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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第5章 シコク動乱編
132/202

132話 閑話 とあるドMと開発主任

 穏やかな夏の風を受け、白い髪がゆっくりと視界の上で揺れ動く。


「現実の世界も、こっちの世界も、どこも世界は等しく夏か。熱いなぁ」


 先週クーラーを切った自室でした、熱中症プレイはよかった。久々の臨死体験だった。それが原因で翌日仕事をお休みすることになっちゃったけど……あの時の主任の顔、堪らなかったなぁ。

 あのゴミクズを見るような目。出来ることならスマホの待ち受けにしたい。そうしたら1日のほとんどをスマホを見る時間に費やせる気がするよ。


「お~い、モップ。すまんな、待たせて」


 素敵な思考の時間が終了を告げる。はぁ、これから憂鬱な仕事の話かぁ……いやだなぁ……あれ、ゾクゾクしてきた。


 駆け寄ってきた短髪の男性に声を返す。


「ありがとうございます、副主任」


「は? お前何を――いや、いい。聞いたらヤバい気配がした」


 どうしたのかな副主任は。でもいっか。怒られるのは好きだけど、謝られるのは好きじゃない。その言葉だけは、全然心躍らないんだよね。


「それより、例のプレイヤーがまたやらかしたぞ。アメリカサーバーで」


「あはは……やっぱりですか」


 異国の地で暴れている彼の姿を頭の中で描きつつ、つい懐かしいことまで一緒に思い出してしまう。


 僕の配属されている部署は、この世界の些細な調整を主とする部署、環境調整部。その中でも僕らのような末端は、ゲーム攻略に関する情報を一切与えられていない。


 一部の例外を除けば、この世界で普通に遊んだり攻略に勤しんだりすることを許されている。


 だけど数か月前に、僕にだけ与えられた特別な仕事があった。


 それが、チート疑惑のかけられたあるプレイヤーの調査。


 情報管理部の事前調査で完全にシロと報告された彼を、直接この世界で見て最終的な判断の材料にしたいという上の判断で、僕は調査を始めた。ソウ君を。


 そしてその結果僕が報告したのは、彼は紛れもない純粋なプレイヤーで、一切の不正は認められないという、シンプルにして絶対の自信を持った一文。


 それにより、彼の疑いは完璧に晴れ、僕もはれてお役御免。普通の業務に戻ったわけだ。それが嬉しくもあり、また寂しくもあり……。

 だから彼が、フクオカエリアで僕をパーティに誘ってくれた時は嬉しかった。仕事で近づいた僕を、友達だと言ってくれる彼の言葉は……堪らなかったなぁ。


 と、思い出に浸ってる場合じゃなかった。副主任を前にしてボーっとするわけにはいかないよね。そんなことしたら怒られて……よし、ボーっとしよう。


 ボー。


「信じられるか? あの廃人だらけのアメリカサーバーで500人斬りだぞ。もう向こうの掲示板じゃあ運営の陰謀だの新たな隠しボスだの大変な騒ぎだ。おまけにあいつ、向こうのサーバーに行ってる最初の間なにしたと思う。召喚された側のくせに、エリアボスのソロ討伐してんだぞ! お前は日本のプレイヤーだろうが!」


 無視ですか、副主任。そんな、酷い……ありがとうございます!

 ていうか総君。そんなことしてたんだ。500人斬りは別部署の主任から聞いてたけど、エリアボスの攻略は聞いてなかったなぁ。6日目に500人斬りってことは、初日から5日目にかけてはダンジョンアタックを繰り返していたのかな? 彼ならありえるな。


「各国で実装したイベント《殲★滅☆戦》は、他国の加護持ちのプレイヤーと現地プレイヤーのバトルだが、実質現地プレイヤーが圧倒的な優位を誇るイベントだ。大量の顧客を敗者にするわけにはいかなかったしな。実際、ここ日本を始め、ほとんどの国で現地プレイヤー側が勝ってる……あそこを除いてな」


