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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第6章 チュウゴク激動編
162/202

162話 あの不器用な悪魔に恩返しを(後編)

「遅いな……アイツ……」


 いつもならこの時間にはここで横になってるのに……どうしたんだろ。あ、もしかして――


「嫌われた、のかな」


 昨日、あれだけのことをしたのだ。気持ちが悪い奴と思われて当然かもしれない。折角、ともだちになってくれるって言ったのに……。


「失敗……した……」


『なにを?』


「ふおおおおおおおお!?」


『ふああああああああ!?』


 急な声かけに驚く私と、驚いたことに驚く悪魔。なんだこれ。


「あ、あ、あ、アンタ……何でもない」


 遅いじゃない、とは言えない。別に時間を指定して約束したわけでもない。私が、ずっと一方的に待っていただけだ。


『いつもより遅くなってごめんな。倒すのに手間取ってさ』


「倒すって……誰を?」


『ボスを』


「ふ~ん……はぁああああああああああああ!?」


『おう、なんなんだ、今日は。絶叫大会かなんかの練習か?』


「誰のせいだ! え、ていうか、倒したの!? ボスを!? ソロで!?」


『倒したよ。ボスを。ソロで』


 ほ、本当に? 冗談……を言ってる雰囲気じゃないな。


『はい、これ』


 そう言って、悪魔は巻物(スクロール)のようなものをこちらに放る。


「わっとと。え、なにこれ」


『やるよ。俺には無用なモノっぽいし。譲渡可能アイテムだったし』


 紐をほどくと、空中にメッセージが浮ぶ。


《海外渡航券:任意の海外サーバーへ、期間限定でインすることが可能》


「これ……」


『日本に興味があるんだろ。それで来いよ。仮想世界だけど、アニメとかのコラボコンテンツも結構沢山あるから』


「アンタ……もしかして、このためにボスに?」


『いや、ただの偶然』


 そう話す悪魔は、普段よりかも少しだけ口調が堅かった気がする。


「そ、そう。あ、でも、こんなの貰えないわよ! これってボスドロップでしょ!? 譲渡可能ってことは売却も可能ってことだし、売ればもの凄いお金になるわよ」


『金かぁ、それもいいな』


「でしょ!? じゃあこれはアンタが――」


『でもそれだと、お前は笑わないだろ?』


 時計の針が、動く音がした。


『笑えよ。その方が、楽しいだろ?』


 静かに動いていた心臓が、跳ねた気がした。


『一緒に笑うのが、ともだちだろ?』


 悪魔は……本当に、人の心の隙間に入り込むのが、上手いな。


「……そう、なのかな」


 どうしよう。嬉しすぎて、わけがわからなくなってきた。急にこんなに恵まれて、本当に大丈夫かな。


 それからしばらく、私と悪魔は話をした。これまであった少しの楽しかったこと、たくさんあった辛かったこと。互いのことを、色々と。


『そっか……辛いことがあったんだな』


「アンタも……苦労してるみたいね」


 付き合ってる彼女と、未だに手も繋げないなんて……ラノベの主人公みたいな悪魔だな。


