6話 女神との日曜日
「慎君、何をやっているの?早く行くわよ?」
「あー、はいはい。分かった!分かりましたから!ちょっと待って下さいよ!」
はあ、何でこんなことになってるんだろう?僕は平凡で平和な日曜日を過ごしているはずだったのに…。
そう、全てはあの時…、昨日の花見のあとの一本の電話から始まった。
「…もしもし?」
「あ…、東雲慎君…で間違ってないわね?」
「え、ええ。ていうかその声、もしかしてアリア先輩ですか!?」
「よくわたくしだと分かったわね。ほめてあげるわ」
「そ、そんなことよりなんでアリア先輩が僕の番号知ってるんですか!」
「優に、教えなきゃ××…じゃなくて、優が親切に教えてくれたのよ」
「言い直しましたよね?今、絶対言い直しましたよね!?何を言ったんだ!?自主規制にするぐらいヤバいことなのか!?」
優先輩、一体どんな脅され方を…。
「まあ、それは置いといて…」
「置くんかい!」
「明日、わたくしとデートでもどう?」
「…本気ですか?」
「ええ、もちろん」
「なんで敵である僕と?もしかして偵察ですか?それとも…」
「妙な勘ぐりはよしてちょうだい?」
アリア先輩は突然僕の言葉を遮った。
「わたくしはそんなつまらない目的で他人とデートしたりはしないわ」
「じゃあ、僕に惚れでもしたんですか?」
「間違ってはないわ。正確に言うと、私はあなたに興味を持った。それだけのことよ」
「分かりました。で、時間は?」
「あら、素直に来てくれるのね?じゃあ時間は…」
とまあ、こういったやり取りがあったのだが…、いざ始まってみると、あそこに行きたい、あれが見たい、あれを食べたい…etc.と散々振り回された挙句、今に至るわけだ。
「アリア先輩、昼食も食べ終わったことですし、これからどうしますか?」
「そうね…、あそことかはどう?」
「あ、あそこって、な、な、な、何言ってるんですか!?」
アリア先輩が指差したのは、休憩付きの…、いわゆる…、まあ、あれだ。そういう場所だった。
「大丈夫よ、心配しなくてもいいわ。わたくしが手取り足取り教えてア・ゲ・ル♪」
「手取り足取り…って、冗談はやめて下さいよ!」
「ええ、冗談よ。安心した?」
「はあ…」
いきなり何てことを言い出すんだこの人は…。
「じゃあ、あの高台に行きましょう?」
「はいはい、分かりました。それじゃあ行きますか…」
僕達は街を見渡せる高台へと向かった。
「いい眺めね」
「…はい」
「わたくしはね、この場所によく来るのよ」
「へえ、お気に入りの場所なんですね?」
「それもあるけど、一番は…」
アリア先輩はもったいぶった言い方でこう言い放った。
「街を見下ろしていると、本当の女神になった気分になれるじゃない。ほら見て、人がゴミのようだわ!」
「…何というか、さすが女神様ですね」
「あら?わたくしの魅力に気づいてくれたのかしら?」
「違いますよ…、呆れてるだけです」
「つれないわね、あなた…あ、そうだわ!」
「またいきなりどうしたんです?」
「今日付き合ってくれたお礼に、あなたに知ってること教えられる範囲内で教えてあげるわ」
僕は嘘だろうと思ったが、試しに聞いてみた。
「へー、そうですか。じゃあ《ゼウス》の能力者のことを…」
「わたくし達のリーダー、《ゼウス》の正体は、春夏秋冬学園高等部の生徒会長、神崎雷道。能力内容はあなたの《伊邪那岐》と同じく雷を操る能力。これで満足?」
「って、本当に教えてくれるんですか!?そんなペラペラ喋っていいんですか!?」
「ええ。遅かれ早かれ知ることになるだろうし」
「じ、じゃあ、まだ…いいですか?」
「ええ、どうぞ?」
「今のオリンポスの状況を教えて下さい」
