表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアルチートオンライン  作者: すてふ
第6章 チュウゴク激動編
156/202

156話 この極限の戦闘に新兵器を

「覚悟しろよ、クソ野郎。そのポンコツAIに、徹底的に恐怖を刻み込んでやるからな」


 溢れ出る憎しみを闘志に変え、地面に伏したクソキザ野郎を睨む。


 そう言えばあいつの名前聞いてなかったな。ま、いいか。倒せばどれも光になる。さっさと電子の海を彷徨わせてやる。


『が……ひゅ……』


 喉から刀を、耳からナイフの柄を生やすゲス野郎。苦しみにその顔を歪めつつも、自身に刺さる凶刃を両手で引き抜く。おお痛そぅ。


『くっ』


 引き抜いた刀とナイフを、それぞれ左右逆の方向へと投げる。


『……随分と、随分なことをしてくれる』


 全身についた砂をパラパラと落とし、キザ野郎がゆっくりと立ち上がる。


『姫の御前であるし、向かってこない限りは見逃す気だったが……もう手遅れだぞ、下郎。貴様は私、スサノオを本気で怒らせた。その罪は、万死に値する』


「こっちは元から許す気は皆無だったから、最初から手遅れだ、クソ野郎。てかバン氏って誰だ」


 気に障ったことでもあったのか、眉をひそめ、変な顔をするクソ野郎、もといスサノオ。しかしその顔をすぐに引っ込め、元のきざったらしい余裕のある笑みへと戻す。


『言葉は不要。では今度はこちらから行く』


 そうは言いつつも、スサノオは直立の姿勢から構えも取ろうとせず、ただこちらを見つめている。しかし、油断はしない。


 これまでのやり取りで、こいつの反射神経、身体能力は概ね把握できた。ただの殴り合いならさほど怖い敵ではないが、それだけのはずがない。


 ん、なんだ、いきなり手を前に出し――っ!?


 思考を遮り、体を半歩後方へ下げる。直後、目の前に鍾乳石のような鋭い石の槍――太さは電柱ぐらいか――が飛び出す。


「やっぱり来たか!」


 この石の槍に、腹を貫かれたからな。詠唱もなく手の動きだけでこの攻撃が出せるのは意外だったが、この攻撃自体は読めていた。


 それを察してか、スサノオは関心とばかりに息を漏らす。


『ほぉ、あれを躱すか。なるほど、口だけではないようだな。では次だ』


 こちらから視線を外さずに、手だけをエックス状に動かしてくる。その動きに応じて、地面から石の槍がそれぞれ左右の斜め下から突き出てくる。両脇を抉りに来る、殺傷力マックスの攻撃が。


「っ!」


 しゃがんで躱し、そのまま一直線に疾走する。


『ふむ、速いな』


 そう口にしつつも、手は止まらない。いや、さっきよりも振りが速くなったか。


 地面から横並びの三本の槍が、こちら側に傾くような角度で突出する。それを横に避けてやり過ごし――


「――っ!?」


 天井へ伸びる槍の横から、さらに槍が生えて首筋を掠める。


 見れば、スサノオの手は上に向けられているが、親指が横に伸びている。なるほど、そういうこともできるのか。


『足が止まったな』


 天井を向かい大きく開かれたスサノオの手が、ギュッと握りこぶしに変わった瞬間、俺の四方、いや八方から石槍が弧を描きながら迫る。


『はっはっは、これはさすがに躱せ――るのか。呆れた性能だな』


「そりゃどーも!」


 返礼に鉛弾を喉仏に送るが、それは奴の左腕に付いている円形の盾に防がれた。


 あの盾の動き、弾道をあらかじめ読んでる感じだな。もしや、アーツ以外の攻撃は防がれるとか、そんな俺殺しの設定はないよな。


 そう考えている間に、天井から石の槍がダース単位で降ってくる。はいはい、回避回避。


『ぬぅ、本当に呆れた回避性能だ』


「お前も、呆れた防御性能だな」


 槍の雨を躱している間、奴の至る所に弾丸を放ってるが、上半身に関してはあの盾で防がれ、下半身に関しては事前に察知したかのような動きで回避されてしまう。


 互いに決め手に欠けるこの状況。打開するとしたら――


「迅雷!」


 接近戦しかない!


