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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第6章 チュウゴク激動編
145/202

145話 この懐かしい感覚に戦慄を

 口から爆炎を吐く銀鬼と、それを呆然と見つめる3人の仲間たち。だが彼らは、俺が真っ直ぐ鬼に突貫する姿を視界に入れると、それぞれに動き始めた。


「と、殿! 拙者も行くでゴザル!」


「ソウ様……ウチにも激しくしてくれていいんよ?」


「主様は本当に……イイでありんすね!」


 それぞれに違った反応を見せる彼らを背に、疾走したまま再び両の引き鉄を引く。


 ――今度は目玉をもらう!


『舐めるなぁ!』


 が、放たれた銃弾は全て鬼の手前で見えない壁に阻まれるように止まり、地面へと落下した。


「ソウ様、射撃無効化スキルや!」


 射撃無効化スキル!? なんだその俺殺しは!? そんなんアリか!?


「エリアボスの一部が持ってるスキルや! 初撃は入るけど、その後は一定距離以上の射撃攻撃を無効化するんや!」


 なるほど、それで最初の攻撃は普通に効いたのか。だがいいことを聞いたぞ。一定距離以上が効かないというなら、一定距離以内で撃てばいいのだ。それなら、どうとでもなる。


「殿、やつとは接近戦になるでゴザル。ここは拙者が隙を――《縮地》!」


 直後、佐助さんの姿が掻き消え、やつの真横に躍り出る。ダッシュ力は迅雷にやや劣るが、音もなくあれができるのは凄いな。


『――むっ!?』


 銀鬼がいきなり横に現れた忍に慌てて反応する。だが、その隙を逃す佐助さんではない。


朧斬(おぼろぎ)り!」


 頭上に掲げられた忍者刀が、揺れる水面に映る刃のように動き、やつの体に一筋の線を描いた。


『この程度か?』


 しかし、やつにダメージは見られない。いや、HP上は少しぐらいは削れているのだろうが、少なくとも見た目上はなんのダメージもない。


 左の拳をグッと握り、音すら感じる間もないであろう神速の拳を放つ銀鬼。


 ――あれはヤバイ!


「佐助さん!?」


 駄目だ、間に合わない。


 その思いの通り、やつの拳は佐助さんの胴を貫く。


「そんな、佐助――」


 直後、ドロンという効果音と共に煙が噴き出し、真っ二つに折れた丸太が転がる。


「――さん?」


「いやー、危ないところでゴザッた」


 いつの間にか屋根の上に登っていた佐助さんが冷や汗交じりに零す。今のは変わり身というやつだろうか。


 すげえ、忍者だ。あ、忍者だった。


「殿、蘭! 拙者が再度仕掛け申す。後詰は頼み申した――分身の術!」


 両手で印を結ぶと、佐助さんの両脇に2体の分身が煙と共に現れる。彼らは下にいる銀鬼を確認すると、そのまま垂直に降下した。


「って特攻!? それもそんな安直な!?」


 あんな攻撃、たとえふたりがかりでやったとしても無意味だ。あの銀鬼に通用するはずがない。


 そして案の定、


「ひげふっ!?」「ほべらぁ!?」


 銀鬼の手が、2人の頭を鷲掴みにする。所謂、アイアンクローというやつだ。


「だぁあああ、頭が割れる、割れるでゴザル!」


「メリッて言った、いま頭がメリッて言ったでゴザル!?」


 銀鬼の手に何度も爪を立てながら、佐助さんAと佐助さんBが悶え苦しんでいる。てか分身って喋れるんだ。しかも本人の口調をコピーして。なんだこの無駄な高性能は。


 しかし、これで何がどうなるんだ?


 確かに両手は塞がっているが、あの鬼からはまったく隙を感じられない。それどころか、近付いた瞬間、あの分身が投擲武器に成り代わりそうだ。これではまだ最初の方が良かった。


「今でゴザル、我が分身たちよ!」


 屋根の上から叫ぶ本体、もとい佐助さん。今ってなにが?


