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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第1章 オキナワ上陸編
12/202

12話 【速報】俺氏、大地に立つ

 伸二のおかげで新しい友人のできたその日の夜、俺は1人で始まりの町とも呼ばれる【ナハ】へと降り立っていた。那覇ではない、ナハだ。そしてそのナハのある地方はオキナワと呼ばれている。沖縄ではないオキナワだ。


 イノセント・アース・オンライン――通称IEOの最大の特徴は何といっても非常にリアルに作りこまれたシステムと世界にある。その範囲はプレイヤーのリアルの能力をダイレクトに反映させるだけに留まらず、実際の日本、いや地球とそっくりに作りこまれた世界にまで及ぶ。


 全世界へと配信されているこのゲームは、国単位でのサーバーの管理がなされており、日本でインしたプレイヤーは自動的に日本サーバーへ降り立つシステムとなっている。全世界を丸ごとフィールドにするなどとてつもない労力とデータだが、IEOを運営する会社は世界中に支社を持つ超巨大企業であり、このプロジェクトにとてつもない資金を投じていると言う。

 そしてその中でも本社の置かれる日本への力の入れようは凄まじかった。広さこそ実際の面積には及ばないが、現実の日本と同じように作りこまれた世界は、数万とも数十万とも数百万とも噂される人口を軽く受け入れた。


 この世界では地方ごと、日本で言うと都道府県ごとにボスが設定されており、そのボスを倒さないと次の都道府県へと進むことはできないと言われている。日本サーバーの場合は最初にインすれば全員が【ナハ】から冒険を始めることとなる。

 IEOのサービス開始から1ヶ月の経過した現在わかっていることは、沖縄本島――もといオキナワには【ナハ】以外にも【ウルマ】、【ナゴ】という名の町があり、ボスは【ナゴ】の町の北東にあるいくつかのダンジョンの内のどれかにいるということらしい。


 断言されていないのは、ボスまでたどり着いたプレイヤーが情報を大っぴらに公開していないからだ。だがそれも仕方ないことだと俺は考えている。と言うのも、IEOでは非常に美味しいことが予想されるボスからのドロップは、最初のボス撃破パーティしか受け取ることが出来ないのだ。


 ボス自体は皆が挑戦できるように、倒された後も一定時間で復活する仕組みとなっているらしいが、やはりやるからにはレアドロップを目指したい。そのため誰もが自分たちのパーティが一番にクリアすることを目標とし、結果ボス攻略に対する情報どころか、どうすればボスに対する挑戦権を得られるのかすらも明確化されていない。


 このためオキナワのボスはサービス開始から1ヶ月が経過した現在でもその攻略がなされておらず、次のフィールドがどの都道府県なのかもまだわかっていない。


 全国の廃人たちがこぞって雪崩れ込んだ大人気オンラインゲームであるのにも関わらず、一月経って未だ最初のステージすらクリアできないってどんだけだよ。運営鬼畜すぎるだろ。


 まぁそれは一先ず置いておこう。俺はまだやっとこの世界で戦闘が出来るようになっただけで、まだまだやることは山積してるからな。まずはハローワークで討伐系クエストでも受けて資金繰りだな。


 そう思い足を進めているうちに俺はあることに気付いた。町の街灯が灯っている。これは別にいたって普通だが、と言うことは今は暗い、つまり夜ということだ。当たり前のこと過ぎて感覚が麻痺してしまっていたが、俺は今更ながらにこの世界の時間とリアルの時間が連動していることに気付いた。


 待てよ。って言うことは外に出ても暗くて何も見えないんじゃ……あれ? でも初日そんなの気にしてたっけ? 夜戦の経験もあるし何とかなると思いたいが、相手がモンスターとなるとちょっと不安だな。まぁそれは後で確認するか。まずはハローワークだな。


 俺は逸る気持ちを抑えられずダッシュでハローワークへと向かう。その道中で複数の視線を感じたが、特に悪いものは感じられなかったのでそのまま無視しハローワークの扉を開いた。しかし嫌な字面だな。


