7話 邂逅、そして…
「はあああ!?ゼウスのところに攻め込む!?」
ある日の放課後、優先輩はとんでもないことを言い出した。
「だって、最近アイツらもちょっかい出してこないし、畳みかけるなら今がチャンスだろ?」
「そんなこと言っても、いきなり過ぎますよ!それに…」
「それに?」
「先輩、風邪引いてるじゃないですか」
「……」
「先輩?聞いてます?」
先輩はどうやらシラを切るつもりらしい。
「……」
「ゆ・う・せ・ん・ぱ・い?」
「確かに…最近風邪気味だけどね」
「じゃあ…、先輩は休んでて下さい」
「それじゃつまらな…」
「休んでて下さい!」
「分かった、分かったから…。じゃあ期待してるからがんばってね~」
「あと、攻め込む訳じゃないですよ。話し合いです」
「話が通じる相手だとは思わないけどね」
「それでも一応生徒会長でしょう?当日は僕と美愛と佳奈、あとは…透にも頼んでみます」
「アポロン、ね…。アイツが協力してくれるかどうか…」
「僕もあまり期待してませんけど、いれば心強いですから」
「まあ、がんばってね。いい結果を期待してるよ」
「はい。やれるだけ…やってみます」
「ああ。じゃあね、東雲君!」
「はい」
僕は優先輩と別れてから、美愛達に連絡を取った。連絡してみると、みんなすんなりOKしてくれた。最後の1人を除いては…。
「いいじゃないか、透。どうせ暇なんだろ?」
「俺っちは退屈しのぎに死にになんて行きたくないんだよ!」
「だから話し合いだって言ってるだろ?死にはしないって」
「お前、ゼウスのこと甘く考えてないか?」
「まあ、相手も人間だろ?話が通じないような化け物じゃないんだから…」
「……」
「まあ、気が向いたら来てくれ。じゃあな」
(ふぅ、透が来なかったら3人で何とかするしかないな…)
数日後の昼休み…
「さてと…。そんじゃあ行ってみますか、生徒会室!」
「うん、いよいよだね」
「慎兄、ホントに大丈夫なの?」
「だーいじょうぶだって!ほら行くぞ?」
「待てよ、俺っちも行く」
「透!?来てくれたのか!やっぱり暇なんだな!」
声がした方を見ると、透が立っていた。
「誘ったのはお前だろ?それに俺っちもゼウスの能力者と話してみたいんだよね」
僕には1つ引っかかっていることがあった。それは、入学式から5月中旬の今まで一度も集会等で姿を見せていないということだ。副会長が集会には出てきて、会長は一体何をしているのか。それが最大の疑問だった。
「まあ、話してみれば全部スッキリするだろ。…よし、着いたぞ」
「シン、いよいよだね…」
「慎兄…」
「ったく、面倒くさいけど誘いに乗ったからには付き合ってやるよ」
コンコン…
「失礼しまー…す!?」
扉を開くとそこに生徒会長の姿はなく、松明があったり、床や壁が岩でできていたりと、いわゆる「THE ダンジョン!」な光景が広がっていた。
「お、おいみんな?僕達は間違いなく!100%!生徒会室のドアを開けたよな?」
「う、うん。間違いないと思うよ。ボクも見てたもん」
「うーん。オリンポスにこういうのを作れる能力者でもいるのかもね」
「あーあ。面倒だけど、先に進むしかないね…」
「まあ、そうだな。じゃあ進んでみるか…」
僕達は生徒会室の中に広がるダンジョンを進み始めた。だが、そこは複雑な迷路構造になっているだけで、罠や敵の能力者もいなかった。そしてついに大きな扉の前にたどり着いた。
「全く。こんなデカい迷路を物理法則を完全無視で作れるなんて、大したもんだな…」
