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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第1章 オキナワ上陸編
11/202

11話 【朗報】俺氏、リアフレが出来る

 伸二とPvPで特訓をして翌日。俺は普段通りに瑠璃(るり)を小学校まで送り、普段通りに学校前の地獄坂で陸上部を道路脇に転がし、普段通りに伸二と馬鹿話をしながら教室へと入って、普段通りに授業を受け、そしてまた普段通りに昼食をとっていた。


「総、今日もインするだろ?」


 伸二が当然のように俺の前の席に座り、俺の机に弁当を置く。これが彼女だったらどんなに幸せなことか。いや、瑠璃だったらどんなに幸せなことか。瑠璃飛び級しないかな。いや俺が小学校3年からやり直すっていう手もあるな。体を退行させる薬どこかに落ちてないかな。黒い組織どこかにないかな。


「ああ、そのつもりだぜ。ただ晩飯の時間には抜けたりするけどな」


 昨日のようなことにはもう気を付けないといけないからな。幸い【レーヴ】にはゲーム中の外部とのメール機能だけでなくアラーム機能などもついている。昨日寝る前に設定したからもう大丈夫だろう。


「そっか、なら今日一緒に狩りに出ないか? ギルドのメンバーと行こうって話をしてるんだが、総なら大歓迎だぜ」


 狩りとはフィールドに出てモンスターを倒してその素材を得ることだ。モンスターを討伐すれば素材を得、その素材を街の商業組合に卸すことで金銭を得ることが出来る仕組みとなっている。他にもハローワークでモンスター討伐系クエストを受注して報酬を受け取ることも可能だ。

 それらは多くの場合ソロでやるよりもパーティでやった方が効率がいいと言われている。報酬は山分けになるが、その代わりに自分1人では太刀打ちできないモンスターやクエストに望めるのだから、それも至極当然だろう。


 だが、俺はまだあのゲームのことをよく知らない。今伸二たちのギルドの人たちと行っても迷惑をかけることになるだろう。


「ん~折角の誘いだけど、今日は街の中や外を自分のペースで歩いてみたいんだ。俺まだあの世界のこと殆ど知らないからさ。ゴメンな」


「そっか。ギルドの奴らに総のことを紹介したかったんだけど、そういうことなら仕方ないな。また誘うよ」


 そういえばギルドのメンバーは同じ学校の生徒って言ってたな。ってことは多分俺の知ってる人で、向こうも俺のことを知ってるよな。


 ん~……。


 あまり乗り気でない気持ちを表に出さないように、努めて意識し返事をする。


「ああ、その時はよろしく頼むよ」


 それからいつも通りに馬鹿話に花を咲かせつつ伸二と共に弁当をつついていると、ちょうど食べ終わったタイミングで綺麗な女子がこちらへとやってきて凛とした声を通らせた。


「ちょっといい伸二? 昨日の話なんだけど」


「ん? よ、(みどり)


 セミロングの黒髪に少し吊り目が特徴な女の子は、俺たちの机の前で立ち止まるとこちらをじっと見つめている。


 確か伸二の友達だったな。直接話したことはないけど何度か見たことがあるな。しっかしこんな可愛い娘が友達だなんて伸二も隅に置けないな……友達だよな? もし彼女だったら、今すぐお前と決闘しなきゃならんのだが。


「なぁ伸二――」


 ぶっ飛ばす――じゃなかった。この女の子とはどういう関係はなんだ!? まだギリギリ冷静にこの子とお前の関係を模索しているうちに教えてくれ。


「ああ、紹介したことはなかったな。こいつは俺の幼馴染で5組の若草翠(わかくさみどり)だ」


 幼馴染か。微妙なラインだが今回は白と判定しておくか。だが油断するなよ伸二。お前が黒だと分かれば、俺は嫉妬の鬼へと成り果てるからな。


(みどり)、こっちは――」


「知ってるわよ、有名人だから。2組の藤堂総一郎君でしょ。よろしくね藤堂君」


 え、有名なの? 特殊な家庭の事情もあって避けられているってのをオブラートに包んでくれてるのかな? だとしたらこの人いい人だな。泣いていいかな。


「よろしく若草さん」


 若草さんと話していると、伸二は誰かを探す様に周囲をキョロキョロ見渡していた。


「あれ、冬川は一緒じゃねえのか?」


「あれ、さっきまで一緒だったんだけど……(あおい)ったらまたはぐれたな?」


 ふむ、伸二と若草さんは幼馴染で、今名前だけ出た冬川(あおい)さんって子は共通の友人と言ったところか。どこかで聞いたことがあるような気がするんだが……思い出せん。まぁ1学年で200人近くもいるからな。仕方ないか。