「こっちのサーバーにいるのも明日までよね? いいの? イベントに参加しなくて」


『いいよ。ボスと遊べて満足できたから』


「そう。あ、でも、結構大変なことになってるから、その方がいいかもね」


『大変なこと?』


 首を傾げる悪魔に、ゴーストタウンで起きようとしている事態を告げる。


『そんなことになってたのか。全然知らなかった』


 あれだけボスアタックに夢中じゃ、仕方ないかもね。


『しかし、良く知ってたな。そんな情報』


「連絡が来たのよ。ゴーストタウンを包囲するから来いって。まぁ、無視しちゃったけど」


 連絡を寄こしてきたのは、学校の同級生で、アメリアと同じように私に接してきた男の1人。少し前の私だったら、この命令に震えながら参加しただろう。


『無視していいのか?』


「いいのよ、あんな奴ら」


 少し心に余裕ができたせいだろうか。普段の自分なら話さないことまで、口にした。してしまった。


『そうか……』


 そう言うと、悪魔はある方角に仮面を向ける。


『やっぱり同族のピンチは放っておけないな。よし、助けに行くか』


「いやいやいや、さっきと言ってること全然違うから! ちょっとヤメテよ、私のことならもう大丈夫だから」


 私のことを貶めていた相手がいる方角に、強い感心を抱く悪魔。


「私、もう大丈夫だから! アンタのお陰で、少し視界が開けてきたから。だから、もうこれ以上、私の為にしないで!」


 そんなにされたら、もう返しきれない。対等なともだちでいられなくなる。だから、これ以上は――


 しかし悪魔は、こんな時だけ、本当に悪魔っぽく喋る。


『なんのことだ? 俺は、同族を助けに行くだけだぞ?』


「信用できるか! ていうか、アンタがいくら強くてもひとりじゃ無理だって! 死にに行くようなものよ!」


 ボスをソロで倒すような化け物なら、もしかしたらと思わなくもないが、それは表に出さない。


『やってみなけりゃわからないだろ。それに――』


 悪魔は私の制止を聞かず、そのまま歩を進める。


『ともだちを泣かした奴をぶっ飛ばすのに、理由なんているか』





 ■ □ ■ □ ■





 風になびく草原の絨毯。その上に寝転がり、道具袋を枕に空を見上げる。


 アイツはまだ来ていない。昨日あいつのやったことを考えれば、それも仕方がないと思うべきか。


 直に見たわけではないが、情報サイトのコメントを見れば、昨日ゴーストタウンで何が起こったのかは想像に難くない。


 あの、阿鼻叫喚のコメントを見れば。


「アイツ……本当に、悪魔なのかな」


 まさか、あの包囲網を突破するなんて。凄いとは予想していたけど、軽くその上をいかれたな。


「もう、来ないかもしれないな」


 彼が日本のプレイヤーと言うことは、このアメリカサーバーにインできるのも、今日までだ。最後ぐらい、自分の好きに回りたいかもしれない。


 でも、叶うなら――


「さよならぐらい……言いたかったな……」


『誰に?』


「ふおおおおおおおおおお!?」


『ふああああああああああ!?』


 急に視界に現れた一つ目の仮面に飛び上がる。悪魔も飛び上がっている。デジャブ?