 ――扉を開くと、そこはハローワークでした。


 ……やっぱり嫌な字面だ。運営の悪意を感じるぞ。


 俺は引っかかるものを感じてはいたが、そうしても何も始まらないと気持ちを切り替え足を進めた。


 中に入ると、建物内は様々な装備で身を固めたプレイヤーでごった返していた。その多くはクエストの貼られている巨大な掲示板の前をウロウロしており、また貼りだされたクエスト紙を手にしたプレイヤーで受付カウンター前には長蛇の列が作り出されていた。


「これは……想像以上に人が多いな」


 ナハの町には複数のハローワークがあるが、この様子だと他の所も似たような状況だろう。もしこれがリアルの光景だったら世の中大不況だな。


 しかしこれは予想以上に混雑してるな。しかも掲示板に貼られてあるクエストも滅茶苦茶多いし……よし、また今度来よう。や、やろうと思ったら俺はいつでも仕事できるんだぞ! 俺はまだ本気出してないだけだ。俺にふさわしい仕事が来てないだけなんだ!


 いかん。ハローワークに来ているという事実が俺の思考を狂わせる。どうにも落ち着かない。落ち着け、俺はまだ高校生だ、学生だ。無職じゃない、無職じゃない、無職コワイ、無職コワイ。



 ……駄目だな、出よう。





 ■ □ ■ □ ■





 結局ハローワークでのクエスト受注を諦めた俺は、多少効率は落ちるがクエストを受注せずにフィールドへと出た。


 しかし夜だから見えないのかと思ったけどそんなこと無いな。そこそこ見える。ちょっと暗いけれども。


 夜のフィールドは薄暗さこそ感じるものの、50メートル程度の視界は何とか確保できるぐらいの暗さだった。これなら見通しの良いフィールドなら何とかなりそうだな。周囲を見渡せば俺と同じ駆け出しのプレイヤーなのだろうか、結構な人数がフィールドに出ていた。

 ナハの町の周辺フィールドにポップするモンスターは基本弱く、資金効率も悪いため初心者以外には人気がない。しかしサービス開始からまだ1ヶ月のIEOには俺と同じ初心者が大変多く、ナハの町とその周辺フィールドはまだまだその初心者で溢れていた。


「おい、ここは俺たちの狩場だぞ!」


「そんなの勝手に決めんな!」


 耳をそこまで澄ませなくとも、あちこちからそんなやり取りが聞こえてくる。う~ん、殺伐としてるなぁ……ここはやめておこう。この前伸二と一緒に行ったフィールドは他に人があまりいなかったけど、あそこは取れる素材も一番質が低いらしいんだよなぁ。どこに行くべきか……。


「まぁ考えていても仕方がない。適当に森の中に入っていくか」


 俺は人の多い場所から逃げるように森へと入っていく。森の視界はフィールドよりも悪く、数メートル先しか見えない。それでもやれないことはないかと気にせず歩き続けていると、町の気配はすっかりと消え周囲にはうっそうと生い茂る木々が立ち並ぶのみとなっていた。


 俺は視界の端に浮かぶ索敵レーダーに目をやりつつ周囲に注意を払っていると、周囲にモンスターと思われる気配が複数いることに気付いた。だが索敵レーダーには反応がない。これは俺の感覚がおかしいのか。それとも索敵能力が低くて周囲のモンスターを感知できていないのか。

 少し迷ったが俺は自分の感覚を信じることにした。一番近い気配は俺の前に立っている木の陰から感じる。数は3。俺はそのまま歩みを止めずに木の横を通りすぎ――3匹の蛇のモンスターが一斉に跳びかかってきた。


 大きさは2メートルほど。剥き出しの鋭利な牙からは毒のような禍々しい色の液体も付着している。うん、巨大なハブだな。


 俺は普段通りに腰に差してあるサバイバルナイフを――こっちでは持ってなかったな。俺は双銃を手にすると、まずは上下から襲い来る蛇の頭部にそれぞれ1発ずつ弾丸を撃ち込み、真ん中から来る蛇の頭を蹴り飛ばした。現実世界ならこれで死なない蛇はいないところだが、ここは仮想世界。3匹の蛇はその場で悶えつつも、俺に対する敵意を未だ向け続けていた。


