしていると、その後頭部に赤い人のチョップが降りる。


「何照れてんだよオメー。そんなんじゃボッチがバレるぞ」


「う、うっせーよ!」


 漫才コンビのやり取りに既視感を感じていると、その輪に雷破さんも加わり、女性陣と子供の話がまとまるまで、男衆での雑談が続いた。


 その過程で分かったことだが、彼らは中学の時の同級生で、俺らと同じ高校二年生だった。高校にバラバラに進学したかつての仲間が、色々な偶然とちょっとのトラブルが重なって、こうやってまた一緒に遊ぶようになったらしい。


「じゃあ俺と総とも同い年だな。ならタメ口で話さねえ? 実は、堅苦しいの苦手なんだ」


「あ、それチョー助かる」


「うん、僕も賛成」


 炎破さんと雷破さんも賛成を表明すると、3人の視線が俺と蒼破さんに集まる。


「まぁ、そういうことなら」


「俺も、蒼破さんと同じかな」


 この場にいない女性陣に関しては、後で確認だな。翠さんと葵さんが同じ学校だってことは言ってないから、その辺に関しては彼女たちに一任しよう。


「あ、ソウさん。俺のこと、蒼破で良いですよ」


「ん、了解、蒼破。じゃあ俺もソウでいいよ。それと、敬語禁止な」


「あ、そうでしたね」


「だから、それが敬語」


「そ、そうだった。つい今までの癖で」


 立て続けにツッコミを食らう蒼破は、顔を真っ赤にして後ろ髪を掻く。


 なんだか、いいな。こういうの。


「俺も炎破でよろしくな、ハイブ、ソウ」


「僕も雷破でよろしくー」


「了解だ、炎破、雷破。俺もハイブでよろしくな。ちなみにこいつは、金髪イケメンクソ野郎でいいぜ」


 おっと伸二。顔面に蚊が止まってるぞ。コークスクリューブロウ!


「おぶらっ!?」


 そこまで話したところで、女性陣が子供と一緒にこっちに戻ってきた。


「お待たせーってなにやってんのアンタたちは。結構いろんな情報があるから、一回ここで腰を落ち着けて説明するわよ」


 そう言って翠さんは、アイテムボックスから大きめのブルーシートと、お菓子セットとお茶を取り出す。


 それからわかったことは、この子供の目的と、その先に潜む大きな何かの存在。


 この子供が神隠しの森と呼ばれる樹海にいた理由は、最初に言った通り、母親を探していたから。


 どこから来たのかという質問には答えてもらえなかったが、NPCである以上は、あまり深く考えなくてもいいのかもしれない。


 だが問題は、その後の言葉だった。


 母親がこの近くにいるのかという質問に対して、少年の放った言葉は、俺たちが予想していたどのルートよりも複雑だった。


「母さんは……フーインされてるんだ」


 封印。普通に暮らしていればまず耳にすることのない言葉だが、ここはそういう世界ではない。


 この時、ナガサキで出会った可愛い姉妹と、顔のデカい鬼の姿が一瞬だけ頭を過る。


「このフーイン石を5つゼンブこわせば、母さんはカイホーされるんだ」


 そうか、全部壊せば解放──なに!?


「5つもあるのか?」


「うん……俺はこれをこわすために、ここまできたんだ」


 ここまで来た、か。どうやら、元からここに住んでいたわけではないらしいな。


 そこまで話すと、少年はブルーシートから降り、両の膝を地面に付ける。


「なぁ、アンタたち……おねがいだ、この石をこわすのを、てつだってくれないか」


 少年の額が、地面に擦り付けられる。


「おねがいします……おねがい」


 ここまで言われて、ここまでされて、引き下がるような薄情者はこの場にはいない。


 決してレアイベントに目が眩んでいるわけではない。決して。


「勿論、協力するわよ。ね、皆」


 翠さんの声に、否の声が上がることはない。


「あ、ありがとう!」


 勢いよく顔を上げる少年の顔に、今日初めて見る笑顔が浮かび上がる。


 しかしその目からは、一筋の涙が零れ落ちていた。


「あ、あれ……おかしいな、なんで……」


 これまで、ずっと我慢していたのだろうか。少年の目から、次々と涙が零れ落ちてくる。


 それに堪らなくなったのか、翠さんが少年に優しく抱きつく。


「大丈夫。お母さんは絶対に助けるからね。絶対」


 閉じられた瞼の奥の瞳には、一体どれほどの決意の炎が滾っているだろうか。そう感じずにはいられないほど、彼女の言葉は力強かった。


 さっきまではレアイベントだヤッターぐらいにしか感じていなかった心にも、熱い何かが生まれてくる。


 いつも大抵はふざけた展開ばっかりだが、たまにはこういう気分に浸るのも悪くはない。


 さらばだコメディ。どうやら、これからは暫くシリアスの出番のようだ。だが、待っててくれ。この子の母親を解放したら、また、すぐに会いに行くからな。


「ねぇ、君の名前は?」


 腐っている空気を微塵も感じさせない、母性溢れる声で少年に優しく問いかける峰破さん。


 その声に少年は、大きく鼻をすすって答える。


「──モヒカン・ボンバー」


 ただいまコメディ。

次回『やはり俺の感性はまちがっている。』

更新は月曜日の予定です。

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