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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
168/202

168話 やはり俺の新章には新キャラが待っている。

 1時間ほどかけて森の奥へと真っすぐ進むと、樹々が避けた様にしてできた開けた場所が見つかる。


 その場所には簡素な作りのテントが張られ、冒険者と思わしき風貌の男たちが、飲み物片手にくつろいでいた。


 俺たち以外にもプレイヤーが来ていたのか。不人気フィールドって聞いていたけど、似たような考えの人はやっぱりいるみたいだな。


 ここはリーダーの判断を仰ごう。


「リーフ、どうする?」


 相手がプレイヤーである以上、トラブルの起こる可能性はある。特に、レアなイベントの前だったりすれば、先を越されたくない者同士で争いが起こることも珍しくはない。


 見たところ相手の人数は、こっちと同じ4人。剣を持った前衛タイプが2人と、弓を持った中衛職、杖を持った後衛職が1人ずつ。


 こっちと似たような構成だな。ここまで辿り着いたってことは、よっぽど運がいいのか、サバイバルの知識を持った人間がいるのか。後者だと面白いんだが。


 さて、我らがリーダーの決断は。


「お話に行きましょっか。情報交換したいし」


 自分であれば、絶対に躊躇してしまうだろう。思わずその考えが頭を過るほど、彼女は自然にその言葉を口にした。この澄み切った空と同じ、真っ直ぐな瞳で。


「えー、男ばっかのチームじゃねえか。面倒くさくねえか?」


 自分であれば、絶対にそんなことは言わないだろう。思わずその考えが頭を過るほど、伸二は自然にその言葉を口にした。このぬかるんだ地面と同じ、淀んだ瞳で。


「はい、この馬鹿は放っておいて、さっさと行きましょっか」


「だな」


 葵さんの手を引き、4人パーティから馬鹿を引き離す。


「ちょ、まっ、冗談、冗談だって!」


 そのまま歩いていくと、テントを張って休んでいた彼らもこっちに気付き、視線を飛ばしてくる。


 その目には、好奇心と警戒心が五分と五分で混ざり合っていた。


「こんにちは。よければ少し、情報交換しませんか?」


 翠さんの声かけに、4人は顔を見合わせる。


「……いきなりPKを仕掛けて来るとかは勘弁してくれよ?」


 そう言うのは、金色に輝く弓を持った青髪の男。真っ白なロングコートに身を包み、青く鋭い瞳と清潔感のある整った顔立ちは、ファンタジー世界のイケメン主人公を彷彿とさせる。


 感じからして、彼がこのパーティのリーダーだろうか。


 しかしその目には、未だ強い警戒の色が浮んでいる。


「大丈夫です。私、PvPは拒否設定にしてますから」


 IEOにおいて対プレイヤー戦を行う場合は、互いにPvP設定を《承認》にしている必要がある。どちらか、あるいはパーティを組んでいる誰か1人でも設定を《拒否》の方へしていれば、PvPは承認されない。


 翠さんはそれを示すべく、自身のシステムウィンドウの設定画面を拡大し、彼らに見えるように提示する。


「……確かに。悪かったな、疑って」


 右手でくしゃりと青髪をかき上げ、男が翠さんに謝罪の言葉を口にする。この辺がすぐにできる辺り、悪い人ではなさそうだな。


「気にしてませんよ。じゃあ、軽く自己紹介してから情報を交換しませんか?」


「……ああ、いいよ」


 それから俺たちは、消耗したHPやアーツ、魔法のリキャスト時間の回復をしつつ、天幕の下で互いの情報を小出しに提示し合った。


 PKのリスクはなくなったとはいえ、フィールドで出会った以上はライバルだ。特に今は、エリア代表の座を争っているタイミング。完全に信頼し合って情報を交換するのは無理だろう。


 しかしそれでも、我らがリーダーは有用な情報に辿り着こうと舌を走らせる。河原に広がる石の中から、砂金を見つけるべく。


「じゃあ、風鈴崋山(ふうりんかざん)の皆さんは、難病に効く薬草を求めてこの森に来たんですね」


 自己紹介をすると長くなりそうだったし、この人数を覚えるのが面倒だったのか、互いにギルド名を交換し合う程度の簡単な自己紹介で分かったのは、彼らのギルドネームが風林火山を変換ミスして生まれた風鈴崋山だったこと。いや変換ミスって。


「ああ。NPCの婆さんが、泣きながら頼んできてよ。眠ったまま起きない孫を助けてくれって」


 あ、あれ、これって結構重要な情報じゃないのか?


 レアなイベントに繋がりそうな匂いが燻ってるぞ。あれ、この人たちって、もしかして良い人? ゲスの勘繰りをしてしまった?


