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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
109/202

109話 この日咲いた華の名は

普段は4000字前後ですが、今回だけ倍の8000字になってしまいました。

理由は後書きで。

 極光六連というのは非常に特殊で、かつ厄介なアーツだ。


 まずこのアーツの発動条件からして厄介だ。まず第一に、このアーツを使用するためには戦闘を開始してから10分以上が経過している必要がある。それ以内の時間では、このアーツは不発に終わる。


 そして第二に、このアーツは月が出ている日にしか使うことが出来ない。勿論リアルではなく、仮想世界における月だ。サテラ〇トキャノンか。


 そして第三。これが中々曲者で厄介な点だ。このアーツには名前の下にゲージのようなものが存在し、そのゲージが溜まらなければこのアーツは発動できない。

 そしてそのゲージは、俺がモンスターを倒したり、ダメージを与えなければ絶対に増えない。しかも、雑魚敵に対してはその上がり幅もかなり渋く、強敵であるほどゲージが上がりやすい傾向にある。

 今マックスになったゲージも貯め始めたのは3週間前で、前回のレイドボス戦でようやくゲージが溜まりきったぐらいだ。非常にめんどくさい。


 因みにリキャスト時間は168時間、つまり1週間。ふざけてる。


 また発動してから完成するまでのプロセスも面倒だ。まず対象に対して6つの雪の結晶のような紋章が刻まれるが、あの場所は完全にランダム。それが一定時間表示され、それを順番に、しかも一定間隔で、かつ正確に撃たなければならない。それが成されて初めて極光六連というアーツは完成する。本当に変わったアーツだ。


 だが、このアーツの特殊な点はもう1つある。それは、ダメージの振れ幅が非常にデカいということ。


 あの紋章には俺だけにしか見えない射的の的のような点が記されている。その中心を見事撃てば10点。少しズレていくに従って9点、8点と点数が下がっていく。簡単なようだが、的のサイズは10センチ程度。中央の10点に関して言えば1センチしかない。それが動く的として、しかも一定時間しか表示されないというのだから……そこそこ難しい。


 合計点が30点以上で一応の極光六連は発動するが、30~40点では大した威力は望めない。精々が、中規模魔法程度の威力だ。そして40~50点。これは大規模な威力の魔法に相当する極光六連として発動する。

 因みに俺がナガサキの巨大な鬼にかました極光六連は、58点。現在確認されている攻撃手段としては、最強の部類に属する威力だ。


 だが俺の見立てでは、今の女神にその時の攻撃を当ててもギリギリのところで耐えられてしまう。これを撃破するには、60点満点の完璧な極光六連を撃つ必要がある。


 そしてそれは、この作戦を組み立てた翠さんもわかっているはずだ。


 わかっていて、俺に託したのだ。


 なら俺は、その期待に――


「応えるだけだ!」


 銃口を女神へと向け、俺のミッションは始まった。





 ■ □ ■ □ ■





 女神の体のどこに紋章が現れるか。それは完全に運だが、俺たちの命運を左右する運だ。


 出来れば狙いやすい場所に……いや、違うな。間違っているな、俺は。


 どこに紋章が刻まれようが、やることは変わらない。たとえそこがお尻だろうが、胸だろうが、お尻だろうが、胸だろうが、お胸だろうが、俺は銃弾をぶち込むだけだ。

 まぁ勢い余って俺の体ごとダイブする可能性がゼロとは言い切れないが。何しろ俺も人間だからな。事故の1つや2つ、起きて当然だ。むしろ必然だ。


「総、紋章が出てくるぞ!」


 わかってるよ相棒。さぁ、どこに出てくる。お尻か? 胸か? 俺はどこでも大丈夫だぞ。


 さぁ……


「総、両肩と右膝、それに背中と額、後頭部だ!」


 チックショーーーーーー!


