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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第5章 シコク動乱編
118/202

118話 とある死神の殺戮劇場

 月明かりの照らす草原に、死神はふわりと舞い降りた。


 その手に、身の丈ほどもある巨大な鎌を携えて。


 だが男たちの視線の先に彼女はいない。仲間の一人の首が宙に舞い光となる光景を、ただただ口を開けて呆然と眺めているだけ。


 まぁ戦場帰りという訳でもないだろうし、いきなりコレに対応しろというほうが酷な話か。だが、死神は男たちのそんな都合など考慮はしない。ただ隙の大きい奴から順に、命を刈り取るだけ。


 おっと、思ったそばから。ほらそんな間抜け顔を晒しておいていいのかサンタクロース男。死神の鎌がお前に向かっているぞ。


 そんな俺の願いも虚しく、サンタクロースの衣装を身にまとった男は、へそから喉元までパックリと鎌で裂かれ、赤黒いエフェクトを再び空に打ち上げた。因みに、男の首が飛んでからここまで、かかった時間は1,5秒。男たちは、1人を光にされ、もう1人を重体にされてようやく、今の事態を把握しだした。


『おあああ!? 何だ、コイツ!』


『リッキー!?』


『何が、何が起こってやがる!?』


『え、え?』


 大きく取り乱した男4人の視線の先にいたのは、全身を包む黒い布を羽織り、般若の面を被ったとっても可愛い死神。夜に溶け入るかのように揺らめくその異形の姿に、男たちの顔が遠目にわかるほどに引き攣る。


 それでも、ようやくその眼に死神の姿を捉えることが出来た。これでようやく、男たちの反撃が始まる。奇襲を受けたとはいえまだ数の上では有利。この混乱の中でもそう考えることぐらいはできるだろう。


 だがもしその考えに俺が返答するならば、答えは「NO」だ。死神が姿を現すのは死者を(いざな)うため。その姿を見た瞬間、彼らの運命は決まっているのだから。


 ――そうだろう。俺の可愛い可愛い、死神よ。


『へぶっ!?』


 既に初撃でHPの3割を持っていかれていたサンタ男の首筋に、神速の鎌が再び振るわれる。これは瑠璃のアーツ《大鎌一閃》によるもの。小柄な体形の瑠璃が自分の身の丈ほどもある大鎌を扱うさまは、男たちの目をひん剥かせる。だが未だHPが削り切れていなかったためか、男の首には赤い線が引かれ赤いエフェクトが飛び散るだけで、宙を舞うことはなかった。


 これは体の耐久値とHPの関係によるもの。


 手や足にはHPとは別に耐久値と呼ばれるものが存在する、らしい。その耐久値を上回る攻撃をピンポイントに当てた場合、部位破壊と呼ばれる四肢の欠損が起こる、らしい。

 だが首や胴体などの戦闘に不可欠な箇所にはその耐久値が存在せず、唯一HPを削りきれた時にだけ切り飛ばしたり吹き飛ばすことが可能になるとか。


 現に、今の男はまだ首が繋がったままで、HPも少しだけ残っている。まぁ、少しだから、多分すぐに――


『ひぎゃっ!?』


 思ったそばから、瑠璃は振りぬいた大鎌を壁に当てたかのような速さで反射させ、返す刃で男の首を跳ね飛ばした。


 今のはアーツ《反刃》。勢いよく振りぬいた剣や棍などを急に逆方向に反射させる技だ。あれを使うと剣の達人の気分を味わえるとかで、確か結構人気の高いアーツだったな。まぁ、大鎌でそれをやっている人間はあまり見たことがないが。


 しかし、これで4人か。さて、男たちはどう出るかな?


『きょ、距離をとれ!』


 黒づくめのスーツ男の声に、他の3人が素早く反応する。まぁ得体の知れない敵の出現にそうしたくなる気持ちはわかるし、あんなものを振り回す相手と接近戦をしたくないのも理解はできるが、それでも……悪手だな。夜の瑠璃に、そんな距離は意味を為さない。むしろ、4人が離れてしまったことで互いのカバーの届かない位置に来てしまっている。それでは、瑠璃と1対1になってしまうぞ。


「……分身の術」


 2本指を立てそう呟いた死神は、自身の周囲に3体の分身体を作り出した。


『こ、これは!?』


『こいつ、忍者か!』


 正解だ。思わずスコープ越しに男たちに返答してしまう。


 そう、瑠璃の職業は忍者。上級職ともレア職とも言われるもので、軽い身のこなしと相手を翻弄する変幻自在の術の数々を習得する職業。

 だが、瑠璃の最も恐ろしいのはその職業による特性ではない。男たちは、この後それを思い知るだろう。


『分身ごとき……迎え撃て!』


『おお!』


 スーツ男の檄に、残りの男たちも勢いよく応える。分身の術は一見強力そうに見えるが、本体以外の動きは機械的で単純。純粋に戦力を4倍にするものではない。術のレベルを上げていくことでその動きも多彩になってはくるが、それでもオリジナルを超える動きは期待できない。男たちもそれを知っているのだろう。その顔には、さっきまでとは違う余裕が浮かび上がってきている。


 まぁ人はそれを――油断というがな。


『満月斬り!』


 軽装の鎧男の放つ斬撃で可愛い可愛い死神の体が頭頂から真っ二つに裂ける。分身とはわかっていても、これは心臓に悪いな。


『ツインショット!』


 黒づくめのスーツ男が鋭い眼光と共に二丁拳銃を解き放つ。ふむ、あの間に急所に2発、胴体に4発か……まぁまぁだな。


『飛燕連脚!』


 チャラい見た目とは裏腹に、Tシャツ短パン男から鋭い連続回し蹴りが放たれると、瑠璃を模した可愛い死神の体は陽炎のように掻き消えていった。


『チャクラムシュート! ――回剣』


 地味な無地のマント男の懐からノーモーションで輪形の手裏剣チャクラムが飛び出てくる。ふーむ、あれは真似できないな。っと、威力不足で分身を消し損ねていた分を接近しての連続斬りでカバーしたか。しかしマントの内側からいろんな武器が出てくるな。あれはなんていう職業だ? 瑠璃と同じ忍者……いや、道化師か暗殺者か?