「そんな病気が……初めて聞きました」


「俺たちもだよ。てか、NPCが病気に罹ることすら初耳だったよ。で、色々と調べて回ってたら、神隠しの森の奥に、万病を癒す薬草があるって聞いてな。探しに来てたんだ」


「そうだったんですね」


 青髪イケメン男の話に、翠さんと葵さんは感心しながら聞き入っている。


 たとえ仮想世界だとしても、人助けのために動く彼らの姿が、輝いて見えるのかもしれない。少なくとも俺の目には、彼らはそう映っている。


「なぁ、総」


 隣で腰掛ける伸二が、視線だけ飛ばして口を薄く開く。


「その万能薬って、リーフの言ってた世界樹と関係してるんじゃ」


「あー」


 俺たちがこの森に入ることを決めた理由の1つに、世界樹があるかも知れないという噂の存在がある。


 世界樹。


 聞けば誰もが天を衝く巨大で雄大な樹を想像するであろうソレが、この世界にあるかも知れない。その噂の真偽を確かめ、あわよくばその恩恵にガッポリ与ろう。そんな思いを抱いて俺たちはここまで足を運んだ。


 勿論、他にも何らかの隠しイベントがあるかも知れないことや、人の少ないフィールドであること、エリアボスに関する情報を得られるかもしれないことなどの打算もあるが、彼らの話を聞いて、世界樹の噂が真実である可能性が一気に浮上してきた。


「だとしたら、リーフも」


 その情報を彼らと共有するかもしれないな。そう口にしようとしていると、それよりも早く、彼女の口はそれを肯定した。


「私たちがここに来た理由の1つが、世界樹があるかも知れないって噂を聞いたからなんです」


 その噂の出どころは、ハローワークに勤務しているNPCからだが、経緯が経緯だけに、彼らがこれを知っている可能性は微妙だ。それに、この情報がなくてもどっちにしろ彼らは奥を目指す。であれば、彼らの誠意に応えたくなるのが人情というもの。少なくとも、俺の知る翠さんとはそういう人だ。


「世界樹? そんな情報は初めて聞いたな。情報サイトにも載ってなかったと思うぜ。これは信憑性出てきたな、蒼破(そうは)


 そう言って青髪イケメン男──蒼破さんというのか──の肩を叩くのは、燃えるように赤い髪をしたつり目の男。頭の左側が刈り上げられたボウズ、残りが右に流れるような長髪になっており、左の頬には赤い文字で『火』と書かれてある。見た目が派手な彼らの中でも、特に印象深い容姿をしている。


「ああ。もしかしたら、本命は大阪城じゃなくってこっちだったかもしれないな……なぁ、皆、ちょっといいか」


 そう言うと、蒼破さんはチャット画面を開きなにかをタッチしている。おそらく、パーティチャットを使っているのだろう。一体どうしたんだ。


 それから十数秒もしないうちに、彼──彼らは一斉にこっちを向く。


「あの、良かったら、でいいんだけど、俺たちと一緒に行かないか?」


 その提案は、その場の空気を一気に変えた。


 情報交換程度にしか思っていなかった相手が、共通の目的をもった仲間にならないかと誘って来てくれたのだ。


 これまでの人生、伸二以外からほとんどそういった声かけをされたことのない俺の心は──酷く揺らいだ。


「そうねぇ、私はいいと思うけど……ちょっと話をさせてください」


 そう言って、今度は翠さんがパーティチャットを開く。


【皆はどう思う? 特に葵】


【わたし? うーん……知らない人は、少し怖いかな】


【やっぱり? じゃあ止めとく?】


【おう、止めようぜ。あんなイケメンがいるパーティと一緒に行動なんてできるか】


【アンタは黙ってなさい】


 文字と一緒に、翠さんの見事なリバーブローが横っ腹に入る。アホめ。


【総くんは?】


【俺は葵さん次第かな】


 嘘です。正直、向こうから誘ってくれて本当に嬉しいです。すっごくご一緒したいです。


 しかし、ここは葵さんの気持ちを優先したい。


 現実の容姿を、本来(こっち)の容姿に近付ける決断を下した彼女の気持ちを。


【そっか。じゃあ、葵、止めとく?】


 彼女の指が、一瞬震える。


 今すぐに抱きしめたい感情が湧き上がるが、それをぐっと堪え、葵さんの答えを待つ。


【ううん、一緒に行ってみたい。何かあっても、総くんが護ってくれるし】


 抱きしめたい。畜生、俺の彼女はなんでこんなに可愛いんだ。


【出たよバカップル】


【あー、ハイハイ、それは後でリアルで好きなだけやんなさい】


 そう書き残し、翠さんはチャット画面を閉じて彼らに向き合う。


「じゃあ……よろしくお願いします」

次回『やはり新章の登場人物はキャラクターがあらぶっている。』

更新は木曜日の予定です。

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