 あそこというのが、彼が大暴れしたアメリカサーバー。あそこだけが唯一、現地プレイヤーのPK数が1000を超えたのだ。そしてその半分、正確には560人を1人のプレイヤーが屠ったというのだから、副主任のため息も理解できる。きっと開発室でも「またお前かぁああああ!」って声が響いたことだろう。


 PKの人数は後半非公開になってるから、プレイヤーたちはまだ自分たちの結果を知らない。でもこの結果が発表されたら、また荒れるだろうなぁ。


「なぁ、わかっちゃいる。わかっちゃいるんだが、どうしても聞かせてくれ。あいつは本当に、チートしてないんだよな?」


「はい。システム上、一切の不正は認められません。スキルやアイテムの使用を除けば、あれは全て、本人の現実の能力です」


 何度も何度も会議でお偉方相手に発した言葉を、改めて副主任に伝える。


「開発が悪ふざけで作ったアーツ《極光六連》と、神イモートの撃破に関してもか?」


「はい。それもすべて彼は自力で成し遂げています」


 複数のスキルと高レベルのアーツを組み合わせてようやく高得点を狙うことのできるネタアーツ、極光六連。必要な組み合わせのそのどれもが、まだ未実装のスキルやアーツであり、本来であれば数年後にようやく完成させることのできるはずだったアーツを、彼は実力ですべて補い、この上ない形で完成させてみせた。


 後日あの資料を映像で見た開発チームが、その場で全員お茶を吹き出したのは、なかなかに滑稽だったな。


「オキナワエリアボス、ジーザーの弱体化アイテム無しでの撃破もか?」


「はい、実力です」


「……ゴブリン軍団襲来の緊急クエスト、2000ポイント越え」


「実力です」


「……ナガサキエリア隠しボス、鬼凧の最終形態での撃破」


「実力です」


「……フクオカエリアのイベントモンスター、鳥人間の謎の殲滅」


「え~っと……一応、実力です」


 やや歯切れの悪い最後の質問に関して、副主任は一瞬顔を歪めたが、ため息を零して手を横にヒラヒラと振る。


「そっか、まぁいいよ……お前は終末期的変態だが、嘘の報告だけはしない男だからな」


 お褒めの言葉、ありがとうございます!


「よっし、それじゃ仕事と行くか。今日はカガワエリアの町、タカマツだ」


「もしや……またうどん屋の食べ歩きですか?」


「またとはなんだ、またとは。うどんはいいぞ。例のボス部屋が勝手に恋愛成就の聖地に指定されたのならば、このカガワエリアはうどんの聖地として認定されてほしいくらいだ」


 また副主任のうどん談議が始まってしまった。うどん県出身の副主任は、本当にうどんに対する愛情が酷――いや深い。


 曰く、うどんのための学校があるだの、風呂に入りながらうどんを食すだの、年越し年明けはうどんが常識だの、うどんのだし汁が出る蛇口が存在するだの、大手コンビニやファストフード店を撤退に追い込む程うどん屋が強すぎるなど、とにかくうどんへの想いが止まらない。


「さぁ行くぞ、モップ」


 急に元気を取り戻した副主任の後を追い、僕の足はタカマツの町のうどん屋さんへと向かうのだった。





 ■ □ ■ □ ■





「さて、今日は一体何のようなんだろう、開発主任。向こうじゃなくて本社で声をかけてくるなんて珍しいな」


 都心に高々とそびえ立つ本社ビル。その中にある開発室に、僕はいま落ち着かない気持ちで足を運んでいる。


 本社にある開発室は、一部のエリートしか足を踏み入れることのできない禁断の領域と言われている。


 社内においてIEOをプレイしている人も多いことから、秘密保全のために開発室はそのメンバーに至るまで非常に硬いガードがかけられている。もし秘密を洩らそうものなら、徹底的に調べ上げられ、関係者は即更迭だそうだ。