 まぁなんでもいいか。それよりも全員中々見事な腕だ。分身体とはいえ、4体の敵をほぼ一瞬で滅して見せた。これまでやりあってきたプレイヤーの中でもかなり上の方だな。瑠璃の本体の行方は掴めていないみたいだが。


『どういうことだ……全部、分身体だと』


 ようやく浮かび上がってきた余裕のある表情がすぐになりを潜める。まぁそれも無理ない話か。やっとのこと実態を捉えることができたと思っていた死神の姿を、彼らは再び見失ったのだから。


「……影糸(かげいと)


 そして死神が再び姿を現す時、彼らの命は再び刈り取られる。


『――っ!?』


 夜に溶け込む漆黒の糸が彼らの首に、四肢に縫い付けられる。


 突如失われた自由を探しもがき苦しむ者、ダメージ自体は少ないと落ち着いて状況を分析しようとする者、とにかく瑠璃の姿を探そうと眼球を剥き出しにしてギョロギョロと動かす者、糸の正体に気付き短剣で切り裂こうとする者。様々な反応を見せる彼らだが、その反応にはどれも意味がない。


 何故なら――どれも瑠璃にとってはただの餌でしかないのだから。


「……兜割り」


 月の輝く闇夜からゆっくりと降ってくる死神。その姿を見た者はふわりとした擬音を思わず連想することだろう。見えたら、だが。


 直後、大質量の鎌が軽装の鎧男の肩口――心臓の直上――をパックリと斬り開く。


『ぅ――ぁあああああああ!?』


 何が何だか分からない、もう止めてくれ、助けてくれ。男の顔にはそう書いてあった。だが残念ながら、その顔は死神には届かなかった。


「……焙烙玉」


 肩口にできた傷口に鋭い手刀を捻じ込む死神。そしてすぐさまバックステップを踏むと、彼の肩に埋め込まれた置き土産は綺麗な、それは綺麗な爆炎を闇夜に咲かせた。


『――――――!』


『――――――!?』


 鼓膜を破りにかかるような轟音の中、既に現実世界へと旅立った仲間に対する哀しみの声を上げる男たち。だがそう悲観することはない。君たちもすぐに、後を追うことになるのだから。


「……あと3人」


 異形の姿からは想像もつかぬ可憐で可愛らしい声が漏れる。だが男たちの精神に、そのことへ注意を向けるほどの余裕はすでに欠片も残されていなかった。


『くっそぉおおおお! リロード【マグナム弾】、レインブレット!』


 二挺拳銃を構えるスーツ男から、凶弾が雨の如く連続で射出される。いくら取り乱していようが、そこはアーツ。その射撃は正確で、的確に死神の被る般若の面へと引き鉄を引いている。


 だがそれも、


『す、すり抜けた!?』


 ように男が錯覚したのは、回避用アーツ《朧》によるもの。流れるようなその動きに、男は瑠璃を照準に捉えること叶わず接近を許してしまう。


『――ひっ』


 スーツ男の命を刈り取る大鎌が銀の閃光を闇に引く。が、あともう少しというところで、もう1つの閃光が間に割って入り、男の命を僅かに繋ぐ。


『ビビんじゃねぇ! コイツとの接近戦は俺に任せろ』


 大鎌とスーツ男の間に入ったのは、無地のマント男。前腕ほどの長さしかない短剣で瑠璃の一撃を止めるとは……やるな。


『コイツはおそらく俺と同じ暗殺者(アサシン)か忍者だ。なら俺の方がマシに戦え――るっ!』


 そう言うと男は体を捻り大鎌を上に逸らし、般若の面に鋭い蹴りを入れる。俺は男を捻り殺してやりたい感情を必死に抑え、後方に吹き飛んだ瑠璃の援護がいつでもできるように男たちへと照準を合わせ続ける。


 由紀子……まだなのか。


『これで――』


 吹き飛ぶ瑠璃を追撃するマント男は、両腕を懐へと忍ばせた後に大きく開大させ、十数本に及ぶナイフを解き放った。


「瑠璃!」


 我が最愛の娘に迫る凶刃。それに思わず本能が叫びを上げてしまう。もう限界だ由紀子、俺は、俺は――


「……影法師」


 瑠璃から分離した実体を持つ影が本体に迫る凶刃を全てその身に受け、なおも男に接近する。互いに向かい合う速度は男の反応速度を上回り、


『なっ――いぎぃ!?』


 影法師と呼ばれたそれが駆け抜けると、男の首に銀閃を引き赤いエフェクトを放出させる。


 うん、わかってたよ。瑠璃なら大丈夫って。でも仕方ないじゃないか。娘に迫る刃を見て落ち着けって方が無理じゃないか。


 ……俺は誰に言い訳をしているんだ。そんな事より、娘の活躍を目に焼き付けねば。おっと、ここで本体による追撃、爆裂手裏剣か。さらばマント男君。君は立ち向かう相手を、間違えた。


 それから間もなく、俺のスコープにいくつかの光が映り込み、戦場は静けさを取り戻した。

次回『とある異国の日本侵略』

更新は月曜日の予定です。

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