「感心してる場合か?グダグダしてるなら、俺っちは先に行くぞ?」
「分かった分かった。じゃあ行くか…」
そう言って僕が扉の取っ手に手をかけようとしたとき…。
「慎兄、透先輩、危ない!」
「え…っ!?」
佳奈が飛び込んできて僕と透を突き飛ばした。
「うあああああああ!!」
「佳奈!?佳奈ぁぁぁあああ!!」
僕らを突き飛ばした佳奈は上から降り注ぐ雷の雨に撃たれた。
「お、おい!佳奈?しっかりしろよ!佳奈!?」
「慎…兄、透先…輩、よか…った、間に合…って」
「もういい!喋るな!今回は撤退だ!いいな!」
「だめ…だよ、私はもう…。だから、だから…ね、私の分まで…慎兄には戦ってほしい。お願い…、先に進んで?」
「何言ってんだよ!佳奈、お前は僕が助ける。だから、もう少しもってくれ!」
「慎兄…、透先輩と仲良くしなきゃ…ダメ…だよ?あと、美愛姉とも幸せにね?それとね…」
「分かった!もう分かったから、もう喋るな!」
「慎兄…、もう…お別れだよ…。私の代わりに生徒会長を…、ゼウスを倒して…?私、天国で見てるから。ずっと…、応援してるから…。じゃあ…ね、おやすみなさ…い…」
そして、佳奈はもう二度と話すことは無かった。
「嘘…だろ?」
「佳奈ちゃん…、嫌だよ!死んじゃうなんて!」
「……っ!」
佳奈がもう目を覚まさないんだと、いつものように慎兄と呼んでくれないんだと理解った瞬間、僕の中で何かが弾けたような気がした。
「雷道おおおおお!」
僕は扉をありったけの雷撃でぶち破った。
「ふん。先輩には敬意を払うものだぞ、東雲慎?」
「お前が!お前が佳奈を!」
「俺は君を殺そうとしてたんだ。彼女は君を庇って勝手に死んだだけだ」
そう。僕もどこかで分かっていたんだ。ゼウスの能力者が…、能力者の統一のために戦争を起こそうとするやつが…、話し合いで何とかなるような相手じゃないってことぐらい…。
「お前は僕が倒す!絶対にだ!」
「ふむ。いいだろうと言いたいところだが、そんな状態じゃ楽しめそうにもない。また出直して来い」
「何だと!?」
「次に会うのを楽しみにしているぞ。さらばだ反逆者諸君!」
雷道がそう言うと、自分の身体が光り始めた。
「な、なんだこれ!?」
「チッ、強制転移みたいだね」
「くそっ!せっかくここまで、ヤツの前まで来たのに…!」
この場から消えていく身体で僕は叫んだ。
「ちくしょおおおおお!」
そこで僕の意識は途切れた。
そして…
『お兄ちゃん…、お兄ちゃん…』
僕は自分を呼ぶ声に気がついた。
『お兄ちゃん…、大丈夫…?』
「楓?楓なのか!?」
『佳奈ちゃん、死んじゃったんだね。お兄ちゃんとお友達を守って…』
「ああ…、僕にはどうすることもできなかった…」
『それで…、どうするつもりなの?』
「…決まってる。佳奈を殺したアイツを…、雷道を僕は絶対に許さない!」
『お兄ちゃん…、ダメ…、ダメなんだよ、それは…』
「は?お前、何言って…」
『復讐にとらわれたら、お兄ちゃんはきっと壊れちゃう。だから、いつものお兄ちゃんでいて?きっとその方が佳奈ちゃんも喜ぶから…』
「…ああ、そうだな」
『じゃあ今日はこのくらいかな?またねお兄ちゃん…』
「ああ。ありがとな、楓…」
目が覚めるとそこは自宅のベッドの上だった。窓からは朝の日差しが部屋に降り注いでいる。
「あ、おはよう。起きたんだね!」
突然声をかけられた。そして、僕はこの声に「いつものように」こう返した。
「ああ、おはよう…楓」
続く