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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
102/202

102話 このダンジョンで俺たちは再びあの声を聴いた

 社の奥にあった洞窟に入ってすぐ。その異常さに気付いた。


 山道を歩いていたとはいえ、さっきまで額に汗を浮かべるほどの気温だったのにもかかわらず、洞窟に入った俺の口からは白い息が零れていた。


「ハイブ、これ……」


「ああ、ついにお前ホワイトブレスまで使えるようになったのか」


「違うわ! 気温が下がってるんだよ!」


 畜生。アホのせいでまた俺のツッコミゲージが削れていった。このゲージは有限なんだから無暗に減らすんじゃない。このゲージを回復させるには葵さんのスマイルが必要なんだぞ。


「ふふっ、総君なら本当に口から何か出しちゃいそうですね」


 わーお、君も俺のツッコミゲージを消費させるのかい? しかし参ったな。そんな笑顔で言われたら消費した瞬間に回復しちゃうじゃないか。スマン伸二、このゲージ、葵さんに限り無限だったわ。


「ソウ君、そのブレスで僕を凌辱する気だね?」


 振り切ったよ。俺のツッコミゲージ一瞬で振り切りやがったよこのドM。誰か俺に変態との正しい付き合い方を教えてくれ。


「モップさん」


 お、大佐。流石大人の女性。ここはガツンとこの変態に言ってください。蔑みの視線だと喜ぶので、マジ説教してあげてください。


「その話ちょっと詳しく」


「やめろぉおお!」


 畜生。俺のゲージが石臼でゴリゴリ削られていく。やっぱりこのパーティにはツッコミが致命的に不足している。新しく加わった大佐は当然の如くボケ軍団に加入してるし、軍曹に至っては端からどちらも戦力外だ。

 女神さま、このクエストが成功してもレアアイテムはいらない。代わりにツッコミの出来るフレンドをください。あ、出来れば女の子がいいな。あ、ついでにかわいい子だったら嬉しいです。あ、もひとつついでにスリーサイズは上から――


「あ、ソウ君いやらしいこと考えてるでしょ~」


「ソ、ソンナコトナイデスヨ? 雪姫さん」


 なぜこの人には俺の下心がことごとく読まれるんだ。くそぅ、俺に安息の時間は訪れないというのか。


「おい小僧、お前ちょっと緊張感なさすぎじゃねか?」


 そんなことはない。俺は今大変緊張している。妖怪猫かぶりの必殺技、下心ヨムーの前に戦々恐々さ。


「……ソウくぅん?」


「ナンデモゴザイマセン」


 忘れてた。この人、自分に向けられている悪意も読み取れるんだった。畜生、周りが強い。


「あぁその四面楚歌具合……羨ましい」


 モップさんの口に信号弾をぶち込み蒸気機関車の気持ちを味合わせようかと悩みながら、俺たちは肌に突き刺さるような冷気の漂う洞窟を進んでいった。





 ■ □ ■ □ ■





『侵入者よ、直ちに引き返せ。だがどうしても通るというならば、我の出す問いに答えよ』


 洞窟を進むこと数十分。俺たちは巨大な扉の前で天の声を聴いていた。


 うんこれナガサキの時のあれだな。天の声までそっくりだよ。絶対あいつだ。


「これってあの時の……」


 雪姫さんのややうんざりしたかのような口調に、俺とモップさんは苦笑で応じる。


 確かにこの天の声の出す問題は難しすぎてまるでついていけない。だが俺たちには、知識チートの葵さんがついている。何も恐れることはない。


『では行くぞ! 問題、イヌ耳派とネコ耳派、私の好みは何耳派?』


「「「知るかぁああああ!」」」


 俺たちの叫びは何重にも重なり洞窟内に響き渡った。


 もうこれ正当を導き出す手段ないよね。ただの天の声、っていうかこれ作った人の完全に趣味の問題だねこれ。


「おい小僧、何だこのふざけた奴は」


 俺が聞きたい。


「総、俺はイヌ耳派だ」


 今その情報は糞ほどにどうでもいい。


「ソウ君、僕は鞭派だね。蝋燭なんて軟弱者の使うものだよ」


 新しい選択肢を勝手に増やすんじゃない。アンタがハードなドMなことはとっくに知っているから、頼むから黙れ。


「ソウくぅん、私は~猫かなぁ」


 ここで猫を選択するとは、流石妖怪猫かぶり。


「……ソウ君?」


「さーて! 大佐や軍曹はどう思います?」


 暗黒の笑みを浮かべる姫の顔から顔を180度回転させ、その先にいた2人へと話を振る。


「いや、こんなの知るかよ」


「う~ん、流石にチョットね」


 まぁこれが普通の反応だよな。最近普通って何だろうと考えることが増えてきたが、これが普通でいいんだよな。


「はいはーい、私はイヌ耳派!」


 翠さんは犬派な。


 よし、これで葵さん以外全員聞いた。これで彼女が犬派なのか猫派なのかを堂々と聞くことができるぞ。そのデータは今後有効に活用しなければ。俺、天才かよ。


「ブルーはどっちだと思う?」


 だが俺の問いに、葵さんは眉間にしわを寄せ宙を見つめていた。


「……ブルー?」


「はぅ!? あ、はい、何でしょう」


 どうかしたのかな?


「いや、ブルーはどっちなのかなと思って」


「あ、それなんですけど、私少しやってみたいことがあるんです」


 ()ってみたいこと!? 葵さん誰を殺る気なんだ。普段は虫も殺せないような顔をしているけど、実は奥底に秘めた何かがあったというのかい!?


