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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第6章 チュウゴク激動編
157/202

157話 この24秒の戦いに鎮魂歌を

 ここからは一切の出し惜しみなし。全力戦闘。全身全霊。一生懸命。一球入魂。大量虐殺。


 その最初の一手は、拳銃自殺から始まった。


『!?』


 もはや毎度おなじみの光景に、葵さんはあーまたかという顔を。スサノオは今日何回目かの驚きを、その顔に貼り付ける。


 さっきまでの無理な回避運動のせいで、体の各所が悲鳴を上げ、HPをじわりじわりと削っていた。だから、頭に2つの銃痕を刻めば、HPはレッドゲージになる。


 ――そうして、鬼は生まれる。


『生命力を贄に捧げて得る身体強化か。これは……』


 時間は有限。なにより、空間を支配するタイプの敵に長期戦は不利。ここでこいつを、


『手強いな』


「倒しきる!」


 地面を蹴ると、そこは靴型に大きく抉れ、あとには微かな残像だけが残る。


『ふん!』


 両手を指揮棒のように振るうスサノオ。それに応じて地面の各所から石槍が噴出するが、もう動きは読めている。奴があれを顕現させる際、手の動きだけでなく、視線もそこに固定しなければならないのはもうわかった。どこから、いつ来るのかがある程度見えていれば、もうあれは喰らわない。


 一直線の疾走からの急制動。そして方向転換。そこから再び疾走。それを数回、スサノオまでの最短距離で繰り返すと、互いの距離は一馬身ほどへと変わる。


『この――』


 この距離、そして鬼の身体能力を手に入れた今の状態なら、ここは銃よりも格闘戦の方が有効だ。刃の付いた得物があれば言うことはなかったが、全部離れた位置に飛ばされたか、俺が天井にぶっ刺したからな。ないものは仕方がない。殴ろう。


『ひでぶっ!?』


 左の頬が弾け、鮮血が舞う。


 しかし、ひでぶときたか。なら、こちらも藤堂家秘伝の百裂拳でいこう。


「あたたたたたたたたたたたたたたたたた、あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた」


 マシンガンに撃たれているかのように棒立ちで体を小刻みに震わせるクソきざスサノオ。


 あ、ちょっと疲れてきた。よし、蹴りも混ぜよう。


「うらぁ! あたたたたたたたたたたたたたたたたた、あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた」


 もう赤くて振るえててで原型がよく見えない。熟れすぎたトマトが高速バイブレーションされているかのようだ。


 よし、肘も混ぜよう。


「おらおらおらぁああ! あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた、あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた、おわったぁああ」


 最後の言葉と同時に、両の掌底をみぞおちに叩き込む。すると奴の体は、大砲から打ち出されたかのような勢いで後方の壁へと激突する。


『ガハッ!?』


 そのままがっくりと項垂れるようにして、地面へと腰をつける。よし、


「――リロード《徹甲焼夷弾PT-X1》!」


 両目、両肩、心臓。炎を噴き出して燃え尽きろ!


『ぐっ』


 右手に付いた盾が動き、右肩と両目に向かっていた弾丸を弾き飛ばす。徹甲弾すらはじくのか、あの盾は。だが、



『がぁああああああああああああ!』


 左肩と心臓にそれぞれ入り込んだ鋭利な弾丸は、体組織の隙間を縫うようにして深く侵入した直後、爆炎を噴き上げる。


『あああああああああ……あああ!』


 悲哀な絶叫が、気合へと変わる。その息吹ともいえる咆哮の直後、奴のHPはレッドゾーンへと突入し、


『――黄金時代!』


 やはり来た。レッドゲージに突入した際に表れる、ボスクラス特有の変化。


 ナガサキの鬼は巨大化した。キュウシュウの隠しレイドボスである神・イモートは竜化。この前の緊急クエストのボス鬼は、光の力を纏い神格化した。こいつも絶対に何か来ると思っていたが……。


「黄金化か」


 見ただけでわかる。あれは金だ。全身が金ピカに輝いている。防御力アップ系の変化とみていいだろう。問題はそれが、どこまでか、だが。


「リロード《徹甲弾PT-X》」


 これをどのレベルまで受けれるかで、おおよその見当がつく。もし表皮だけだったなら、紙を突き破るように弾丸はその身を貫くだろう。だがもし、これも通じないのであれば……。