 その思考が巡った瞬間。分身たちは口元をニカッと開き、懐から、


「ほ、焙烙玉!?」


「――正解でゴザル」


 それは一瞬だった。アイアンクローを食らっていた分身たちは、自らの命を業火に代えて、爆炎のもとに散った。


「おぉ……すげぇ……すげぇけど」


 この後に追撃というのはちょっとキツイな。視界が悪すぎる上に、鬼の姿も確認できない。せめて煙が晴れないことには――


「スキル《出て来いヤァ!》発動!」


 クレインの声が鳴り響いた直後、爆炎の中に消えたはずの鬼のシルエットが、蛍光塗料でも塗られたかのように浮かび上がる。


「クレイン、これは?」


「これは、隠れている敵を視覚的にマーキングするスキルでありんす。敵の隠密能力が高いと効かないでありんすが、この敵には通じんした」


 へぇ、そんなスキルもあるんだな、盗賊って。これは確かにパーティに1人は欲しくなる職業だ。


 クレインと会話し、そんなことを考えながら、俺の両指は引き金を引き続けていた。


『ガッ、グッ、ゲッ、貴様、顔ばかり狙ゴガッ!?』


 いやいや、そりゃ顔狙うだろ。あんなマッチョの体に銃弾ぶち込んでも、効き目なんてたかが知れてるだろうし。


 だがやつの射撃無効化スキルの適用範囲より内側にいたせいか、銀鬼はすぐさま煙の中から飛び出し、接近してきた。


『喰らぇええ!』


 銀鬼の上段回し蹴り。どう見ても相当な有段者クラスの、洗練された殺人キックだ。喰らえば首の骨はボッキリいくな。


「喰らえばな」


 コマのように回転して躱し、そのままジャンプして後ろ回し蹴りを鬼の顔に見舞う。


 だが、


「硬っ!? 何だこいつの体、鋼でできてんのか!?」


 鬼はビクともしない。それどころか、反動でこっちが空中でバランスを崩してしまった。


『もらったぞ!』


 その隙を逃す鬼ではなかった。未だ不安定な姿勢で空中に留まる俺目掛け、神速の拳が迫る。


「疾風!」


 体を捩じり回避すると同時に、空中跳躍のブーツで後ろへと下がる。


「――っ、今のは危なかった」


 ギリギリだった。あと少し反応が遅れていたら、さぞや腹の風通しが良くなっていたことだろう。


 あの鬼の近接能力……これまで戦ってきた同サイズの中では、間違いなく最強だな。下手したら親父並みかもしれない。


 ――こいつは、


「燃えてきた」


 再び銀鬼の正面にツッコむ。さぁ、次は何を見せてくれる!


『奇怪な技を使うようだが、これならどうだ――鬼迫(きはく)!』


 仁王立ちで構えている鬼から、トラックが突っ込んできたかのような衝撃が襲ってくる。


「うおわっ!?」


 弾き飛ばされるようにして後方へと吹き飛ぶ。


 これは……衝撃波か。ヤバイ、まともに食らった。てかこんなん初見で避けれるか。見えない上に初動の動きもない。そんなの反則――


『まだだぞ、少年。耐えてみせろよ』


 後方に吹き飛ぶ俺の上を、跳躍した鬼が見下ろす。


 ――どんだけ速いんだこいつ!? つか今まで手ぇ抜いてたな!


鬼火団子(きびだんご)!』


 振り抜かれた右手から、十数発の火の玉が放たれる。


「――っ、疾風!」


 右へと直角に空中を跳ぶ。


 こんなの自力じゃどうしようもない。連発が命取りになるのはわかっているが、ここは疾風を使って凌ぐしか――


『言い忘れたが、鬼火団子は左手にもある』


 ――ふざけんなっ!


