17話 【結成】俺氏、PT戦する(?)
駅舎へと向かう俺たち一向は、これから起こることが予想されるパーティ戦のための準備をしていた。
「じゃあまずは簡単に自分の得意不得意を言い合って情報交換しましょう。あ、言いたくないのは無理に言わなくていいわよ」
若草さんはそう言うと、まずは言い出しっぺからと言わんばかりに誰よりも先に口を開いた。
「私の職業は魔術師よ。得意なのは風属性の攻撃魔法。でもまだあまり精度が高くないから、乱戦の中だとあまり使えないわ。あ、あと私紙装甲だから敵の攻撃を受けるとすぐに死んじゃうの」
若草さんは魔術師か。俺がこのゲームやるって決めた時にやってみたい職業ナンバーワンだった職業だな。早く魔法見てみたい。
「わ、私の職業は吟遊詩人です。得意なのは歌での補助です。その……直接戦うのはあまり出来ません……ごめんなさい」
「気にすんなよブルー。吟遊詩人の補助能力は全職で一番幅が広いんだ。ボス攻略でもその重要性は高いって言われてるし、全然謝る必要なんてないぜ」
「そ、そうかな……ありがとう」
自信なさげで申し訳なさそうな自己紹介をした冬川さんだったが、伸二の言葉で元気を取り戻した。うん、やっぱりその顔の方がいいな。
「じゃ、次は俺な。職業は騎士だ。攻撃と防御両方できるが、防御の方が得意だな。ヘイト操作のスキルがあるから、後衛職のリーフやブルーとの連携がとりやすいはずだ」
そう言えば伸二とはPvPは山ほどしたけど共闘したことは一度もなかったな。俺と伸二だと両方前衛職になるけど相性ってどうなんだろうか。ん? あ、俺の番か。
「あ、俺の職業はガンナーだ。近距離から中距離で戦うのが得意かな。一応武器なら大体使えるはずだ。でもアーツを使っての戦闘は超下手糞で、スキルは1つもないからそこはあまり期待しないでくれ」
若草さんと冬川さんは俺のことを伸二から聞いていたためか、アーツを使えないという俺の話にさして驚く様子はなかった。
「まずは敵と戦ってみて俺たちの型を模索してみようぜ」
「そうね。やっぱり実戦よね」
「が、頑張ります……」
伸二の提案に2人はそれぞれの形で自分に気合を入れているようだ。何気に俺も初めてのパーティ戦ということで少し気合が入っている。それに、ほんの少しだが緊張もしている。
何しろ俺はこっちの世界どころかリアルでも集団戦の経験は殆どない。親父とやる時はまず1対1だったし、それ以外でも俺1人対その他多数という感じだったから、俺の戦い方は1人でやるスタイルに特化しすぎている。上手く他人と連携をとれるか、イマイチ自信が持てない。それでもせめて迷惑にならないようには気を付けよう。俺がそう気合を入れていると、タイミングを見計らったように敵の一団が見えた。
「あれは……レッドマングースか。数は……右に6、左に4、くそっ、多いな」
伸二は前方からやってくる敵を見てすぐさま彼我の戦力差を分析したようだ。え、なにそんなにヤバい敵なの?