「そうね…、最近はあなた達にアポロンもやられ、ヘスティアも裏切り、他にも数名、他勢力の能力者にやられて…、色々と大変ね。でも一番大変なのは、オリンポスのNo.2、《ヘラ》の能力者が抜けたことね」
「《ヘラ》ですか…?でもなんで…?」
「わたくしもあの子の考えなんて知るわけないわ」
「じゃあ、最後に1つ。アリア先輩は…」
「…っ!」
あとに続く僕の言葉を聞くと、アリア先輩は顔をこわばらせた。
「そんなの…、分からないわ。でもそれがあの人の、《ゼウス》の意志なら…」
「僕には先輩がかなり無理してるように見えますけどね?」
「……」
「…あの、今日は帰りませんか?暗くなってきましたし」
「…ええ、そうね。じゃあ…、あ、慎君?」
「何ですか?」
「今日は楽しかったわ、ありがと。また付き合ってもらうかもしれないからよろしくね?」
「はい…。楽しみにしてますよ」
慎と別れたあと、アリアは歩きながらさっき彼に言われた言葉を思い出していた。
「戦争なんて、先輩は本当は望んでるんですか?か…」
そんなことをいきなり聞かれても分からない。自分は絶対的な能力者に恐れを感じている。でも、もしかしたら、そんな感情すら彼なら、慎君なら吹き飛ばしてくれそうで。
「…一度、《ゼウス》の意志を探ってみる必要がありそうね。それに…ストーカーの真似事なんて、いい趣味とは思えないわよ。そこにいるんでしょう、優?」
「あらら、バレちゃってたか…」
「わたくしを尾行するなら、もっと本気でやることね。あなた、さっきから隠れる気全くないでしょ?」
「そりゃもう、俺はアリアに早く気づいて欲しかったからね」
「…で、何の用なの?」
「うん、そろそろ雷道先輩に勝負を仕掛けてみようかな、と」
「なんで、わたくしにそれを?妨害するかもしれないわよ?」
「君は邪魔しないよ」
「…っ!なんでそんなこと言えるのよ…っ?」
「君は雷道先輩の意向に少なからず疑念を抱いている。戦争を起こすなんて、正しいのか?自分達が能力者達を支配し、平和な世界へ…という在り方を実現するためでもやり過ぎではないか…?とかね」
「…何もかもお見通しって訳ね。その通りよ。わたくしは会長に疑念を持っている。だから、あなた達の邪魔はしないわ」
「そうかい。それなら安心したよ」
「まあ、せいぜいがんばって。期待はしないわ」
「ああ、じゃあまた…」
「ええ。…あ、そうそう。今度女の子の方のあなたにも会わせてね」
「OK。…って、気づいてたの、アリア!?」
「わたくしに隠し事なんて、簡単にできると思わないで」
「はいはい、今度なんて言わずに今会わせてあげるのに…」
「もう眠いの。だから今度でいいわ」
「ああそう。じゃあまた明日学校で」
「ええ、じゃあまた明日…」
そしてその頃、東雲慎は…
「あぁ、疲れた~!」
『お兄ちゃん、お兄ちゃん…』
僕の脳内に久しぶりにあの声が響いた。
「楓!?楓なのか!?」
『お兄ちゃん、オリンポスの人たちと戦ってるんだね』
「ああ。佳奈の頼みでもあるし、戦争になるのは嫌だからな」
『そっか、佳奈ちゃんが…』
楓の寂しそうな声が頭に響く。
「なあ楓、早く目を覚ませよ!佳奈も楓姉にも会いたいって…」
『ごめんね…、私にはまだやらなきゃいけないことがあるから』
「何だよ、そのやらなきゃいけないことって…?」
『まだ、教えられないよ。今日はここまで。じゃあ…またね?』
「お、おい、楓!?」
僕は楓の名前を呼んだが、声は返ってこなかった。
「最近出番が少なかったから拗ねてるのか?」
確かに美愛と戦ったとき以来は全然出て来なかったからな…。
「…考え事してたら眠くなってきた。もう遅いし寝るか…」
僕は波乱の2日間を振り返りながら眠りについた…。
続く