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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第6章 チュウゴク激動編
154/202

154話 この罪深き神を地獄の底まで追いかけるドン!

「総、しっかりしろ、総!」


 地面に伏した俺のもとへ、伸二が大慌てで駆け寄る。


「これは……ダメージだけじゃない。状態異常……それもマヒか」


「ハイブ、それよりHPの回復を早く! このままじゃ総君のHPが尽きちゃう」


「あ、あぁ、くそっ、くたばるんじゃねえぞ、総。お前はこの後、やることが盛沢山なんだからな!」


 妖精の姿が刻印されたガラス瓶のフタが外されると、頭に冷たい感触が降り注ぐ。


「よし、HPは何とかなった。あとはこのマヒを外さねえと。ええと、アイテムは……」


「わっちが持っていんす。騎士殿、これを!」


 クレインがアイテムボックスから、タンポポのような花を1つ取り出す。


「《海月花(クラゲばな)》か、助かった」


 凄い名前だな。で、それをどうするんだ? 俺の体はまだうまく動かないぞ? それを煎じたものを飲むとかか?


「総、口を開けろ!」


 ……は? いや待て、まさか、お前。


「あー、じれってえな、さっさと食え!」


「ふがっ!?」


 伸二の手ごと、海月花が無抵抗な口へと強行突入してくる。


 しかも――


「――っ!? に、苦っ! い、いや辛っ! の、のがぁあああああ!?」


 な、なんだこれは!? 下にまとわりつく強烈な苦み、鼻の奥に突き刺さる刺激、喉の焼かれる感触、なんの攻撃だこれは!


「本当は煎じて飲んだり、回復薬に溶かしたものを振りかけたりとかするものだが、お前ならこれでも効くだろ」


 なんだそのアバウトな治療は!? そもそもここはゲームの世界だぞ! 俺だけに効くはずがないだろ!


 しかし、その思いと裏腹に、鉛のようだった体は、一転していつもの軽さを思い出していった。もう楽に立てる。


「お、効いたな。さすが攻略サイトに載っていた使用法。効き目もバッチリだな」


 なんだ、ちゃんと調べた結果だったのか。なら――


「死ぬほど不味いから絶対にやめておけって情報も正しかったな」


 ゼッタイ許さん。


「ほら無駄話してないで、さっさと動くわよ、ハイブ。それに総君も、銃を向ける相手が違うでしょ」


 伸二の喉元に突き付けている銃を戻す。そうだな。


「さっさとブルーを取り戻すわよ」


 あのクソッタレを、必ず殺す。そのためには、


「だがどうするんだ? 追おうにも、あいつらは地面深くだろ?」


「あのねえハイブ。アンタ、あれが見えないの?」


 そう言って翠さんが指さすのは、神社の境内に突如現れた太鼓の、さらに奥。


「あれって……地下への階段か?」


「太鼓が出てきた時にはなかったし、ほぼ間違いなくブルーの居場所に通じてると思うわよ」


 黄金色のツインテールが目の前で跳ねる。


「主様、行くでありんすよ!」


 クレイン……あぁ、わかってるさ。あの野郎をぶっ飛ばして、必ず葵さんを救い出す。


「ハイブ、クレインさん、総君、準備はいい? それじゃあ……行くわよ!」





 ■ □ ■ □ ■





 境内の奥にいつの間にか出現していた地下へと続く階段。幅は3メートル程度と広く、両壁には等間隔に松明が灯されており、視界も極めて良好だった。


「火が付くってことは、下には酸素があるってことだよな。どこか外と繋がってんのか?」


 こけないギリギリのスピードで階段を駆け下りつつ、伸二の疑問に翠さんが答える。


「ここはゲームよ? 単にそういう設定なだけじゃない?」


「そうか……ま、どっちでもいいか。しかし、結構深いな、これ」


 すでに降り始めてから数分が経つが、未だに底は見えない。地下数十メートルどころではないな、これは。


「少し肌寒いでありんすね。外はあんなに暑かりんしたのに」


「地下だし、鍾乳洞とかの気温に近いのかもしれないわね――ってちょっと待ってよ総君。急ぎたい気持ちはわかるけれど、もう少しだけ足並みをそろえて。チャットこそ通じないけど、ブルーのパラメーターには何の変化もないし、無事なのは間違いないから」


