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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
111/202

111話 これまでの日々を振り返り私は反省……しませーん!

ある人物による視点です。


『――という訳で、何とかボスを倒すことができました』


 フレンドリストの上から5番目に名前の載る少女からのボイスチャットに、私は頬を緩ませる。


「そう、お疲れ様。頑張ったわね」


『えへへ、ありがとうございます。これも師匠のお陰です』


「あら、私は基礎を教えただけよ。チームを率いて勝利を掴み取ったのは貴女と、そのお仲間たち。その事実は誇っていいことよ」


『……ありがとうございます』


 姿は見えないが、チャットの向こう側で顔を緩ませモジモジとしている可愛い魔法使いの姿が目に浮かぶ。


『あ、でも師匠もレイドボスの討伐、おめでとうございます。流石師匠です』


「ありがと。でも私の方は十分に戦力が整ってたし、フォローしてくれる暑苦しいオッサ――人がいたから、そちらよりは楽な仕事だったわよ」


 なにせこちらはトップギルドの優秀な人材を好き勝手に使えたからね。時間はかかったし危ないところもない訳ではなかったけど、結果としては13人の脱落のみで勝つことができた。


「それよりリーフちゃん。その例の告白騒動。もっと詳しく聞かせてちょうだい」


『あ、はい。えっとですね――』


 遂に、遂に総ちゃんがあの子と付き合うことになった。その報告をモップから受け取った時は、天にも昇る気持ちだった。あの糞ドMが余計な注釈を混ぜずに語ってくれたら、もっと感動できたでしょうけど。本当に忌々しい。


 でもそれも詮無いこと。あの糞ドMのことは綺麗さっぱり忘れて、リーフ――翠ちゃんからのキャッキャウフフな情報を再取得しましょう。




『――と、大体こんな感じです』


「そう……ホント、若いって良いわね」


『師匠もまだまだお若いじゃないですか。それに凄い美人だし』


 ホント、何ていい子なのかしら翠ちゃん。葵ちゃんがいなかったら間違いなくこの子を総ちゃんのお嫁さんに迎えるべく策を弄したところね。


「ふふ、ありがと。リーフちゃんみたいに可愛い子に言われたら自信が湧いてきたわ」


 あぁ、早く総ちゃんこのことを私に公言してくれないかしら。そうしたらキチンとおめでとうと言えるのに。


『それで師匠。その付き合い始めた人たちのことで相談なんですけど、良ければ一度会っていただけませんか? 師匠とイルちゃんのことを知った彼が、一度会ってみたいと言ってまして』


 総ちゃんが、私とあの子に?


 う~ん、どうしよっかなぁ。でも流石に変装して声を変えていても、総ちゃんには私たちのことバレちゃうわよねぇ。親子と兄妹だし。


 ここでバレちゃうのは私的には少し避けたいかな……ゴメンね、翠ちゃん。


「そうなの……でもごめんなさい。私もイルも、暫くはあまり人と接触しないようにしたいの。今回のレイドボス戦であまりにも多くの人の目に触れちゃったから」


 これは半分本音で、半分建前。


 私とイル、そしてあの人は確かに3日前、レイドボス神・アネの討伐メンバーに参加して戦い、そして勝利した。


 その際、私は前線で指揮を執る大尉の参謀として、そしてあの人は前線で女神のHPを削るアタッカーとして中心的な役割を果たした。イルに関しては……多分味方ですら姿を碌に追えてないでしょうから心配はいらないと思うけど、それでも100人近くの注目を一気に浴びてしまったのは事実。


 大尉には私たちの詮索がされないようにお願いはしたけれども……暫くは念のため姿を消した方が良いでしょうね。


 はぁ……この顔と見た目、気に入ってたんだけどなぁ。


『そう、ですか……わかりました。そういうことなら仕方ないですね。無理を頼んですみません』


「こっちこそゴメンね。それと、今回色々と走りまわせちゃった件は必ずどこかで埋め合わせをするから」


『そ、そんな。そこまで気にされなくても――』


「いいの。今回は本当に、本当に感謝してるんだから。だから……ね」


 総ちゃんに対してこの子たちがどれだけ頑張ってくれたのか、どれだけ私の息子を愛してくれたのか。その気持ちが本当に、心に沁みる。どれだけ感謝してもしきれない。この恩は、必ず返す。必ず、ね。


