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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第6章 チュウゴク激動編
148/202

148話 この極限の状態で奥の手を

 スキル名《鬼神》。とある異国の地でボスアタックに明け暮れていた時に取得したスキルは、赤鬼同様、いやそれ以上に俺と相性のいいスキルだった。


 鬼神の発動条件は、すでに赤鬼を発動していること。


 ひとたび発動されれば、効果が切れるまでの間、まさに鬼神というのに相応しいほどの身体強化を得ることができる。しかし発動している間、1秒間に全HPの1%が減る仕様ともなっており、赤鬼の発動条件ギリギリであるHP25%で発動したとしても、最大で24秒しかもたない。それ以上発動すれば、確実に死に至る。これはそういうスキルだ。


 また《鬼神》発動中は回復を一切受け付けない状態になっており、解除しない限りは常に綱渡りの戦闘を強いられることになる。


 取得した当初は、なんだこのクソスキルはとも思ったが、よくよく考えればこれは俺にとってさほどデメリットになっていないことに気付いた。


 まず第一に、俺の普段の防御力は紙だ。赤鬼になっていようがいまいが、25%程度のHPなど、ボスクラスの一撃を食らえば一瞬で溶けてしまう。どちらにしろ敵の攻撃を食らえば一撃で死んでしまうのであれば、身体強化の恩恵の強い方がいいに決まっている。


 どこかの赤くて偉い人は言った。


「当たらなければ、どうということは――ない!」


 迅雷を使っているわけではない。使っているわけではないが、それに近い速度を素で出し、横に大きく跳ぶ。


 今は射線上に他の皆がいる状態だ。これでは俺が避けても誰かに当たる。なら、射線上から皆を外すのが最優先だ。


『当たらなければ、だろ?』


 人差し指をこちらに向ける鬼。その先端から、先ほど蘭さんを貫いたものと同じ光が射出される。


『ほぅ、避けるか。ならこれはどうだ?』


 今度は連続で光が放たれる。まぁそう来るよな。だが、


「当たるか!」


 やつの視線を読め!


「っと」


 やつの指尖を読め!


「っ!」


 やつの射線を読め!


『……やるな』


 十数発のレーザーを躱したところで、鬼の攻撃が止む。弾切れ? いや、無制限に撃てるといっていたし、その考えは危険だ。だがチャンスでもある。ここは、


「しっ!」


 一気にやつの懐へと飛び込む。が、鬼はそれに頬をつり上げ、左手を大きく広げる。


『これならどうする』


 掌から極大の光が放出される。その質量は、全力で走っていたら突然目の前に猛スピードの乗用車が突っ込んでくるかのような感じに近い。つまり、


「避ける!」


 上に跳べば避けれる。


『だろうな。で、これは?』


 右手の人差し指を真っすぐ向けてくる鬼。言い終わるとほぼ同時に、その指尖から光の矢が連続で射出される。


「もっかい!」


 疾風を起動し、虚空を蹴る。行先は地面。もう一度跳べるとはいえ、やはり空中に留まるのはキツイ。


 その間にも光の矢は絶え間なく射出されるが、体を捩じり躱し、どうしても無理なものはナイフでたたっ斬る。


『本当によく凌ぐ……まぁ、いつまでも続くとは思えんが』


「ちっ」


 無事着地するも、未だやつとの距離はある。最短距離を真っ直ぐに突っ込みたいところだが、それをさせないようにあいつはレーザーを撃っているし、無理やりにしたところで蜂の巣になるのは目に見えている。


 それに、やつの言うことは半分は正しい。この姿であれば、あの攻撃を凌ぎ続けることはできるが、もうあと15秒もすれば俺のHPは尽きる。


 ここにきてやつは俺に、『特攻』か『時間切れ』どちらかを選択させようとしている。


 ――なら!


『突っ込むか。その意気やよし。そして――死ね』


 光の雨が横一線に降り注ぐ。その1つ1つに、俺を射殺そうとする意志が込められているのを感じる。


 だが、


「舐めんな!」


 俺はこの仮想世界なら、マシンガンを持った奴にだって勝つ自信があるぞ!