「いや、まだだ、まだ俺は諦めないぞ!」


「お前、何言ってんだ?」


「そんな場所お呼びじゃないんだよ、消えろ!」


「いや消えちゃ駄目だろ!?」


 っとそうだった。ちょっと取り乱した。


 集中しないとな。




 女神の体に6ヵ所、雪の結晶の紋章が刻まれる。


 そしてその中央には、俺にだけ視認できる10センチの的が記されている。


 その的の中央にある直径1センチの赤い点。それら全てを撃ち抜くのが今回の俺の、最後のミッションだ。


「さてじゃあ早速」


 女神の両肩についている雪の紋章。その中央に刻まれる俺にしか見えない赤い点。僅か1センチのその的に、1発の弾丸を、


「ぶち込む!」


 二挺の拳銃から殆ど同時に放たれるフルメタルジャケット。それらは僅かにタイミングをずらして女神の両肩にヒットし、俺にしか見えない『10』の数字を2つ、虚空へ描く。


『ぐっ、貴様、何を!?』


 お前を一撃で殺すための準備だよ。と言ったらこいつは発狂するだろうな。


 ――よし。


「お前をいちげ」


「総君!」


 や、やだなぁ翠司令。俺が手の内を晒す訳ないじゃないですか。だからそんな目で見ないでくださいよ。


「っと、本当にそんな場合じゃないな。消える」


 膝の紋章が消えるまであと13秒。ゆったりしてる暇はないな。


「これで――3つ!」


 再び火を噴く2つの銃口。だがそこから放たれた弾丸は、女神の腰に漂うローブによって叩き落された。


「やべっ、そうだった」


 あの自動迎撃システムもどきを潜り抜けないといけないんだった。


 あれ、ならどうしてさっきの両肩の攻撃は通ったんだ?


 もしかしてあのローブにも何らかのタイムラグとかがあるのか。それともローブのご機嫌が斜めだったか。はたまたローブのご機嫌が斜めだったか。


 よし、ローブが不機嫌だったということにしよう。


 もう一回不機嫌になれ。そう願いを込め再び銃弾を放ってみるが、どうやらローブのご機嫌は回復したようだった。残念。


「じゃあ接近するしかない――な!」


 言い終わった瞬間、俺の体は女神の懐に完全に潜り込んでいた。迅雷、愛してる。


『――っ』


「遅い!」


 女神の振りかざす手に応じて走る2本の布槍。その矛先が辿り着く前に引き鉄を引き、直後に体を捩じりノーダメージで後方へ下がる。


『何だ、これは……10?』


 おっと、俺にしか見えないと思っていたが、どうやら女神にも見えているようだな。膝から浮かび上がる10の数字が。


 まぁいい。とにかくこれで、あと3つ。


 次は、


「背中!」


 背後に回るべく、再び女神を見据え地面を蹴る。


 迅雷が使えればいいのだが、あれは一度使うとリキャスト時間に10秒かかる。今は使えない。


 だがそれでも、赤鬼化している今なら人間の限界を超えた加速が可能だ。


 3メートルはある巨体に向かい全力疾走。これまでの巨大で強大な敵を考えれば、さして恐怖心もない。ただ、銀と角の技が来たら少し厄介だな。

 銀は水銀のようなものを操って濁流を叩き込む技。角は攻撃角度の変更をタイムロスなしに行う技。どれも癖が強く、こっちの攻撃のリズムが大きく狂わされる。出来れば撃つなよ。


 その願いが通じた――とは思わないが、女神は手を前方へかざし、白いローブの矛先をこちらへ差し向けた。


「よしっ」


 あの攻撃なら突っ込んでいても回避は難しくない。


 そう思っていた。


 この時までは。


『――きぇええい!』


 剣道場に良く響きそうな雄叫びが鼓膜を震わせると同時。俺の眼球に鋭利な布槍の尖端が映し出される。


 ――ヤバい。


 時が止まる錯覚にすら陥る。


 と同時に、全ての細胞が最大限の警鐘を鳴らし、全力で行動を起こす。


 意地でも避けろ! 何としても躱せ!