「……駄目か」


 額へと放たれた貫通力特化の弾丸は、甲高く硬質な音を上げながら跳ね返されてしまう。


 表皮だけではない。筋肉、いや下手をすれば骨格や内臓すら、金と化しているのかもしれない。だがそんなことあり得るのか? それでは、


『無駄だ。今の私は全身、余すところなく黄金と化した。もはや一滴の血すら零さぬぞ』


 全部って……それじゃあ……。


「それただの金の像じゃねえか! なんで動くんだよ!?」


 全身が金。金100%。それはもはや生物ではない。ただの金だ。ただの金が、動いて喋っている。俺はこれまでのVRゲーム経験の中で、最大の疑問に直面していた。


『……言われれば確かに』


 納得しちゃったよ! 自分の存在を揺るがす事実に冷静に向かい合っちゃってるよ! こいつのキャラが全然見えてこないよ!


『そんなことはどうでもよい。私はこれで、貴様を倒す。ただそれだけだ』


 透き通った、真っ直ぐな瞳だ。あの目に射抜かれると、何だかこっちが悪者になった気分すら感じる。


『――黄金左腕(ゴールデンサウスポー)!』


 ほころび始めた心の隙間を縫う様に、地面から生えた巨大な黄金の左腕が5本、弧を描くようにして殴りかかってくる。


 あ、あれ? こんなもん?


 石槍を躱していた時と同じ要領で躱し、金ピカスサノオ――略して金スサとの距離を詰める。


『――黄金の左足!』


 天上から巨大なスパイクの裏が5つ、急降下して降ってくる。小学生に踏み潰されるアリになった気分だ――って悠長に見てる場合じゃねえ!


「っと! てかその技名ならボールを投げるなり蹴るなりをしろよ!?」


『ふんっ、凡人の発想だな』


 凡人、大いに結構。みんなと同じって素晴らしいことじゃないか。よし、距離を詰めたぞ。さて、その体に鬼の拳がどこまで通用するか。


「試してや――る!」


 分厚い鉄の扉を殴った感触が拳に伝わる。リアルだったら間違いなく骨折したな。だがここは仮想世界。そして俺は鬼だ。であれば、


『むっ、私の体を僅かとはいえ後方に飛ばすとは……呆れた奴だな』


「そりゃどーも。しかし、ダメージはゼロか」


『ふん、この体に物理攻撃など――効かぬ!』


 金スサが両手を前に突き出すと、足元から黄金の柱が突き出てくる。いいなぁその柱。何本かくれないかな。


 体を反転させ躱しつつ、再び前進する。


 しかし、徹甲弾も拳も駄目、か。魔法なら効くかもしれないが、俺、魔法なんて持ってないしな。極光六連なら効くだろうが、今は条件(ゲージ)が揃ってないから撃てないし……。


『いい加減に――止まるがよい!』


 地面から巨大な金の壁が突出し、行く手を強引にさえぎにかかる。こうなってくると奴までの道筋は、壁の右端か左端か……どう考えても待ち構えられてるな。


 ――よし、アレでいこう。


「――鬼神!」


 組み変わっていく体組織がゴキゴキと激しい音を立てる。全身の肌は血の色に染まり、髪が逆立つ。黒目の部分は紅く。白目の部分は黒く染まり、犬歯は肉に深く食い込む長さにまで伸びる。


 HPは25%ちょうど。1秒に全HPの1%が削られるこのスキルの残り発動時間は、24秒。この24秒に、全てを賭ける!


『さぁ、出てこい下郎! 右でも左でも、貴様の生き残れる道はないと知れ。おっと、怖いならばそのまま引き返しても良いのだぞ。私は逃げる相手は追わな――上っ!?』


 壁の高さは4メートル程度。鬼神の体と疾風があれば越えるのは容易い。これであいつの反応を一手遅らせることができた。


()っ!」


 壁の上にかけた足を、全力で蹴る。鬼の筋力で作られたスピードはすさまじく、ほぼ一呼吸の間に金スサの前に躍り出る。


『この体に、拳など効かごべらっ!?』


 みぞおちに拳を捩じり入れると、金スサの体が浮き口からモザイクのかかったエフェクトが零れる。


 よしよし、効いたな。体が硬くなったのなら、それ以上の力で殴ればいいじゃないか作戦は成功だ。


 残り21秒、フルボッコだ!


「おらぁあ!」


『あべし!?』


 再び藤堂百裂拳をみまってくれよう。そう思い左拳、右拳、右肘鉄のコンボを決めた辺りで気付く。このままでは削り切れない。手数、威力が足りない。


 鬼神の力でも削り切れないなんて……本当になんて防御力だ。


 ――それなら!