 しかし、教室に来るだけではぐれるとは。冬川(あおい)さん。中々の強者だな。


 まだ見ぬ女の子にそうこう想像を巡らせていると、教室のドアを見ていた伸二が「おっ」と声を上げる。


「冬川! こっちだこっち」


 つられてドアの方へ視線を移すと、そこには伸二の声にビクッと反応した女の子の姿があった。


(あおい)、またはぐれたわね?」


 二人にフルネームを暴露された――だからどうしただが――冬川葵さんは、頬を紅く染めトテトテと音のしそうな小走りでこっちへとやってきた。


「もぅ、(みどり)が早足なだけだよぉ」


 大人しい女の子特有の声のトーン、そして小動物のような仕草。この子絶対図書委員だな。なぜか、確信めいたものを感じることができる。そして……多分、美少女だ。


 多分とつけたのは決して微妙なラインだったからではない。この子は恥ずかしがり屋特有の前髪で顔を隠すという行為をしているのだ。綺麗な黒髪は目元だけでなく顔の輪郭も隠しており、そのまま肩の下まで流れている。非常に、とっても、まことにもって前髪を分けたい衝動に駆られる。

 さらにこの子は目元を隠している前髪のさらに奥に、なんと眼鏡もかけていた。これは筋金入りの恥ずかしがり屋の図書委員だ。俺は確信を得たと同時にこの子のポテンシャルの高さ、いや深さに震えを感じた。


 この手のタイプは眼鏡を外し髪型を少し変えるだけで超絶美少女へと変身することを、伸二から貸してもらった漫画――いや聖書で知っている。この子が前髪を分け、眼鏡を外したその時、俺のコスモは超新星爆発(スーパーノヴァ)を起こすだろう。


 いや、眼鏡を外せばとは少し早計だったか。眼鏡を外すことで戦闘力を劇的に上げる、眼鏡がリミッター的な女子は確かに多いが、逆に眼鏡をかけることで戦闘力が劇的に向上する、眼鏡がブースター的な女子も確かにいるのだ。そんな当たり前なことを失念しているとは、俺もまだまだだな。


「総、こっちのちっこいのは5組の冬川(あおい)


「た、高橋君ちっちゃいって言わないでよぉ!」


「そうよ伸二、葵は背はちっちゃいけど胸はそれなりなんだから」


「み、翠!」


 小動物――もとい冬川さんは耳まで真っ赤に染まり、2人に抗議の声を上げる。伸二も若草さんもその顔には悪戯な笑みを浮かべており、その空気で3人の関係が何となくだが掴めた気がした。


 いいなぁ伸二、そのポジ変われよ。お前椅子な。


 そして翠さん、有益な情報をありがとう。


 しかしいつまでもこれでは流石に可哀そうだな。助け舟を出すか。


「よろしく冬川さん。俺は藤堂総一郎、伸二の友人です」


「え!? あ、え、その」


 助け舟を出したつもりだったが、冬川さんはあわあわとした様子でスカートの前で手を組み急いで礼を返した。ふむ、助け船じゃなくて先制パンチになってしまったな。


「す、すみません、冬川葵です。あ、あの、高橋君からいつも藤堂君のお話は聞いてます。高橋君がいつもお世話になってます」


 どうしよう、可愛い。そして伸二、冬川さんに俺の何を話した。内容次第で俺は天使にも死神にもなるぞ。


「おいおい冬川。それじゃ俺がいつも総に迷惑かけてるみたいじゃねえか」


「あら、違ったの?」


「み、翠……お前、このタイミングでそっち側につくのかよ」


 大体3人の関係が掴めてきたぞ。伸二と仲が良さそうで何よりだ。やっぱりこいつは、俺だけとつるむよりも人の中で囲まれてる方が似合うな。


 じゃあそろそろ退散するか。若草さんは俺のことを知ってるって言ってたし、冬川さんもあのリアクションってことは、おそらく知っているんだろう。


 俺のことを知っている女子は、大抵怖がるからな。


「じゃ、伸二。俺は――」


「待て総!」


 適当な用事でこの場から離れようとした俺を、伸二がこれまでとは違った鋭い視線で呼び止める。


 その迫力に、思わず口も足も止められる。


「お前自分がいたら迷惑だとか考えてねえか?」


 ……考えた。


「考えてねえよ。ちょこっと野暮用を思い出してさ」


「お前、嘘つく時視線外す癖があるよな」


 ……そんな癖あったのか、俺。何てベタな。


「お前の状況も知った上で敢えて言うけど、こいつらは人を噂や家庭環境だけで判断するような人間じゃないぞ」


 伸二の言葉に呆然としている俺に、横から声をかけてくれたのは若草さんだった。


「伸二から藤堂君のことはよく聞かされてたの。凄く不器用で凄く強い、そして優しい人だって。まぁ暴走族を壊滅させたことや変質者を半殺しにした噂なんかもよく耳にするけど、別に私に危害を加えようって訳じゃないんでしょ?」


「え、そりゃまぁ」


「だったらそんなことは私にとっては関係ないわ。寧ろそんな凄いことが出来る人と一緒に居られることの方が楽しみよ」


 予想外の展開に頭が追い付かない。この人は怖くないのか? (てんし)の安眠を妨害した暴走族を壊滅させたのも、護送車を襲撃して中にいた某変質者を半殺しにしたのも、全部実話だぞ? 正確には親父もいたけど。


「私はこんな短時間で藤堂君のことを理解できるような聖人じゃないけど、藤堂君が伸二のいい友達ってことはわかるわ。だからさ、藤堂君――」


 若草さんは冬川さんと視線を一瞬合わせると、軽く頷きそして


「「私たちと友達になってよ(ください)」」


 ──この日、新しい友達が出来た。

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