 体のことを気にしている余裕はない。筋繊維がどれだけ断裂しようが、この攻撃だけは絶対に喰らうな。


 そう、全ての細胞が叫んでいた。


「――っ!」


 首を捩じり、アキレス腱が軋みを上げ、膝の関節は悲鳴を上げる。直後には首に一筋の赤い線が引かれ、そこから赤いエフェクトが少し飛び散る。


 ――あっ


「っぶな」


 今のは本当にギリギリだった。リアルでも中々味わったことのない、本当に死を覚悟する瞬間だった。赤鬼化していなければ、間違いなく脳漿(のうしょう)がぶちまけられていた。


 だが、回避した。凌いだ。


 なら、次は、


「こっちの番だ」


 そのまま女神の脇をすり抜け、チラッと背中に視線を移す。


「――ごち」


 そのセリフを追うように、10の数字が虚空へと浮かびだされた。


 これで、


「あと2つ!」


 女神の額に浮かび上がる雪の紋章。その中央に見える赤い点を見つめ呟く。



 だが、ここでジョーカーを切ったのは、何も俺だけではなかった。


『――王手、竜王』


「っ!」


 ここで王手が来たか。だが予想の範囲内だ。既に戦局は終盤に来ている。来るならここだと思っていた。どんな攻撃だろうが、俺たちなら――




「……え」


 思わず空いてしまった口から、間の抜けた声が漏れ出る。


 見開かれた眼は、目の前の事象を受け止めるのに精一杯で、限界まで開き血走っている。


 女神の美しかった白肌が、外殻が崩れるように剥がれ落ちていき、その内側から真っ白な鱗が姿を現す。


 透き通った瞳も、爬虫類独特の縦のラインが入った目へと変貌を遂げる。


 そんな、馬鹿な。


 こんなの……こんなの嘘だ。嘘だと言ってくれ。


『ふっふっふ、どうした。さっきの覇気がまるでないぞ? この姿に臆したか?』


 三日月のように吊り上がった口から鋭利な歯が光を零す。


 白いローブだったものは、女神の体と完全に同化し、今は天空を舞う翼へと昇華した。


 その姿は完全に、


「竜……」


 駄目だ……手が震える。考えるだけで全身の血が凍りそうだ。


「総、どうした!? 確かにビックリだが、何を止まってる!」


 伸二、お前にはわからないのか!?


 あの女神が竜化したんだぞ!?


 そんなの……それじゃあ……


「あのナイスバディがもう拝めないなんてぇえええ」


「「「 いいからさっさとやれぇえええええ! 」」」


 仲間からの無慈悲な声援。盾と剣とモーニングスターまで飛んできた辺りが、彼らの本気度を示している。


 いかんな、さっさと殺らないと俺が殺られる。アイツ等に。


 そうだ俺、悲しみを力に変えろ!