「炎刃カカク!」


 左右の前腕。その小指側から、赤い刃が顕現する。鬼神の能力の1つ。全身武器化だ。さらに、


「炎刃ココウ!」


 両足の脛骨に該当する部分――膝から足首にかけて――から、骨すら焼き尽くす炎が燃え上がる。仕上げが、


「こい――鉄甲武具《破壊王子》!」


 両の拳をすっぽりと、ミスリル製の鉄甲が覆う。


 少し前まで完全に無関心だったことだが、この世界の武具や防具の材質というのは非常に重要な物らしい。鉄や銅を主として作られている武具は、その多くが他に比べて安価で、作る側からしても最もオリジナリティを発揮しやすいらしいが、攻撃力、防御力は控えめとなってしまう。


 対して、プラチナやミスリルといった希少金属は、高価かつ求められる製作スキルのレベルも高いが、その性能は他と隔絶している。攻撃力、防御力が高いだけでなく、魔法の効果を内包することすらできるというのだから。


 スミスさんが言うには、紅蓮徹甲弾や回天炸裂弾は材質にミスリルを使っているのだとか。ならばあの威力も少しは納得できる。そして、この鉄甲武具《破壊王子》もミスリル製だけあって、魔法の効果を内包している。


「これで六刀流。攻撃力六倍だ。覚悟しろ!」


 ミスリル製の鉄甲武具《破壊王子》が金スサの左脇腹に食い込み、肝臓を持ち上げる。


『ごばはっ!?』


 拳を捩じり、右腕に直角に付いている炎刃カカクを左の腰から右の肩にかけて走らせる。


『がぎゃっ!?』


 勢いを殺すな!


 燃え盛る右足を左脇腹に叩き込むと、金スサの体がくの字に曲がる。


『おげぇっ!?』


 よし、効いている。しかしこの攻撃、いやコンボとでも言うべきか? まぁなんにしろ、ちょっとこれはカッコいい気がするぞ。葵さんの前でもあるし、このコンボには技名を付けてもいいかもしれない。六刀流、六倍、ふーむ……よし!


「――鬼業六連(きごうろくれん)!」


『あばばばばばばばばばばば!?』


 ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!


『ばばばばばばばばばばばばばばば!?』


 ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!


『おべべべべべべべべべべべべべべべべべべ!?』


 死に体。全身をベッコベコにへこませ、大の字を描き宙に浮く金スサに相応しい言葉だ。


 その死に体に、最後の力を、命を振り絞る。


 これが最後の奥の手。自分のHPの5%を消費して打つことのできる鬼神専用アーツ。右手を金スサの額に添え、放つアーツ。その名は――


「――鬼気発勁(ききはっけい)


 切り札を口にした直後、奴の全身は裂け、その割れ目から赤いエフェクトが噴出する。


「あぎ、鬼神、解、除……」


 鬼神の反動で、膝が笑う。腰が砕けそうになる。肩が落ちそうだ。


 HPも、デコピンを食らっただけでも死にそうな程度しか残ってない。


 もし、これで倒しきれていなかっ――


『ばはっ……はっ、はは』


 口、いや全身の穴という穴、裂け目から鮮血を駄々洩れ流しつつ、未だ死んでいないその目で俺を射抜く。


『本当に、冗談じゃ、ない。が――』


 黄金の右手が天へと掲げられ、その掌に光が集う。


 ――ヤベェ。もう、本当に、体が、動かねぇぞ。


『まだ……まだ、私は――はぁ!』


 掌の光は、そのまま天井へと飛翔し、ぶち当たり、なおも突き破り――え?


『今ので……オロチは、少しだが、弱体化した……』


「は?」


『なんだ……その顔は。私はオロチを封ずる神、スサノオ。たとえ、死期が、迫ろうとも、役目は、果たす』


「お前……」


『本当は……完全に、弱体化、させたかったの、だが……貴様のせいで、台無し、だよ』


「……自業自得だ」


『はっ、はは……姫と、私の命を、捧げることで完成する、究極の封印術……それが成せれば、この地には、確実な平和が、訪れていただろう』


「それは、防いで大正解だったぜ」


『言いよる……世界の平和と、女の命。どちらが大事かなど、わかりきっておろうに』


「あいにく、自分の幸せを最優先にする自己中野郎でね」


『はっ、それは……私も……運が、悪い……』


 その言葉を最後に、クソキザ金ピカ野郎は、その眩い体をなおも輝かせ、やがて、完全な光となって消えていった。


「……戦いだけは、楽しかったぜ」

次回『この素晴らしい関係に警告を』

更新は来週の水曜日の予定です。

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