169話 やはり新章の登場人物はキャラクターがあらぶっている。
「じゃあ次はこっちが自己紹介する番だな」
俺たちが自己紹介を終えると、青髪のイケメン男こと蒼破さんが、髪と同じ色の瞳にこちらの姿を映し出す。
「さっきチラッとこっちの赤いのが言ったけど、俺の名前は蒼破。ギルド《風鈴崋山》のリーダーで、職業はアーチャー。ちなみにギルドは、《COLORS》さんと一緒でこの4人で全部だ」
俺とは対極の白いロングコートには、随所に銀色の金属が使われている。もしあれがミスリルだとしたら、かなり装備に金をかけているプレイヤーだろうな。
「俺、炎破。職業は、二振りの剣を自在に操るソードダンサー。このチームでは、攻める者の称号である『火』を刻んでる」
左がボウズ、右が長髪のアシンメトリーをした赤髪の男──炎破の言うように、確かにその左の頬には火という文字が刻まれてある。しかし……凄い髪型だな。
「お、おい、その設定は恥ずかしいからいいじゃないか」
「なに言ってんだ、蒼破。この世界に来てまで自分を隠してどうすんだって。ここじゃ俺たちは、風林火山の名の下に集う同志だろ」
おお、何だか知らんがカッコいい。よし、ここは俺たちも負けない様に、カッコいい設定を──あれ、どうしたんだ翠さん。どうしてそんな目で俺を見るんだ。そんな、危ないことをしそうな子供を嗜める目で。
「炎破、お前……はぁ、いいけどさ。だが、この名前やチーム名のせいで、他のプレイヤーから距離を置かれているのも忘れるなよ」
「わ、わかってるよ。けど、お前がギルド名を変換ミスしなけりゃこの説明もしなくて済んだ──」
「だああああ、それは悪かったよ! でもいいだろ、風鈴崋山も。なんだかお洒落じゃないか」
「おい蒼破。まだ自己紹介の途中だぜ」
「誰のせいだ、誰の!?」
この仲の良さ。見ていて微笑ましいものがあるな。やりとりからして、2人の年齢は俺たちに近いかもしれない。
「あっはっは、まぁそう怒るなよ。すいませんね皆さん。うちのリーダがうるさくて。あ、ちなみに、蒼破は背中に疾き者の称号である『風』を刻んでます」
なんと。では、この人たちはそれぞれに風林火山の文字を体に刻み、役割分担をしているのか。なんだよそれ、カッコいいな。よし、翠さん。ここは俺たちも──わかった、わかったから、その目はやめてくれ。もう考えもしないから。
「次は僕か。どうも、風鈴崋山で静かなる者の称号『林』を担当してます、雷破と言います。こっちのうるさい漫才コンビは適当に流してくださって結構ですよ」
知的な人物を思わせる落ち着いた声を響かせるのは、髪型こそ普通だが、髪も瞳の色も羽織っているマントも全て黄色で構成されている男。マントの中に着込んでいる旅人風の服こそ白と茶色だが、この人もかなり濃い見た目をしているな。
「僕の職業は、付与術師。エンチャンターとも呼ばれます。この杖で、皆の強化や、敵の弱体化を主に担っています」
うーん。しかし、この口調と落ち着きよう。誰かと被るんだよな。
「あれ、雷破さんは『林』の文字を刻んでないんですか?」
伸二の言葉に、雷破さんはニヤリと。蒼破さんと炎破さんは慌てだす。
ん、なんだこの流れは。
「おっと、ご希望とあれば仕方がないですね。ではお見せしましょう。僕の称号を──」
あろうことか、腰のベルトをガチャガチャと鳴らしだした雷破さんことクソ馬鹿変態野郎の後頭部に、蒼破さんと炎破さんのチョップが降りる。
「「止めんかアホォオオオオ!」」
地面に轟沈する馬鹿の姿を確認し、リボルバーに伸ばしていた手を引っ込める。よかったよ、この銃の被害者第一号が変態にならずに。
そして、さっきの謎も解けた。
この人、モップさんと被るんだ。あの口調と変態ポジション。属性に若干の違いはあっても、根本的には同じ種族だ。
畜生、やっぱり濃い。俺たちの新しい旅の新メンバーは、やっぱり濃い。
「えっと……なんだか、本当にゴメンナサイ」
そう言って前に出てきたのは、頭に深緑の布を巻いた美少年。その体は、線は細いながらも戦国時代の武将を思わせる甲冑を纏い、前線で刀を振るう猛者を思わせる。
ポジション的には伸二と被りそうだが、この人がこのチームで一番の常識人っぽいな。
「あ、自己紹介が先でしたね。私は、このギルドの『山』として回復役を任されてます、峰破。職業は衛生兵。こんな見た目ですが、女です。好きなものはBL。特に総受けキャラが大好きです」
おいいいいいいいいいいいいいい!?