 たとえ女神とのドッキリハプニングがもう叶わないとはいえ、この戦いを終えたら俺は……はて、何をするんだったか。記憶が定かじゃないな。


 まぁいい。その辺は後で考えよう。


 額の紋章が消えるまであと9秒。アホなことに気を取られてだいぶロスしてしまったが、終わり良ければ全て良しだ。


「っし、行くぞこの野郎!」


『はんっ、返討ちよ!』


 鬼と竜が戦場を翔る。


 その鬼の耳に、友の声が聞こえることは無かった。


「あいつ……完全にブルーがいること忘れてるな」





 ■ □ ■ □ ■





 とりあえず額で煌々と輝き続ける紋章に、フルメタルジャケットをぶっ放す。


 あの自動迎撃システムもどきのローブはもうない。ならこの攻撃も当たるかもしれない。


 そう思っての一撃だった。


 だが、


「――消えっ!?」


 引き金を引いた瞬間、女神の姿は一瞬ブレた後に視界から消えてしまった。いや、消えたように見えた。


 実際は俺の迅雷にも匹敵――いや、それ以上か――の高速移動で避けただけだ。ならそれすらも見越して撃てばいい。俺のやることに変わりはない。


 いや、あの女神の方向、これは……。


 俺から距離をとったかと思いきや、大きく弧を描いてこっちへ近づいてきている。にしても凄いスピードだな。間違いなく地球上のどの生き物より速い。


 が、向かってきてくれるのならこのスピードにあまり意味はない。その選択をとった時点で、俺の勝ちだ。


 風を切り高速で襲来する女神。その顔の横から、びっしりと鱗で覆われた拳が振るわれる――が、


「見えてるぞ」


『――っ!?』


 目を見開く女神。その拳は、さっきまで俺がいた場所で虚しく空を切る。


 そして、困惑する女神の額には、10の文字が浮かび上がる。


 来る方向さえ見えていれば、どれだけ速くてもカウンターで合わせるのはそう難しくない。わざわざあんなわかりやすい軌道で接近戦を挑んできたことは、この女神最大の悪手だな。

 もし軌道を読ませないようにジグザグに動いたり、遠距離攻撃を混ぜてこられたら俺に打つ手はなかった。


 能力の高い敵はAIが残念になる謎法則でも働いているのかな? だがいいぞ謎法則。もっとやれ。


『き……さま』


 さて、何はともあれこれであと1つ。


「さぁ、貰うぞ。ラストピース」


 残るは後頭部の紋章ただ1つ。その中心に浮かぶ赤い点を撃ち抜けば俺の――俺たちの勝ちだ。


『ふんっ!』


 翼をはためかせ突風を巻き起こす。


 その風に耐えようかとしていた矢先、女神の拳が再び飛んできたため、風に乗り後方へと大きく下がる。


『この……なら』


 ん? 何やってるんだ女神は。上を向いて口を開けて……あれかな、うがいかな。


『――カッ!』


「っ!?」


 目を覆いたくなるほどの眩い光。直後に殺気を感じ、その場から慌てて離れると、何かが蒸発するような音が鼓膜の奥に届く。


『……本当に忌々しい』


 空気を焦がす灼熱の大地、溶岩地帯。さっきまで俺がいた場所が、まるで空間を入れ替えたかのように変貌を遂げている。


「超高熱レーザーってとこか。これはまたとんでもないな」


 予備動作がなかったら絶対に躱せなかった。おまけに視界を奪うあの光。完全に殺しに来てる。絶対に中遠距離戦は駄目だ。接近戦でも身体能力の差は明らかだが、まだ反応速度の面で俺に分がある分、そっちの方がマシだな。


 そう考えていたのは、俺だけではなかった。


「小僧、援護する。行くぞ」


「ソウ君、お姉さんがいいとこ連れてってあ、げ、る」


 走り出した俺の左右後方で、軍曹と雪姫さんが追従する。いや、彼らだけではない。


「総、いざという時は任せろ!」


 本当にコイツの声は俺から不安を取り除くのに適しているな。コイツのせいでもう足を止められないじゃないか。


「総君、決めてこい!」


 了解司令。ラストピース、埋めてくる。


「ソウ君、(おとこ)を魅せてよね!」


 少し前まで世紀末をヒャッハーしていた女傑の声が、俺の尻を叩く。


 あぁ大佐。ここで、決める。


「ソウ君、ポン太君の鼻は犬並みなんだ!」


 その情報ここでいる!? いやドM発言されても困るだけだからそれよりかは幾何(いくばく)かはマシだけど、それでもそれ言う!?


