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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第5章 シコク動乱編
123/202

123話 とある鋼鉄の一意専心

 周囲を取り囲んでいた奴らが姿を現したのは、俺が最初に気付いた時から数分経過してのことだった。


 愛くるしい動物の着ぐるみを着たむさ苦しい男。妖艶な雰囲気を醸し出すビキニアーマーのお姉さん。暗殺者のような鋭い殺気をまとうピエロ。レスラーのような体系に重厚な鎧を重ねる男。フライドチキンを両手に持つ小太りで白スーツの老人。実にバラエティに富んだ格好の彼らの人数は、見えるだけでおよそ40。他にも姿を隠してはいるが気配を感じさせるのが10人ほどいるから、総数は50といったところか。


 対して海外プレイヤーを迎え撃つべく丘の上で固まっているのは、俺や御菊、瑠璃、メタルボッチさんをはじめとした20人の現地プレイヤー。だが彼らの目には、怯えもなければ戸惑いもない。実に堂々と、そしてある種の余裕すらもって彼らは倍以上の敵勢を見据えていた。


「皆堂々と構えてるな。感心だ」


 迎え撃つ態勢こそ整える暇はあったが、罠などを設置する時間はなかった。そのため俺たちはこれから、正面で倍の敵と小細工なしで戦うことを余儀なくされている。それでも慌てないというのは、よほど自分の力に自信があるのか。


【ここにいるのはボス戦や緊急クエストでよく顔を見る精鋭ばかりです。多分、個の力なら加護持ち相手といえども遅れは取りませんよ】


 俺の声を拾ったメタルボッチさんが先ほどの疑問の答えをくれる。


 やっぱりここにいるのはそれなりの実力者ばかりか。まぁよく考えればここで会敵することを狙っていた由紀子が、戦いに勝てないメンバーを集めるはずはないか。

 あれ? でも敵と互角だったとしたら数で劣るこっちが危ないんじゃ。由紀子、これはどういう――あぁ、俺と瑠璃で蹴散らせと。


【そういう訳で、僕も暴れますよ(/・ω・)/ガオー】


 重厚な鎧をガチャリと擦らせ、メタルボッチさんも敵へと視線を向ける。そうだったな。メタルボッチさんも我らに劣らぬ剛の者。このメンツが揃っていて、高々倍チョットの敵を恐れる必要など皆無だった。


 そしてその隣では、皆の指揮を一手に引き受ける由紀子が、敵勢を前に皆を鼓舞する。


「兎を追い詰めたとでも思ってるんでしょうけど、どっちが兎なのかしらね……さぁみんな、狩りの時間よ!」


「おお!」


 由紀子の声に、俺たちは揃って声を上げる。やけに指揮の高い俺たちを不思議そうに睨んでいた海外プレイヤーたちは、由紀子の言葉の意味をいまいち理解できてないでいた。


 だが、


「突撃ぃいいい!」


「うぉおおおらぁああああああ!」


『――っ!?!?』


 取り囲んでいた海外プレイヤーに対して逆に突撃をかける俺たちを見て、彼らはようやく自覚しだしたようであった。もしかしたら、自分たちが囲んでいたのは兎ではなかったのかもしれない、と。





 ■ □ ■ □ ■





 突撃を敢行してから間もなく、戦場は敵味方入り乱れての大乱闘となった。敵は丘を取り囲むように包囲網を敷いていたが、突如として逆落としを実行した俺たちに薄く伸ばしていた包囲網は容易く食い破られ、慌てて救援に駆け付けた左右からの敵を、こちらも軍団を二分することで迎え撃っていた。


 隠れていた敵もほとんどが姿を現したせいで、全体の数は完全に向こうが上回っていたが、それでも状況は互角のまま推移していた。


「左の方は何とか食い止める! その間に右は敵の殲滅を!」


「了解!」


 隣で指揮を執る由紀子の声に、右側を任されたリーダー格の男性が応える。


 現時点での敵の総数はおよそ45。最初の突撃で5人ほどは倒せたが、右に15、左に30ほどの敵がまだ健在であった。こちらの数が20である以上、そのまま両側の敵を同時に相手していては間違いなくこちらがやられる。

 そこで由紀子は20の味方を二つに分断。俺と由紀子、メタルボッチさんの3人で左から迫る敵30人を引き留め、その間に残った17人で右側の敵15人を倒す。これが彼女の立てた作戦であった。


 ……我が妻ながら、恐ろしい作戦を立てるものだ。


 右側には乱戦時に無類の強さを発揮する瑠璃がいるからおそらく勝つだろうが、こっちはたったの3人。敵は加護持ちのプレイヤー30人。普通に考えれば頭のおかしい人の立てた、穴しかない作戦だ。


