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3‐2 懐刀登場か

「えーっと、僕は七十二番……」

「そう。ちなみに私は三番。でも、現役でやっている中では一番古いのよ。まあ今のところ、松井さんの一番弟子ってとこかな」

 なんだか気怠そうなしゃべり方だ。

「そうですか。じゃあ、もうずいぶん大勢の人の話を聞いてきたんですね」

「そうね。多いときは一週間に二十人なんて時もあったわ。それでも少ないように思うかもしれないけど、やっぱり一日に二人が限界よ。それに、続くと結構疲れるわ」

「そうでしょうね」

「そう。それと、最近はあまり多くないのよ。どっちかというと営業っていうか、要するにお客さんの開拓や松井さんの手伝いのほうがメインかな。あとは、ちょっとこれはややこしそうだと思うクライアントを担当してるの」


 まったく偉そうな奴だ。ただ、もう少し持ち上げておけばいろいろしゃべってくれそうだ。僕は、このうさぎ倶楽部という松井の考え出した事業に興味が深まりつつあったので、まあ我慢しておくことにした。


「なるほど、昨日はたまたまうまくいったけど、やっぱりややこしいクライアントはいるんでしょうね。そんなときはどうするんですか?」

「ややこしいっていってもいろいろあるわ。まあ一番多いのは神経症の一歩手前っぽい感じで、なかなか口を開こうとせずに黙っている人かしらね」

「あ、僕もそれが一番心配だったんですよ。かといって松井さんにはあくまでも聞くだけだとか念を押されちゃっていたから、こちらから話し掛けるのもためらわれたし……」

「そんなのケースバイケースよ。恋人同士じゃないんだから、黙って見つめ合っていても仕方ないわ。あなたも松井さんから説明されたばっかりだと思うけど、たとえ、一見しゃべるのが苦手というか億劫そうにしている人であっても、とにかくどんな人でも自分のことを誰かに向かってしゃべればほんの少しでも楽しい気分になれて満足するはずだというのがこの事業の基本的ポリシーなんだから、そこへもっていくという限りにおいては手段を選ぶ必要はないわ」


 それはそうかもしれない。優しそうで丁寧な松井の語り口と違って、やや横柄だけどきっぱりと物を言うこの女に、僕はいつのまにか引き込まれていた。やっぱり新興宗教だろうか。


「なるほど、明快ですね。でも、具体的にはどんな水の向けかたが効果的なんですか?」

「そうね、あんまり安易な、例えばその日の新聞ネタとか好きな食べ物とか、そういうことはやめといたほうがいいわ。どうせその話題だけで長持ちはしないんだし、そんなことをいくら話していても気分はハイになってこないのよ。もちろんどうしても糸口が見付からない時は仕方無いけれど、それよりは学生時代に何に憧れたか、とか、男性の場合だったら女性に生まれ変わったとしたらどんな人生を送ってみたいか、といったような問い掛けで、生き生きと語り始める人は結構多いわよ」

「あ、これは貴重なアドバイスだ。覚えておこう」

「なに言ってるのよ、今のはあくまでも一つの例よ。実際にはその人に会って、その人が何に悩んでいるかとか、過去に憧れているのか将来のほうに賭けているのかとか、いろいろなことを探りながら考えるのよ。それも一瞬のうちにね。それからね……」


 ちょうどその時、電話が鳴った。女は、ためらうことなくごく自然にその受話器を取った。

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