 っといかん。精神を乱されるな。集中だ集中。たとえこれからどんな言葉が来ようとも、精神を乱されるな。俺はトリガーだ。銃の一部となれ、俺。そして、女神を撃て。


 そんな俺の耳が、最後の音を拾う。


 それはボイス機能を使ってのチャット。視界に浮かぶ文字ではなく、直接耳の奥に届く声として、それ(チャット)はきた。


【……負けないで、下さい】


 弾けた。何かが。


 何が?


 そんなのは知らない。


 でも何かが、確実に弾けたんだ。


 胸の奥に秘めていた何かが、今、確かに。


 そして、何故か知らないが、もう全く負ける気がしなくなった。


 高揚感とも違う、無敵感とでも言えばいいのか。


 時の流れがゆっくりに感じる。


 これは……



『――カッ!』


 灼熱のレーザーが照射される。が、予備動作で大体どのタイミングで来るかが見えてる上に、狙いはどう考えても俺だ。避けるのは難しいことじゃない。眼前に突き付けられた銃を躱すのと一緒――楽勝だ。


 背後で地面が蒸発し、空気が焼ける熱を感じながら、女神だけを見つめて突貫する。


『くっ何故……なら!』


 女神が左手を横に、右手を縦に振り十の軌跡を空に描く。


『――王手、十字飛車(グランドクロス)


 まだ王手あったのか!


 てかヤバい、デカい。


 描かれた十字架が巨大な光となって特急列車の如く迫ってくる。


「っとぉお!」


 殆ど反射的に迅雷を起動し、上空へと跳躍する。後はこのまま女神の直上まで跳びラストピースを拾うだけ。それだけなのだが、俺の思考は既にそこから外れていた。


「リーフ、ブルー!」


 光の十字架はそのまま勢いを止めずに俺の後方にいた翠さんと葵さんに真っ直ぐ進む。


 ヤバい、あれは彼女たちでは避けれない。どうすれば、どうす――


「ソウ君!」


 強い意志の乗った声が、俺の名を叫ぶ。その声が俺に告げていた。ここは自分に任せて、お前は自分の役目を果たせと。


 普段であれば絶対に信用できないその声の主。だが俺は、不思議とその言葉に反論する気が起きなかった。


「頼みます、モップさん!」


 俺の視線と声に、モップさんは親指を立てて応える。


「イっ君!」


 モップさんの呼び声に応え、オオイノシシのイっ君がボールから飛び出てくる。出てきた瞬間からトップスピードに入っていたイっ君に、モップさんはさらにスピードを加える。


「――トップギア!」


 イっ君の体に青い発行体が付与されると、イノシシがチーターと化した。


 だが待て。そんな速度で彼女たちに突っ込んだら大事になるぞ。モップさん、信じて大丈夫なんだよな!?


「エアバッグ!」


 イっ君の鼻が突如肥大化し、正面に大きなエアバッグを形成する。その柔らかで巨大な鼻に、葵さんと翠さんは押し出される形で十字架の射線上から外れる。


 そしてその直後、


「あっ駄目――」


 葵さんの悲哀に満ちた声が一瞬だけ聞こえた後、オオイノシシのイっ君は光の十字架の中へと消えていった。


「――」


 吹き飛ばされながらも、光の中へと消えていったイっ君に葵さんは手を伸ばす。その手が決して届かないものであることを理解していても、彼女の心が、手を伸ばした。


「イっくぅうううん!」


 吹き飛ばされた葵さんと翠さんを大佐がキャッチする。が、葵さんはイっ君の方へと手を伸ばし続ける。通り過ぎた光の十字架が全てを浄化して、塵一つ残さぬ道を形成してなお。


「……」


 だが俺は見てしまった。イっ君が光に飲まれたその瞬間。欲情に塗れまくった恍惚の表情を浮かべ消えていくその時を。そして使い魔のご褒美を羨望の眼差しで見つめる主人を。


 畜生、グッジョブだけど畜生。モップさんはやっぱりモップさんだった。そしてその使い魔もモップさんだった。本当に何なんだあいつらは。主従で最低だ! 畜生、だがありがとう、畜生。