ツッコミどころ満載だったよ、この人!?
え、女の人だったの!? それは失礼しました!
で、え!? び、BL!? は!?
てか総受けってなに!?
濃い! めっちゃ濃いよこの人!?
「そうなんですね。じゃあ女同士、よろしくお願いします」
翠さん凄すぎるよ。あの自己紹介の後にすぐさまよろしくできるその柔軟な精神は本当に驚嘆もの──いや、待て。もしかして、BLって言葉の意味を知らないだけじゃないかな。どこかのアイドルや音楽グループとでも思ってるんじゃないかな。
あの顔……そうとしか思えない。そう言えば、翠さんは活発だけど凄く純粋で、そういった知識は葵さんよりも乏しいって前に聞いたな。
ということは、葵さんは──おっふ、思いっきり赤面でしたか。その辺の知識はあっても、耐性はゼロだからそりゃそうなるよね。
ああしかし。そういったことに赤面する君もいいが、逆に積極的な君も素敵だと考えてしまう俺は、駄目な彼氏だろうか……。
いや、そんなことはない、そんなことはないぞ総一郎。人間誰しも夢や希望は大切だ。ちょっとエッチな葵さんを想像しても、罰は当たらないはずだ。そう、これは男としての自然の摂理だ。いや権利だ。
触れ合うことに積極的な葵さん。最高じゃないか。
普段は言葉ひとつですら考えてから発する思慮深い君が、本能のままに肌と肌との触れ合いを求めてくれた日には──
「おーい、総。生きてるか?」
「──へ」
素晴らしい世界への入り口に差し掛かっていた俺の意識に、伸二の声が割り込んでくる。
その声に呼び戻された意識は、首と眼球を左右にゆっくりと振り、周囲の状況を把握にかかる。
「なにボーっとしてんだ?」
見れば、7つの視線が揃ってこちらに飛んでいる。ここにいるのは俺を加えて8人だから、全員の視線が集っていることになる。
あー……。
「ナ、ナンデモナイ」
いかん。これでは、俺が一番変な人みたいじゃないか。これだけ濃いメンバーの中にあって、その称号だけは何としても回避しなければ。気合いだ、気合を入れろ総一郎。もうお前の戦いは始まっているんだぞ。
「頼むぜエース。さて、色々あったが、自己紹介を兼ねた休憩はこんなとこでいいか?」
「うん、私たちは十分ね。風鈴崋山の皆さんはどうですか?」
翠さんの呼びかけに、彼らは軽く視線を交わせると、揃って親指を立て意を示す。
「俺たちもオッケーです。じゃあ、このまま奥を真っ直ぐ目指しましょうか」
風鈴崋山のリーダー蒼破さんの声に応えるように、俺たちは再び神隠しの森と呼ばれる樹海へと進路をとった。
■ □ ■ □ ■
奥へと進むこと十数分。森の生息する動物や昆虫をモデルにしたモンスターの襲撃を幾度も受けるが、それらを難なく処理してさらに奥へと足を運ぶ。
それは人数が増えたことにより迎撃に余裕が出たということもあるが、なにより彼ら──風鈴崋山のメンバーが揃って優秀だったことが大きい。
パーティの前衛を行くソードダンサーの炎破さんは、軽装ながらもそのスピードと二振りの剣で危なげなく敵に斬りかかり、中衛でアーチャーの蒼破さんが攻撃に間を設けない様に弓による攻撃を繰り出している。
