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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第6章 チュウゴク激動編
150/202

150話 このすんばらしい計画に神の手を

 灼け付くような熱気を下から放つアスファルト。周囲のビルから反射された光と、真上から照り付ける太陽はコンボを決め、路地は天然サウナと化している。


 普段軽快にセールストークを飛ばすおじさんや、看板を持った着ぐるみたちも、この時ばかりは揃って日陰へと避難している。


 元気なのは、残り少ない夏休みを満喫しようと必要以上にはしゃぐ子供たちばかり。それに付き合っているのであろう保護者の口からは、なんだか蒼白い魂のようなものが出かかっている。大丈夫か、あれ。


 さて――あ、


「やべ、時間」


 いかん。そんなことを気にしている場合ではない。直ちに目標に到達せねば。


 日陰も日向も一切気にせず、目的地までの最短距離を――交通ルールを守りつつ――駆け抜ける。


 これが目的のない進軍であれば、その足はすぐさま精気を失い日陰へと逃げ込んだだろう。


 だが我が軍は目下全力で進軍中。目標は、この先にある巨大ショッピングモールの入口。


 そこで待つであろう友軍との合流は、我が軍にとってなによりも優先される至上の命題である。


「お」


 目標を視界に捉えた我が軍の口が、思わず緩む。そのスコープには、白いワンピースに身をつつんだ、可憐な女性――いや女神が映る。


「葵さーん!」


 その声に、女神は体をピクッと跳ね上げると、カチコチという効果音がピッタリ当てはまるであろう動きでこちらに顔を向け、口を開――


「イ、イマキタトコデス!」


 ……え?


「あ、いえ、その、な、なんでもないよ」


 日光に照らされて少しのぼせたのだろうか。顔を俯けてはいるが、頭から湯気が立ち昇っている。


「待たせたかな? ごめんな」


「う、ううん、今着いたとこだよ? ほ、本当だよ?」


「そっか、なら良かったよ」


 30分前だから大丈夫かなと思ったが、これは甘く見ていたな。次は1時間前に着くようにしよう。


 しかし、さっき一瞬だけ昔みたいに敬語で話してたな。緊張するとでるあの癖はまだまだ抜けないみたいだ。


「じゃ、入ろっか」


「うん!」


 ショッピングモールの自動ドアが開くと、冷たい空気が額に付いた汗をなぞる。


 今日は久しぶりのデート。それも、街デートだ。ゲームの中の姿とは違う、黒髪に赤ぶちの眼鏡姿の葵さんも可愛いなぁ。


 学校では毎日顔を合わせているけど、新鮮な私服姿はやっぱこう胸にグイっとくい込むものがあるな。


「今日のイベント、楽しみだね。最後に何か大事なことが発表されるって言ってたけど、なにが発表されるんだろ」


「もうチュウゴクとシコク、両方のエリアのボス攻略は終わったから、レイドボス辺りの情報じゃないかな。アップデートは今の地方が攻略されてからだって話だし」


 地元のショッピングモール内にあるイベント会場でIEOのオフイベントが行われていたのはラッキーだった。これを教えてくれたタカハ神(あいつ)には感謝だな。


「あの緊急クエスト以降はマイペースにプレイしてたけど、あっという間だったね」


「シコクの人たちと競争だったからか、蒼天の人らもかなり熱を上げて頑張ってたらしいよ」


「あ、大尉さんが言ってたね。シコクに行った軍曹さんたちに負けないように頑張るって」


「まぁ結局負けちゃったけどね、俺たちのエリア」


 俺が非業の(理不尽な)死を遂げたあの緊急クエストが終わってから、各エリアで奮闘していたプレイヤーたちは、こぞってボスの攻略に乗り出した。


 チュウゴクのシマネエリアに最後まで残っていた大蛇、《イチマタノオロチ》。

 シコクのカガワエリアに残っていた、過去最悪のセクハラモンスターとして語られる、オリーブオイルに塗れたうどんの触手を持つ巨大ダコ《Rイチハチ》。


 これらの討伐にあたっていた互いのプレイヤーたちだったが、勝利の女神が微笑んだのは――シコクだった。


 敗因はおそらく、最後のボス《イチマタノオロチ》を倒すための弱体化アイテム《スサノオノコビト》の発見に時間をかけ過ぎたことだろう。その間に、シコクを蹂躙しているという噂の殺戮パーティがボスを攻略したのだとか。