冬雨(ふゆさめ)!」


 下から弧を描いた刀が、幾筋もの光を掻き消す。直後に反転させた刃で、さらに光の矢を弾く。それを文字通り目に見えぬほどの速度で、繰り返し、繰り返し、繰り返す。


『……馬鹿な』


「念のためナイフも準備してたが……これだけでもいけるな」


 唖然とする金鬼と、不敵に笑う紅鬼。対極的な両者の共有する時間は、金鬼が再び両手を前にかざしたことで加速する。


『これならどうだ!』


「どうもしねえよ!」


 さっきよりもより荒々しく降り注ぐ光の雨。だがこっちも、さっきよりもより速く刀を振るい、ことごとくを掻き消し、進む。


『――ならば!』


 その均衡が破られたのは直後。中距離での迎撃を放棄した金鬼は、その手に二振りの金の斧を握る。


『叩き斬ってやる!』


「こっちの台詞だ!」


 零の距離で交わる金と紅。


 空間を掻き消すように荒々しく振るわれる斧と、空間を切り裂くように抜かれる刀は、一瞬の時を翔るように交差し、


『がっ!?』


 斧は空を切り、刀は肉を裂く。現実であれば間違いなく致命打だ。しかし、


『むん!』


 右肩の肉を裂かれ肩甲骨を断たれても、金鬼は左手に握る斧になお力を込め、真横に薙ぎ払う。それを見た者は、上下で真っ二つになった人間を幻視するだろう。


 ――幻視、な。


「ふがっ!」


 徹底的に頑丈さを追求したナイフ《GB16》を腰から抜き、金の軌跡を描く軌道に割り込ませる。


『――っ!?』


「言ったろ……人間をやめた俺は――強えって!」


 左手に握る刀が、金鬼の脇腹から首筋にかけて銀光を描く。


『ぎがっ!?』


 銀の軌跡が消えると同時に空へと咲く赤い花。それに見とれることなく、ひるむことなく、連続で刀を走らせ花を咲き乱させる。


 ここだ、ここですべてを出し切れ! でないと――


『オガァアAAA!』


 両手両足を開大させ、絶叫を上げる鬼の全身から波動のような眩い光が放出される。質量をもったかのようなソレは、俺の刀を止め、体ごと後方へと吹き飛ばす。


「やべっ、時間――」


『キキキキ貴様ァアアアAAAAAA!』


 顎が割れ、喉が裂けそうなほどに声を荒げる鬼。だがそんなことに構う暇はない。本当にない。あと5秒! ここは絶対に――


「弧月!」


 漆黒の弾丸が脇を通過する。てか佐助さんだね、うん。


 後ろをチラ見すれば、豪快なスイングを決めた蘭さんの姿。おそらく、ハルバートに足を乗せた佐助さんを吹っ飛ばしたのだろう。オリジナルだろうか。凄い合体技だな。


「――――!」


 しかしその速度で鬼に突撃したら、佐助さんも無事じゃ済まないぞ。いや、逆に光の波動で跳ね返されるんじゃ――


黒葬影槍(こくそうえいそう)!」


 高速で射出された漆黒の弾丸こと佐助さんから、さらに高速で漆黒の槍が射出される。


 俺たちを拒む光の壁に、漆黒の杭が打ち込まれる。ソレは金鬼の放つ光の波動に深く突き刺さり、やつへの道を強引にこじ開ける。


 そこに、


爆裂苦無(ばくれつくない)!」


 赤く煮えたぎったような苦無を握る佐助さんの腕が、バキバキに割れたやつの腹に吸い込まれる。直後だ。


『ガァアアアア!?』


 やつの腹で爆発が起こる。その衝撃で佐助さんは後方へ跳ね返るように吹き飛ばされる。


 ――ここだ!


 足の腱が弾け飛ぶほどに、大地を蹴る。その途中で高速で飛ぶ佐助さんと目が合う。その瞳からは、後は任せたとの強い意志を感じた。


『!?』


 残り2秒。もう連続で叩き込む余裕はない。次が最後の、


「一撃だぁああ!」


 突進の力の全てを右手に握る刀に伝え、心臓に一点突破の突きを――撃つ。


『ゴォオオオオオオ!?』


 心臓に刀を生やした金の鬼と、それを握る紅い鬼。その2つは、大砲で射出されたかのように同じ方向に突き進む。


『――ガッ!』


 しかし金鬼は、両足を勢いよく地面に突き刺し、勢いを完全に殺す。そして――


「主様!?」


 心臓に強大な楔を打ちつけられつつも、その右手を天に掲げる。そのままでいれば間違いなく断罪の拳は俺の脳天をカチ割るだろう。クレインの悲鳴が予言するかのように。だが、


 ――させるか!