見た目は大型犬ぐらいのサイズの赤いマングースだけど、昨日俺が狩ったハブや猿よりかは強そうだな。ここはこの中で一番敵戦力を的確に分析できていそうな伸二に助言を求めるのが吉か。
「ハイブ、あれ強いのか?」
「1対1なら負けない。だがあの数だと後衛の2人にも敵の手が回る」
つまり数が問題と言うことか。なら話は早いな。
「よし、じゃあ俺が右の6を持とう。初見だけど、見た目通りの運動量だったら何とかなると思う」
分析もろくに出来ていない初見の敵に何とかなると思うなんてリアルの俺じゃ絶対に言わないことだが、この世界ではそれが言える。こういうのも、冒険するって言うのかな。
伸二は一瞬何かに迷ったようだが、それを振り切るように頭を振ると俺の目を見て、
「頼む!」
「おう!」
その言葉を発した直後、俺は右方向から迫ってくるマングースの群れに1人で突っ込んでいった。
「え!?」
「ちょ、ソウ君!」
それを見た若草さんと冬川さんは止めようと声を上げるが、伸二がそれを制する。
「2人とも、左から来るぞ! 総なら大丈夫だ!」
そして、俺たちのパーティ戦は始まった。
■ □ ■ □ ■
真っ直ぐこちらへ迫ってくるレッドマングースに対し、俺は足を止め双銃を両手に構える。しかし所詮は獣ということか。陣形もなっていなければ連携をとる気配もない。これならイノシシ数頭を相手にするのと大して変わらないかもな。
俺は先頭を走る1匹に狙いをつけ銃声を2回鳴らす。その瞬間、俺の前方のレッドマングースの両目が爆ぜ、眉間に2つの穴が開く。リアルの獣ならこれで沈まない奴はいない。いるとしたらそいつは化け物だ。あ、こいつら化け物だったな。じゃあ立つかも。
だが4発の銃弾をその身に浴びたレッドマングースは勢いを殺しその場に転倒し、そして光の粒子となった。あれで倒れるならこの数でも捌ききれそうだな。
「――あと5匹」
目の前で仲間が沈んでも怯む様子は全くなく突っ込んでくる。距離を詰められるまでに仕留められるのはあと2匹だな。
地面に勢いよく転がった同胞を飛び越えた奴の眉間に連続で4発。さらにその後ろから詰めてくる奴にも4発銃弾を浴びせ光の粒子へと変えたところで、レッドマングースの1匹が俺の懐へと入り込む。さて、ここからは変則でいくか。
ほぼゼロ距離まで詰めてきたレッドマングースの爪撃を横にずれて躱すと、目の前には脇腹を曝け出した獣の姿が。だがこの距離では銃はワンテンポ遅れる。それでも俺の方が早いだろうが、コイツの後ろにはまだ2匹控えている。残弾も気になるし、あまり手間取ってはいられない。
俺は右手に持った銃を空中に置き去りにして、腰のナイフを一閃。前足を切り飛ばし赤いエフェクトを空に咲かす。
これでコイツはすぐには反撃できないはずだ。コイツがいきなり自爆したり口からビームを出したりしない限りは後回しでいいだろう……しないよな?
一抹の不安は残るが俺は後続の2匹へと意識を移す。視界に映るのはこれまでの奴らと同じくフェイントも牽制もなくただ突っ込んでくるだけの2匹の獣。
「現実の肉食獣の方がもうちょっと頭使うぞ」
右手には親切な不良から貰ったナイフ、左手には初期装備のオートマチックの銃。あまり強そうな響きはないが、今は俺の命を預ける大事な相棒だ。相棒、もう少し頼らせてもらうぞ。
1匹のレッドマングースは俺の側面に回り込むと大口を開け鋭利な牙を露わにする。だが残った1匹はまだ俺との距離を詰め切れていない。撃つか、斬るか。俺にはどの選択肢でも取れる余裕があった。よし、
「ギャウン!?」
蹴った。
自分の身体能力がこのモンスター相手にどこまで通用するのか、純粋に興味があった。そして俺に真下から喉を蹴り上げられ空中に浮かぶモンスターを見て、俺の身体能力はこのモンスター相手でも十分に通用することが分かった。後はこの攻撃力がどの程度あるかの見極めだ。
浮かび上がった敵に今度は回し蹴りを放ち体をくの字に折る。その衝撃で大きく吹き飛ばされたレッドマングースだが、まだ光の粒子にはなっていない。
蹴り2回じゃ倒せないか。銃は全部ヘッドショットだから正確な比較は出来ないけど、この感じだとリアルと同じで銃の方が全然効率が良さそうだな。
「さて、残りもこのまま素手でいってみるか」
しかしよくよく考えると俺こっちの世界でしかできない必殺技みたいなやつ何もないな。これじゃリアルと何も変わらん。手からビーム出せねえかな……。
そんなアホなことを考えつつ、俺は残りのモンスターを処理していった。
あれ? これってパーティ戦って言うのか?