 そんな恐るべき場所に、僕はいま向かっている。それも、開発室の中心人物の1人、開発主任に。一体僕に何を……僕に、


「一体どんな凄いプレイをしてくれるんだろうか」


 ハァ、ハァ、興奮してきた。この扉の奥では、一体どんなハードプレイが待ち構えているというのだろうか。もう、もう待ちきれないよ。


「開発主任、只今参りました。開けていいですか? ていうか開けますね? そして叱ってください」


 そう言って扉を開けると、そこには開発主任が携帯片手に涙を滝のように流しており、


「あぁあああ、待って、切らないで! お願いだ美代。どうか、どうか陽菜(ひな)の声を聞かせておくれ! あ、待って、あ――」


 口を開けて携帯をそのまま持つ主任に、僕は叱ってくださいと声を――うん、これは無理だなぁ。さすがに僕でも今の主任に欲望を吐き出すことはできないよ。


 しかし主任。また娘さんとの電話を断られたのか。今回は一体何をしたんだろう。

 確かこの前は、パソコンが欲しいって言った奥さんに、自分の持ってる超ハイスペックパソコンを送ったんだったっけ。でも自分のお気に入りの秘蔵フォルダを消し忘れてて、それが見つかった後、1週間は着信拒否設定をくらっていたな。今回は何だろう。


「あの~開発主任? ……主に~ん?」


「ん、あぁ……君か。いやすまない取り乱した。そこにかけてくれ」


 そう言って主任が指さしたのは、とある有名画家の書いた椅子の絵。


 ……まだダメージが抜けてないな。


「あの……今回は何が?」


 辛いことがあったのは間違いない。であれば、その捌け口を求めているはずだ。さぁ、どうぞ主任! 僕は全力でそのやりどころのない悲しみを受け止めますよ。 さぁ、全力で僕をぶん殴ってください!


「……あぁ、先週出張に出たから妻にお土産を送ってね。そのお土産が届いたってことで電話が来たんだが、なぜかこっぴどく怒られてしまって」


 何となくオチが読めるな。


「何をお送りしたんですか?」


「よくある本物を模したお菓子だよ。ゴルフボールに非常に似ててね。中には甘い餡子が詰まってたんだ」


「それは……普通のお土産ですね。それでどうしてご立腹だったんでしょう」


「私にもわからないよ……本物と比較しやすいように、中に本物のゴルフボールも混ぜて梱包してもらったというのに」


「それだ」


 僕の答えに「へ?」と不可解な表情をする主任。多分それ、ゴルフボールをかじっちゃったってオチですよね。それは奥さんも怒りますよ。なんて羨ましい。今度僕もしよう。


 そのことを説明すると、主任もそうかと納得し「今度はテニスボールにしよう。これなら噛んでも痛くないぞ」と斜め上の回答を導き出した。さすがこのゲームを作り上げた人だ。人と感性が根本的にズレている。


「あの、主任。それで、今回僕はどうして呼ばれたのでしょうか。お仕置きですか? お仕置きですか?」


「あぁ、今回呼んだのは、君が前から一緒にいる例のプレイヤー君について話を聞かせてほしかったからだ」


「またですか? それ、以前にもしっかりとお話ししましたよね?」


「そうなんだが、今回は前と事情が少し違ってね。より細かい彼のデータを取りたいんだ」


「……彼の?」


「おっと、そう身構えないでくれ。別に彼に何かをしようとしてるわけじゃない。ただ、生身であの極光六連を完成させる化け物――いや、超人に興味が湧いてね。彼のデータを基にした、ボスモンスターでも作ってみようかと思ったんだ」


 ほう、それは面白そうだ。彼をモデルとしたモンスターなら、さぞや僕の背筋をゾクゾクさせてくれることだろう。


 でも……


「……それ、攻略できるんですか?」


「……そこなんだよ」

閑話第四弾はモップさんでした。

彼の一人称は書いていて色々と汚染されてしまいます……


気を取り直して、次回は掲示板回。その次からは新章です。

更新は月曜日の予定です。

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