「シコクエリアにも、凄い人たちがいるんだね」


「あぁ。あの世界には、まだまだ楽しい戦いをする人がたくさんいる。いつか殺り合ってみたいなぁ」


「……総君。前から思ってたけど、たぶん『やり合う』の漢字違うでしょ?」


「おおおっとぉ、ほら葵さん、あの服可愛いよ! 葵さんに似合いそう!」


 最近葵さんのツッコミが鋭くなってきたなぁ。そのジト目もたまらん。


「もぉ……あ、でも本当にかわいい。あ、こっちも」


 よし、標的がデコイに食いついた。これで我が軍の本丸は守られたぞ。


「ねぇねぇ総君。どっちがいいかな」


 アカン、間違ってデコイを本丸に投げてしまった。俺の馬鹿野郎。


 俺が適当に示したヒラヒラの付いている黄色い服と、葵さんが見つけた青色のワンピース。答えはどっちだ?


 いや……そうか!


「えっと……ど、どれも似合ってると思うよ?」


 どうだこの答えは。どちらも否定することのない、完璧な答えではないか?


「う、うん……そっか……」


 あ、あれ。駄目だったのか?


『馬鹿野郎! そういう時は自分の直感を信じて俺が最初に選んだほうが良いよって言え!』


『違うわ! 葵は青色が好きだから、葵が見つけたやつが正解よ。総君、急いで挽回して!』


 右耳付近に取り付けていた極小マイクから伸二のアシストが、左からは翠さんのアシストが耳に入る。


 もしもの時のためにと取り付けていた最終兵器だったが、まさかこうも早く投入することになるとは。我が軍のなんとも情けないことよ。


 だが2人とも。援護しておいてもらって偉そうだが、意見は合わせてくれないだろうか。両方取りしようとした俺の意見が駄目だったのはわかったが、一体どっちが正解なんだ。


「じゃあ、両方試着してみるね」


 まさかの俺正解!? 俺、天才か。


『もうお前ら好きにやれよ……』


『葵の正解は、総君ってことね……』


 なんだかスマン、2人とも。





 ■ □ ■ □ ■





「わぁ……人がたくさん」


 会場につくと、既にそこは人で埋め尽くされていた。見たところ10代から30代ぐらいまでの人が多いようだが、中には子供連れの親子や、年配の人までいる。IEOって結構幅広い世代でプレイされてるんだな。


 あれ、でもIEOってリアルの能力が反映されるよな。スキルを取得することで能力の底上げはできるし、アーツで達人の動きはトレースできるけど、老人や障害のある人なんかは、どうやって敵と戦ってるんだろ。魔法とかが得意になる傾向とかでもあるのかな。今度調べてみよっと。


「総君、あそこが空いてるよ」


「ん、行こっか」


 女神の誘いに抗える者はいない。そう認識するのに十分な声が、彼女の口から発せられる。


 人がコンビーフ並みにギュウギュウに詰められている前列付近ではなく、後列の端、特に人の少ない場所へと足を進める。見やすいポイントというわけではないが、他の野郎が葵さんの近くに寄るリスクを少しでも減らすためには致し方ない。葵さんって人込みは特に苦手だしな。


 さって、ここでゆっくりイベントを見るか。伸二と翠さんも同じ会場にいるんだろうが、あっちも折角2人なんだし、ここは邪魔しないでおこう。


「あ、出てきたよ。司会の人かな」


 前列からワッと声が上がると同時、ステージにバニーガール衣装の男性と、カウボーイ姿の女性が現れる。


 ……もう一度言おう。バニーガール姿の男性と、カウボーイ姿の女性だ。


 逆じゃねえ!?


『ハーイ、皆さんこんにちはー。司会は美しきバニーボーイことロミーオ』


『アシスタントは勇壮なるカウガールことジュリエトーが務めさせていただきます!』


 ふざけてるな……絶対。さすがあの運営。


『それでは早速始めましょう! イノセントアースオンライン、公式オフイベントの開始です!』


 それから会場全体は更なる熱気に包まれ、イベントは進行していった。


 最初に公開されたのは、先にすべてのエリアをクリアしたシコクエリアにいるプレイヤーへの報酬内容。服装やアクセサリーなどの中から好きなものを1つ選択するというもので、性能や価値もそこまで豪華というわけではなかったが、全プレイヤーの半分の手に渡るわけだから、妥当といえば妥当なものだろう。