「アンタはそんな声掛しかできないのか!」


 あれ、なんだか普段と様子が違うな。全身から出る赤いオーラがないし、角も生えてない。肌も普通だし。一緒なのは金髪と、仮面が付いてるぐらいか。


『いや、スマンスマン』


 悪魔は詫びを入れながら隣に腰掛け、同じ空を見上げる。


「ねぇ、昨日のことだけど」


『ん、あぁ。なかなか楽しかったよ』


「そ、そうですか……」


 1000人に囲まれた戦場に行ってその感想が出るなんて、さすがだな。私とは頭のネジの締める場所が違う。


「今日、帰るんだよね」


『あぁ。もう少ししたら、こっちのサーバーにインできる時間が切れるな』


「そう……」


 折角、ともだちが、できたんだけどなぁ。


『なぁ』


「な、なに?」


 普段の倍は速く、口が動く。


『ともだち、増えるといいな。お互いに』


「そう、ね」


 すぐには動けないかもしれない。でも、もうずっと止まることはないだろう。ともだちの素晴らしさを理解できた、今なら。


『あ』


 何かを思い出したかのように、悪魔は立ち上がる。


『名前!』


「……え?」


『名前! まだ、自己紹介してない、俺たち』


 そう言えばそうだな。私は彼のことを悪魔って呼んでたし、向こうも私のことを呼ぶことがなかったから、気にしてなかった。いや、気にする余裕がなかったと言うべきか。


『あ、あの、俺は――』


 名を言いかける彼の仮面に、手を添える。


「最後のお願い……仮面を取って、くれない?」


 なにか理由があるのは容易に予想できる。仮想世界でも素顔を晒したくない人も多いから、似たようなものを装着する人だっている。


 だけど……。


『そうだった。ゴメン、最近これ付けるのが癖になってて』


 そう言うと、悪魔は一つ目の仮面を外す。


『ソウ。俺の名前。職業はガンナー』


 こっちでも珍しい緑色の目。白い肌。奇麗な金色の髪。私なんかよりかも、よっぽどアメリカ人っぽい彼に、しばしの間、見惚れてしまった。


『その……今更だけど、よろしく』


 少し赤くなってきた顔を俯け、右手を差し出してくる。その行動で、私の止まっていた時も秒針を刻みだす。


「あ、うん。私はエル。職業は盗賊よ。よろしくね……ソウ」


『あぁ……エル』


 繋がっている手が、徐々に熱を帯びてくるのを感じる。いや、私が熱を発しているのかもしれない。


『あ』「あ」


 彼の、ソウの体が光を帯びてくる。小さな光の玉が生まれ、それが天へと還っていく。


『時間みたいだ』


「そう、みたいね」


 まだ、話したいことが山ほどある。伝えきれていない想いが――


「あ、あの! 私、本当に感謝してて!」


 まだ、全然――


「ソウのお陰で、少しだけど、立つことができた!」


 だから――


「だから!」


 そこまで来て、言葉が出ない。肺から息が、出てこない。まだ、まだだ。まだこの想いを伝えきれてない。


 徐々に強くなっていく光。それを逃がすまいと、必死にソウの手を掴む。


 すると――


『エル』


 ソウの手が、頭にポンと乗る。


『――またな』


 その笑顔は、光の中に消えていった。


 私の中に、大切な、かけがえのないものを残して。




 草原に1人で立つ私は、堪え切れないものを大量に零しつつも、彼の言葉に応える。


「うん……またね」





 ■ □ ■ □ ■





 ソウと別れてから数日。私を巡る環境――いや、私の見ていた景色は大きく変わった。


 まず、あの日の翌日。私は意を決し、学校へと通った。しかし、決意の炎を瞳に灯す私の前にあったのは、驚くほどの無関心。


 あれだけイジメを楽しんでいたアメリアやその取り巻きは、私のことを見ても知らんぷり――どこか避けているようでもある――で、話しかけようともしない。それ以外の人は、元から私には無関心だった。


 ――なんだ。誰も私のこと、そんなに見てないじゃん。


 あれだけ怖かったはずの周囲の視線。しかしそれは、ほとんどが自分の過剰な意識だった。多くの人にとって、私はそこまで気にするべき人間ではない。そのことがわかって、張り詰めていた空気が、急に(しぼ)んだ気がした。


 まだ友達を作れるほど行動はできていないけど、それだって、いつかはなんとかしてみたいと思う。




 そんな決意を胸に、私はIEOのとある町の一角に立つ。


 手には、ソウから貰ったあのスクロールを握りしめて。


「大体こんな感じでいいかな」


 貯まっていたお金を全部使って、服装を一新。盗賊スタイルから、日本の花魁をモチーフにした軽装の着物を着用する。


「髪は……この髪型ならいいかな」


 髪型を背中まで伸びるロングのツインテールへと変更する。長さまで大きく変わってるし、化粧もバッチリしてソバカスも消しているから、これなら私とはわからないだろう。というか、自分で見ていても自分とは思えない。


「あ、そうだ。ついでだから、口調も特徴的なやつに変えよ。せっかく花魁風になってることだし、ここは口調もそれっぽくいこう――でありんす」


 さて、後はプレイヤーネームだな。さすがに、エルのまんまだと即行バレちゃうだろうから……そうだ!


 ネーム変更アイテムを使用して、空中に浮かぶ文字をタッチする。最後に音声認識でっと……。


 日本には、鶴の恩返しという物語がある。じゃあ、その鶴を英語で――


「――クレイン」


 待ててね、ソウ。今度は私が、恩を返しに行くから。 


 中々進展できないって言ってた日本の彼女との関係。後押ししてあげるからね。日本の少女漫画を参考に勉強したから、恋のアシストはバッチリのはずだよ。


 まずは、恋のライバルが現れるところからスタートだね。そして次は――

これにて本章はお終いです。

サイコパスな新キャラが多数登場した章でしたが、お楽しみいただけたでしょうか。

楽しめたという方は、これを機にブクマや評価をしていただいてもいいんですよ?(チラッ


さて、次話は掲示板回。

来週の水曜日に投稿予定です。

それでは(´・ω・`)ノシ

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