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1話 俺の親父が最悪な件について

 6歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、ベンチメイド141SBKニムラバスというサバイバルナイフだった。訳のわからない俺に「男ならそれを使いこなせるようにならないとな」と言ったのは高校生になった今でも覚えている。


 7歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、S&W M686という回転式拳銃、所謂リボルバーだった。子供ながらに流石に偽物だよなと考えていた俺に「まずはシンプルな構造のそいつで慣らさないとな。そいつは弾詰まりが起こりにくい分自動拳銃よりは安全だが、それでもメンテナンスは欠かすなよ」と言っていたが、あれはきっと俺の聞き間違いだろう。


 8歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、軍隊式の格闘術だった。いやそれ物でも何でもないからな。流石に困惑していた俺に「お前ももう8歳か。あと10年もすればお前も大人だ」と訳の分からない足し算を言ってさらに困惑させたのは今でも忘れない。


 9歳の誕生日に親父が俺に嬉々としてくれた物は、ベレッタM92という自動拳銃だった。この辺りからコイツ頭おかしいと思い始めていた俺に「お前もついにオートマチックを持つに相応しい男になったか。そいつは特に入念にメンテナンスが必要だからな」と言い、俺の仮説が正しかったことを立証させた。


 10歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、大人1人が入れる程度のテントだった。初めてと言ってもいい割とまともなプレゼントに感動する俺に「今月はこれで外で暮らしなさい。まだ狩猟は教えてないからご飯の時には家に上がっておいで」と優しい顔をしながら絶望の言葉を口にした親父の顔は、今でも思い出すと無意識に拳を固めてしまう。


 11歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、海外旅行だった。今度こそこいつも人の子だったかと思いついつい涙腺が緩んだ俺に「じゃあ1ヶ月後に迎えに来るから元気で暮らせよ。あぁ、そのバッグにこれまでの誕生日プレゼントが入ってるから有効活用しなさい」と言ってジャングルの奥深くに俺を置き去りにしたことは絶対に死ぬまで忘れない。


 12歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、M4A1カービンという自動小銃、所謂アサルトライフルだった。この頃から色々と麻痺しだしていた俺に「ここまできたか、流石俺の息子だ」と言っていた気もするが、正直あまり覚えていない。思い出したいとも思わないが。


 13歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、デザートイーグルという自動拳銃の中でも抜群の威力を誇る拳銃だった。正直対戦車ライフルかロケットランチャーぐらいぶっ飛んだものが来るかもしれないと構えていた俺に「そんな物騒な物を息子に渡すわけがないだろう」と言い俺を――いろんな意味で――驚愕させたのはハッキリと覚えている。


 14歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、親父との模擬戦だった。いやそれ前にも似たようなのしなかったっけと疑問を持っていた俺に「あれはただの格闘術だ。これから身に着けるのは生き残るためのあらゆる技術。油断をすると死ぬぞ」と言い鬼気とした様子で迫ってくるあの光景は今でも脳裏に焼き付いている。


 15歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、ペットだった。もうだまされない、こいつは最初から落とすか、上げて落とすかしかしない男だ。これにも絶対に裏があるぞと警戒していた俺だが「じゃあこれから捕まえに行くぞ。ヒグマとツキノワグマどっちがいい? 父さんのおすすめは断然ヒグマだぞ」と言い武器も携帯させずに山に放り込まれた時は流石に死ぬかと思った。結局なんやかんやあってプレゼントはペットではなく熊鍋になってしまったが、あの時の味は割とアリだった。


 16歳の誕生日に親父が嬉々として俺にくれた物は、沢山のお友達だった。別にいやらしい意味ではない。文字通り、お友達だったのだ――親父の。自分でも何を言っているのかわからなくなってくるが、その日親父は自分のお友達を我が家に招待し、プレゼントだよと言って俺にそのお友達と遊ぶことを命じた。その際俺に「彼らは父さんがA国の特殊部隊で隊長を務めていた頃の元同僚だったり部下だ。今日はお前の誕生日を祝うために態々来日してくれたんだ。存分に遊んでもらいなさい」ととんでもないことをカミングアウトしたことを俺は昨日のことのように思い出せる。元同僚の人も部下の人も親父ほどではないがかなり強かった。数で来られた時には危うく負けそうになったしな。あの時、親父の友人の放った「なあ隊長。隊長は息子を世界最強の殺戮兵器にでもしたいのか?」という言葉は俺の心に深く深く、今でも刺さっている。