 っと、いい加減こっちに集中するか。もう真上だしな。


 迅雷で上空に跳躍した後、葵さんたちの顛末を見守りながらも、空中を跳躍するブーツ疾風を起動し、今まさに女神の上空に来ていた。


 そして女神の後頭部で輝く雪の結晶の形をした紋章。その中央にある赤い点に銃口を向ける――が、


『そこかぁああああ!』


 縦線の入った眼球がギョロリとこちらを向き、ノコギリ状の牙が奥までハッキリと姿を出す。


 馬鹿こっち見んな。後頭部が遠ざかる。


『王手、』


 不味い。空中じゃ間違いなく喰らう。疾風も地面に接地するまでは再使用ができない。このままだと確実にやられる。


「このままなら、な」


「「一刀破斬!」」


 巨大な剣が二振り。それぞれに女神の腕に斬りかかりその動きを止める。


『ぬあっ!? き、貴様ら。だがっ!』


 大顎を天に向け、眩い光を口に灯す。レーザー吐くな、あれ。


 タイミング的に着地直後か。これも躱せん。


 と言う訳で頼むわ。


「リーフ!」


「お任せ、ロックホーン!」


 地面から突き出た石の槍が女神の顎に直撃する。


 直後、僅かにズレた熱線が俺の横を通り過ぎ空気を焼く。


『お、おのれ!』


 顎を押さえつつ、再度発射の体勢を取る女神。


 だが悪いな、女神。この勝負、


「俺たちの勝ちだ。だろ、ハイブ」


「たりめーだ」


 女神の背後に立つ相棒は盾も槍も投げ出し、両の親指を自身へと向ける。


「こっち向いてホイッ!」


『――!?』


 女神の首が90度曲がり、さらに腰も90度捩じれる。


 そして俺の眼前にあるは、女神の後頭部で輝きを放つ雪の紋章と、中央にそびえる赤い点。


 俺はそれを――


「――あばよ」


『やめっ!?』


 引き鉄を引いた手に振動が伝わるのと同時。空中に10の文字が浮かぶ。


 直後。


『あああああああああああああ!?』


 直視すれば目が焼けると思うほどの七色の光が、女神の全身から吹き出す。


『あああああああああああああAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』


 その光はやがて女神の体を蝕むように飲み込み、


『こぉおおおおのぉおおおおおおおお!』


「危ない、総君!」


 この光の奔流に飲まれてなお一矢報いようとするその姿。嫌いではない。


 だが、言っただろ。この戦いは俺たちの勝ちだって。


「大丈夫だよ、ブルー」


 6つの雪の紋章全てを満点で撃ち抜いた時。極光六連は真の姿を現す。


『おおおおお――っ!?』


 6という数字は雪の結晶――六角を意味している。そしてその全てが最高の形で形成された時、このアーツは本来の形を顕現できる。


 女神を蝕む極光はやがてその浸食を止め、それまでの激しさとは真逆の静寂を呼び込む。


 静寂の光に包まれた女神は氷像と化し、全身から雪の華を咲かす。


『そんな、そん、な――バッ――カッ――ナ……』


 そして、その全てを止めた。


 俺は氷像に近づくと、


「名前を教えてなかったな。この技の名は――」


 指先で女神の体にトンと触れた、次の瞬間、


「――極光六華(きょっこうりっか)


 女神の氷像は砕け散り、辺りに雪の華を降らせた。

女神編、決着です。

本当は2話に分ける文量なのですが、どうしても区切りたくなくて無理くり1話にしました。長いよ疲れたよと思われた方、ごめんなさい。

さて女神編はこれにて一件落着……じゃないですね。まだ色々問題残ってます。

過去最長の戦闘回となりましたが、本番はむしろこの後です。

次回『この日俺と彼女の関係は終わり、』

更新は木曜日の予定です。

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