「あの、でも……ちょっと恥ずかしいので、耳を塞いでいてください」


「耳を? でもどうし――」


 真っ赤に染めた顔で瞳をうっすらと震わせる彼女の姿は、俺の脳からYES以外の文字を取り払った。


「塞ぎます!」


 俺の言葉に安心したのか、葵さんはホッと息を零し集中を始める。


 因みにしれっと聞こうとしていた伸二は翠さんに頭をどつかれ、軍曹は大佐に顔面をぶん殴られ、モップさんは雪姫さんに刺された。


 そして彼女は……一瞬俺の方をチラッと見た後、それを唱える。




 ――おっと、耳を抑えていた手が少し、すこ~しだけズレた。




「お願い……こ、コンコンコ~ン!」


 コ、コンコン!? 何故に狐の物真似!?


 え、しかも何だ? 葵さんが光に包まれていく……。


 何が、何が起きているんだ?



 混乱する俺の脳ミソ。だが、次の瞬間俺の目に飛び込んできた光景は、俺の全ての思考を宇宙のチリへと変えた。


 そこにあったのは――




「……き、きつね?」


 葵さんの頭部から三角の可愛らしい耳がピンと立ち、巫女服の隙間からは2本のモフモフの尻尾が生えている。洞窟内ですら光沢を放つようなその毛並みは、超高級毛皮を彷彿とさせる。


 だがそんなことよりも、だ。


 待て、ちょっと待ってくれ。


 これはヤバい……これはヤバいぞ。




 ――超可愛いんですけど!?


 キツネ耳の巫女とかそのコンボ反則だろ。しかもそれをするのが顔を真っ赤に染めて恥じらう少女って……アカンわ、こんなんアカンわ。鼻血でる鼻血。リアルの俺大丈夫か。起きたら出血多量で死んでましたとかシャレにならんよコレ。


「そ、そんなに見ないでください……」


 はい俺死んだー。起きたら絶対赤い海の中に浮かんでるよ俺。


 だが、だがそれでもいい。たとえ死んでもこの光景は1フレームすら絶対に見逃すな。


 俺の全細胞が、そう声高に叫んでいた。


「あ、あの――」


「ジロジロ見るなっつってんでしょうがぁあ!」


「はぶろっ!?」


 後頭部に釘バットで殴られたような感触を感じ、俺の顔面は地面へと垂直降下した。


「まったく……男共はこれだから」


 大きなため息を零す翠さんの右手には、たった今俺を撲殺したであろう釘バットが握られている。そしてその後ろには、俺と同じ結末を辿っていた同志が2人。路傍の石と化して転がっていた。



 ……今のはマジで死んだかと思った。



 おっと、こんなところで転がってる場合じゃない。今はダンジョンアタックの最中なのだ。恥じらう葵さんとダンジョンアタック、どっちが大事かと言われれば葵さん一択だが、ここは少し冷静になって行動しよう。

 今ガン見すれば葵さんはあの状態を解除してしまうかもしれない。なぜいきなりキツネ巫女になったのか気になることは山ほどあるが、何より大切なことはあの状態を少しでも長く維持してもらうことだ。そのためなら俺は、いくらでも平静を装おう。


 俺は後頭部から吹き出す赤いエフェクトを極力無視してやや重くなった体を起こす。


「ごめんブルー、あんまりにも衝撃でつい……。それはそうと、これからどうするの?」


「い、いえ、私こそ説明もなしにイキナリでごめんなさい。これは巫女の能力で、降霊術って言うんです」


「高齢術!?」


「あの……多分ですけど漢字が違います」


 あ、降霊術ね。


「霊を降臨させて自分の能力を変化させることのできる術のことです。私はまだスキルもアーツもレベルが低いから簡単な動物霊しか降霊できないんですけど、このキツネさんは少しだけ……う~ん、何って言えばいいんでしょう、勘が鋭い、みたいな感じになるんです」


 マジか。じゃあ次は猫ちゃんを降臨しよう。服装はメイド服でいいよね。語尾はニャンで頼みます。「ニャ」じゃないです「ニャン」です。ここ、重要なので間違えないでください。


「なので、この状態なら完全な運による二択問題でも少しは有利になるかなと思って」


 なるほど、そう言うことだったのか。本当に何事にも一生懸命でしおらしい人だ。


 だが……


 だがね葵さん。


 もう答えは出たんだ。


 だから、そこで見ていてくれ。




 ――俺たちの勇姿を。



「え、総君? どこに――」



 後頭部から赤いエフェクトをぶちまける俺と伸二とモップさんの3人は、何も語らず、ただ悠然とそびえ立つ巨大な扉の前に立つ。その顔には一種の悟りを開いたかのような清々しさすらあった。


『答えは出たか?』


 あぁ出たとも。待たせたな、天の声。だがお前も変態の作り出したAIならばあの芸術に逆らえる訳がない。


 俺たちは確信をもって、一様に口を開いた。



「「「 キツネ耳だ 」」」



 これ以外に答えがあろうはずがない。唯一にして絶対の答えだ。


 もしこれを否定するものがあるならば、俺たちは1000年を超える血みどろの戦争を繰り広げることになるだろう。


 その答えに場は静まり返り、次の瞬間、厚くて重厚な扉が――

















『不正解だ』


 開かなかった。


「このアホ共がぁあああああ!」

次回『あの日見た師の背中を彼女は追いかける』

更新は月曜日の予定です。

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