 そして今日、17歳の誕生日。俺は一大決心をして親父に告げた。


「親父……誕生日プレゼントのことなんだけどさ」


「あぁ、今年もとびっきりの物を考えているぞ。渡した後のお前の驚く顔が目に浮かぶようだよ」


 その後すぐに絶望の顔にもなってたんだけど、それは見逃していたのかな? まぁいい、そのことを深く追及すると、何度も抑え込んだ殺意が湧き上がってくる。そのことは忘れよう。今日はあれを言うと決めたんだ。


 固い決意の炎を瞳に宿し、親の仇を見るような目で親を見る。


「今年のプレゼントは俺に選ばせてくれないかな」


 その言葉に親父はピタリと表情を固め、しばしの間静寂が辺りを支配した。親父が何も言いそうにないことを察した俺は、内心に酷く怯えた感情を感じながらも何とか口を開く。


「俺……普通の17歳として暮らしてみたいんだ。伸二(しんじ)の家でさ、ゲーム機ってのに触れた時こう……よくわからないけど何かが弾けたような衝撃が来たんだよ」


 これを何も知らない人が見れば親にゲーム機をねだるただの子供にしか見えないだろうが、俺は今世界征服寸前の魔王に和平交渉に訪れている文官のような気分に陥っていた。


 だがそれでも言うぞ、言ってやるぞ。瞳に宿る決意の炎に、ガソリンタンクを勢いよく投げ入れる。


「俺──ゲーム機が欲しいんだっふぁぼおおおおお」


 ぶん殴られた。それはもう首から上が無くなったんじゃないかと思うほど。え、あるよね? あ、良かった付いてる。

 しかしやっぱりこうなったか。覚悟はしていたが現実になるとそれなりにショックだな。てかガソリンタンクなんか入れたらそりゃ爆発するよな。これもリスク管理の甘さってところなのか。


 そうは思いショックは感じつつも、言いたいことをハッキリと言ったことに対して一定の充足感にもとらわれていた。


「総一郎……」


 はぁ何言われるかな。やっぱ怒られんのかな。思えば殺されかけたことは数えきれないほどあるけど怒られたことはあまりなかったな。こりゃ紛争地帯に行ってこいとかエベレスト登ってこいぐらいのことは覚悟しないといけないかな。


「ゲーム機、買ってやってもいいぞ」


 今、何と言ったコイツは。聞き間違いか? いや、もしかしてコイツは親父に変装したどこかの国のエージェントか?


 そんな迷いを生じさせていると、すぐさま反応しない俺を見て、親父はその顔を少しだけ曇らせる。


「どうした、いらんのか?」


「い、いる! いるよ!」


 あまりの予想外な返答に上手く反応できなかったが、すぐさま立ち上がり親父に熱い視線を送る。


「そう逸るな。だが勿論無条件で、とはいかんぞ? 俺の出す試練をお前が越えることができたら、という条件付きだ」


 やはりそうきたか。だがその程度は何の脅しにもならない。密林のジャングルに放り込まれたり、素手でヒグマと戦わされたりとしてきた俺だ。覚悟はできている。覚悟の炎を宿した瞳で親父を見つめる。


「ふむ、覚悟はいいようだな。よろしい、ならば試練を言い渡そう。その内容は……俺と本気の勝負をして見事勝利を手にすることだ!」


 はい死んだー。俺死んだよー。


 瞳の炎が一瞬で鎮火されたのを感じた。だがそれも仕方ないだろう。これまで、10年以上もほぼ毎日このゴリラと戦ってきたのだ。誕生日を迎える度にその内容は変化していったが、極めつけは14歳の誕生日以降から導入された本格的な模擬戦だった。

 このゴリラは信じられないことに世界中の様々な格闘術に精通しており、とある軍隊式の格闘術も修めている。俺はその全ての技を叩き込まれ、文字通りボコボコにされた。


 要するに、このゴリラに勝てるイメージがまるで湧かないのだ。ただのゴリラなら何とかなるかもしれないが、目の前にいるのはあらゆる武器と格闘術を使いこなすアーミーゴリラだ。勝てるわけがない。確かにここ一年ほどは割といい勝負をしているとは思うが、それだって親父が手加減してくれているからだろう。


 だがこのゴリラはやる前に諦めるということだけは絶対に許さない。戦う前から諦めるという選択肢は許してくれないだろう。


 俺は絶望という名の戦いに身を投じる覚悟を、ゆっくりとだが固めようとしていた。


「もし俺に勝てたら先月発売されたばかりのVRMMOのゲームを買ってやろう。勝てたらな」


 ──よろしい、ならば戦争だ。

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[気になる点] なぜVRMMOってわかったのか…… ゲームとしか言ってないような。やっぱりあれ?親父の能力的なやつ?
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