『っ!?』


 一気に懐へ潜り込み、左の掌底をどてっ腹にぶち込――む前に、盾が間へと割り込む。


 それを――


「待っていた!」


 そのまま左手で盾を掴み、肘を逆間接に極めるようにして捩じる。


『ぐっ!』


 そのまま抵抗していれば靭帯断裂と骨折のコンボは確定だったが、スサノオは自分の体ごと跳びあがり、捩じりに逆らわぬように空中で回転する。


 やるじゃないか。腕の一本をここでもらおうと思っていたが。仕方ない。


「コレで妥協しよう」


 空中跳躍のブーツ《疾風》を使い、回転するゲスのさらに上に、二段ステップで躍り出る。観衆がいれば秘儀三角跳びと声高に叫びたいところだが、ここには救い出すべき姫と、滅すべきゲスしかいない。


 体を限界まで捩じり、渾身の蹴りで奴の背骨を、


「叩き折る!」


『ごふっ!?』


 サッカーで言うバイシクルシュートに近い形の蹴りを受けたゲスが、顔を苦痛に歪めたまま地面へと急降下する。


 そのまま落下すれば、俺の耳にはドグシャという心地よいい音が聞こえるだろう。


 しかし、それらの期待を裏切り耳に入ってきた音は、ドグシャでもボガンでもなく、ドポンだった。


「なっ、沈んだ!?」


 地面が水面に変質したかのように、奴の体は溶け込むように地面へと沈んでいく。


 地面を槍状にして操る能力だけだと思っていたが、どうもそうじゃないらしい。


「……厄介だな」


 姿は見えないが、気配はある。問題は、その気配がそこら中から発せられていることだ。この空間全てが奴になったと言ったほうが近いかもしれない。


 この状態から、ひたすらにあの石の槍で攻撃されたら、さすがにどうしようもないな。翠さんみたいに高威力の魔法が使えれば何とかなるかもしれないが、俺の一手一手の攻撃は軽い。地面深くに潜るゲス野郎をぶん殴る(すべ)がない。


『――石燕!』


 周囲の地面を警戒していた俺の耳に、天井からクソ忌々しい声が聞こえる。


 ――そっちか!


 そう思い首を捻り見上げると、天井からは奴の上半身が生え、さらにその周囲に、翼を広げて滑空する無数の鳥の姿があった。石で出来た翼は見た目にも鋭利な光を放ち、切り裂くのが空だけでないことを容易く想像させる。


 これを全部躱すのはちょっと厳しいな。よし、こういう時のアレだ。


「こい――双刃ナータ」


 呼び声に応え両手に納まったのは、刃が前方向に歪曲した異形の剣。現実でこれに最も近い形状の武器は(なた)やククリ刀だろうか。刀やナイフよりも先端の重心が重く、また分厚く頑丈にできているこの武器は、対象を斬るだけでなく、破壊することにも向いている。


「――ふっ!」


 双刃を高速で回転させるように振るい、自身もその流れに逆らわぬように回転する。何かのテレビで見た部族の舞いみたいでもあるな。舞いか……よし、ブレイドダンスと名付けよう。


 そうして数秒間、時折足業も交えつつ対応していると、降り注ぐ石の鳥はことごとく土へと還っていった。


『……デタラメな』


 隙ありだ。踊り終わりのフィニッシュよろしく、両手を振り上げ双刃を投擲する。


『っ!?』


 ちっ、ギリギリで天井に逃げたか。次はどこから来る……。


 再び訪れた静寂。しかし、この静寂はすぐに消えることになる。それはこの場の全員が理解しているだろう。


「そ、総君!?」


 わかってるよ、葵さん。ありがとうな。


「右だろ――リロード《徹甲弾PT-X》」


 ぐるりと首を右に回すと、目を開大して驚きを露わにするスサノオと視線が合う。


 何をそんなに驚いている。どこに潜んでいるのかはわからなくとも、現れる時の微妙な気配の変化はわかる。さすがに何度も見せられれば慣れたぞ。我が最愛の天使に比べたら、お前の隠形などゴミだ。


 こちらに向けて手を伸ばすクソ野郎に照準を合わせ、怒りを乗せた弾丸を放つ。


『ぼばっ!』


 攻撃に移る瞬間を狙ったせいか、盾で防がれるだろうと思っていた弾丸は奴の喉元を貫通し、赤黒い痕跡を残す。


 地面に逃げられても当たるように、貫通力重視の徹甲弾を選んだが、こんなことなら炸裂弾や焼夷弾を選べばよかったか。


『ごの……痴れ者がぁあ!』


 血管を浮かび上がらせ激高したスサノオが、両手を力強く握りしめる。これはデカいのが来そうだな。


 こういう(やばい)時の勘は大概にして当たる。親父がよく言っていたが、確かになと思う。


 ――これはヤバい!