『わかりました。そういうことでしたら、その時を楽しみに待ってますね』


「ありがと。そっちも色々と忙しいでしょうけど、頑張ってね。また連絡ちょうだい」


『はい、是非! では師匠、また!』


「うん、またね」


 ボイスチャットを切ると、私の服の袖を甘えた手が引っ張る。


「お母さん……リーフお姉ちゃん、元気だった?」


 視線を下に向け、私はこの甘えん坊さんの頭に手を置く。


「えぇ。総ちゃんと一緒に、とっても仲良くやってるそうよ」


「そっか……えへへ」


 全身を紺の衣装に身を包んだくノ一がその頬を緩ませる。頭に被せた狐のお面に手を乗せながら。


「ねぇお母さん。お兄ちゃんにはこっちで会わないの?」


「会ってもいいんだけど……総ちゃんには自分から気付いてほしいのよね。こんなわかりやすいヒントを置いてるんだし」


 私のキャラネーム《御菊》は本名である由紀子をアルファベットに変えて逆さまにして最後の文字を取っただけ。《YUKIKO》が《OKIKU》に変化しただけ。Yが余ってるからアナグラムとは言えないけど、このぐらいは気付いてほしかったな。瑠璃のキャラネーム《イル》もそう。《RURI》を《IRU》にしただけだし。


 まぁでも、仕方ないか。あの子はそういうところは本当に苦手だから。戦う以外は本当に不器用で。


 ……まぁそこが堪らなく可愛いんだけれども。


「私はこっちでお兄ちゃんと戦ってみたいなぁ。リアルだと絶対勝てないけど、こっちだったら私のスキルで何とかなるかも知れないし」


「それはどうかしら。こっちの総ちゃんも鬼のように強い――っていうか鬼よ。瑠璃が正体を明かせば無条件降伏するでしょうけど、正体に気付かなかったら正面からじゃ勝てないと思うな。良くて1:9ってところじゃないかしら」


 まぁ、正面から総ちゃんと戦って1割も可能性があるプレイヤーなんて、この世界でもかなり限られるでしょうけど。


「う~……じゃあ不意打ちもアリだったら?」


「そうねぇ。不意打ちなら3:7でいけるかもね」


 この前あの人も瑠璃に不意打ちでやられたからね。暗殺ならうちの子は最強かもしれない。総ちゃんとこの子がタッグを組んだらきっとレイドボスよりかも攻略率は低いでしょうね。


「そっかぁ。じゃあ今度お兄ちゃんに膝カックンしてみよ」


 もう試す気満々ね。


「でも殺気は出しちゃ駄目よ? お父さんと違って、総ちゃんはそれにはまだ手加減が利きにくいんだから」


「わかってるよぉ。お母さんもお父さんとおんなじこと言う~」


 何かしらねこの、我が子が虎に餌をやるのを見守る感覚は。


「あ、ねぇお母さん」


「ん、なぁに?」


「今回はどうしてレイドボスの情報とか色々分かったの?」


「あぁアレ。簡単よ」


 この世界はリアルに作られたゲームの世界。リアルの性格と、ゲームの性格の両方を兼ね備えている。だから、必ずそのしわ寄せはこの世界を構成しているNPCへと回る。


 NPCたちには高度なAIが搭載されていて、それなりに独立した思考が存在するけど、本当に臨機応変で人間と同じ思考ができるNPCの数自体は、実はそこまで多くない。中心的にそれらを管轄、操作する役割のNPCがいて、全体を動かしている。まぁリアルの世界も同じようなものと言ってしまえばそうなのだけど。


 要は各町にいるそれらのキーとなるNPCを見つけ出し、その周囲に自分のアンテナを置ければある程度の情報のさわりは確保できるという訳だ。この辺もリアルと一緒ね。


 因みに、アンテナには生産職の人たちの力を借りている。


 実はこのゲームは、私たちのような冒険者よりも、生産で町に深く関わっているプレイヤーの方が情報が集まりやすいようにできている。これはただのお客さんとしてしか町を利用しないプレイヤーよりも、生産により町の発展により深く関わってくれるプレイヤーの方がNPCとの友好度が高まりやすいからじゃないかと思う。中でも能力の高い職人やそれらを統括している生産系ギルドの有力者は、中心的な役割を果たすNPCとも親交を結びやすいらしく、攻略に関わる情報を得やすい立場に自然と回れるらしい。


 そこで得られる情報は決して深いものではないけど、それでも最初の情報さえ掴んでしまえば十分。それ以降はさほど難しくはない。NPCとの接触や交渉事にはおいては特に。


 NPCにもリアルの人間同様にパワーバランスが存在する。上司と部下の関係、鬼嫁と夫の関係然り。それらを明らかにしてしまえば、頑固親父も初孫を抱くニヤケ爺さんに早変わり。NPCとの交渉事に最も長けているのは、同じNPC。彼らにもそれぞれ立場というものがあるから、それを利用すれば面白いぐらい事がうまく運ぶ。この辺はリアルよりもゲームの方が圧倒的に楽ね。