 葵さんは、翠さんとクレインの3人でパーティを組んでいた。それは今も解除されておらず、翠さんは葵さんの現状を冷静に分析する。


「あのきざったらしい奴はブルーのことを姫って言ってたし、手荒なことはされてないわよ、多分」


「それは……そうかもしれないけど」


 歯切れの悪い答えに、翠さんは足を動かしつつ視線をこちらへ流す。


「……総君、一度ちゃんと整理しましょう。総君はブルーを助けたいの? それとも、あのキザ野郎をぶっ飛ばしたいの?」


「ブルーを助けるに決まってるだろ」


「なら、もう少し落ち着いて。そして私たちと呼吸を合わせて。ここがダンジョンなら、戦闘だけでは先に進めない可能性もある」


 言い返せない。彼女が正しい。


「そうしょんぼりしないで。別にあいつを見逃せだなんて言ってないわ。ブルーの無事を確保できたら、あのキザ野郎はフルボッコよ」


 階段をなるべく急ぎ駆け下りつつ、彼女は三日月上に頬をつり上げる。


「おい総。俺のことも忘れんなよ。親友の腹に風穴開けられて黙ってられるほど、俺は温厚じゃないぜ?」


「主様、わっちも! わっちもでありんす!」


 少し前までは煮えたぎっていた頭が、徐々に、徐々に、冷静さを取り戻していく。


「あぁ……頼らせてもらうぞ、みんな」


「たりめーだ」

「勿論よ」

「わっちに任せなんし」


 皆の心意気が嬉しい。この時ほど、自分は1人じゃないと実感できる時はない。


 それからすぐ、俺たちの待ち望んでいたものの1つが視界に入る。


「総、見えてきたぞ!」


 階段一直線の光景が、視界いっぱいに広がる床へと変化する。これは……結構広いな。


「わぁ……野球場ぐらいの広さはあるわね」


「アメフト球場ぐらいではありんせんか?」


 どちらも同じぐらいのような気はするが、とにかく2人に共通しているのはここが広いということ。そして、それ以外は何もない。いや、


「土と岩……しかねえな。総、なにか見えるか?」


「あそこ、大きな岩と岩の間に、穴がある。多分、地下への階段じゃねえかな」


「お前……あれが見えるのか。どんな視力してんだ」


 こんな視力ですが……ん、あれは。


「ハイブ、話はそこまでだ。何か出てきたぞ」


 階段と思わしき場所から、何かが出てきた。何か、としか表現のしようのないそれは、そこから出てくると、真っすぐにこちらに近付いてくる。


 やがて、それらが伸二たちにも肉眼ではっきり見える位置まで来ると、


「……総。なんだ、あれは?」


「俺が知りたい」


 一つ目の仮面をつけた巨人。それが8体、横並びでこちらへと歩いてきている。その体躯は3メートル近くあり、全身を緑のタイツで包んでいる。


「敵……でしょうね、これは。名前は……アシナヅチ?」


 聞いたことのない名前だ。伸二も同じ顔をしている。だが、敵なのは間違いないだろう。あれだけの殺気と敵意を向けているやつらが、にこやかに名刺交換に応じてくれるとは思えない。


「アシナヅチ、テナヅチ……ヤマタノオロチの神話に出てくる登場人物の名でありんすね」


 おぉ、凄いなクレイン。まさか日本神話に最も詳しいのが外国人のクレインだったとは。


「でもそれ以外の敵は……多分オリジナルでありんすね。シリナヅチ、ハラナヅチ、ユビナヅチ、ハナヅチ、ミミナヅチ、カミナヅチ。どれも聞いたことのない名でありんす」


 体の部位をもじったんだろうな。テナヅチというモンスターは手の長さと太さが他のやつらの倍はあり、アシナヅチは足が倍はある。他のモンスターも、体の部位の名に応じた個所が倍以上デカい。