「全方位攻撃か!」


 上下左右。あらゆる方向から、電柱サイズの石の槍が現れ、その鋭利な先端で突撃してくる。


「うおっと!」


 四方から来た最初の4本を飛び上がって躱す。しかし、体勢を立て直す時間もまともに与えないまま、上から3本、下から2本の石槍が迫る。


「疾風!」


 連続で2回まで空中に足場を作ることのできるブーツ《疾風》で、方向を変えて再び飛ぶ。


 ――が、


「マジか」


 すぐさま次の槍が今度は下と左右から突き出てきている。これ以上は無理だ。疾風をもう一度使っても、この窮地からは脱せれない。このチート野郎とやり合うには、空を自在に飛び続ける能力が必要だ。


 槍の先端が迫ってくる中、その答えを出した俺は、アイテムボックスからある銃を取り出す。


 異国の地でボスアタックに明け暮れていた時に、偶然手に入れた双銃。これまでの常識を覆す戦闘をすら可能とする、新しい相棒。その名は――


「こい――ワイヤーガン!」


 両手に納まるのは、紫紺一色の自動拳銃(オートマチック)。しかし打ち出すのは弾丸ではなく、その名の通りワイヤー。


 先端に4本の返しの付いた杭を持つソレを、乱立する石柱の1本に撃ち込むと、俺の体と石柱が1本のワイヤーで繋がる。


 そしてもう一度引き鉄を引くと、車に轢かれたかのような衝撃が体を襲い、俺の体は空中にありながらその位置を大きく変える。


『……なんと』


 ワイヤーを撃ち込んだ石柱に着地し、すぐさま視線を左へ振る。そこには4本の石柱が迫ってきており、あと数拍その場に残れば間違いなく真っ赤な現代アートが出来上がるだろう。


 トリガーの横に付いているボタンを押し、石柱に深く食い込んでいる杭を消失させる。本当に便利な銃だ。魔法っぽさはないが、現実では再現不可能な面白(ユニーク)さがある。


「っと」


 石柱を足場にして跳び、攻撃を回避する。なおも絶え間なく伸びてくる石の槍だが、洞窟内に石柱が乱立してきたことで、足場も増えてきた。お陰で攻撃を躱しやすくなってきたし、どうしても空中で躱せない場合は疾風かワイヤーガンのどちらかで対処すればいい。


 しかし、回避に徹して奴の動きを観察していたお陰で、大体わかってきたぞ。この乱撃は、どうやら安全な地面の中に潜んで行うことはできないらしい。石槍の1本程度ならできるようだが、それでは全く通じないことも理解しているのだろう。さっきから体全体を地面から出して手を振っている。まぁ、いつでも逃げられるように壁際からは動いていないようだが。


『くっ、貴様はムササビか』


 攻撃の有効性を見いだせなくなったのか、スサノオは手を完全に止め、忌まわしいものを見る目つきでこちらを睨んでくる。


 乱立する石柱群の内、1本の直立する石柱の真上に立ち、それを受け止める。


「お前がこんなことをするからだよ。お前が攻撃すればするほど、俺の足場は増えていくだけだぞ」


 だが、これはこれでうまくない。あの攻撃にもだいぶ慣れてきたが、こっちの攻撃も最初の攻防以降入っていない。これではいずれこの洞窟内が全て石柱で埋まってしまう。幸いにして足場は揃ってきたし、そろそろ攻勢に転じる必要があるな。


 長期戦が不利な以上、出し惜しみはなしだ。ここからは、全ての手札を使う。


「覚悟しろよ、クソ野郎。俺のリベンジはこっからだぞ」

次回の更新は水曜日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