 あとコンマ数秒で鬼神は解除しなければならない。だがその前に、お前だけは、


「迅雷!」


 迅雷は、装者の脚力を何倍にも高めることができるブーツ。今の状態で放てば、それは人間の限界を遥かに凌駕した力となる。


 その力を、前に進む力としてではなく、やつに突き刺さる刀に伝える。


『!?』


 爆発が起きたかのような衝撃が刀の周囲に走る。その直後に鬼神は解除され、生身に戻った俺の体は後方へと弾き飛ばされる。


「主様!」


 一瞬で何度も切り替わった視点。それは、クレインの腕に包まれたことでようやく安息を迎えた。


「主様、無事でいんすか!?」


「あぁ、なんとか」


 視界に浮かぶHPバーは、もう糸のような細さしか残っていない。本当にギリギリだった。


「そうだ、あの鬼は」


 クレインの腕から慌てて抜け出し、自分の反対側へと吹き飛ばされたであろう金鬼の方角へ目をやる。


 そこにあったのは、


『……見事』


 庭園にそびえる巨大な岩に、軽いクレーターが打ち込まれる。それを作りだした鬼は、その中央で大の字を描き、ボソリと呟く。


 胸の肉は大きく抉られ、奥からは岩が覗いている。あれでどうやって呼吸や発声を行っているのだろう。


『……楽しかったぞ、人間』


 悔やむでもなく、苦しそうに顔を歪ませるのでもなく、金鬼は満足そうに笑った。敵ではあったが、憎悪はない。戦いが終われば、それは称えるべき相手だ。その場からゆっくりと、鬼の張り付けられた巨岩へと歩み寄る。


「……俺も、楽しかったよ」


『……ふっ』


 その笑みを残し、鬼は逝った。眩く光る、蛍火と共に。




「……カハッ」


 肺が一気に空気を吐き出す。やっぱり鬼神化の反動は凄まじいな。全身から力が抜けていくこの感じも、正直少し気持ちが悪い。もしあれで鬼のHPを削り切れていなかったら、確実にやられていただろうな。


 ――ま、とにかく、


「勝った……」


 さっきまでの緊張は弛緩し、勝利の充足感が徐々に体に染み渡っていく。


 あ、そうだ。葵さんや伸二と連絡を取らないと。


 そう思いチャット画面を開こうとする俺の知覚に3つの反応が出現する。


 1つ。左から全力疾走してくる般若顔の浴衣女性。片手には刃こぼれした

ハルバートが握られている。


 1つ。右から足を高速に交差させ接近してくる花魁風外国人。その顔には肉食獣の獰猛さが浮かんでいる。


 1つ。後方から音もなく疾走してくる漆黒の忍者。その顔からは汁という汁が全ての穴から噴出している。


「おい待て、いま俺のHPは1%しか残って――」


 駄目だ。人の話を聞くような顔じゃない。これは逃げるしかないな。あの強力なジェットストリームアタックを受ければ、俺の糸のようにか細いHPはあっという間に切れてしまうだろう。


 一歩後ずさると、我が軍は180度方向転換を行い、脱兎の如く戦場からの撤退を決断――


「おわっ!?」


 突如として、巨大な石碑が地面から音を立てて現れ、逃走経路に立ちはだかる。それには文字も刻まれており、


『システムメッセージ。緊急クエストのクリアおめでとうございます。クエストのランキングは後日発表いたします。また、クリア報酬の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。それでは、この石碑にお好きな文字をご入力ください。なお、ある事情から、ご入力いただいた文字が認可できない可能性がありますので、不適切な表現が含まれていた際にはこちらから再度通達させていただきます』


 長いわ! つか不適切な表現ってなんだよ! もしかしてあれか、二度とヘッタレランドのようなことを起こさせないためだとでも言いたいのか!? あれは俺のせいじゃねえぞ!


「ソウ様ぁあああああ」

「殿ぉおおおおおおお」

「主様ぁああああああ」


「……あ」


 後門の忍者。左門の姫武者、右門の花魁、前門の石碑(運営)。これなんて四面楚歌?


 よし、ここはもっとポジティブなことを考えよう。あぁ、四方を葵さんに囲まれたい。そうすれば、たわわなたわわに包まれた俺の精神は三次元を突破して宇宙の理を識る旅へと――


「ぶるぅあああああああああ!?」

次回は掲示板回。

それを挟んで、本章は後半戦に入ります。

更新は来週の水曜日を予定しています。

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