 だが、おかしい。これはおかしいぞ。


 肩に、騎士の手が乗る。


「わかるぜ、総。お前も同じこと考えてるんだろ」


 やはりお前もか、伸二。


「リーフ、気をつけろ。多分、まだあと1体がどこかに潜んでるぞ」


「え、そうなの?」


「間違いないぜ。な、兄弟」


 ああ。なにせ、手、足、尻、腹、指、歯、髪と来ているんだ。それなら当然――


「絶対に胸が隠れているはずだ。このチョイスで、胸がないはずがない! どこだ、どこにいるんだ、出てきやがれパイナヅチ!」


 そこはムネじゃないのか、などといった無粋なツッコミはなしだ。素晴らしいネーミングだ、伸二。お前、天才だな。


「CやDじゃないだろ!? いや、もしやEですらなく、エ――ふぁぼろぉおおおおおおお!?」


 凄いアッパーだ。アーツ抜きであれが打てるとは。翠さん、もしや最近何か始めた? ッとイカン。視線がこっちに流れてきた。


「総君、まさかとは思うけど、総君も……」


「なんのことだ、リーフ? そんな馬鹿なことより、今はここを突破するのが先決だろ」


 そうだ、無駄な追及はやめるんだ。そんなものを突いても、俺からはボロしか出ないぞ。だからやめろください。


 あれ、なにチャット画面を開いてるの? 誰と連絡とりあってるの!?


「……まぁいいわ。この件はブルーを取り戻した後にしてあげる。で、問題はあの敵だけど……」


 かなりの巨体に、8という数。イベントモンスターっぽいし、かなりの強敵である可能性は高い。ここは全員で切り抜けるべきだろう。


「総君。さっき足並みを揃えてって言ったばかりなところ申し訳ないけど、ここは私たちに任せて、先に行って」


「……え?」


「え、じゃない。こんなところで消耗してる場合じゃないでしょ」


「いやしかし、ここを皆で切り抜けて、全員で奥に行った方が成功率は高まるんじゃ」


「そうしようと思ってたけど、そうもいかなくなったっぽいのよ。さっき大尉から連絡があって、封印を解いた別パーティがあのクソッタレキザ野郎に襲われたって連絡があったの。どこのパーティも例外なく、回復魔法を使った術師が攫われて、それを助けようとしたプレイヤーはやられたそうよ」


 あの野郎、他の所にも現れていたのか。分身か、それとも別個体か。


「それで、私たち同様に地下へと進んだパーティが、まさにあんな感じの敵と相対して戦ったらしいんだけど」


 彼女の顔が、徐々に陰っていく。


「あの敵、倒しても際限なく次々現れるそうよ。既にいくつかのパーティは全滅したみたい」


「底が尽きるまで倒し続けるってのはナシかな?」


「ナシね。総君がここで消耗するのは絶対に避けたい。それなら、ここは私たちが残って時間を稼ぐ」


 しかし、それだと、


「そんな顔しないでよ。別に死ぬつもりなんてないから。倒そうとせずに、死なないように戦えば何とかなるかもしれない」


 それは、そうかもしれないが……


「おい、総」


 その声と同時、脳天にチョップが降りる。


「な、なにを」


「お前、俺たちを信じてないのか? ここは任せろって言ってんだよ。で、お前にブルーを任せるとも言ってるんだ」


 ……。


「主様」


 ニカッと開く口の間から八重歯を覗かせ、クレインは俺の胸に拳を突き出す。


「自信がないなら、わっちが変わってあげてもいいでありんすよ?」


 ……恵まれてるよな、ホント。


「ありがとう……行ってくる」


 信頼には信頼を。常々親父から言われていた言葉だが、実行するのは、今を置いて他にないだろう。


「決まりね……ハイブ、クレインさん」


「あい――《存在が空気(ステルスアップ)》!」


「喰らいやがれ――《ハイ注目》!」


 自身のヘイトをアップさせるスキル《ハイ注目》が敵全体にかけられ、一定時間対象人物のヘイトを低下させるスキル《存在が空気(ステルスアップ)》が俺にかけられる。


 これなら――


「よし!」


 迅雷を起動し、敵の脇を駆け抜ける。


 伸二に注目しきっている8体の敵は、俺のことなど脇を飛び回るトンボ程度にしか見ていないのか、チラッと見ただけですぐに視線を伸二へと戻した。


 頼んだぞ、お前ら。お前らの分まで、あいつをフルボッコにしてくるからな!


 その意気が通じたのか、3人は階段を下りる寸前の俺にボイスチャットでそれぞれに、


『総、俺の分はあばら骨でいいぜ』


 任せろ、24本全部折ってくる。


『あ、じゃあ私は前歯』


 了解、上も下も全部抜いてくる。


『わっちは#$%&(ピーーーー)を』


 なに言う気だったあの娘ぇええ!? 運営の設定しているNGワード思いっきり叫ぶんじゃない!

次回の更新は来週の水曜日を予定しています。

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