1-8 一線を越える
僕は、この男がほとんど僕の考えていることを先回りしてくるのに驚いていた。それに、確かにこの、人の話しを聞くうさぎ倶楽部というものに興味を覚え始めていた。
「分かりました。じゃあ一応登録してもらって、やってみます」
「そうですか。やっぱり僕の見込んだとおりだ。それでは、と。この用紙が登録票だから、名前や連絡先、それに念の為学生番号も記入してください。その後、実際の仕事のやり方とか注意事項の説明をしましょう」
そういうと、男はかなり大きな紙を渡してよこした。そこには、住所や氏名の欄のほかに、好きな小説家の名前とか、一番感動した映画とか、無人島に行くとしたら何を持っていきたいか、有名女優の某とデートができることになったとしたらどこに連れていくか、といったアンケートのような欄がいくつもならんでいた。
「書く項目が一杯あって驚きましたか? でも、それは少しでもお客さんに満足できるメンバーを派遣するために是非必要な項目なんで、時間が掛かってもかまわないからありのままを書いてください」
「はあ……」
「じゃ、できたら声を掛けてください」
男はそういうと、またパソコンの画面に向かってキーを打ち始めた。このパソコンで、登録してあるアルバイトが管理されていて、そこにはこの登録用紙にある夥しい項目がデータ化されていることだろう。そして、依頼の話があったときにこのパソコンを叩いてそのクライアントに満足のいくメンバーを紹介するのが、恐らくこの男の考えだしたシステムのミソの部分らしかった。
登録用紙を埋めていくと、さらに先には、野球を見るときに応援しているチームが大勝しているほうがいいか接戦の方がいいかとか、テレビのコマーシャルの間には全チャンネルをひととおり見ないと気が済まないかとか、どうもよく分からない質問までことこまかにならんでいた。
僕は、これだけのことを書かされるのならそれだけでも少しは払ってもらいたいなどと思いながらも何とか完成させると、「できました」と言ってその用紙を男に渡した。