この2人だけでも敵からすれば相当に厄介だろうが、これに遊撃として動いている衛生兵で腐女子の峰破さんが加わることで、攻撃役がリスクを恐れずに存分に力を振るうことを可能としている。
IEOにおける衛生兵とは、前衛における生存力と後衛における回復力を兼ね備えたレア職の1つ。攻撃系アーツ、回避系アーツ、回復魔法を習得することのできる職業で、その立ち回りと育成次第では1人で何役もこなすことが可能となる。
彼女の場合は、攻撃に関してはやや苦手としているようだが、回避系のアーツを豊富に取得していることで、前衛から中衛の位置でパーティメンバーの回復役を担うことを可能としているようだ。
そしてその3人をさらに盤石とするのが、後衛に位置して皆を補佐する、付与魔術師の雷破さん。
味方に対しては攻撃力上昇、防御力上昇、速度上昇などの補助を。敵に対しては束縛、転倒、目くらましなどの嫌がらせとも言える支援を行い、パーティの生存率を劇的に向上させている。
この4人でここまでこれたのも、納得だ。
「凄いですね、皆さん」
同じ感想を、翠さんも漏らす。葵さんも同じ感想を抱いているような表情をしているが、あの恥ずかしがり屋さんはまだ唇が少し重たいらしい。
「ありがとうございます。これでもトップギルドに負けない様に頑張っているので、そう言ってもらえると励みになります」
常識人と常識人の会話だ。さすがギルドマスター。向こうのギルドの残りが中二病末期患者と露出狂の変態とオープン腐女子である以上、精神ポイントの削られない会話相手は自然と蒼破さんになりそうだな。
「でも、リーフさんだって凄いじゃないですか。占星術師って言えば、まだほとんどネットにも情報の上がってないレア職ですよ。その上、これだけのメンバーの指揮を執っているなんて、本当に尊敬します」
「え、そ、そうですか? ありがとうございます」
誉め言葉の応酬を制した蒼破さんは、翠さんの照れ笑いを見ると言う報酬を得ると、視線を葵さんに流す。
「ブルーさんがレア職である巫女の職業に就いていたことにも驚きました。パーティの半分がレア職だなんて、トップギルドに匹敵しますよ」
熱が乗ってきたのか、やや興奮気味に話す蒼破さん。しかし残念ながら、初対面でその話し方では、葵さんは引いてしまう。
それが彼にも伝わったのか、すぐに視線を俺とハイブのいる方へと切り替える。
「おふたりも、なんだか凄そうですね」
「「雑か、俺たちの扱い!」」
落差が激しすぎる。高低差で耳がキーンなるわ!
「あっはっは、すいません。今のは冗談です」
悪戯の成功したかのような笑みは、その言葉が真実であることを語っていた。
「俺たちのチームには盾役がいなかったので、ハイブさんの存在は心強いですよ」
頼られて悪い気はしない。
鼻の下をこすりながら笑う伸二の顔は、言外にそう語っていた。
「それに、射撃職のソウさんがいるお陰で、弓職の俺の負担が減って大助かりです。えぇ、いっそ、俺っていらない子なんじゃって思うくらいに……えぇ……」
よし、少し抑えよう。
翠さんと伸二に睨まれ冷や汗を流す俺の顔は、言外にそう語っていた。
次回『やはり俺たちのクエストはまちがってなかった。』
更新は月曜日の予定です。