 だがこれは由紀子の立てた作戦。そして由紀子の選んだ3人。ならば俺は、その期待に応えよう。応えてみせよう。


「で、御菊。この壁はどれぐらい持つ?」


 肌を焦がす灼熱の炎。それが地面から天へと轟音を上げて吹き出し続け、壁を成す。


 これは由紀子の技で、名を赤壁(せきへき)。殆どの物理、魔法攻撃を食い止める、由紀子の最強の防壁だ。


 流石の由紀子も30人の強敵と正面からぶつかるのは不可能と判断したのか、囲まれる前にこれを正面に展開。敵の分断に見事成功した――のだが、問題はこの後だ。


「もってあと15秒かなぁ」


 15秒。それが俺たちに許された、止まっていられる時間。それを超えた瞬間、こちらは何らかのアクションを起こさざるを得なくなる。


 由紀子はたった今大技を出したばかりだから、少しきついだろう。ならここは、俺が大暴れするしかない。そう考え、拳を固めていたその時、彼の文字が視界へと浮かんだ。


【ここは僕が先陣を切ります。お2人はその後のフォローをお願いできますか?】


 まったく同じことを考えていたメタルボッチさんに、驚きをもって振り向くと、彼は親指を立て「任せてください」の文字を再び浮かび上がらせる。


 ……まいったな。


 俺は本当にこういうのに弱い。死地に向かう戦友の姿というのは、どうしてこうもかっこいいのだろう。


「わかりました。背中は任せてください」


 白銀の騎士の胸板部分に、拳をゴツンと乗せる。それだけで、男同士というものはわかりあうことが出来る。漢とは、そういう生き物――


「ひゃぅ!?」


 ……ん? 今とてもかわいい声がした気が。あれ、メタルボッチさん。どうしてそんなに距離をとるんだい? あれ、君にとってこのコミュニケーションは駄目だったのかな? 俺、肝心なところで外したかな?


【すいません、何でもないです。では、行きます!】


 その文字を浮かび上がらせた直後、白銀の騎士は急速に勢いを失っていく火柱に突入していった。


 ――っと、考えてる場合じゃなかったな。


「御菊、先に行く! 君も準備が出来たら頼むよ」


「は~い、いってらしゃい」


 愛する妻からのいってらっしゃい。この言葉があれば、俺は何年でも何十年でも働き続けられる。俺はどれだけの戦場も駆けることが出来る。その思いを胸に、メタルボッチさんの後を追って消えゆく炎の壁に突撃を敢行する。


『おおおおお!』


 壁を抜けた先では、すでに戦いが始まっていた。


 白銀の騎士を取り囲むのは、鎧、スーツ、着ぐるみ等々に身を包む野郎たち。


 巨大な槍を振り回しているお陰で完全包囲とまではいっていないが、少しでも手を緩めればたちまち袋叩きにあってしまいそうな状況だ。端的に言って、ピンチだ。


「メタルボッチさん、今助け――」


 ようとする俺に、彼は不要とばかりに手を出し制止を促す。いやメタルボッチさん、そんなことしてると、


『隙ありだ、鉄カブト!』


 やはりと言うべきか。槍の止まった瞬間を狙い、野郎たちが四方から襲い掛かる。


 その時だ。


「――バルキリーコレクション」


 透き通るような声が、戦場を駆け抜けたのは。


『おわぁああああ!?』


『何だこいつら、イキナリ!?』


 状況の掴めていない野郎たち。俺も掴めていない。いや一体誰が予想できようか。突然メタルボッチさんの隣に3人の戦乙女が現れ、取り囲んでいた野郎たちをぶっ飛ばすなど。


 現れた3人は全員がマネキンのような無表情をしており、身に付けている装備も羽の付いた鎧と統一されている。彼女たちは一体……


「っぷはっ、やっと追い付いた……ってあら、メタルちゃん、暴れてるわねぇ。さっすが人形使い(ドールマスター)


 肩で息をしながら追い付いてきた由紀子の言葉で、得心がいった。ドールマスターとはその名の通り、人形を使役し自らの戦力とする職業。確か、レア職の1つだったはずだ。彼がそれに就いているということは、あの戦乙女たちは彼の使役する人形なのだろう。なるほど、確かにこれなら、圧倒的に数の少ない俺たちの手を僅かながらも解消する一手とはなりうる。


「となると、このタイミングを逃す手はないな」


 敵は突然現れた戦乙女たちに戸惑いを隠せていない。こっちの目的は時間稼ぎにあるが、なにも敵を倒してはいけないという訳でもない。倒せるときには倒す。それが戦の掟だ。だから諸君よ、


『ん? なん――だぐらっ!?』


 覚悟はいいか。


 俺から視線を外した阿呆の顎を蹴り飛ばし、俺の開戦の狼煙は上がった。


 そして俺にぶっ飛ばされた彼はというと、起き上がり憎悪に満ちた目でこちらを睨みつけ、


『こいつ……ぶっ殺――』


「――火葬炎槍(かそうえんそう)


 俺への殺意をたぎらせる男のどてっ腹に、丸太大の槍が突き刺さる。


 そして男が恐怖を自覚する前に、彼の体は炎に包まれた。


『ああああああ!? ひ、火!? け、消し』


 うむ、火に包まれては大変だろう。すぐに消してあげよう。


 慈悲の心をもって、彼の炎を鎮める。方法は簡単だ。斧で彼の首を跳ね飛ばせば、彼は光となって楽になれる。身を包んでいる炎も同時に消える。俺たちも助かる。お互いにメリットのある、win-winの関係だ。だろう?