 次に発表されたのは、予想通り、各地方におけるレイドボスに関する情報。最初のキュウシュウと違い、もう既に来ることがほとんどの人に予想されていることだったためか、運営の口は驚くほどに軽かった。


 その運営によれば、チュウゴクエリアとシコクエリアのレイドボスはもう少ししたら出現するだろうとのこと。だろうというのが少し気にかかるが、まぁ作った本人たちが言っているのだから、気長に待つとしよう。


 他にも運営公認の芸能人プレイヤーの参入だとか、魔法やアーツなど何でもありのスポーツ大会の開催なんかが発表されたが、詳しくは覚えていない。隣に女神がいるこの状況で、イベントなんかに注意を割く余裕はない。


『さて、目ぼしい情報は出尽くした感はありますが、実は他にもまだとっておきの新情報があるんです。ね、ロミーオさん』


『そうなんです。ジュリエトーさんの言うように、実はまだとっておきの情報が残っています。それは……これです!』


 舞台上のメインモニターに、デカデカと文字が映し出される。そこに表示されたのは、次のエリア《キンキ》について。


『おお、これは次のエリアについての情報ですか。多くの方が予想されたように、近畿地方を舞台にしたステージのようですね』


 なんだ、次のエリアについてか。別に予想してたし、全然とっておき感はないな。


『おっと、これはまだ序の口ですよ、ジュリエトーさん。見ていただきたい情報は……これです!』


『こ、これは!?』


 台本通りに行っているであろう芝居。だがメインボードに表示された情報に、俺たちの目は釘づけにされる。


『次のキンキエリアでは、最初から全てのエリアが解放されています。シガもオオサカもキョウトもです。ですが選べるのはこの中の1つだけ。それはエリアボスを倒しても変わりません』


『え、それでは次のエリアでは、ボスを倒した後どうすればいいのですか?』


 司会のお姉さんの疑問は、会場中のプレイヤーが抱いたものだろう。今回のチュウゴクエリアも最初から全てのエリアが解放されていたが、シマネ―トットリ間の行き来などは自由だった。


 しかし次のキンキではその行き来ができないという。それでは他のエリアを十分に遊ぶことはできない。このゲームを十分に遊んでもらうことが運営の目的であるはずなのに、どうしてこんなことを。


『今回、キンキエリアではレイドボスが用意されていません。しかし、ある熱いイベントが用意されています』


『そ、そのイベントとは一体』


 三文芝居だが、会場がそれにツッコむ様子は皆無だ。新しくメインボードに表示された内容が、その余裕を与えてくれなかった。


『バトルロイヤル……ですか』


『そうです! 次のエリアでのメインイベントは、選ばれしプレイヤーたちによるバトルロイヤルです。参加権を得ることができるのは、キンキの各エリアのボスを最初に倒したパーティか、加護と呼ばれる特殊なスキルを持つプレイヤーのみです』


『それは……かなり厳しい参加条件ですね』


『はい。1つの地方に振り分けられている加護の数は77。キンキエリアが解放されれば、合計で308の加護が出ていることになるのですが、これにボスを倒したパーティの人たちが加わっても、用意された椅子は最大で500前後でしょう。倍率は非常に高いと言わざるを得ません』


『逆に言えば、精鋭中の精鋭が集い、日本プレイヤーとしての頂点を決めるイベントになる、ということですね』


 これは……マジか。トーナメントとかじゃないから、うまく立ち回れば強い奴らと片っ端から戦うこともできるよな。


『そう受け取っていただいても問題はないと思いますが、このバトルロイヤルは、チーム戦の要素も持っています』


『それはどういうことでしょう?』


『まぁその辺は追々ということで。ただ、皆さんの予想していないであろうスペシャルゲストの登場があるとだけ言っておきたいと思います』


 チーム戦? スペシャルゲスト? どうやら俺の予想してるバトルロイヤルとは違うみたいだな。だがなんにしろ楽しみになってきたぞ。


 これはさっさとチュウゴクエリアのレイドボスを倒して、キンキエリアへの道をこじ開けないといけないな。


『それでは今日はこれにて! 司会はバニーボーイことロミーオと』


『カウガールのジュリエトーでした』

次回は来週の水曜日に更新予定です。


『リアルチートオンライン1巻』が先日発売されました。

手に取ってくださった方、コメントをくださった方、ありがとうございます!

それと2巻の刊行も決まりました。詳しくは活動報告にて。

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