 振り抜かれた鬼の左手から再度放たれた火球。それは一直線に、空中を跳ぶ俺のもとへとやってくる。


「――っ」


 疾風は連続で2回まで空中を跳躍できる。再度使うには地面に接地すればいいのだが、如何せんこの鬼はその隙を与えてくれない。ここで使うのは賭けになるが、


「っらぁあ!」


 今度は前方に飛び、鬼との距離をなるべく離す。


 ――よし、なんとか無事に地面に着地


『なるほど、連続で跳べるのか』


「……マジか」


 地面に片膝を付き、鬼の動向に目を向けようとした矢先。アサガオの観察日記でもつけているかのような平坦な声が、背後から耳へと侵入する。


『ほら、どうした。もっと俺を楽しませてくれ。次は何ができるんだ?』


 効果的な一撃を加えるのなら、間違いなく今がその最善の時だ。だが鬼は、愉悦に満ちた声でそれを放棄する。


『どうした。さっきまでの威勢はどこに行った。さっさと立ってこっちを向かないか』


 完全に舐めくさった態度をとる鬼。だが怒りは沸いてこない。沸く暇もない。その油断すらも利用しなければ、勝機はない。


 ゆっくりと立ち上がり、熱気を冷気へ変換するように頭を落ち着かせる。


『そうだ、それでいい。さぁ、俺を楽しませろ!』


 戦いにおいて、ここまで上からものを言われたのは親父以来だ。そしてこいつは、間違いなく親父と同等かそれ以上の力を持つ。


 ……1対1でここまで追い詰められたのは、アメリカでのボス戦以来だな。


「――面白れぇ」


 冷えていた頭に、再び熱が宿る。やはり戦いとはこうでなくては。血沸き肉躍ってこその戦いだ。


 自然と口角が吊り上がっていく。きっと今、俺は葵さんには見せられない顔をしているのだろう。


 だがそれでも……今、この瞬間だけは――


「絶対殺す」


『いいぞ、いい顔だ』


 再び鬼へと突貫する。


 疾風の存在はバレているから、肝は迅雷の使いどころになるだろう。


『正面から……それは通用しないぞ』


 やや呆れた声で、鬼がどっしりと腰を落とし拳を構える。あの姿勢から飛んでくるのはおそらく正拳突きだろう。ただ、見えないほどの神速の拳や、気弾みたいなものが飛んでくる可能性は高いな。だがそれでも――


「ソ、ソウ様、無茶や!」


「主様!」


 佐助さんだけは何も言わずに、力のこもった視線をぶつけてくる。その視線に宿っているのは、心配ではなく、信頼。なら俺は、


『――静拳突鬼(せいけんづき)


 一瞬だけ震えた鬼の体。そしてソレは、瞬きをするよりかも、なお速く振り抜かれた。


 ――が、


『なっ!?』


 一撃を凌ぐだけなら、目の前に突き付けられた拳銃を躱すのと一緒で、そう難しくはない。あの構えからなら連撃はないと思ってたぜ!


 そんでもって――


冬雨(ふゆさめ)!」


 氷属性による追加ダメージを与える刀《冬雨》が、ガラ空きの腋窩に一閃を描く。


『むおっ!?』


 斬られた箇所に薄い氷が貼り付き、銀鬼のHPゲージを僅かに減らす。


「ようやく入ったか」


『ぬかせ!』


 振り抜いた腕を引っ込めると同時、コマのように回転して反対側から膝が飛んでくる。この距離においては理想的な攻撃手段だ。


 ――が、来ると思ってたぜ。なにせ、親父ならそうするからな!


 鬼の膝に足を置き、


「よっと」


 勢いを利用して後方へと飛ぶ。さっきみたいなドジを踏まないよう、空中に飛び上がるのではなく、低空を滑空するように。


『行かせるか!』


 それでも追撃してくる鬼。そのダッシュ力は、おそらく迅雷に匹敵する。


「常に迅雷並みの速度で動けるとか反則だな。勝てる気がしねぇよ」


 ――俺ひとりだったらな!


「黒鎖縛」


 鬼の影から現れた鎖が両足に絡みつき、その動きを止める。さらに、


「飛刀翼撃」


「双斬空」


 背中に飛刀と斬撃が降りかかる。


 この速度で動く鬼に正確に鎖を絡ませ、追撃を加えるとは。さすがに戦い慣れているな。


『あばばばばばば!?』


 衝撃で盛大に地面へと墜落した鬼が、顔面で地面を削りながらこちらへと接近してくる。凄い格好だな。そして、凄い隙だらけだな。


「リロード【雷装徹甲弾】」


 雷属性の追加ダメージに加え、より貫通力の増した徹甲弾を、鬼の頭蓋に全弾撃ち尽くす。


『あがががががっ……くそっ、貴様ら!』


 普通であれば即死の攻撃だが、銀鬼はHPゲージを減らすのみで、すぐさま起き上がり飛びかかってくる。


 そこに、


弧月(こげつ)!」


 ハルバートによる凄まじい薙ぎ払いが、鬼の横っ腹に直撃する。


『――っ』


 一瞬だけその場に止まるかのような静寂が訪れた後、真横で爆発が起きたかの如く、鬼は直角に吹き飛んで行った。


「はぁ、やっと決まったわ」


 額に汗を浮かべる浴衣姿の戦士。その顔には、俺と同じ戦いを楽しむ者の色が浮んでいた。

次回『この好敵手に光の華を』

更新は木曜日の予定です。

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