『ひ、や、止め――』


 振るわれた斧が、彼の炎を鎮める。ついでに命の灯も消えてしまったが、まぁそれは仕方がないだろう。これは、そういうゲームなのだから。


『くそっ、取り囲め! まともに1人で相手をするな!』


 後方に控えていたリーダー格と思わしき男から指示の声が飛ぶ。確かにそれをされると数の少ないこっちはきつい。だが、そんなことをさせると思っているのか?


火雨(ひさめ)


 魔法を発現させた由紀子の半径20メートルに、火の雨が降る。と言ってもダメージ自体はそれほどでもない。この火でHPを大きく削られる敵はおそらくいないだろう。


 が、目くらましにはなる。そして今の俺たちには、その目くらましは何よりも助かる。同時に、敵にとっては味方と敵を識別しにくくなる最悪の状況にもなるわけだ。


 これで状況を少しでも有利に。そう思っていたのも束の間、敵は次の手に出る。


『くそっ、先にあの鉄カブトをやれ! あいつが消えたら周りのバルキリーも消えるはずだ!』


 俺たちにとって最も取られたくない手の1つを、敵のリーダーは声高に叫ぶ。


「いかん、メタルボッチさん――」


『おっと、貴殿の相手はこちらですよ』


 割り込むように入ってくるスーツ姿の老紳士。まるで年齢を感じさせないスラっとした佇まいと動きは、俺の警戒心をより一層刺激する。


 くっ、邪魔を……


「するな!」


『っと』


 視界の外から入る回し蹴りを放つが、目の前の紳士は逞しい前腕でそれを止める。執事のような見た目ながら、何という格闘スキルだ。さすが加護持ちか。っと感心してる場合では、


『今だ、やれ!』


 四方から突撃をかける野郎たち。槍を高速で振り回し寄せ付けないよう粘るメタルボッチさん。


 その一瞬の攻防は、彼らに軍配が上がった。


『――もらい』


 ただでさえ不気味な笑顔のメイクをしたピエロの顔が、さらに歪む。奴は他の仲間を盾に、一瞬でメタルボッチさんの懐へと潜り込んだ。


『――かまいたち!』


 白の手袋が横に一閃されると、その先から三日月状の真空の刃が生み出される。


 その刃はメタルボッチさんの首元に真っすぐ飛来し、そして――


「――っ!?」


 フルフェイスの兜が、宙に舞う。


『はは、これであと2人っと』


 馬鹿な。首が飛ぶということは、彼のHPがあの一撃で底をついたということだ。いくらあのピエロが加護持ちとはいえ、それでもあの重装甲のメタルボッチさんを一撃とは考えにくい。だが現に首は飛んだ。そしてメタルボッチさんは……。


 とにかく、あのピエロは要注意だ。そしてこの窮地をどうするか。メタルボッチさんがやられたことで、あの戦乙女たちも消えてしまう。消えて……あれ、消えてないな。


 同じ考えに至ったのか、ピエロの顔から悦の色が徐々に消えていく。


『……なんだ? こいつ』


 デュラハンと化したメタルボッチさんを不可思議な目で見つめるピエロ。だが次に起きた事象は、彼らの、そして俺の予想を遥かに超えていた。


『まぁいいや、今度は胸を串刺しにして殺――っ!?』


 ピエロのどてっ腹から、巨大な槍が生える。その先を辿れば、噴出した赤いエフェクトが。その元を辿れば、首なしの騎士の手が添えられている。


『バカな……どうし――』


 最後の言葉を言う前に、ピエロの胸元にもう1つ巨大な穴が開き、彼は光へと変わった。


 そしてデュラハン君は、


【いや~死ぬかと思いました(*´ω`*;)】


 無くなった後頭部を掻く仕草で、その文字を浮かび上がらせる。


 いやいやいやいやいやいや、それは流石にないだろう。これは何だ? 何が起こってるんだ? 俺のゲーム機は壊れてしまったのか?


 いや、違うようだ。周囲を囲んでいる彼らも開いた口が塞がらない上に、時を止められたかのような状態に陥っている。


 だが、だがだ。ではこれは何だ? 説明してくれ、


「メタルボッチさん!」


 心からの叫びに、彼は少しだけ躊躇したのち、答えを見せてくれた。


【そのですね、これは……】「こういう、ことなんです」


 再び俺と野郎どもの時は止まった。それぐらいは許してほしい。何せ、目の前のデュラハンの胸部分の鎧がパカッと開き、その中から、


「お、んな……の子?」


 瑠璃より少し大きいぐらいの、ショートボブカットの女の子が現れたのだから。


「その……メタルボッチ、です」


 今日は色々と驚かされる日だ。だが、これは間違いなく今日イチだろう。


 まだまだ戦闘の最中にありながら、頭の中ではそんな考えがゆっくりと過ぎ去っていった。

次回『とある戦士の現役復帰』

更新は木曜日の予定です。

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