「ま、これなら撃ち放題だけどな」


 俺は動かぬ的と化した蛇の頭部に再び銃弾を放ち、完全に戦闘不能にした。すると蛇は光のエフェクトを放ち消え、その場に3つ、紫色の小さな牙を残した。


「へぇ、これがドロップアイテムか」


 紫色の牙を手に取ると、俺の視界にアイテムの説明文が浮かび上がる。


【ハブの牙:素材として使えるが、そのままでは実用性は低い】


 そのまんまかよ! てかあの蛇の名前ハブで合ってたんだ。運営もうちょっと捻れよ。俺はそれを拾うと素材をアイテムボックスと呼ばれる個人管理の謎空間に放り込んだ。伸二曰く出ろと念じれば出てくるビックリボックスで便利だから使えということだが、便利すぎるだろこれ。リアルに超ほしい。


「ま、何はともあれ初討伐成功だな。さて次は――」


 俺の言葉に反応するように、周囲に隠れていたモンスターが四方から一斉に襲い掛かってきた。


「――こいつらの始末だな」


 まずは左右から襲い掛かってくる猿のモンスター。大きさは普通のニホンザルだがその目は赤黒い光を宿し、とても猿とは思えない殺気を向けてくる。両手を広げそいつらの頭に銃弾を撃ち込むが、先ほどのハブのことを踏まえ念のために3発ずつ放った。うん、倒せた。大体ヘッドショットだと3発ぐらいで倒せるな。


 俺はそのまま四方から襲い来る蛇と猿のモンスターの頭部に3発ずつ銃弾を撃ち込み続けた。一斉に来たため中には俺の懐に潜り込むまで接近してきたモンスターもいたが、そいつらには最初の蛇よろしく靴の感触をプレゼントした。途中弾切れを起こして数秒程回避に専念する場面もあったが、直線的で連携もない動きに当たるほど軟な鍛えられ方はしてない。

 それを数回繰り返した後には、モンスターの素材が周囲にゴロゴロと転がっていた。だが俺はそれらを拾うことなく、奥にある気配に注意を向ける。


「GYUOOOOOO!」


 来たか。1つだけ明らかにデカい気配を発していたから気になってたんだが……あれは、イノシシか。しっかし――


「デカいな」


 リアルでもイノシシは何度も狩ったが、流石に背丈が俺と同じぐらいデカい奴は初めて見るな。あの牙で突かれたら体の風通しもさぞ良くなるだろう。やられないけどな。


 俺は猛然と迫りくる巨大なイノシシに同様に突っ込む。そのまま衝突すれば俺はトラックにひかれたマネキンのように宙を舞うだろう。だが当然そんなことはしない。衝突の寸前に上に跳躍することで俺はイノシシの後ろをとり、そのまま空中で体を反転させイノシシのアキレス腱を4つとも撃ち抜く。ヘッドショットも容易くできたが、突進してくる生き物の頭蓋骨というのは非常に固い。おまけにこのサイズだ。用心を重ね俺は敵の機動力を奪うことにした。


 案の定巨大イノシシはその場で勢いよく倒れこみ中々起き上がれないでいる。俺はすかさずイノシシの心臓部に銃弾を放つ。あ、でもこのモンスターの心臓がリアルのイノシシと一緒とは限らないか。


 またしても案の定というべきか、それだけではイノシシを仕留めきれず、立ち上がり再びこっちへ突っ込んできた。だが最初の時のような瞬発力はすっかりと影を潜めまるで勢いがない。これならもう目、鼻、口に弾を撃ち込み続けるだけの簡単な作業だな。


「悪いな。獲物はいたぶらない性質(タチ)なんだ。すぐに楽にしてやるよ」


 今日は狩猟日和だな。後は、町から俺の後をつけてきてる奴をどうするかだが……仕掛けてこない限り放っておくか。

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