 はぁ……リアルもこの世界と同じぐらいわかりやすければいいのに。


 あ、リアルと言えばモップ。あの人運営会社の人間で、総ちゃんのことをナガサキで嗅ぎまわってたから前から目をつけていたけれど、やっぱり思ってた通り、この世界、かなり運営の息のかかったプレイヤーがいるわね。


 モップはゲームの情報を殆ど与えられてない純粋なプレイヤーとして運営から送り込まれた人間のようだけど、中には結構訳ありな人も送り込まれてるみたいね。


 各町に最低でも2人は運営の人間がいて、その人らを中心に数人の社員がちょこちょこと動いてる。シフト制なのか動向も把握しやすくて楽でいいわ。

 おそらく、NPCだけでカバーしきれないこの世界の流れを調整しているのだろうけど。その動きを見れば、何がどう動いているのかも察しが付きやすい。町に配置されている社員さんたちの顔もおおよそは把握できたし、アンテナさんたちもノリノリで協力してくれるし、万事オッケーって感じね。


 後はネットに情報を流して――ってこれは瑠璃にはちょっと聞かせられないわね。あぶない、あぶない。他にも大事なことがいくつかあるけど、大体はこんな感じって把握してくれたかな。


「――という訳よ。わかった?」


「うん、わかんなーい」


 流石我が娘。


「まぁ瑠璃も大きくなったらわかるわよ……多分。それよりも、次の大規模アップデートに向けて、また情報収集ね」


「うん!」


 キュウシュウエリアのレイドボスが倒されて、全プレイヤーに送られた運営からのシステムメッセージ。そこに書かれてあったのは、これから4週間は新エリアは開放されないというもの。


 なんでも運営の想定では、このレイドボスの攻略にもっとずっと時間がかかると想定していたようで、どうしても4週間ほどの準備が必要とのことだった。


 確かにあのレイドボスはあの人がいなかったらあそこまで追い込むことはできなかっただろうし、なにより総ちゃん以外にあの神・イモートがあの短期間で倒せたとも思わない。運営にとってはこのタイミングでボスが倒されてしまったのは本当に想定外だったでしょうね。


 ただ4週間の間、することがなにも用意されていないわけではない。そんな期間何もなければプレイヤーはゲームから離れてしまう。なんでも、これまで解放された各エリアに散りばめてある未クリアのイベントをもう少しわかりやすくしたり、新しいイベントが用意されたり、運営公認の大会やお祭りなんかも開かれるそうだ。


 そして(きた)る4週間後、大規模アップデートという名の新要素が満を持して実装される。


 今わかっているものだけでも、新しい町の施設や職業、アーツ、スキルの追加。それに海外のプレイヤーとの交流。そして噂では、人間以外の新種族の実装なんて話もある。


 今このゲームをプレイしてる人で、このアップデートを待ち望んでいない人は皆無とさえ言えるほど、周囲の期待は高まっている。


「ねぇお母さん、今日はどこで遊ぶの?」


「今日は1日移動に使おうと思うの。目的地はオキナワよ」


「オキナワかー。私たちはあまりあそこで遊べなかったからね」


 そうなのよね……私が色々しようと思った時には総ちゃんがジーザーを倒しちゃってたから。だからトップギルドに弱体化アイテムを売るタイミングがカゴシマになっちゃったのよね。


「あの人が来たら出発するわよ」


「うん! ……あ、来たよ」


 こっちに向かって手を振りながら全力で疾走してくる愛すべき筋肉。


 それに愛のラリアットを入れて、私たちはオキナワへの路につく。


「8分の遅刻よ!」


「ぐわっ、スマン、だがこっちはまだ深夜で――」


「言い訳無用!」


「アーーーーーーーー」

これにて4章キュウシュウ踏破編はお終いです。

人間模様をテーマとして、真剣にふざけて書いてみましたがいかがだったでしょうか。少しでも笑っていただけたらこの上ない喜びです。


さて次回はお決まりの掲示板回(更新は木曜日)。そしてその次からは新章が始まります。

その新章ですが、内容はアップデート後のお話。そして総一郎視点から外れた外伝として書きたいと思います。(別視点ながら、総一郎たちにも結構触れる予定です)

詳細は活動報告に記していますので、そちらも御覧いただけると幸いです。


これからも真剣にふざけて頑張って書いていきます(`・ω・´)

よろしくお願いします。

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